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ファルマの王ライナスとエタセルの王レイガルド1
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天上には薔薇を模したシャンデリアが設置され、エタセル城の大広間を照らしてくれている。
基本的にはシンプルな外装と内装をしているエタセル城だが、大広間などの他国の方が集まるスペースは別だ。
細かな銀細工で作られた装飾が壁に飾られ、床に貼られたタイルも御影石で作られている。
今日はエタセルにて各国を招待しパーティーが開催中だ。
音楽隊が楽器により心地よい音色を奏でてくれている中、私とお兄様は邪魔にならないように壁側にいる。
ホールの中央では、煌びやかな衣装に身を纏った王族・貴族達が楽しそうにダンスを踊っていた。
当初は参加者が少なかったけど、エタセルがハーブの輸出入を解禁したことにより、一度は不参加を表明した国が次々参加を表明。
お蔭で広間は人で賑やかだ。
私とお兄様も参加するようにと言われ、パーティー会場にいる。
私は商会の仕事関係もあり、忙しなく挨拶周りをしてつい先ほど一通り終わったばかりだ。
新しい仕事の縁も結べそうで成果はあった。
お兄様も挨拶が終わったので合流し、二人で壁側に立ち休憩中。
久しぶりのパーティーなので、ちょっとだけ疲れている。
それはお兄様も同様で、表情に僅かな疲労感が窺えた。
「より多くの方達に来て頂けて良かったですわ。まずはエタセルを知って頂かなければ始まりませんので」
「そうだね。まずは知って貰ってからだ。ティアのお蔭でこうして色々な人達が来てくれている。ここから繋いでいかないとね。政治や貿易も……そのために、僕や父上がいる」
「お兄様、無理をなさらないでね」
私は昨夜のことを思い出していた。
私の自宅でライと呑んで酔っ払いソファで眠っていたお兄様の姿を――
「ティアの方こそ無理はしないでくれ」
「私は大丈夫ですわ」
「本当に」
お兄様が力強く台詞を放った時だった。聞き慣れた声が私の名を呼んだのは。
「ティア様―っ!」
「この可愛らしい声は」
私は音の発生源である方へと顔を向ければ、頭の中に浮かんだ人の姿があった。
いつもの執事服も似合っていたけれども、今日は正装をしている。
タキシードに赤い蝶ネクタイ姿のアールが、ふわふわの毛で覆われた手を振っている。
ピンクの肉球が窺え、触れたい衝動に駆られてしまう。
アールは、リーフデ様とライを従えている。
愛らしいもふもふ執事と見目麗しき男性二人の登場に対し、周りの女性達は頬を紅潮させ見惚れている。
気持ちはわかる。このパーティーには目の保養になる男性陣が多い。
エタセル側にはレイガルド様とお兄様。外で警備しているコルタ。
それから出席者側であるライ、リーフデ様……
ライの王様バージョンは、やっぱり纏っている空気からして違う。
上質の衣服を纏っているからなのか、それともお忍び中は国王とは完全に切り離しているからなのだろうか。
なんでだろうなぁとぼんやり考えていると、私の腕を軽く引っ張られてしまったので右手へと顔を向ける。
「ティア、ティア! あの可愛い猫の使者は……!?」
お兄様は疲れなんてどっかに吹っ飛びました! といわんばかりに、瞳をキラキラさせ、アールのことを見ている。
――お兄様、もふもふが好きだったの? どちらかと言えば苦手だと思っていたわ。『あの件』があったから。
私はもふもふが好きだけれども、もふもふによって一度死にかけたことがある。
悪いのは完全に私なんだけれども……
子供の頃、東大陸にいる祖父母の元に遊びに行った時に、『ラシット』と呼ばれる兎のような生き物に噛まれてしまったのだ。
ラシットは東大陸では珍しくない動物だけれども、外見の可愛さから最近では西大陸に向けて『密輸』されているらしい。
ラシットは見た目が可愛らしいが、免疫力を持っていない者が噛まれると彼らが持っている独自の菌によって発熱や湿疹が現れ死亡してしまう。
噛まれた私は、母が東大陸のためか免疫力を持っていたらしく、死に至ることはなかったけど、お兄様が衝撃のあまり寝込んでしまった。
「ティア、ティア!」
「落ち着いて下さい。ちゃんとご紹介いたしますので」
ライ達が私達の前へとやって来れば、お兄様は玩具屋さんにいる子供のようなテンションで私を急かしている。
珍しい……お兄様がこんなにはしゃいでいるなんて。
「お兄様、ご紹介いたしますわ。国立製薬研究所の所長であるリーフデ様とその執事であるアールです」
「初めまして。ティアの兄のリストです。ティアがいつもお世話になっています。お会い出来て光栄です」
「ティアナ嬢の兄上でしたか。お噂はエタセルまで届いていますよ。リーフデと申します。国立製薬研究所で所長をしています。今日は、侯爵家の代表でして……以後、お見知りおきを」
お兄様はアールのことを気に入っていたので真っ先にアールに挨拶をすると思っていたけど、ちゃんとリーフデ様の方を優先した。
どうやら理性は残されているようだ。
お兄様はリーフデ様と握手を交わした後、屈んでアールへと手を差し出す。
基本的にはシンプルな外装と内装をしているエタセル城だが、大広間などの他国の方が集まるスペースは別だ。
細かな銀細工で作られた装飾が壁に飾られ、床に貼られたタイルも御影石で作られている。
今日はエタセルにて各国を招待しパーティーが開催中だ。
音楽隊が楽器により心地よい音色を奏でてくれている中、私とお兄様は邪魔にならないように壁側にいる。
ホールの中央では、煌びやかな衣装に身を纏った王族・貴族達が楽しそうにダンスを踊っていた。
当初は参加者が少なかったけど、エタセルがハーブの輸出入を解禁したことにより、一度は不参加を表明した国が次々参加を表明。
お蔭で広間は人で賑やかだ。
私とお兄様も参加するようにと言われ、パーティー会場にいる。
私は商会の仕事関係もあり、忙しなく挨拶周りをしてつい先ほど一通り終わったばかりだ。
新しい仕事の縁も結べそうで成果はあった。
お兄様も挨拶が終わったので合流し、二人で壁側に立ち休憩中。
久しぶりのパーティーなので、ちょっとだけ疲れている。
それはお兄様も同様で、表情に僅かな疲労感が窺えた。
「より多くの方達に来て頂けて良かったですわ。まずはエタセルを知って頂かなければ始まりませんので」
「そうだね。まずは知って貰ってからだ。ティアのお蔭でこうして色々な人達が来てくれている。ここから繋いでいかないとね。政治や貿易も……そのために、僕や父上がいる」
「お兄様、無理をなさらないでね」
私は昨夜のことを思い出していた。
私の自宅でライと呑んで酔っ払いソファで眠っていたお兄様の姿を――
「ティアの方こそ無理はしないでくれ」
「私は大丈夫ですわ」
「本当に」
お兄様が力強く台詞を放った時だった。聞き慣れた声が私の名を呼んだのは。
「ティア様―っ!」
「この可愛らしい声は」
私は音の発生源である方へと顔を向ければ、頭の中に浮かんだ人の姿があった。
いつもの執事服も似合っていたけれども、今日は正装をしている。
タキシードに赤い蝶ネクタイ姿のアールが、ふわふわの毛で覆われた手を振っている。
ピンクの肉球が窺え、触れたい衝動に駆られてしまう。
アールは、リーフデ様とライを従えている。
愛らしいもふもふ執事と見目麗しき男性二人の登場に対し、周りの女性達は頬を紅潮させ見惚れている。
気持ちはわかる。このパーティーには目の保養になる男性陣が多い。
エタセル側にはレイガルド様とお兄様。外で警備しているコルタ。
それから出席者側であるライ、リーフデ様……
ライの王様バージョンは、やっぱり纏っている空気からして違う。
上質の衣服を纏っているからなのか、それともお忍び中は国王とは完全に切り離しているからなのだろうか。
なんでだろうなぁとぼんやり考えていると、私の腕を軽く引っ張られてしまったので右手へと顔を向ける。
「ティア、ティア! あの可愛い猫の使者は……!?」
お兄様は疲れなんてどっかに吹っ飛びました! といわんばかりに、瞳をキラキラさせ、アールのことを見ている。
――お兄様、もふもふが好きだったの? どちらかと言えば苦手だと思っていたわ。『あの件』があったから。
私はもふもふが好きだけれども、もふもふによって一度死にかけたことがある。
悪いのは完全に私なんだけれども……
子供の頃、東大陸にいる祖父母の元に遊びに行った時に、『ラシット』と呼ばれる兎のような生き物に噛まれてしまったのだ。
ラシットは東大陸では珍しくない動物だけれども、外見の可愛さから最近では西大陸に向けて『密輸』されているらしい。
ラシットは見た目が可愛らしいが、免疫力を持っていない者が噛まれると彼らが持っている独自の菌によって発熱や湿疹が現れ死亡してしまう。
噛まれた私は、母が東大陸のためか免疫力を持っていたらしく、死に至ることはなかったけど、お兄様が衝撃のあまり寝込んでしまった。
「ティア、ティア!」
「落ち着いて下さい。ちゃんとご紹介いたしますので」
ライ達が私達の前へとやって来れば、お兄様は玩具屋さんにいる子供のようなテンションで私を急かしている。
珍しい……お兄様がこんなにはしゃいでいるなんて。
「お兄様、ご紹介いたしますわ。国立製薬研究所の所長であるリーフデ様とその執事であるアールです」
「初めまして。ティアの兄のリストです。ティアがいつもお世話になっています。お会い出来て光栄です」
「ティアナ嬢の兄上でしたか。お噂はエタセルまで届いていますよ。リーフデと申します。国立製薬研究所で所長をしています。今日は、侯爵家の代表でして……以後、お見知りおきを」
お兄様はアールのことを気に入っていたので真っ先にアールに挨拶をすると思っていたけど、ちゃんとリーフデ様の方を優先した。
どうやら理性は残されているようだ。
お兄様はリーフデ様と握手を交わした後、屈んでアールへと手を差し出す。
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