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幕間 その頃のあの人達は(ライナス視点)

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(ライナス視点)


 執務机には束ねられた書類の他に、柄のないシンプルな純白の封筒とレースで縁どられた可愛らしい水色の封筒の二つが並べられていた。
 これはリストとティアからの手紙だ。
 サージュ兄妹とは時々文通でお互いの近況を知らせ合っている。



「……心配だ」
 ここ数日ずっと頭の片隅に残っていた違和感というか、悩みがあった。
 ティア達からの手紙を読んでからずっと気になっている。
 それは、ティアの一人暮らしだ。



 仲介業者の件も片付き、ハーブ問題は完全解決。
 だが、不安定なエタセルのために自分が出来ることを探したいとティアは考えているらしく、住人たちの生活を知るために王都で一人暮らしをしたそうだ。


 ティアは元貴族令嬢。
 お茶や食事、掃除などは全て使用人達にやっていて貰ったのに、いきなり一人暮らしでは難易度が高すぎる。
 それに、リストの手紙ではティアは仲介業者との対決で勘違いをしたコルタに胸倉を掴まれたらしい。


 手紙越しでも背筋が凍ったのだから、現場にいたリストの心労は測りしれない。
 リストは胃を痛めて倒れてなかっただろうか? など、そっちも心配になってしまった。



 ティアはこれだ! と思ったら、突き進む猪突猛進タイプ。
 商会の仕事もしているので多忙なため、夢中になって食事を忘れてないか? など気になり出してしまって仕方がない。
 当事者であるティアは、城から商会の往復より近くなったと喜んでいたが……



 今度エタセルのパーティーがあるため、一日予定を早め俺だけエタセル入りしてティアの様子を見たい。
 そうすれば、少しは落ち着くだろうし。



 ――宰相のマオストに相談しなければならないな。留守中、メディのことも頼みたいし。



 俺は宰相室へと向かうために立ち上がれば、部屋へと通じる扉がノックされた。
 誰だ? と首を傾げながら入室を促すと、扉が開かれ宰相のマオストの姿が。
 なんてタイミングの良い。


「ちょうど良かった。話があって行こうと思ったんだよ」
「やっぱり悩み事か? なんか最近沈んでいたからさ」
「沈んでいたわけじゃない」
 俺はそう告げると、執務机の前にあった応接セットへ彼に座るように促す。
 そしてお茶を用意して貰うために、テーブル上にあったベルを鳴らした。



「……で、やっぱりティアナ様の件だよな」
 マオストから出た言葉に対して、俺は大きく頷く。



「よくわかったな」
「まぁ、うちは平穏そのものだから国の心配はない。ハーブ問題も解決したし。となると、メディ様かティアナ様のことだけだ。メディ様の動きは変わらずだから、何かあったとしたらティアナ様の方という消去法だ」
「ティアが一人暮らしを始めたんだ」
「たしかに男の訪問とか気になるよな。この間もエタセルの騎士団長と二人きりで来たし。国王であるレイガルド様もいるし」
 マオストの言うとおり男の気配があるかも気がかりなので、ちらっと様子を探って来ようとは思っている。



 感情のメーターを振り切った彼女は、可愛らしい姿とは裏腹に強さと潔さも持ち合わせている。
 前を見据え突き進んでいく姿を見て彼女に惹かれる男もいるかもしれない。


 俺のように――




「もちろん、そっちも確認する。だが、一番は食事だ。ティア、猪突猛進タイプだから食事するのも忘れてそうだから。ハーブの件でファルマまで最短ルートで来たくらいだし。常備薬の準備と保存食の作り置きをしたい」
「お母さん系国王だな。ティアナ様は大丈夫だって」
「マオスト。自分の妻が一人暮らしをしても同じこと言えるか?」
「うちの妻は貴族の代名詞と言われる名家の貴族だから無理。というか、俺が一人暮らしなんてさせない。もしそうなったら、俺は心配で仕事辞めて彼女の元へ向かう」
「ティアも同じだ。貴族令嬢だからな。きっと包丁すら持ったことがない。ああっ、俺にも転移魔法が使えたら……!」
「なぁ、エタセルで主催されるパーティーもうすぐだから少し早めに行けよ。こっちのことは俺もいる。ファルマは、お前が前王の残した負の遺産を片付けてくれたし、ティアナ様がハーブ問題解決してくれたから平穏だからさ」
「構わないか?」
「行って来いよ。なんだったら、フーリデを馬車代わりに転移魔法で連れて行って貰え……と言いたいところだが、あいつ今研究没頭中だからなぁ」
 ティアのお蔭で研究所の予算が増え、新しい機材も手に入ったらしい。
 その上、ティアから貰ったまだ未入荷のハーブサンプルもあるため、研究熱が溢れて仕方がないようで仕事に夢中だ。
 アールが食事や健康管理の面倒見ているので、倒れることはないだろうけど。




「言葉に甘えようかな」
「甘えろ。国王も休息が必要だからな」
「俺が留守中にメディの事を頼む。メディには俺から伝えておくから」
「任せろ」
 マオストが頷くのを見て、俺は早速ティアの元へ持って行く常備薬を考え始めた。








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