Lara

文字の大きさ
上 下
228 / 280
告白

しおりを挟む
『19時、生徒会室に来い』

メールで送られてきたその文は、とても簡潔だった。暗い、体育館倉庫でボーっとしている時に受け取った。

「…………最後には、いっか」

何を言われるのか、既にわからない。あの頃のように胸中を悟る様なこともできない。俺自身、何を感じているのかさえ分からなくなってしまった。今は、何時だっただろうか、携帯の画面を見る。19:03と点滅をしていた。

「…………過ぎてる…行くか」

遅刻しているが焦ることもなくふらりと立ち上がった。



「…………遅い」

腕を組み、机の上に腰かけて待っているが、来ない。

今の時間は七時半を過ぎた頃だ。

…………来ないのだろうか。もう、俺のことはどうでもいいということなのだろうか。そう言う考えが頭の中を渦巻いて重くする。

ギィッ…………キー

「!…椿!」
「…………そんな騒ぐな」

ようやくやって来た椿の表情からは生気が抜けていて、能面のように俺を見ていた。もう、暗いからか、扉の外に立つ椿は人間味がない。不気味でもあった。

「入れ…コーヒーでいいか?」
「…………別にいらねぇ」
「淹れてくる」

彼がよく好んでいた豆を選び、あまり慣れない手つきで淹れる。ほっかりと湯気が立ち上っているのを見て現実に引き戻されたような気がした。

「たしか、ブラックだったよな…」

ブラックと甘いの。会計と会長。学園でのイメージとは真反対のものを好む俺たちは、似た者同士だと彼が演技をやめる前にそう思ったことがある。中身は俺以上にブラックコーヒーが合っていたが。

俺のにだけ砂糖とミルクを…………いつもより少ない量を入れる。その証拠にコーヒーの色はほんの少しだけ茶色くなっただけだ。
今はそこまで、甘いものを飲もうとは思えなかったのだ。

執務室に戻るとソファーに座ってぼけっと夜空を見ていた椿が待っていた。
俺は彼の目の前まで歩いて、テーブルに淹れたてのコーヒーを置いた。

「ほら、お前の好きなやつだ」

ゆったりとした動作で俺を見、視線を下げた。もう、一つ一つの動作が記憶とは会わなくて混乱してしまう。

「ありがと…………」
「!…ああ」

意外だった。あれから冷たくなってしまった彼は会話を好まず、まず目を合わせてこない。ほんの偶に目が合うだけで、感謝なんて言われるとは思ってもみなかった。

すっかりと変わってしまった椿だが根底の部分は変わっていないのだろう、そんな当たり前のことを今更にして思い出した。

今に見合わないのんびりとした落ち着いた時間が流れる。

まだ、雨はやんでいない。少し冷えた体には温かいコーヒーが丁度良かった。


しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

眠るライオン起こすことなかれ

鶴機 亀輔
BL
アンチ王道たちが痛い目(?)に合います。 ケンカ両成敗! 平凡風紀副委員長×天然生徒会補佐 前提の天然総受け

悪役令息シャルル様はドSな家から脱出したい

椿
BL
ドSな両親から生まれ、使用人がほぼ全員ドMなせいで、本人に特殊な嗜好はないにも関わらずSの振る舞いが発作のように出てしまう(不本意)シャルル。 その悪癖を正しく自覚し、学園でも息を潜めるように過ごしていた彼だが、ひょんなことからみんなのアイドルことミシェル(ドM)に懐かれてしまい、ついつい出てしまう暴言に周囲からの勘違いは加速。婚約者である王子の二コラにも「甘えるな」と冷たく突き放され、「このままなら婚約を破棄する」と言われてしまって……。 婚約破棄は…それだけは困る!!王子との、ニコラとの結婚だけが、俺があのドSな実家から安全に抜け出すことができる唯一の希望なのに!! 婚約破棄、もとい安全な家出計画の破綻を回避するために、SとかMとかに囲まれてる悪役令息(勘違い)受けが頑張る話。 攻めズ ノーマルなクール王子 ドMぶりっ子 ドS従者 × Sムーブに悩むツッコミぼっち受け 作者はSMについて無知です。温かい目で見てください。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

僕の平凡生活が…

ポコタマ
BL
アンチ転校生によって日常が壊された主人公の話です 更新頻度はとても遅めです。誤字・脱字がある場合がございます。お気に入り、しおり、感想励みになります。

全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話

みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。 数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

処理中です...