21 / 34
第一章 冒険の始まり編
第21話 伝心
しおりを挟む――ワイバーン戦、翌日の朝。
サティナに借りた手鏡でヨシタカは改めて自分の顔を見ていた。
「いやいや……若返り? なんで? 二十歳かそれ以下か。懐かしい顔だ……身体もちょっと、細くなってる? 今思えば少し軽い気もするけど……」
サティナに指摘をされ初めて気付いたのが前日の夜の事。ヨシタカの見た目の年齢が、十以上も下がっていたのだ。
異世界転移モノ特有の何かか、手持ちの女神の涙による何かしらの効果か、身体を魔力が巡る事で起きた変異か……オタクのヨシタカに考えられる可能性はこの辺が精々だろう。
(考えてもしょうがないか。今は喜んどこ)
考えをそう落としたところで、この件については思考を放棄し、次の課題へと意識を変える。
「あとは魔力……か。そろそろ真面目に考えないとな。今後の為に少しでも役に立つように活用方法を広げなければ……サティに頼りっきりでは男が廃る!」
今ヨシタカが居る場所は村の外だ。
外と言ってもそこまで離れてはいない。ワイバーン戦のあった北門の先、サティナの魔法による焼け跡の有る場所だ。
「ニャ~」
足元にはいつも通りひなたが居る。
「ひな、今日も一日がんばろうね」
そう言いながら頭を撫で、その手にひなたが甘える。
日本にいる時から変わらない、いつも通りの朝のやり取りだ。
ひなたはその尻尾を垂直に立たせ、ヨシタカの手へ顔や身体を擦り付けている。
「よし! これからは日課を設けよう。魔力操作? と戦い方を習おう。……まずは憧れの魔力!」
初めてサティナの魔法を見て、魔力の感じ方を教えて貰ったあの日から、ゆっくりと検証をする時間があまり無かった。
異世界へ来てから今まで、目の前の事で精一杯だったヨシタカは、改めて憧れの魔力へと触れる。
「身体の中を巡らせる……そしてそのまま手の先へ……」
――瞬間、ヨシタカの手が眩しく輝き始めた。更に、ヨシタカが意識を変えると、輝く光の量が変わる。
「……うん。身体の中を巡らせたり、手から出したり、出す量の調整をすることは慣れてきてる。今度は手から出さずに身体の中を巡らせ続ける……その勢いを変える……」
ヨシタカは目を瞑り、身体の中の熱――魔力を全身に巡らせる。今までの数少ない経験の中では、大体すぐに放出してしまったり、意識するのを辞めていたが、今は集中し続ける。
分かりやすくする為、川の流れを想像し、穏やかな流れや激流を交互に意識する。魔力を循環させ続けていると、身体の熱に変化が起きる。
「激流だと身体がめっちゃ熱くなるけど、穏やかにすると熱も下がるな……摩擦的な……意味あるんかなこれ」
ヨシタカは『修行』や『訓練』の様な言葉に憧れを抱き、意味が有るのかは不明だが、ひたすらにそれを続けていた。
………………
…………
「あ、そういえば! ひなの情報も見れるのかな?」
ふと思い出したヨシタカは、目を開けて実行に移す。
魔力を感じながら対象を知りたいと思うことで表示される光の文字の羅列。仮に『鑑定』と呼ぶそれを愛猫のひなたへと使ってみる事にした。
昨日、サティナの魔法を知る事になったものだ。
―――――――――
名前:ヒナタ
種族:猫
称号:超えし者
スキル:読心
―――――――――
「おお! ん? 俺の称号と微妙に違う? 俺の『世界を渡る者』とどう違うんだろ、人と猫の違いかな……。いやそれより……読心!? ヒナ! 心読めるの!?」
ヨシタカが足元のヒナタを見つめながら声を掛けると
「ニャ~」
鳴いた。
「え……本当に?」
「ニャ」
「今までずっと? それともこの世界に来てから?」
「ニャ~」
「まじで……いやどっちだよ……」
ヒナタは鳴くだけで、特に頷いたり、首を振ったりとそういった行動はしない。ただ返事のように鳴くだけだ。
「いやまだ、わからない。本当に伝わってるのか? もし本当に心の声が聞こえるなら、急に聞こえた頭の中の声にビックリしたりとか……あったかな、今までそんな反応……ん~……」
一度疑い出すと、この世界に来て間も無い頃にヨシタカの顔をじっと見ていた行動など、思い当たる節は幾つか有るが、ヒナタ自身が喋れない以上は彼にはわからない。
「要検証……かなぁ。でも……」
もちろん、そんな能力など無くとも、日本にいた頃からヨシタカの気持ちはヒナタに伝わっていると、彼自身は信じていた。
『おいで』と言えば、近寄るヒナタのその行動や仕草で、自分に何かを伝えていることも、彼は感じていた。
百パーセントではなくとも、世の中のペットが居る家庭は、少なからずそんな気持ちは有るだろう。愛ゆえだ。
人間側が勝手にそう思ってるだけだと、思われるかもしれないが、それでもそうやって過ごしているはずだ。
だが、今のこの状況は、それが目に見える形として――
そこまで言ってからヨシタカは、込み上げるものを抑えるように胸に手を当てた。
「そうだったら、嬉しいなぁ……。俺の気持ちが、ちゃんとヒナに伝わってたら……いいなぁ……。――大好きだよ、ヒナ」
大好きを、大好きと伝えられる。その喜びに――
「ミ~」
大好きと、伝わった喜びを――
涙ぐみながらしゃがんだヨシタカに、ヒナタが寄り添う。
その宝石の様な二つの瞳は、いつも通りの輝きを放っていたが、どこかいつもと違う輝きを放つように、静かにヨシタカを見据えていた。
――まるで、ちゃんと気持ちが伝わっていることを、漸(ようや)く分かってもらえたという、ヒナタの心の声を証明するかのように。
「こんな所に居たか、ヨシタカ、ヒナタ様。朝の食事の支度が――」
見つめ合う、人と猫。
銀髪のハイエルフもまた、何かを察するように微笑みながら、ただその一人と一匹を見つめていた。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
やっと買ったマイホームの半分だけ異世界に転移してしまった
ぽてゆき
ファンタジー
涼坂直樹は可愛い妻と2人の子供のため、頑張って働いた結果ついにマイホームを手に入れた。
しかし、まさかその半分が異世界に転移してしまうとは……。
リビングの窓を開けて外に飛び出せば、そこはもう魔法やダンジョンが存在するファンタジーな異世界。
現代のごくありふれた4人(+猫1匹)家族と、異世界の住人との交流を描いたハートフルアドベンチャー物語!

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊
北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。
猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。
そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。
あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは?
そこで彼は思った――もっと欲しい!
欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。
神様とゲームをすることになった悠斗はその結果――
※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる