Lara

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断章 彼らの独白

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解説というか補足

読まなくても良いです。


一章は王道転校生が編入学して王道学園を引っ掻き回し、そこから主人公の活躍を得て副会長たち離れた生徒会達を連れ戻すまでのお話です。
王道転校生から副会長を引き離すことで学園の騒動の大まかな部分は沈静化するという感じで考えています。まだまだ転校生は動いていきますが、ひとまず落ち着いたといえるべきでしょう。
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流石お坊ちゃまです―――

すごいなぁ―――

貴方様ならきっとこの企業を―――

数々の言葉を幼い頃から送られてきた。天才と、言われてきた。幼い俺はその言葉を鵜吞みにして調子に乗った。その代償に誰を傷つけていたかも知らずに…

「すごいですね、もうこの計算ができるなんて」
「俺様だからな!出来ないことはないっ!」
「そうですね、お坊ちゃまなら何でもできるでしょう。」

今思えば俺様って言っていたのはどうかと思う。だがその頃は自分が世界の中心で自分がこの世界で一番偉いと思っていた。
父はとても厳しい人だったが、それでも良く出来たら褒めてくれていたし母も優しくしてくれて、俺にとってそれがとてもうれしかった。

「すごいなぁ、もうここまでできたんだね。僕なんてあっという間に越されちゃいそうだ。」
「兄さん!そうだろ?俺様は出来る子なんだ!」
「うん、そうだね……」

家族の中でも二つほど年が離れている兄が好きだった。彼は忙しくてあまりかまってられない両親に代わって俺のところによく来てくれていた。
母に似ておっとりした性格で幼い頃の俺はよく懐いていた。兄を見つけるたびに飛びついてそれを兄が俺を撫でまくるという光景がよく見えていたことだろう。だからあそこまで失礼でぶっ飛ばしたくなる子供でも家庭教師や使用人のみんなは暖かい目で見ていた。

だが、そんな日もいつか終わりが来てしまうことを知った。

その日もとあるところで賞を取った。そしてその時も兄さんの所に言って報告しようとしたんだ。その賞は兄さんが前に取っていたものでそれを見た俺はお揃いにしてみたいと思ったものだった。
大喜びで家に帰るといつもとは様子が違っていて慌ただしかった。使用人の一人を捕まえて聞いてみるとどうやら兄が部屋に閉じこもって出てこないようだ。何故出てこないのかは分かっておらず、説得を試みるも一人にしてほしいとだけ言われ、ことごとく返り討ちにされていたらしい。
確かに兄の様子は数日前からおかしかった。どこか憂鬱な顔をしていて聞いても曖昧に笑ってはぐらかされるだけだった。
それを聞いた俺はこの取った賞を見せたら兄も喜んで部屋から出てきてくれるかもしれないと思い、兄さんの部屋に向かった。

コンコン

「兄さん!兄さん!」
「……なんだい?龍か、すまないが一人にしてくれないか?」

部屋の扉をノックして兄さんを呼んでいると、扉の向こうからくもぐった声が聞こえてきた。そのせいなのか声がいつもより暗く感じていて俺は不安に思い、いつもの明るい声を出してもらおうと思った。

「兄さん、見せたいものがあるんだ!俺様を入れてくれないか?」
「…わかった。龍ならいいよ。そこにいるのは龍だけかい?」
「いや、使用人のみんなもいるが……」
「なら、少し離れてもらえるように言ってくれないか?龍だけといたいから…」
「わかった、……兄さん、もういいよ。」
「…そうか、じゃあ入っておくれ」

カチャリと鍵が開く音がした。

その開いた扉の先は深く、とにかく暗かった。カーテンも閉め切り、光が一切入らないようになっていた。部屋はいつもとは違い荒れ果て、物が床に散乱していた。
その部屋の中で兄はこちらから背を向けるようにベットに座っていた。

あまりの変化具合に俺は出てくる言葉もなく、呆然と扉の前で突っ立っていた。

「どうしたんだい?龍、早くこっち来なよ。あ、扉はちゃんと閉めといてね。」

振り返りもせず兄は言った。それだけ待たせてしまったのかと俺は慌てて中に入り、言われたとおりに扉を閉める。これで光はなくなった。
すぐに目が慣れて兄のもとに近づくと兄は振り返ってこちらを向いた。兄の顔は暗くてよく見えなかったが今だけは何処か怖かった。

「兄さん……どうしたんだ?こんな暗くして、閉じこもって…みんな不安そうにしてたぞ?」
「ごめんね…ちょっと一人になりたかったから……」

やっぱり元気がなかった。どこか具合が悪いのではないか、不安になった。
そこで俺は手に持った紙袋の存在を思い出した。これがあれば……
俺は部屋の暗さに対抗するように明るい声で言った。

「兄さん!そういえばな、賞を取ったんだほらこれ!」

俺は紙袋から今朝もらったばかりの賞状を兄の手に押し付けた。暗いからあまりよく見えないだろうけど、と俺は言った。

「これはな、兄さんも前取っていたやつなんだ!お揃いになって―――」
「なんで」
「え?」

俺が興奮のままに兄に伝えようとしていたら兄の異常に気付く。下を向いて、ぶつぶつとつぶやきだした。手に力を込めて俺が渡したばかりの紙がくしゃりと音を立てた。

「兄さん?どうし―――」
「なんでなんでなんで!?どうしてお前ばかり!」
「に、兄さん?」
「どうしてお前は何もかも持っているんだ!?勉強も、運動も、僕が頑張って上り詰めたところをお前は努力も何もしないですぐにこなしていく!この賞だってそうだ!僕はこれだけでもお前に勝とうと取ったやつを!お前は!あっさりと!もぎ取っていく!」

俺には兄さんが何を言っているのかわからなかった。賞を取ったら褒めてくれるとばかり思っていた。だが、

「お前にはわかるか!?何もかもどんなに努力してもお前に劣るこの気持ちが!使用人にお前と僕のできで比べられる毎日が!父さんと母さんの失望の目が!」
「にいさ」
「お前が僕を呼ぶな!!」
「っ……」
「わからないよなぁ、全部全部ぜんぶっ!!!」

そう言って兄は手に置いてあったくしゃくしゃの紙をほおり投げて、ぼさぼさになった髪の隙間から俺を睨んだ。部屋の中は暗いのにその目はギラギラと光っているのはわかり、俺はそれを見た瞬間動けなくなった。

「でもなぁ、たった今何でもできるお前の欠陥がわかったよ」
「……」

兄は俺の襟に手を伸ばす。俺は抵抗もできずに兄に引き寄せられた。
兄は頬を無理矢理吊り上げて俺の目を覗き込んで言った。

「お前は人の感情が理解できないんだ。だってなぁ、こぉーんな惨めな兄のもとにこれを持って来るぐらいだもんなぁ。」

その後の記憶は俺にはない。気づいたら俺は自分のベットに座っていて丸められた紙を惨めに破り捨てていた。

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