Lara

文字の大きさ
上 下
265 / 280
Regained Memories

14

しおりを挟む
ある日、むっすーとした雰囲気を纏わせて綺麗な人が昼食を持ってやって来た。

ガチャン、と荒々しくトレイを置く様子から苛ついているのがわかる。
ハァとため息をつきながら僕の隣に、すぐ横に座る。あれから僕が自分から食べなくなったからだ。一回意地を張って、というか食べなくていいから張ってはいないのだが、食べずに次のご飯の時間になるまで置いておいたら彼が折れたのだ。

だから食べる時は僕の隣に座って僕にあーんをしてくるようになった。

「昼飯を食べたら、やってほしいことがあるんだと。あー!むっかつく!」
「…………」

ガシガシと頭を掻き乱す。どうしたんだろうか、こんなに怒って。
ばっ、と顔を上げて言う。

「前のように人殺しをやらせろって言うんだ!!おかしいだろ!」

気を許したのか以前よりも荒くなった口調で叫ぶ。その目には心配の色を宿らせて僕を見つめる。

彼は幼いと言える僕に人を殺させたくないらしい。

一般社会ならそんなことは当たり前だと、殺人は忌避されることだと言われていることだが、ここの場合そんなことを言う人はこの青年ぐらいしかいない。
むしろ、ここの大人はそのような行為を推奨する人たちばかりだろう。

そういう人が集まっているのだから。

だからこそ彼が何故ここで教団の一人として上の命令を従順に従っているのかがわからない。何故、何故、何故、唯一興味を引くものだからその疑問に頭が埋まる。

「あー、ったく……とにかく、食うぞ」
「…………」

どうせやるしかないのに。逃げることなんて、そんな力を持たない僕にはできないのに。神なんて言われ崇め奉られているが、実態は彼らの言うことを聞くことしかできないお人形だ。この教団の人たちは欲に眩み、その独りよがりな考えで僕に引っ付き絡まっている糸を操っている。

差し出された食べ物に口を開けて食べる。食べるものは全てとは言わないができるだけ白か赤色のものを使って作られている。
この体になってお腹が空くこともなく、それがあるせいで美味しいが食べたいと想えなくなった食事。食べたくないとは言わないが、せめて白と赤以外の食べ物を食べたい。血の色を思い出して元から無い食欲もさらに萎えてしまう。

「……今日はいつになく食べないな。よし、今日は止めてもらうことにするか」
「…………」

僕の様子に嬉々として止める算段をつけているが、無理だろう。それに今日やらなくても明日、明後日…………と要求されることになるだろう。
僕は首を振って不満げな表情を作る彼が持っているものを食べる。


それに、僕はもう人を殺すことに忌避の感情はないのだ。


しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

悪役令息シャルル様はドSな家から脱出したい

椿
BL
ドSな両親から生まれ、使用人がほぼ全員ドMなせいで、本人に特殊な嗜好はないにも関わらずSの振る舞いが発作のように出てしまう(不本意)シャルル。 その悪癖を正しく自覚し、学園でも息を潜めるように過ごしていた彼だが、ひょんなことからみんなのアイドルことミシェル(ドM)に懐かれてしまい、ついつい出てしまう暴言に周囲からの勘違いは加速。婚約者である王子の二コラにも「甘えるな」と冷たく突き放され、「このままなら婚約を破棄する」と言われてしまって……。 婚約破棄は…それだけは困る!!王子との、ニコラとの結婚だけが、俺があのドSな実家から安全に抜け出すことができる唯一の希望なのに!! 婚約破棄、もとい安全な家出計画の破綻を回避するために、SとかMとかに囲まれてる悪役令息(勘違い)受けが頑張る話。 攻めズ ノーマルなクール王子 ドMぶりっ子 ドS従者 × Sムーブに悩むツッコミぼっち受け 作者はSMについて無知です。温かい目で見てください。

眠るライオン起こすことなかれ

鶴機 亀輔
BL
アンチ王道たちが痛い目(?)に合います。 ケンカ両成敗! 平凡風紀副委員長×天然生徒会補佐 前提の天然総受け

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

愉快な生活

白鳩 唯斗
BL
王道学園で風紀副委員長を務める主人公のお話。

僕の平凡生活が…

ポコタマ
BL
アンチ転校生によって日常が壊された主人公の話です 更新頻度はとても遅めです。誤字・脱字がある場合がございます。お気に入り、しおり、感想励みになります。

処理中です...