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第二章 精霊界編

第30話 絶望の可能性

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 ここが夢の中なのか、現実の世界なのかを判断するのは難しい。

 意識としては起きているはずだが、手足の感覚が無く、ただぼんやりと目の前の光景を見ている事しか出来ないからだ。

 首を動かす事も出来ず、呼吸すら必要としていない。
 だがそれを苦痛には感じていない不思議な感覚。
 
 意識出来るのは視覚と聴覚のみ。
 金縛りにあったような感覚といえば伝わるだろうか。


 そんな自分の目の前には、血のように赤黒い草原が広がり、幾つもの『命だったもの』が転がっている。
 
 つらくて怖くて、今にも吐いてしまいそうになる光景のはずなのに、ただ淡々とその光景を見ている事しか出来ない。


 …………


 動いているモノのいない赤い草原を見つめること数分、目の前に白いモヤが現れ始めた。
 そのモヤは人の形をしているようで、していない。
 人の様に見えるが、別の何かにも見える曖昧なモヤ。



『やっと……会えた……』

 ――声?

『ヨシタカ……ヨシタカ……ッ』

 ――女の子? 泣いているの?

『……ごめんなさい』

 ――なんで謝るの?

『諦めないで……欲しい』

 ――なにを?

『必ず、救えるから』

 ――話がわからない……。君は誰?

『女神……だよ』

 ――まじか。やっと登場か。

『ごめんね。ヒナタを介してやっと来られたけど、まだ慣れてないせいであまり時間が無いの』

 ――なんでヒナ? そうなんだ。

『だから、手短に伝えるね』

 ――うん。

『さっきの光景は現実』

 ――へ?

『あの光景は、近い未来あなたが見ている光景だから』

 ――え。

『だから、必ず未来を変えて。諦めないで』

 ――いつ? どうやって?

『ごめんね。具体的な事を教えるような干渉は出来ないの』

 ――ヒント!

『あなたは……相変わらずだね』

 ――初対面ですが……。

『ふふ。じゃあ一つだけ……。ヨシタカの能力は魔力譲渡じゃなくて、魔力操作。魔力で大抵の事は出来るし――魔力量に上限は無いよ』

 ――良かった。チート有ったんだ。

『また必ず、会いに来るから。どうか無事でいて』

 ――頑張ってみるよ。

『……ヨシタカ』

 ――うん?

『ずっと……大好き……』

 ――初対面なのに?

『未来で待っている私に、宜しくね』

 ――未来?

『うん』

 ――未来で女神様と会うの?

『えっと……うん。……でも、これ以上言うと出会う未来が変わってしまうから、あとはナイショ』


 そんな女神様の言葉を最後に、意識が朦朧とし始める。

 
『必ず……生きて……私と……』


 そのまま、まどろみの中へと完全に意識が旅立った。


 ………………

 …………
 

 ヨシタカが次に目を開けた時、目の前には暗い森が広がっていた。
 
 草が緑色な事に彼は無意識に胸をなで下ろし、起き上がる。


「あ……ヨシタカっ! ヒナタ様もっ! 起きたか!」

「サティ……俺寝てた? どれくらい?」

「ニャ……」


 焚き火の前でサティナが立ち上がり、心配そうにヨシタカとその横のヒナタを見つめている。
 その手は握りしめられ、震えているように見えた。

 ヒナタも欠伸をしながら身体を起こし、ヨシタカの膝の上へテコテコと移動した。
 どうやらヒナタも眠っていた様子。
 

「周りが一瞬光ったと思ったら既に倒れていたのだ。一時間も経っていない……が……急に倒れたので心配した……。ヒールを掛けても目覚めないし……。でも、息は有ったから……待っていた」

 俯きつつ、震えたままのサティナが説明し、それを聞いたヨシタカが改めて自分の寝ていた場所を確認すると、
 彼が頭を置いていた位置には丸めたゴワゴワのタオルが置いてあり、ヒナタが寝ていた場所にはサティナの付けていた外套が円を描くように置いてあった。
 この光景を見るだけで、サティナが自分達のために行動してくれていた事がわかる。


「心配かけたね。ありがとう。何ともないから安心して」

「ニャ~」

「本当に良かった……」

(サティは優しいなぁ。……本当、サティが居てくれて良かった)

「ニャ」

「ヒナもそう思うよね」

「ニャ~」


 ヨシタカとヒナタが会話をするように声を発し合っているのを見て、首と銀髪を傾けながらサティナは、


「どうした? 私の顔に何か付いているか?」

「うん」

「な、なにっ!? どこだ?」


 顔を赤くさせながら、サティナがその綺麗な指で、綺麗な顔を触り『何か』を探す。


「綺麗な目と鼻と口が付いてる」

「なっ……ばっ……なにを……」

「あはは」


 サティナをからかったところで一拍置き、ヨシタカは呼吸を整える。

(綺麗な目と鼻と口というのは本当の事だけどね)

 これから話す内容は彼自身もまだ半信半疑だが、事実ならば早めに伝えておかねばならない。そう判断した。

 ヨシタカにとって何より大切なのは、ヒナタ『とサティナ』の身の安全だ。
 例えただの夢だったとしても、警戒するに越したことはない。
 何も無ければそれはそれで『何も起こらなかった。良かった』で済むからだ。


「あのさ、サティ」

「なんだ? もう騙されないぞ。顔には何も付いていなかったからな!」

「いや目と鼻と口は――まぁいいか、えっとね。信じて貰えないかもしれないけど……。さっき夢の中? で女神様に会ったんだ。……で、どうにもただの夢には思えなくて。――だから、その事で話が有る」


 ヨシタカの言葉を聞き、サティナはその金色の瞳を大きく見開く。


「この先……皆、死ぬかもしれない」


 彼から発せられた更なる言葉に、見開いたままの彼女の瞳が、揺れた。


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