キラワレモノノ学園

Lara

文字の大きさ
上 下
18 / 28

九月四日 7

しおりを挟む
ある時下の階が静かになる。生徒達は皆出入り口の方を向いていた。

……ああ、風紀委員か。まさか委員長直々に来るとはな、暇なのか。

まあ他の委員が多忙でここまで手が回っていないから狐桜が表に出てきたのだろう。

一瞬、そのサルビアブルーの瞳と目が合った。

「……っ」

手首に痛みが走り、見下ろすと爪を立てて引っ掻いていた。荒んだ傷口から血が滲んでいた。

そのまま手首を握って隠す。仄暗い感情が生まれるのを知りながら。

忌々しい。

どうして、俺と狐桜は関わろうとするのだろうか。

嫌いだというのなら最低限のもの以外関わろうとしなければいい。そうすれば嫌な気持ちにもならないだろう。しかし、どうしてか関わってしまう。

どうして、どうしてなんだ。どうしてこんな……

もう一度階下を見下ろすと狐桜が転校生と親衛隊らしき生徒を取り調べの為に連れて行こうとして一匹狼擬きと爽やかな見た目のやつに食いかかられていた。

何故そんなに怒ってるのか、ただ取り調べをするだけだというのに。俺にとっては理解できない行動だ。さっさとやって終わらせればいいものの、見当違いな憶測を口に出して離さんとする。

「……っ、ふ」

ああ可笑しい。とても滑稽だ、きっと今の俺の表情は見るに堪えないだろう。

……ああ、そういえば俺の表情筋は仕事をしていなかったんだったな。ここでも違う。

動くことのないその表情はまた何時動き出すのだろうか。

感情が無いのとは違う。ただ、動かず、動かし方も忘れてしまっただけ。

それはどんなに滑稽だろうか。当たり前がない。普通じゃない。

ただ、人より不幸が多かっただけだというのに。

不甲斐ない。

「いつまでこれをやってるんだろうな」
「ん~狐桜サマがキレるまでじゃない?」
「うわぁっ!?」
「わっ!?」

つい漏れ出てしまった声に答えを返したのはいつの間にやら階上にやってきた黄桜だった。それに鶴白と恋心が驚きの声を漏らす。

ちょうどいい、これを利用しよう。

「ほう、ならすぐになるな。あいつは短気だ」
「それはどうかなぁ」
「あ?」
「あれは生徒会長サマにだけだよん」

ぴょんぴょんとスキップしているつもりなのか跳ねてきて俺の肩に腕を乗っけて圧し掛かる。

「重い」
「そんなツレナイ事言わないでよ~で、どう思った?」
「子供か」
「だよねーでも―――」

黄桜が口を耳に近づけてささやく。

―――咲弥もだよね。

ばっと腕を振り払ってそこに狙いを定める。

「っ!」
「うわっ!?ごめんごめん今のは僕が悪かったから首を絞めようとしないで」
「―――」
「っ……」

「次はない」

「わか、った……」

その言葉を聞き、手を放す。黄桜の首には生々しい絞めた跡が付いていた。

俺は、弱い。

その赤くなった首に指を滑らせる。これは、俺がやった。決して忘れてはいけない。忘れることは、できない。

「咲弥、ごめんね」

真綿で締められたかのようだ。

「さて、ようやくあいつもキレたようだな。いつもより滑稽だ」
「……」
「いつまでそうしている。さっさと座れ。どうせお前のことだから飯もまだだろう」
「うん」

頷いて俺の隣に座る。

その距離はいつもよりほんの少しだけ離れていた。


怖かった。

これが、天川の言っていた学園の深い部分の一部なのかと。

それはいつものことなのだろう。気安く言葉を交ぜ合わせている時に起こった。

ただ黄桜が天川の耳元で囁いた

次の瞬間、彼の首は天川に掴まれ絞められようとしていた。

赤く染まる顔、紫に変わろうとする首。何よりも恐ろしかったのは

天川の手首から覗いてしまったその傷。

付けたばかりなのか血がまだ付いていて瘡蓋にすらなっていなかった。

いったい何時付けたのか、どうしてつけたのか。

傷口の血が固まるのは傷が小さいのなら意外と早い。しかしまだ滲んでいるそれは近くでつけられたもの。もしかしたら食事後かもしれない。

何故、それは傷ついたのか。

わからない。

変わらない表情、氷のような、鋭さを持った声音こわね

濁った、美しい瞳。

「っ……」

息を呑む。これほどまでに美しい瞳はあるのかと。
惹きこまれる。その醜い、暗い感情を表した瞳に。

目が離せない。その極上の美しさにこのまま時が停まるような気がして――

――動き出す。

「さて、ようやくあいつもキレたようだな。いつもより滑稽だ」

黄桜の首から手を離した彼の目にはもう何もない。あの美しさの名残は一欠片も見つけられず内心落胆してしまう。と、その時そんな自分に気が付いて思わず笑ってしまった。

相変わらず趣味が悪い。

自分はどうやら悪趣味らしい。思えばBLの好みもそうだった。執着、依存、そんなものが多く出てくるものをよく好んで読んでいた。

もっと見てみたい。その美しさを。

この人なら魅せてくれるのではないだろうか。

だってこんなにも深いものを見せてくれたのだから。

「ああ、わかった」

俺はこれの為にここに来て彼の親衛隊に入ったんだ。これを少しでも近くで見るために。

だからどんな時でも守ろう。彼が強くならないようにするために。
だからどんな時でも見ていよう。その弱さが鈍らないように。

そうして見せてくれればいい。曝け出してくれればいい。貴方にはその憐れな姿が一番似合う。

何だったらもっと近くにいられる存在にでもなって見ようか。前は気が乗らなかったが恋人、なんて、一番良いのではないか。俺は彼のその闇に、美しさに、瞳に恋している。

前から恋心のようなものも抱いていたのかもしれない。その隠れていた闇を無意識に知っていて。だから一目見て彼の親衛隊に入ったのだろう。ここがいいって。

「なってみせる。だから待っててね」

そうしてその弱さを見せて俺に甘えてくれよ。

小さく呟いて決意した。




でも、心のどこかで変わりきれなかった自分が変わってしまった自分を怖い、とどこかで呟いた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

あなたの隣で初めての恋を知る

ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

【BL】こんな恋、したくなかった

のらねことすていぬ
BL
【貴族×貴族。明るい人気者×暗め引っ込み思案。】  人付き合いの苦手なルース(受け)は、貴族学校に居た頃からずっと人気者のギルバート(攻め)に恋をしていた。だけど彼はきらきらと輝く人気者で、この恋心はそっと己の中で葬り去るつもりだった。  ある日、彼が成り上がりの令嬢に恋をしていると聞く。苦しい気持ちを抑えつつ、二人の恋を応援しようとするルースだが……。 ※ご都合主義、ハッピーエンド

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

処理中です...