猫と異世界 〜猫が絶滅したこの世界で、ウチのペットは神となる〜

CHAtoLA

文字の大きさ
上 下
13 / 34
第一章 冒険の始まり編

第13話 落ちこぼれのハイエルフ

しおりを挟む

 ――私の名前は サティナ・スー。
 エルフの里に暮らす、ハイエルフだ。

 祖父母と父と母、十歳上の姉と十歳下の妹、七人家族で暮らしている。
 エルフの里の民は、旅立った者、他の国で暮らしている者を除けば二百人程度、その内の五十人程がハイエルフだ。
 エルフよりもハイエルフの方が魔力が高く、魔法に長けている。それはこの世界の常識であり、覆らない真実である。

 エルフ族は人族や獣人族よりも長寿である。
 平均寿命は三百歳程度。見た目の成長は二十歳程で止まり、その姿のまま二百歳程まで生き、そこから徐々に老いていく。

 ハイエルフとハイエルフからはハイエルフが生まれる。
 ハイエルフとエルフからはどちらも生まれる。
 エルフとエルフからはエルフが生まれる。

 私の親は共にハイエルフであり、その娘の私もハイエルフ。姉も妹もハイエルフの家庭だ。


 
 ――昔から、私達姉妹は里の中でも、特に期待されていた。

 エルフ族は長寿が故なのか、あまり子供が生まれない。
 そんな中でハイエルフが三人も生まれた家庭だからだ。

 私が生まれた時、姉は十歳だった。
 その頃には既に姉は、全ての属性の初級魔法を使いこなし、狩りや農業を率先して手伝い。家では家事も手伝っていた。
 ちなみに、エルフ族は肉は食べないが、人との交易の為に肉を手に入れる習慣が有る。


 私も五歳で回復魔法を使えるようになり、親からはもちろん、エルフの里の皆から期待された。


 エルフ族は十歳程で初級魔法を一種覚え、魔力量が上がる二十歳までに、三種類の初級魔法が使える様になるのが平均的だ。
 そこからは適正によって変わるが、百歳までに中級魔法が三種類程使えるのが平均。
 二百歳を超える頃になると、既に魔法の適性や魔力量は固定されて、新しく魔法が使える様になる事は無い。
 里の中で一番魔法の扱いに長けてる者で、上級魔法三種といったところだ。



「――もう魔法が使えるのかい。すごいなサティナは」

 ――はい! ありがとうございます! パパ、ママ!


「――私よりも早いのね。さすが私の妹ね!」

 ――はい! おねえちゃんに追いつけるように頑張ります!


「――サティナちゃんすごいわぁ。これからも頑張ってね」

 ――はい! みなさん、ありがとうございます!




 だがそれから、私は他の魔法を使える様にはならなかった。



 必死に勉強をした。必死に魔力を高める修行もした。
 
 でも、使える様にはならなかった。

 唯一の回復魔法も、初級しか使えず、
 それでいて魔力が低く、一度使うと次の日まで魔力を回復させないと使えない。


 
 そんな私を見て、周りの目が変わっていった。
 

 最初は良かった。たまたまだと思ってた。もっと頑張れば使えるようになると思っていた。


「――サティナ。まだお前は十歳だ。これからだよ」

 ――はい。もっと頑張ります。お父さん、お母さん。


「――まぁ、私の方がサティナより凄かったっていうのがわかったでしょう!」

 ――はい。おねえちゃんはすごいです。私もがんばります。


「――サティナちゃん。まだまだこれからだよ。がんばれ」

 ――はい。皆さんありがとうございます。がんばります。




 ――更に時が経ち、私が二十歳になった頃。

 相変わらず私は回復魔法の初級のみ、魔力も上がることは無かった。
 水魔法と土魔法が使えないと農業でも役に立たない。
 火魔法と風魔法が使えないと家事の手伝いもたかが知れている。
 エルフの生活というのは、魔法が全てだ。有って当たり前なのだ。


 ――そして妹は十歳。その妹が、中級魔法までを全属性、使えるようになった。

 天才だった。

 …………

 ……


「――他の魔法使えないの? ハイエルフの癖に」

 ―――はい。ごめんなさい。


「――あぁ、お前が居ると連携が乱れるんだよ」

 ―――ごめんなさい。


「――その魔法、一日一回しか使えないの? 本当……役立たず」

 ―――ごめんなさい。


「――お前は何もしなくていい。サティナ。トイレ掃除でもしてろ」

 ―――はい。ごめんなさい。父様。母様。


「――この落ちこぼれ」

 ―――はい。ごめんなさい。姉様。


「――お姉ちゃん……」

 ―――ごめんなさい。ユティナ。


 ―――ごめんなさい。ごめんなさい。


 ―――ごめんなさい。




 里に居場所が無い。
 皆の視線が怖い。

 その視線から逃れるために、剣術と弓を習い始めた。
 里を守れる騎士になろう、と。
 何かをしていないと頭がおかしくなりそうだった。

 
 剣と弓は、どうやら多少はセンスが有ったようだ。
 技術を学び、修行に明け暮れる毎日。
 相変わらず皆の視線はつらいが。成果が出ているだけ気持ちが幾分かマシだった。
 私はこれを頑張れているんだ、と。
 

 
 ――更に時が経った。

 私は、剣と弓でなら里で有数の実力者と言われるようになった。
 それでも、周りの視線は変わらなかった。

 それはそうだろう。強くなろうが、何の意味が有る。
 弱いよりは良いだろうが、御先祖の結界のお陰で里に危険など殆(ほとん)ど無い。

 里の入口で剣を携え、ただ立っているだけの日々となった。

 それでも、出来ることを頑張ろう。何かを極めて、みんなに認めてもらおう。

 狩りの手伝いをした事もある。
 だが、剣や弓よりも周りの魔法の方が早かった。

 私は一度も、獲物を狩ることは無かった。




「――あいつ、また立ってるよ」

「――おい、声掛けてみろよ」

「――もっと別のことしてればいいのに」

「――あぁ、あいつ魔法使えないんだよ」

「――いや使えるだろ。一日一回の初級回復魔法」


 ――クスクス……クスクス……





 ――ねえ神様、神樹様……私は、何か悪いことをしましたか?



 里を出ていこう。
 そう決めるのも時間の問題だった。

 人族や獣人族の所に行けば、魔法が使えなくても目立たないかもしれない。

 そうだ、試しに歩いて一日くらいの所にあるらしいジッポ村に行こう。迎え入れてくれたらいいな。

 一度行ってみて、もし暮らしていけそうなら、一度戻って家族に挨拶して、里を出よう。


 …………

 ……



 ジッポ村に着いた。


「――あぁ! ラティナちゃんの妹さんかい? ちょっと魔法を頼めないかい?」

「――いつもお姉さんにはお世話になってるよ! あんたも魔法は使えるのかい?」

「――サティナちゃんって言うのかい? ちょっと魔法で手伝ってくれないかい? 代金はこれで――」



「――なんだ。魔法を使えないのか。回復? 別に怪我はしてないよ」



 ――あぁ、ここでも、ダメみたい。



 今度はもっと北上して、王都に行ってみようかな。


 冒険譚のような冒険をしてみたい。
 仲間と笑い合いながら、旅をしてみたい。
 それが私の夢だ。



 里に……居たくない。




 でも、生まれてこの方、遠出はした事がない。ジッポ村が初めてだった。

 魔法も使えず、剣と弓だけでの長旅の自信が無い。


 ――怖い。

 ―――何もかも。怖い。




 ――ただいま。


「あぁ、サティナ。出ていったんじゃなかったのか」

 ――はい……ごめんなさい。



 ジッポ村から帰った翌朝。

 私は森の奥にある湖へ水浴びに向かっている。


 里にある泉で皆と共に水浴びするのが嫌で、ここ最近はこれが朝の日課だ。
 里には火魔法で沸かしたお風呂も有るが、それでも私は夏も冬も、ここで水浴びをする。
 

 あぁ、冬の水は、冷たいな……。雪が無いだけ、まだマシだけど。


 水浴びをした後は、歩きながら里に戻って今日はどうしようか、何をしようかと考える―――


 予定だった。


 水浴びが終わり、服と軽鎧を着たところで、草陰から物凄い速さ、目にも止まらぬ速さで、何かが私の顔に飛び込んできた。

 情けない事だが、気絶してしまった。


 ――こんな体たらく。
 剣と弓は……意味が無かったな。
 ああ、今日は剣しか持ってきて無かったんだっけ?
 まぁどうでもいいや。結局私という存在は、全てに意味が無かったのだな。


 ――もう、このまま消えてしまいたい。


 願わくば、目が覚めたら天国で有りますように―――


………………

…………

……



「あのぉ!!」

 ビクッ! と、自分の身体が震えるのを感じた。


 どうやら天国ではなかったらしい。いや、もしかしたら天国かもしれないが。


 それにしても、なんだこいつは、変な格好だな。不審者か?

 あれ? 私の剣が無い。

 今日は持ってきて無いんだったっけ?

 まぁいいや、どうでも。


 どうでもいいが、ただでやられてはやらん。

 今までの鬱憤、この男で少しでも晴らしてやる。
 どうせこいつも私を襲う予定だったのだろう。ならお互い様だ。


「アッ…ボク…アッ…敵ジャナイ…デス。デュフッ」


 ――は? なんだこいつは? 気持ちが悪いな。



「動きません! 敵意は有りません!」

 ――どうやら、敵ではないらしい。そもそも何故人間がここに居るのだ。迷い人か? 不思議なやつだ。



 しかもこの不審者。猫様を連れていたのだ。

 本物だ……。

 すごい……。




 私はその猫様に飛びつかれて気絶したようだ。

 話を聞いていると、もしかしたら本当に迷い人かもしれない。勇者様か? 
 名前はヨシタカと言うらしい、確か勇者様も似たような名前をしていた気がするが、記憶が曖昧だ。勇者様なら、私を救ってくれる? 冒険に連れ出してくれる?


 まぁ、どうでもいいか。こんな役立たず、無理に決まっている。邪魔でしかないだろう。


 猫様……ひなた様を触らせて頂いた。
 あれはまずい。柔らかすぎる。あんな手触り、初めてだ。気持ちがいい。さすがは神獣様だ。

 つい我を忘れて撫で回してしまった。


 不覚。


 それにしても、このヨシタカという男は不思議なやつだ。
 私の事を見る目がおかしい。輝いている、と言えばいいのか。とにかく変なやつだ。
 だが、何故か信用出来る気がする。素直に話してくれている。そんな気がする。



 それに……
 

 ――魔法を褒めてもらったのは、何年ぶりだろう。


 ――誰かに頼られたのは、何年ぶりだろう。


 ――誰かにありがとうと言われたのは、何年ぶりだろう。


 こんなに、嬉しいものだったのだな。

 お礼を言いたいのは私の方だ。恥ずかしくてこんな事、言えないが。


 これも何かの縁だし、人族の村くらいまでは送ってやるか。


 ――こいつといると、心が弾む。

 ――今までにないくらい、話していて楽しい。

 

 ――あぁ、彼の歩みに……着いて行きたいって言ったら、引かれるだろうか?


 ――こんな役に立たない、落ちこぼれではダメだろうか。

 


「―――サティは一緒に来ない?」

 ――へ?



 変な声が出た。

 驚いた。

 誘ってくれた。こんな役立たずを。


 良いのだろうか?


 私なんかが一緒で……魔法も碌(ろく)に使えない、剣と弓ですら、肝心な時に気絶をするような、こんな役に立たないハイエルフが一緒に行っても良いのだろうか? 


 そんな風に悩んでいたら、何やらヨシタカは焦っているようだが、

 「居てくれたら心強い」と、そう言ってくれた。



 ――あぁ……嬉しいものだな……。



 咄嗟に私は  行く  と声にしていた。



 行きたい  そう叫んでいた。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

安全第一異世界生活

笑田
ファンタジー
異世界に転移させられた 麻生 要(幼児になった3人の孫を持つ婆ちゃん) 異世界で出会った優しい人・癖の強い人・腹黒と色々な人に気にかけられて 婆ちゃん節を炸裂させながら安全重視の冒険生活目指します!!

やっと買ったマイホームの半分だけ異世界に転移してしまった

ぽてゆき
ファンタジー
涼坂直樹は可愛い妻と2人の子供のため、頑張って働いた結果ついにマイホームを手に入れた。 しかし、まさかその半分が異世界に転移してしまうとは……。 リビングの窓を開けて外に飛び出せば、そこはもう魔法やダンジョンが存在するファンタジーな異世界。 現代のごくありふれた4人(+猫1匹)家族と、異世界の住人との交流を描いたハートフルアドベンチャー物語!

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

俺だけ皆の能力が見えているのか!?特別な魔法の眼を持つ俺は、その力で魔法もスキルも効率よく覚えていき、周りよりもどんどん強くなる!!

クマクマG
ファンタジー
勝手に才能無しの烙印を押されたシェイド・シュヴァイスであったが、落ち込むのも束の間、彼はあることに気が付いた。『俺が見えているのって、人の能力なのか?』  自分の特別な能力に気が付いたシェイドは、どうやれば魔法を覚えやすいのか、どんな練習をすればスキルを覚えやすいのか、彼だけには魔法とスキルの経験値が見えていた。そのため、彼は効率よく魔法もスキルも覚えていき、どんどん周りよりも強くなっていく。  最初は才能無しということで見下されていたシェイドは、そういう奴らを実力で黙らせていく。魔法が大好きなシェイドは魔法を極めんとするも、様々な困難が彼に立ちはだかる。時には挫け、時には悲しみに暮れながらも周囲の助けもあり、魔法を極める道を進んで行く。これはそんなシェイド・シュヴァイスの物語である。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

処理中です...