順風満帆の過ち

RIKAO

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呆然

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 俺は慌ててナイフを向けているミチルの手首を掴み、羽交い絞めにする。


「はなしてよっ!!」 

「誰が離すか!!」 


 長身のミチルを抑え込むのは思ったよりもパワーが要った。

 このスレンダーな体のどこにこんな馬鹿力が潜んでいるのかと、脅威を感じ対抗するが、油断するとすぐさまこちらが不利な体勢で押し倒されそうになる。


 しばらく揉み合った末に、俺は自分から引き離そうと渾身の力を込めてミチルを突き飛ばした。 


 もちろん殺意などなかったが、運の悪いことに、その際ミチルは自分の胸部を刺し、さらに倒れたときに頭部を強打したのだ―――





 ―――――そうして俺は流れる血を見て我を忘れ、立ち尽くしたまま今に至るわけだ。



 



「ミチル…ミチル??」 



 揺すってみるが意識はない。 



「おい…冗談はやめろよ…嘘だろ……?」



 ごろりと仰向けにすると、刃物が刺さりおびただしい血が溢れている胸部と、蒼白な顔面が露になった。



「き…救急車!! 」



 とっさに呼ぼうとスマホを手にとった―――、


 ……が、いや、待て… 


 もし、この状況で正当防衛が認められられなかったら―――?


 認められても過失致死傷罪で前科がつく…そうなると俺の就職は…博士号は…?……どうなる?


 この女の奇行のせいで俺の人生狂わされるのか?


 真面目に生きてきたつもりだったのに…


 全部自分の力で手に入れてきたのに…


 俺が二十七年かけて積み上げてきたものが…


 こんなクソみたいな女のせいでいきなり全部奪われるのか?


 ―――そんなの冗談じゃない!! !




 そんな怒りが一気に頭を巡った。





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