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さようなら
しおりを挟む――――翌朝
長い長い一日になってしまった昨日の疲労感を引きずり、非常に重い足取りで大学へと向かった。下手に休んではかえって怪しまれる。何事もなかったかのように、いつも通りを装わねばと自らを奮い立たす。
しかし、研究室に着いてしばらくすると、とある一本の電話が入った。
その電話をきっかけに瞬く間に俺の胸は踊ったのだった。
◇
「先生、学部生達がシカの検体を持って帰ってくるらしいので、実習室お借りしたいんですけど」
自室で二限の講義準備をしていた解剖学研究室の教授に問いかける。
「へぇ、シカかあ。新鮮だったら焼き肉にしたいけど、鉛中毒だったら大変だ。ハハハ」
「ですね、夕方には届きます。
サンプリングしたら焼却するんで、焼却炉も使わせてもらいますね」
俺は付け加えた。
獣医師免許に加え、すでに複数の任用資格を持つ博士課程の俺は、真面目で後輩の面倒見も良い男で通っており、教授の信頼も厚い。そんな俺は空いていればすんなり解剖実習室を借りきることができるのだ。
「鍵と火の始末には気を付けてね」
「わかってます」
にっこり笑って返事をし、解剖実習室と焼却施設の予約をとりつけた。
こんな日に検体が手にはいるなんて、俺はなんてついているんだろう。
獣医学部には無論解剖実習室がある。 俺の通う大学は大動物も扱うから広さもそれなりだ。
しかし人間相手の医学部の解剖室と大きく違うのは、同時に焼却施設がついていることである。 しかもここの焼却施設は大動物や感染症の動物を焼却処分することもできるのでかなり大きい。
本来は解体した実験動物などを焼くための焼却施設だが、
―――――今宵は職権乱用させていただこう。
シカを解体してサンプリングしたあとは、学部生達を帰して千度の炉の中へミチルと共にサヨウナラだ。
悪いなミチル、こっちもいい迷惑してるんだ。
これだから頭の悪い女は嫌いなんだよ。
そう思いながら心は幾分か晴れやかになっていた―――。
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