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初めてのお家に帰ることにしました。
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開いた箱の中には一対のイヤリングが入っていた。
「椿は基本的にジャラジャラした感じにアクセサリーって着けないでしょ?唯一着けるのがピアスとかイヤリングだし。だからこれにしたんだ」
「へぇ…」
手に取ってまじまじと見てみる。銀細工の先にブリオレットカット(雫型)の宝石が垂れ下がっている。黒くて滑らかな…
「それはオニキスだよ。黒瑪瑙とも言うね。椿に似合うと思ったからさ、綺麗でしょー?」
「ああ…」
オニキス…こいつが選んだからには意味があるのか?いや、こいつだし言った通り似合うと思ったからこれにしただけの可能性もある。というか
「はい!ここで椿にQuestion!オニキスの石言葉はなんでしょうか!」
少なくともここでする質問か?なんか妙に暖かい目で店員が見てくるんだが。
「成功、秘密、厄除け、だな」
「んふふー、二つ足りませーん!」
「…なんだ?」
「幸福と願望成就でーす!」
「幸福と願望、成就……」
指に摘まんだイヤリングを見る。願望…願い……
「ぉれの…願い、は………」
掠れた声で呟く。幸福、願望…ああ、だからこの二つを選択肢から外していたのか。
どうせ、叶いやしないもんな。いや、俺の幸福はある。そう!BL観察だ!
……違う、ほんとうは、ほんとうは?
「ん?なんか言ったー?」
「…いや、何も言ってないぞ」
「そう?」
そこで我に返る。もう何回も繰り返した思考だ。表情は崩れていないだろうか。引きつってないだろうか
俺は何もなさげに養父に問う。
「着けていいか?」
「うん!着けてくれると嬉しーな!」
大丈夫、大丈夫。バレてない、まだバレてない。
着けると耳たぶから垂れ下がり、揺れる感触。渡された鏡で確認してみると、細やかにカットされた表面が店内の光を反射してキラキラと光っていた。なんか、この夏休みで宝石がよくプレゼントされるな。なんだ、こいつらがセレブだからか。
「おおー!似合ってるよ!」
「とてもお似合いです」
「ああ、ありがとう」
「ふふーん、気に入ってくれておとーさん嬉しいよ」
今そのお父さんというセリフに店員さんが頬を引きつらせてたぞ。一瞬だったけど。やっぱり、このテンションだとなぁ…
店を出て帰り路を歩く。結構時間が経っていて世界が赤く染まりかけていた。
『―――』
俺ってさ、夕焼けが嫌いなんだよな。さようならをしなきゃいけないから。さみしいから。もう、あえなくなるから。
「今日は楽しかったねぇ!」
「…そうだな」
「あっ!椿がデレたぁ!かっわいー!」
「うざい、タヒね」
「ひどいーしくしく」
なんなのこいつ、まじでウザい。
養父が泣きまねをやめて俺の横顔をじっと見る。
「…なんだ?そんなじっと見て」
「えへへぇ、椿がそのイヤリングを着けてるのが嬉しくてねぇ」
「んだよ、そんくらいで」
「…ひとつ、踏み込むけどさ」
「なんだよ」
「椿って、周りと壁作ってるよね。一定以上の関係に踏み込まない。いや、踏み込んだとしてもまたもとの場所に戻る。そして踏み込ませない。」
「…………」
「だからだよ~椿が着けてるイヤリングはさ、僕と親子だっていう証なんだ!僕と親子として遊んだ日の贈り物!」
「それは……」
「きっと、前なら僕からの贈り物は貰わなかっただろうね」
「いや、貰ってるじゃないか。金を…」
「それって、情報と引き換えにって、ことでしょ?それは貰ったとは言えないよ」
「…………」
養父が少し前に駆け出して振り返る。光が陰を作って養父の顔がよく見えない。でもきっとその表情は――
養父の向こうに手を繋ぐ三人の親子の陰を幻視した。
「だから、偶にでいいから着けてくれないかな」
「…わかった」
「…よーし!それじゃあ車のとこに行こっか!あー寂しいなーもっと椿といたいー!」
「はぁ、ウザい」
「ひっどー!」
俺は仕方ないと笑って養父の隣を歩く。
視界の端で白の布がひるがえった。
「――っ」
振り返っても、白いのはいなかった。
「椿ー!立ち止まってどうしたのー?お腹痛い?」
「何でもねぇよ、さっさと行くぞ」
「あっ、ちょっと待ってー!置いてかないでー!」
夏休みの終わりも近い。
「椿は基本的にジャラジャラした感じにアクセサリーって着けないでしょ?唯一着けるのがピアスとかイヤリングだし。だからこれにしたんだ」
「へぇ…」
手に取ってまじまじと見てみる。銀細工の先にブリオレットカット(雫型)の宝石が垂れ下がっている。黒くて滑らかな…
「それはオニキスだよ。黒瑪瑙とも言うね。椿に似合うと思ったからさ、綺麗でしょー?」
「ああ…」
オニキス…こいつが選んだからには意味があるのか?いや、こいつだし言った通り似合うと思ったからこれにしただけの可能性もある。というか
「はい!ここで椿にQuestion!オニキスの石言葉はなんでしょうか!」
少なくともここでする質問か?なんか妙に暖かい目で店員が見てくるんだが。
「成功、秘密、厄除け、だな」
「んふふー、二つ足りませーん!」
「…なんだ?」
「幸福と願望成就でーす!」
「幸福と願望、成就……」
指に摘まんだイヤリングを見る。願望…願い……
「ぉれの…願い、は………」
掠れた声で呟く。幸福、願望…ああ、だからこの二つを選択肢から外していたのか。
どうせ、叶いやしないもんな。いや、俺の幸福はある。そう!BL観察だ!
……違う、ほんとうは、ほんとうは?
「ん?なんか言ったー?」
「…いや、何も言ってないぞ」
「そう?」
そこで我に返る。もう何回も繰り返した思考だ。表情は崩れていないだろうか。引きつってないだろうか
俺は何もなさげに養父に問う。
「着けていいか?」
「うん!着けてくれると嬉しーな!」
大丈夫、大丈夫。バレてない、まだバレてない。
着けると耳たぶから垂れ下がり、揺れる感触。渡された鏡で確認してみると、細やかにカットされた表面が店内の光を反射してキラキラと光っていた。なんか、この夏休みで宝石がよくプレゼントされるな。なんだ、こいつらがセレブだからか。
「おおー!似合ってるよ!」
「とてもお似合いです」
「ああ、ありがとう」
「ふふーん、気に入ってくれておとーさん嬉しいよ」
今そのお父さんというセリフに店員さんが頬を引きつらせてたぞ。一瞬だったけど。やっぱり、このテンションだとなぁ…
店を出て帰り路を歩く。結構時間が経っていて世界が赤く染まりかけていた。
『―――』
俺ってさ、夕焼けが嫌いなんだよな。さようならをしなきゃいけないから。さみしいから。もう、あえなくなるから。
「今日は楽しかったねぇ!」
「…そうだな」
「あっ!椿がデレたぁ!かっわいー!」
「うざい、タヒね」
「ひどいーしくしく」
なんなのこいつ、まじでウザい。
養父が泣きまねをやめて俺の横顔をじっと見る。
「…なんだ?そんなじっと見て」
「えへへぇ、椿がそのイヤリングを着けてるのが嬉しくてねぇ」
「んだよ、そんくらいで」
「…ひとつ、踏み込むけどさ」
「なんだよ」
「椿って、周りと壁作ってるよね。一定以上の関係に踏み込まない。いや、踏み込んだとしてもまたもとの場所に戻る。そして踏み込ませない。」
「…………」
「だからだよ~椿が着けてるイヤリングはさ、僕と親子だっていう証なんだ!僕と親子として遊んだ日の贈り物!」
「それは……」
「きっと、前なら僕からの贈り物は貰わなかっただろうね」
「いや、貰ってるじゃないか。金を…」
「それって、情報と引き換えにって、ことでしょ?それは貰ったとは言えないよ」
「…………」
養父が少し前に駆け出して振り返る。光が陰を作って養父の顔がよく見えない。でもきっとその表情は――
養父の向こうに手を繋ぐ三人の親子の陰を幻視した。
「だから、偶にでいいから着けてくれないかな」
「…わかった」
「…よーし!それじゃあ車のとこに行こっか!あー寂しいなーもっと椿といたいー!」
「はぁ、ウザい」
「ひっどー!」
俺は仕方ないと笑って養父の隣を歩く。
視界の端で白の布がひるがえった。
「――っ」
振り返っても、白いのはいなかった。
「椿ー!立ち止まってどうしたのー?お腹痛い?」
「何でもねぇよ、さっさと行くぞ」
「あっ、ちょっと待ってー!置いてかないでー!」
夏休みの終わりも近い。
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