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Regained Memories
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その後、僕と三十四番以外の人を全て切った。そして、いつの間にか、前へ垂れてくる髪は全て白くなっていた。
いや、一房だけ、元の黒い色だった。
自分の中に渦巻く力は完全に感知できるほど強まっていて、今にも外に出たい、白く染めたいと熱く滾っている。
流れ出てくる血は赤から白に変わり、体中についていた傷も全て無くなり、無惨切り刻まれて、襤褸切れと化した服が嘗てあった傷を物語っている。
「あ……由貴…………」
「大丈夫?」
「あ、あ…大丈夫だよ…………でも、由貴が…………」
瞳にいっぱい涙を浮かべてこちらに駆け寄ってくる。駄目だ。
「怪我、大丈夫なの?」
そう言って、僕に近寄って
僕はそれを弾いた。響く音、遠くへ飛んでいく白いナイフ。
「ッ、なんで…………」
「頭に警鐘が…力が反応してたから。最後のピースはそこにあるって」
「あ、はは…気づかれてたんだ」
がくりと肩を落として耳の横の髪を上に上げる。そこから覗いたのはたった一房の白い髪。僕の染まっていない黒い髪と同じぐらいの束だった。
彼は、僕と同じ『白の愛子』だったのだ。
「僕の負けだね。由貴…」
顔を俯けて、涙を零す。
「僕、死にたくないよぉ……」
彼の本音。カタカタと体は震え、泣きじゃくっている。それには無理もないだろう。彼は見た目から推測すると僕と同じくらいだ。小学校二・三年生ぐらいだろう。
反対に二年生だった僕は冷静にその様子を見ている。沢山の人を殺したのに歓喜の感情が浮かんでさえしている。本来ならば彼のように震えて、泣いているもののはずなのに、自分は変わってしまったからかそんなことにはならない。なれない。
「いやだ、いやなのぉ……ひっぐ」
「三十四番…………」
「由貴、ゆき、僕たち、友達だよね?」
「…………」
「ねぇ、ねぇってばぁ……!」
そう言って縋ってくる三十四番。それに僕は……わたし、は…………
「がっ……あ、ゆ、きぃ…………」
気が付いたら刀を三十四番の胸に刺していた。
「ぁ…………」
「な、んで……ぇ…………」
強く手首を摑まれる。だけどそれも一瞬のことで力が弱くなり、目から光を失って、涙が頬を伝った。僕はそれがとても美しいと思った。
その刺し貫いたところから血が流れ落ち、花を咲かせた。赤い、花を。その花弁には見覚えがあった。
その瞬間にも至る所から芽が伸び、花が咲き乱れる。いずれも、他の子の血からだ。それがなんで今なのか本能でわかった。
残りのピースが嵌まり、完成したからだ。
僕は、その途端に何もわからなくなった。どうして……どうして?
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい
誰かが遠くで呟いている。その声は幼く、舌っ足らずで滑舌が悪い。でも、どこかで聞いたことのある声だ。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい
目の前に置いてあるのは一つの物体。それは先ほどまでは自分の友と言ってきた幼子だったはずだ。その…はずだ。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい
自分の手を見てみると血に濡れた白い刀を力強く握りしめていた。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい
その刀とそれを持っている自分の手は温かくぬめった赤い液体に濡れていた。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい
俯けた自分の頭から白い、とても真っ白な髪が垂れてくる。前までは黒かった自分の髪だ。此処で日々を過ごしているうちに一房、二房と白く染まっていったのだ。勝手に、そうあるかのように。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい
そういえば先ほどから呟かれているこの声は何なのだろうか。どこか遠い、だがとても近くから聞こえてくる。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ふと、自分の口に手を当ててみた。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ああ、これは、この声は自分だ。それはそうだ、ここには自分とこの物体しかいないのだから。
ごめんなさいごめんなさいごめ、―――
口の中に手をねじ込んでみた。止まらないのだこの口は。
鉄の味がする。…鉄って何だったっけ。忘れちゃった、今は、何もわからないから。わかりたく、なかったから。
だからこうやって現状を再確認しているんだ。
口の中に手を入れてもまだ動こうとしていた。手のひらに歯がくいこむ。痛い。何故か胸もいたい。
―――、―――、―――
なぜ、何故、何故?胸がいたい。なぜ何もない胸がいたい?
しらない、しらない、しらない。こんなの知らない。いや、知ってた。多分、知ってたはずだ、前の自分なら。このいたみも原因も。でも、今はわからない。完成してしまったから。
―――、―――、―――
だったら良い。自分は知らなくて良い。不要なものだから。このいたみも、何もかも。
………
そう理解したらこの動き続けていた口は止まった。なぜ、止まったのかわからないが、それも気にしなくていいだろう。どうせ自分には不要なものだから。
口に突っ込んだままだった手を抜き取る。自分の唾液が橋を作り、重力に耐え切れずに落ちて行った。
手をまじまじと見ると、元からついていた白くなった血は薄まり、その下から歯形が覗いていた。そしてその跡はなくなった。
自分は、自分、は、自分は、
なに?
その考えも不要だった。すぐに消去する。考えなければいけない事は既に頭の中にある。完成した時からそれは思考過程にできた。
救わなければならない。人を、動物を、生き物を、世界を。
それがみんなの悲願だから。そういわれたから。自分の運命だから。役割、だから。
救え、救え、救え
だけどね?だけどね?自分は思っちゃうんだ。そんなことも烏滸がましいのに。そんなはずなのに。
助けて
って。それだけはどうしても不要と切り捨てることは出来ないの。なんで?おかしいよね。自分…あれ?ぼく?だっけ、わかんないけど……ひとりになるとねいっちゃうの。
たすけて、たすけて、たすけて
って、あ、こころのなかで、ね。かべをみて、いうんだ。
誰も助けてくれやしないのに。
いや、一房だけ、元の黒い色だった。
自分の中に渦巻く力は完全に感知できるほど強まっていて、今にも外に出たい、白く染めたいと熱く滾っている。
流れ出てくる血は赤から白に変わり、体中についていた傷も全て無くなり、無惨切り刻まれて、襤褸切れと化した服が嘗てあった傷を物語っている。
「あ……由貴…………」
「大丈夫?」
「あ、あ…大丈夫だよ…………でも、由貴が…………」
瞳にいっぱい涙を浮かべてこちらに駆け寄ってくる。駄目だ。
「怪我、大丈夫なの?」
そう言って、僕に近寄って
僕はそれを弾いた。響く音、遠くへ飛んでいく白いナイフ。
「ッ、なんで…………」
「頭に警鐘が…力が反応してたから。最後のピースはそこにあるって」
「あ、はは…気づかれてたんだ」
がくりと肩を落として耳の横の髪を上に上げる。そこから覗いたのはたった一房の白い髪。僕の染まっていない黒い髪と同じぐらいの束だった。
彼は、僕と同じ『白の愛子』だったのだ。
「僕の負けだね。由貴…」
顔を俯けて、涙を零す。
「僕、死にたくないよぉ……」
彼の本音。カタカタと体は震え、泣きじゃくっている。それには無理もないだろう。彼は見た目から推測すると僕と同じくらいだ。小学校二・三年生ぐらいだろう。
反対に二年生だった僕は冷静にその様子を見ている。沢山の人を殺したのに歓喜の感情が浮かんでさえしている。本来ならば彼のように震えて、泣いているもののはずなのに、自分は変わってしまったからかそんなことにはならない。なれない。
「いやだ、いやなのぉ……ひっぐ」
「三十四番…………」
「由貴、ゆき、僕たち、友達だよね?」
「…………」
「ねぇ、ねぇってばぁ……!」
そう言って縋ってくる三十四番。それに僕は……わたし、は…………
「がっ……あ、ゆ、きぃ…………」
気が付いたら刀を三十四番の胸に刺していた。
「ぁ…………」
「な、んで……ぇ…………」
強く手首を摑まれる。だけどそれも一瞬のことで力が弱くなり、目から光を失って、涙が頬を伝った。僕はそれがとても美しいと思った。
その刺し貫いたところから血が流れ落ち、花を咲かせた。赤い、花を。その花弁には見覚えがあった。
その瞬間にも至る所から芽が伸び、花が咲き乱れる。いずれも、他の子の血からだ。それがなんで今なのか本能でわかった。
残りのピースが嵌まり、完成したからだ。
僕は、その途端に何もわからなくなった。どうして……どうして?
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい
誰かが遠くで呟いている。その声は幼く、舌っ足らずで滑舌が悪い。でも、どこかで聞いたことのある声だ。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい
目の前に置いてあるのは一つの物体。それは先ほどまでは自分の友と言ってきた幼子だったはずだ。その…はずだ。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい
自分の手を見てみると血に濡れた白い刀を力強く握りしめていた。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい
その刀とそれを持っている自分の手は温かくぬめった赤い液体に濡れていた。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい
俯けた自分の頭から白い、とても真っ白な髪が垂れてくる。前までは黒かった自分の髪だ。此処で日々を過ごしているうちに一房、二房と白く染まっていったのだ。勝手に、そうあるかのように。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい
そういえば先ほどから呟かれているこの声は何なのだろうか。どこか遠い、だがとても近くから聞こえてくる。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ふと、自分の口に手を当ててみた。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ああ、これは、この声は自分だ。それはそうだ、ここには自分とこの物体しかいないのだから。
ごめんなさいごめんなさいごめ、―――
口の中に手をねじ込んでみた。止まらないのだこの口は。
鉄の味がする。…鉄って何だったっけ。忘れちゃった、今は、何もわからないから。わかりたく、なかったから。
だからこうやって現状を再確認しているんだ。
口の中に手を入れてもまだ動こうとしていた。手のひらに歯がくいこむ。痛い。何故か胸もいたい。
―――、―――、―――
なぜ、何故、何故?胸がいたい。なぜ何もない胸がいたい?
しらない、しらない、しらない。こんなの知らない。いや、知ってた。多分、知ってたはずだ、前の自分なら。このいたみも原因も。でも、今はわからない。完成してしまったから。
―――、―――、―――
だったら良い。自分は知らなくて良い。不要なものだから。このいたみも、何もかも。
………
そう理解したらこの動き続けていた口は止まった。なぜ、止まったのかわからないが、それも気にしなくていいだろう。どうせ自分には不要なものだから。
口に突っ込んだままだった手を抜き取る。自分の唾液が橋を作り、重力に耐え切れずに落ちて行った。
手をまじまじと見ると、元からついていた白くなった血は薄まり、その下から歯形が覗いていた。そしてその跡はなくなった。
自分は、自分、は、自分は、
なに?
その考えも不要だった。すぐに消去する。考えなければいけない事は既に頭の中にある。完成した時からそれは思考過程にできた。
救わなければならない。人を、動物を、生き物を、世界を。
それがみんなの悲願だから。そういわれたから。自分の運命だから。役割、だから。
救え、救え、救え
だけどね?だけどね?自分は思っちゃうんだ。そんなことも烏滸がましいのに。そんなはずなのに。
助けて
って。それだけはどうしても不要と切り捨てることは出来ないの。なんで?おかしいよね。自分…あれ?ぼく?だっけ、わかんないけど……ひとりになるとねいっちゃうの。
たすけて、たすけて、たすけて
って、あ、こころのなかで、ね。かべをみて、いうんだ。
誰も助けてくれやしないのに。
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