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メディ
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(メディ視点)
私がいる城のバルコニーには、体温を奪いそうになるくらいの風が吹いていた。
扉によって舞踏会場とここを隔てているが、扉の奥はシャンデリアの下で絢爛豪華な金細工や天上絵などに囲まれパーティーが開かれている。
先日建設された製薬研究所を祝うもので、ファルマの貴族や関係者が集まっていた。
前王に代わって即位したお兄様は、色々とファルマを改革するために動いており、製薬研究所もお兄様の発案だ。
「ちょっと聞いているの!?」
甲高く苛立ちを含んだ声音に、私の心の体温が下がっていく。
目の前には、大粒の宝石を加工して造られた装飾品を纏った三人の貴族令嬢の姿が。
三人とも、ファルマで流行しているドレスを着ている。
真ん中にいるラベンダー色の緩やかに巻かれた髪をしているのが公爵家のご令嬢であり、私とは従姉にあたるエスカ様。
そして、左右にいるのは彼女と親しくしている侯爵家のマリーナ様と伯爵家のネヴィ様だ。
「ファルマも落ちたわよね。いわくつきの王妃の息子であり、廃太子となった者が出戻って王になったなんて」
「本当にエスカ様のおっしゃるとおりだわ。お荷物メディさまも連れて来ちゃったし。宮殿内が田舎くさくなる」
「なんの役にも立たないんだから、せめてファルマのメリットになる国に嫁いでよね。まぁ、その容姿じゃ無理だろうけど。また太ったんじゃない? ドレスがキツキツじゃないの。なんて醜いのかしら」
扇で口元を隠しながらクスクスと彼女達は笑う。
これで何度目だろうか? 数えることすら出来ないくらいの回数だ。
彼女達のように面と向かって直接私に告げる人や、影でこそこそと聞こえるように話している人など、ファルマに戻る時にわかっていたが私に対する風当たりは厳しい。
私だけではない。お兄様に対してもだ。
でも、お兄様は気にする素振りをみせず。
がむしゃらに王としてファルマのために動いている。
だから、私はお兄様を頼れない……慣れない政治で疲れ切っているお兄様を頼るなんて。
みんなの役に立つように毎日遅くまで勉強し、薬草師としてノーリの称号を獲得した。
治癒魔術師としての能力も持っていたので薬草師と二つあれば、治療に関して役に立つと思ったから。
――彼女達がいうように私はお荷物なのかもしれない。私がいない方がお兄様にとっては良いだろう。この国にとっても。
心が砕けてしまった。
今まで我慢していたことが決壊してどんどん黒い感情として流れていく。
「お兄様、ごめんなさい。私はもう限界です」
だんだん視界が滲んでいき、私がゆっくりと瞼を閉じれば、まるで糸がキレたかのように意識が遠のいてしまう。
だが、すぐに浮上し瞼にチカチカと光が放ったので瞼を開ければ、見知った天井が視界に入ってくる。
意識が戻ると同時に、肩から足首にかけてふかふかの馴染んだベッドの感触が伝った。
「……またあの夢」
二年前の出来事なのに、昨日のように鮮明に覚えている。
そのせいだろうか? こうして時々夢にまで見てしまうのだ。
我慢の限界を超えてしまった私は、あのパーティー以来部屋に引きこもった。
外が怖くなってしまったから。
きっとエスカ様達は、私の存在を気にすることなく毎日楽しく過ごしているだろう。
私がこうして苦しんでいる間も――
やるせない思いが苦く心から滲み出てきてしまい、私はぎゅっと手を握り締めた。
「もう、アクオに帰った方がいいのかもしれない」
継承権を失い、私とお兄様が向かった先はファルマのアクオ地方。
自然豊かな場所で人々も優しく、城にいた時のような豪華な暮らしは出来なかったけど楽しかった。
今まで城では侍女などに身の回りのことをやって貰っていたから、自分達で家事をやるのも新鮮で。
お兄様はめきめきと料理の腕がアップし、お料理もすごく上手。
王となった今は厨房に立つことは、もうなくなってしまったけれども。
「お兄様の生誕を祝したパーティーが開催される前に戻りましょう。お祝いしたかったけど、今の私では無理だもの」
私はベッドから起き上がると、机へと向かう。
厚手のカーテンの敷かれた窓際前にある机の上には、恋愛小説が置かれていた。
お兄様は時々、私へお土産を買って来て下さる。
恋愛小説も数か月前にお兄様から頂いたもの。
ティアナ様という女性が選んでくれたもので、リムス王国で流行している恋愛小説だとお兄様に扉越しに伺った。
お兄様から聞く女性の名前が珍しかったので覚えている。
「ティアナ様、どのような方なのかしら?」
私の呟きが部屋へと広がっていく。
気にはなるけど、部屋から出ることがない私では会うことはないだろう。
「お兄様がエタセルから戻って来たら、アクオに戻ろう」
ずっと区切りをつけなかったけど、もうきっぱりと諦めるべきだ。
そうこの時は心に決めていた。
だから、まさか自分がエタセルで暮らすことになった上に、恋をする未来が訪れることを知らなかった――
私がいる城のバルコニーには、体温を奪いそうになるくらいの風が吹いていた。
扉によって舞踏会場とここを隔てているが、扉の奥はシャンデリアの下で絢爛豪華な金細工や天上絵などに囲まれパーティーが開かれている。
先日建設された製薬研究所を祝うもので、ファルマの貴族や関係者が集まっていた。
前王に代わって即位したお兄様は、色々とファルマを改革するために動いており、製薬研究所もお兄様の発案だ。
「ちょっと聞いているの!?」
甲高く苛立ちを含んだ声音に、私の心の体温が下がっていく。
目の前には、大粒の宝石を加工して造られた装飾品を纏った三人の貴族令嬢の姿が。
三人とも、ファルマで流行しているドレスを着ている。
真ん中にいるラベンダー色の緩やかに巻かれた髪をしているのが公爵家のご令嬢であり、私とは従姉にあたるエスカ様。
そして、左右にいるのは彼女と親しくしている侯爵家のマリーナ様と伯爵家のネヴィ様だ。
「ファルマも落ちたわよね。いわくつきの王妃の息子であり、廃太子となった者が出戻って王になったなんて」
「本当にエスカ様のおっしゃるとおりだわ。お荷物メディさまも連れて来ちゃったし。宮殿内が田舎くさくなる」
「なんの役にも立たないんだから、せめてファルマのメリットになる国に嫁いでよね。まぁ、その容姿じゃ無理だろうけど。また太ったんじゃない? ドレスがキツキツじゃないの。なんて醜いのかしら」
扇で口元を隠しながらクスクスと彼女達は笑う。
これで何度目だろうか? 数えることすら出来ないくらいの回数だ。
彼女達のように面と向かって直接私に告げる人や、影でこそこそと聞こえるように話している人など、ファルマに戻る時にわかっていたが私に対する風当たりは厳しい。
私だけではない。お兄様に対してもだ。
でも、お兄様は気にする素振りをみせず。
がむしゃらに王としてファルマのために動いている。
だから、私はお兄様を頼れない……慣れない政治で疲れ切っているお兄様を頼るなんて。
みんなの役に立つように毎日遅くまで勉強し、薬草師としてノーリの称号を獲得した。
治癒魔術師としての能力も持っていたので薬草師と二つあれば、治療に関して役に立つと思ったから。
――彼女達がいうように私はお荷物なのかもしれない。私がいない方がお兄様にとっては良いだろう。この国にとっても。
心が砕けてしまった。
今まで我慢していたことが決壊してどんどん黒い感情として流れていく。
「お兄様、ごめんなさい。私はもう限界です」
だんだん視界が滲んでいき、私がゆっくりと瞼を閉じれば、まるで糸がキレたかのように意識が遠のいてしまう。
だが、すぐに浮上し瞼にチカチカと光が放ったので瞼を開ければ、見知った天井が視界に入ってくる。
意識が戻ると同時に、肩から足首にかけてふかふかの馴染んだベッドの感触が伝った。
「……またあの夢」
二年前の出来事なのに、昨日のように鮮明に覚えている。
そのせいだろうか? こうして時々夢にまで見てしまうのだ。
我慢の限界を超えてしまった私は、あのパーティー以来部屋に引きこもった。
外が怖くなってしまったから。
きっとエスカ様達は、私の存在を気にすることなく毎日楽しく過ごしているだろう。
私がこうして苦しんでいる間も――
やるせない思いが苦く心から滲み出てきてしまい、私はぎゅっと手を握り締めた。
「もう、アクオに帰った方がいいのかもしれない」
継承権を失い、私とお兄様が向かった先はファルマのアクオ地方。
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今まで城では侍女などに身の回りのことをやって貰っていたから、自分達で家事をやるのも新鮮で。
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「お兄様の生誕を祝したパーティーが開催される前に戻りましょう。お祝いしたかったけど、今の私では無理だもの」
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私の呟きが部屋へと広がっていく。
気にはなるけど、部屋から出ることがない私では会うことはないだろう。
「お兄様がエタセルから戻って来たら、アクオに戻ろう」
ずっと区切りをつけなかったけど、もうきっぱりと諦めるべきだ。
そうこの時は心に決めていた。
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