証

Regained Memories

１２

後は部屋に戻って壁を見つめるだけ。何かをするのは朝のみ、後は何もやることはない。食も細く、眠りも浅くなってきた。そう言う欲求は生物に必要なもの。亜神だからこそまだあるが、格が上がっていけば神として欲から解放される。

「…………」
「もう食べないのか」
「…………」

朝のを終わらせた後、僕は裾を離さずに綺麗な人を部屋の中に入れた。なんとなくこの人といたかったから。

この人がどうしても昼食を取りに行き、絶対戻ってくるからという言葉を口に出すまで辛抱強く裾を握っていたからか、しっかりと戻ってきて僕の食事を見守っていた。

「最近、食が細いな……」

半分以上残った料理を見下ろして言う。彼は僕がここに来た時から毎食ここに食事を運んできて食べ終わったものは片づけていたから食が細いことも把握しているのだろう。

「口を開けろ」
「…………」

彼はそのままじっと見下ろした後、何かに思いついたかのように動き出し、スプーンを握って一匙掬って僕の口元に持ってくる。これはいわゆるあーん、だろうか。ここに来る前、僕が嫌がった肉じゃがのじゃが芋を母さんがあーんしてきたことがあった。

今に思うと、我が儘言わずに母さんの言うことを聞いていればよかったと思う。父さんともっと遊んでおけばよかった。

彼は僕にそれを突きつけてくるが僕は口を開かない。本当に要らないと思ったからだ。

「ッチ…」
「っ、んぐっ」

顎を摑み口を開かされ、スプーンを押し込まれてしまった。仕方がないのでそのまま食べる。

「…………」
「食ったな？よし、これもだ」

そして差し出されるスプーン。これは…餌付け？

「はぁ……」
「んぁ……」

そのまま見ていたらまた口を開けさせられスプーンが入ってくる。……全て食べるまでこれをやらなければならないのだろうか。

「よし、全部食べたな」
「…………」

うん、なんかいいなこれ。このまま食べなければこの人が食べさせてくれそう。本当は自分で食べた方が良いんだろうけど、なんか食べさせてほしい。赤ちゃん返りみたいなものだろうか、やっぱり一人だからかな……

「ちゃんと食えて偉いな」

そう言って筋張った大きな手で頭を撫ぜられる。あったかい………完成してから何かと寒かったけどこの人はなんかあったかく感じる。なんでだろう？

「おい！どうした、そんなに食べるのが嫌だったのか!?」
「…………」

？

何を言っているのだろうか。彼は慌てて僕に手を伸ばし目の下に指を滑らせる。指の上に乗る水滴、ああ、僕は泣いていたのか。

「……ッ」
「……そうか、なら泣け。沢山泣いて、吐き出しておけ」

僕は座っている彼の元へ行き、抱き着く。顔を服にうずめる。
彼はぎこちない動きで僕の背を撫ぜ、抱き返してくれる。やっぱりこの人は温かい。離れたくない…………