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九月四日 2
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「少し外に出てくる」
「うん、いってらっしゃ~い」
あのまま籠って嘆願書を読んでいても気が滅入るだけだから一旦外に出て気持ちをリセットすることにした。
辺りを見回すと誰も彼もが俺を見てくる。一体こんな何がいいのか果てしなく疑問に思うがそれを考えていたって終わりは見えない。
しかし、一番は顔だろうな。そう結論付ける。ここは顔面偏差値がものを言う、顔が良ければ偉い、顔が悪ければ底辺。築き上げた力でもなく顔で決まる。ある意味弱肉強食の世界、これほどこの学園に似合う言葉はないのではないだろうか。
理不尽な物事の基準があるのは何処の世界だって同じだ。それはこの学園では顔だっただけで。
むしろここにいる多くは更なる理不尽を恒常的に受けてやってきた者達だ。そんな物差しなど不快に思うものの結局はまだマシな方だとその日々を甘受する。
このことに否定の声を上げる者達はこれ以上の理不尽を知らない者ばかり。のうのうと幸福な日々を当たり前だと思って生きてきた愚者のみ。
調べてみたところ"転校生"もそれに付き従う"爽やかスポーツマン"も"孤独を気取った擬き"も皆優し気な大人達に庇護され恵まれた友人と切磋琢磨し、その当たり前がどれほどの幸福かをも知らずにここに入ってきたばかり。
ああ、表面上はもちろんこの学園だって平和で不幸も何もないだろう。偶に起こる悲しい出来事もあるけれど。
しかしそれは表面でしかない、それ以上はないんだ。何れその被った皮は剥がれ、その内側の何かは日の目を見ることになる。
まだ隠してはいる、そのことにすら彼らは気づかない、お膳立てされた日々が普通だったから。
なんて眩しいのだろうか、これまでの歴代の生徒達も何も知らない愚かに囀る明かり達を目を細めて見てきたことだろう。
半年、まだ半年すら経っていない。しかしその皮も誰かしら剥がれてくる頃合いでもある。仲が深まったのなら誰だってその秘めていた内情をうっかり知らせてしまったり、不幸自慢をしたりするのだ。
さて、それらを知った彼らはそのまま彼らの闇に引きずり込まれるか、それともそんなこと知ったことないと糾弾し続けるか。
しかし、そんな者共もこれまでにも数え切れない程出てきたのにも拘らず、この学園を変えることはできなかった。
それだけではない、小説通りに行けない理由は他にもあるだろう。決定的なものが
だからこそ、この学園の者共……正確には、二年、三年生共は恐れている。これから繰り返されることを。
一年生でも知る人は少ないだろうな。アレは話すことすら憚れるものだという認識らしい。俺はもちろん、あれの被害を受けてしまったから知るべきだろうと教えられて知っている。
「……まだ暑いな」
九月に入ったばかりだから当たり前か、しかしこれから寒くなっていくだろう。
熱気にやられて少し参ったので木陰のベンチに座って休むことにする。遠くに見える校庭で生徒達が元気にサッカーをやっているのが見えるがよくこの暑い中で動き回れるなと感心する。
ひらひらと近くにキタテハが飛んできた。今度のは本物だろう。
ベンチの横にある草にとまり、羽を休めていた。
「「あっ、会長だ」」
名前を呼ばれ、そちらを見ると渡辺兄弟が歩いてきた。
「ん?渡辺か」
「「うん!会長は何してたの?」」
「俺か?俺は少し休憩していたんだ。嘆願書があまりにもアレでな」
「「ああー」」
納得納得、と頷く彼らに聞き返す。
「お前らは?」
「「僕?僕はお散歩だよ!」」
散歩か、まあ俺も同じだな。何の目的もなく歩いていただけだし。
「そうか、仕事は終わったのか?」
「「うーうん、まだ!」」
「はぁ……期限が近いやつは終らせておけ」
「「うん!ねー、僕も隣に座っていい?」」
「いいぞ」
「「ありがと!わーい!」」
満面の笑みを咲かせて俺の両隣に飛び乗る渡辺兄弟。肩の上でバッサリと切った黒髪が跳ねた。動きも、話すトーンも、言葉も、髪の跳ね方でさえ瓜二つ。
それは見ていて清々しく、反対に何処か不気味なものを感じさせる。
「「暑いねー」」
「ああ、まだ九月に入ったばかりだしな」
月が替われども気温があっさりと変わることはない。
渡辺は首をカクン、と傾げて俺に目を向けた。
「「前から不思議に思ってたんだけどなんで会長はこんな暑いのにセーターを着てブレザーを羽織ってるの?」」
ああ、それか。確かにそう思うだろうな。
「エアコンの風が寒いからだ」
「「…あー!そういうこと?確かに冷たいもんね!」」
嘘でもないが全てでもない。そんなことをさらりと言う。
疑問が晴れた渡辺兄弟は頷く。しかし、二人は突然俺の腕に抱き着いた。
「あ?突然どうした」
「「で、ほんとのところどうなの?」」
「本当のところとは?」
「「だってそれだけだったらこんな場所でもこんな厚着しないでしょ?」」
「「せめて、袖を捲るとか、するよね?」」
こいつらの洞察力は鋭い。俺を斜め下からガラス玉のような目を向けて見つめてくる。
「クッ……クククッ、その通りだ」
「「やっぱり!」」
だが残念
「だからなんだ?」
「「……え?」」
もう一度言おう。何度だって言ってやろう。
「だから、なんだ?その通りだが、教えるとでも思っているのか?」
「「えー、教えてくれたっていいじゃん!」」
阿呆
「それだったらわざわざ別の理由を言ったりはしない」
「「うー、確かにそうだけどさ」」
「お前らの無垢は確かに長所だろう、しかしそれはここでは決定的な短所ということを知れ」
「「……どういうこと?」」
「さあな、自分で考えろ『𝓓𝓸𝓵𝓵』」
「「…………」」
さて、十分にリフレッシュできたことだし戻るとするか。金星も嘆願書片手に待っていることだろうしな。
「うん、いってらっしゃ~い」
あのまま籠って嘆願書を読んでいても気が滅入るだけだから一旦外に出て気持ちをリセットすることにした。
辺りを見回すと誰も彼もが俺を見てくる。一体こんな何がいいのか果てしなく疑問に思うがそれを考えていたって終わりは見えない。
しかし、一番は顔だろうな。そう結論付ける。ここは顔面偏差値がものを言う、顔が良ければ偉い、顔が悪ければ底辺。築き上げた力でもなく顔で決まる。ある意味弱肉強食の世界、これほどこの学園に似合う言葉はないのではないだろうか。
理不尽な物事の基準があるのは何処の世界だって同じだ。それはこの学園では顔だっただけで。
むしろここにいる多くは更なる理不尽を恒常的に受けてやってきた者達だ。そんな物差しなど不快に思うものの結局はまだマシな方だとその日々を甘受する。
このことに否定の声を上げる者達はこれ以上の理不尽を知らない者ばかり。のうのうと幸福な日々を当たり前だと思って生きてきた愚者のみ。
調べてみたところ"転校生"もそれに付き従う"爽やかスポーツマン"も"孤独を気取った擬き"も皆優し気な大人達に庇護され恵まれた友人と切磋琢磨し、その当たり前がどれほどの幸福かをも知らずにここに入ってきたばかり。
ああ、表面上はもちろんこの学園だって平和で不幸も何もないだろう。偶に起こる悲しい出来事もあるけれど。
しかしそれは表面でしかない、それ以上はないんだ。何れその被った皮は剥がれ、その内側の何かは日の目を見ることになる。
まだ隠してはいる、そのことにすら彼らは気づかない、お膳立てされた日々が普通だったから。
なんて眩しいのだろうか、これまでの歴代の生徒達も何も知らない愚かに囀る明かり達を目を細めて見てきたことだろう。
半年、まだ半年すら経っていない。しかしその皮も誰かしら剥がれてくる頃合いでもある。仲が深まったのなら誰だってその秘めていた内情をうっかり知らせてしまったり、不幸自慢をしたりするのだ。
さて、それらを知った彼らはそのまま彼らの闇に引きずり込まれるか、それともそんなこと知ったことないと糾弾し続けるか。
しかし、そんな者共もこれまでにも数え切れない程出てきたのにも拘らず、この学園を変えることはできなかった。
それだけではない、小説通りに行けない理由は他にもあるだろう。決定的なものが
だからこそ、この学園の者共……正確には、二年、三年生共は恐れている。これから繰り返されることを。
一年生でも知る人は少ないだろうな。アレは話すことすら憚れるものだという認識らしい。俺はもちろん、あれの被害を受けてしまったから知るべきだろうと教えられて知っている。
「……まだ暑いな」
九月に入ったばかりだから当たり前か、しかしこれから寒くなっていくだろう。
熱気にやられて少し参ったので木陰のベンチに座って休むことにする。遠くに見える校庭で生徒達が元気にサッカーをやっているのが見えるがよくこの暑い中で動き回れるなと感心する。
ひらひらと近くにキタテハが飛んできた。今度のは本物だろう。
ベンチの横にある草にとまり、羽を休めていた。
「「あっ、会長だ」」
名前を呼ばれ、そちらを見ると渡辺兄弟が歩いてきた。
「ん?渡辺か」
「「うん!会長は何してたの?」」
「俺か?俺は少し休憩していたんだ。嘆願書があまりにもアレでな」
「「ああー」」
納得納得、と頷く彼らに聞き返す。
「お前らは?」
「「僕?僕はお散歩だよ!」」
散歩か、まあ俺も同じだな。何の目的もなく歩いていただけだし。
「そうか、仕事は終わったのか?」
「「うーうん、まだ!」」
「はぁ……期限が近いやつは終らせておけ」
「「うん!ねー、僕も隣に座っていい?」」
「いいぞ」
「「ありがと!わーい!」」
満面の笑みを咲かせて俺の両隣に飛び乗る渡辺兄弟。肩の上でバッサリと切った黒髪が跳ねた。動きも、話すトーンも、言葉も、髪の跳ね方でさえ瓜二つ。
それは見ていて清々しく、反対に何処か不気味なものを感じさせる。
「「暑いねー」」
「ああ、まだ九月に入ったばかりだしな」
月が替われども気温があっさりと変わることはない。
渡辺は首をカクン、と傾げて俺に目を向けた。
「「前から不思議に思ってたんだけどなんで会長はこんな暑いのにセーターを着てブレザーを羽織ってるの?」」
ああ、それか。確かにそう思うだろうな。
「エアコンの風が寒いからだ」
「「…あー!そういうこと?確かに冷たいもんね!」」
嘘でもないが全てでもない。そんなことをさらりと言う。
疑問が晴れた渡辺兄弟は頷く。しかし、二人は突然俺の腕に抱き着いた。
「あ?突然どうした」
「「で、ほんとのところどうなの?」」
「本当のところとは?」
「「だってそれだけだったらこんな場所でもこんな厚着しないでしょ?」」
「「せめて、袖を捲るとか、するよね?」」
こいつらの洞察力は鋭い。俺を斜め下からガラス玉のような目を向けて見つめてくる。
「クッ……クククッ、その通りだ」
「「やっぱり!」」
だが残念
「だからなんだ?」
「「……え?」」
もう一度言おう。何度だって言ってやろう。
「だから、なんだ?その通りだが、教えるとでも思っているのか?」
「「えー、教えてくれたっていいじゃん!」」
阿呆
「それだったらわざわざ別の理由を言ったりはしない」
「「うー、確かにそうだけどさ」」
「お前らの無垢は確かに長所だろう、しかしそれはここでは決定的な短所ということを知れ」
「「……どういうこと?」」
「さあな、自分で考えろ『𝓓𝓸𝓵𝓵』」
「「…………」」
さて、十分にリフレッシュできたことだし戻るとするか。金星も嘆願書片手に待っていることだろうしな。
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