11 / 28
九月一日 10
しおりを挟む
夜、俺は椅子に座り刻々と進んでいく秒針の音を聞きながら腕を組んで待っていた。
インターホンの音が聞こえ、目を開ける。
「来たか……」
画面を開き、通話ボタンを押して出る。
『よぅ!』
映っているのは黄桜、にこにこと笑って手を上げる。
「今開ける」
『早く早く』
「急かすな」
まったく、と息を吐きながらフロアの出入り口の開錠を進める。生徒会役員は専用のフロアを持っていて中に入るには専用のキーカードを使用するか中の住人が開けるかのどちらかになる。
専用フロアを開けられるキーカードは生徒会役員か、風紀委員しか配られていないので客人は皆、中の住人にいちいち開けてもらわねばならない。
フロアの出入り口を開錠し、ドアを開けるとちょうど黄桜と目が合った。駆け寄ってくる彼を招き入れ、ドアを閉める。
「珈琲でいいか?」
「うん、というか珈琲しかないでしょここ」
「まあな」
黄桜の珈琲には砂糖を一杯、ミルクを少々。俺のには何も入れずに持っていく。どうせなにもかわらないだろうしな。
「ほら、持ってきたぞ」
「わーい、ありがとう!ん~美味し~」
「……」
それはよかったな。そんな一言が言えなかった。
俺は何でもないかのように珈琲を飲み、テレビのリモコンを黄桜に渡す。大きな、高画質のテレビを置いているが俺がつけることはない。もっぱら来客があった時ぐらいにしか使わない。
何故ここに置いているのかというと、貰ったのだ。始めは机、椅子、寝具といった最低限の物しか置いていなかった。炊飯器とか冷蔵庫とかは元から配備されていたが。
それを見たセフレ達が次々と俺に贈ってきたのだ。お蔭でテレビ、ソファー、テーブル、果てにはクッションまで、部屋が少し豊かになったように感じる。とは言ってもまだ冷たく、とか機械的に感じると言われるがこれ以上は不要だろう。
「ん~何見る?」
「何でもいい。というか何があるのかすらわからん」
「そういえば咲弥はそうだったね、テレビ面白いのにー」
俺からすれば何がいいのかわからないがな。何を見たって何も感じることはない。ただ流れているだけ、ニュースもあるが学園では関係ないし天気予報なんてスマホで確認すれば事足りる。
「そうだ!ホラー映画見ようホラー映画!」
「今やってるのか?」
「うん!テレビ初公開だって!去年投影して流行ったやつだよこれ!」
そうだったのか?俺はそういう娯楽と関わることはなかったからよくわからない。確かに街に隠れて行った時このタイトルを聞いたような気がする。が興味もなかったからよく覚えていない。
「怖い怖い怖い怖いッ!」
「…………」
黄桜は俺に抱き着いてガタガタと震えていた。そんなに怖がるのなら見るのを止めればいいというのに。
「ぎゃー!!?わあっ、いあっ!??」
「………………」
うるせぇ……
抱き着かれているから耳の近くに口がくることになる。だから叫ばれると耳が痛くなる。
「ひゃーーーーーっ!!」
「うるせぇ」
「いでっ!?」
声が裏返ってきた辺りから鼓膜に留まらず頭まで痛くなってきたので頭を叩いて止める。正直甲高い声は好きではないのだ、あれと重なってしまうから。
「ひ、ひどくないっ!?」
「耳元で騒ぐのが悪い。った、く……っ」
「咲弥?大丈夫っ?」
一瞬眩暈がして目元を抑える。爆音で甲高い悲鳴を聞かされ続けたら誰だってこうなると思うが。俺の場合それだけではなさそうだがな。
「はぁ……そんなに怖いんだったら見るのを止めればいいだろう」
「えー、でもなー……ヒイッ!!?」
悲鳴を上げて痛いくらいに腕を掴んでくる。こいつ握力強いからこのぶんだと痣になってんじゃねぇかな。ああ、でも温かい。
とはいえ、
「痛ぇから離せ」
「ひゃぁぁ……って、あ、ごめん!」
だからといってこのまま痛みを感じるのは良しとしていないので腕を振り解く。
一応俺に配慮して声量は下げたみたいだが、もう見るのを止めた方が良いんじゃねぇのかと思う。だが何度提案しても言葉を濁して見続ける。……こいつはマゾなのだろうか、以前からそのケはあったような気がするが……
「あー怖かったぁ……」
「…………」
あの後も忘れた頃に大音量で耳元で叫ばれたり折れそうなほど強く抱き着かれたりした。
「……もう寝ていいか?」
「えっ、えっ、何で!?」
「暇すぎて眠いんだよ……」
何にも感じないやつを三時間もただ眺めているだけだぞ、それに今日の精神状況があれのせいで悪いんだ。正直に言うが今すぐにでも寝れる。
「や、やだよ!?この後いちゃいちゃしてラブラブちゅっちゅするんだ……!」
「あー、そういえばその為にここに来たんだったな」
頭が働かない。しかし、もうそういう気分になれないんだが……
本格的に船を漕ぎ始めた俺に黄桜は頬を膨らませて怒る。
「もー!わかったよ!だったらここじゃなくてベッドで寝るよ!ちゃんと布団を被んないと風邪ひいちゃうし!」
「ああ……」
黄桜に手を引かれ勝手知ったる様子で寝室に行き俺をベッドに押し込んだ。これは世間一般で言う母親みたいな……
「よし、それじゃあ僕は帰るから」
「……」
「わっ、ちょっ!?」
そのまま離れようとする黄桜の腕を掴んで中に引き摺り込み、腕の中に抱き込む。
「咲弥ー?離してくれないかなー?帰れないんだけどー?」
「黙れ大人しくしてろ抱き枕」
「抱き枕っ!?」
うるさい……抱き枕なら静かにしてろ……
「もう、しょうがないなぁ……」
「ん…………」
「本格的に寝てるようだし諦めるか。おやすみ、咲弥」
インターホンの音が聞こえ、目を開ける。
「来たか……」
画面を開き、通話ボタンを押して出る。
『よぅ!』
映っているのは黄桜、にこにこと笑って手を上げる。
「今開ける」
『早く早く』
「急かすな」
まったく、と息を吐きながらフロアの出入り口の開錠を進める。生徒会役員は専用のフロアを持っていて中に入るには専用のキーカードを使用するか中の住人が開けるかのどちらかになる。
専用フロアを開けられるキーカードは生徒会役員か、風紀委員しか配られていないので客人は皆、中の住人にいちいち開けてもらわねばならない。
フロアの出入り口を開錠し、ドアを開けるとちょうど黄桜と目が合った。駆け寄ってくる彼を招き入れ、ドアを閉める。
「珈琲でいいか?」
「うん、というか珈琲しかないでしょここ」
「まあな」
黄桜の珈琲には砂糖を一杯、ミルクを少々。俺のには何も入れずに持っていく。どうせなにもかわらないだろうしな。
「ほら、持ってきたぞ」
「わーい、ありがとう!ん~美味し~」
「……」
それはよかったな。そんな一言が言えなかった。
俺は何でもないかのように珈琲を飲み、テレビのリモコンを黄桜に渡す。大きな、高画質のテレビを置いているが俺がつけることはない。もっぱら来客があった時ぐらいにしか使わない。
何故ここに置いているのかというと、貰ったのだ。始めは机、椅子、寝具といった最低限の物しか置いていなかった。炊飯器とか冷蔵庫とかは元から配備されていたが。
それを見たセフレ達が次々と俺に贈ってきたのだ。お蔭でテレビ、ソファー、テーブル、果てにはクッションまで、部屋が少し豊かになったように感じる。とは言ってもまだ冷たく、とか機械的に感じると言われるがこれ以上は不要だろう。
「ん~何見る?」
「何でもいい。というか何があるのかすらわからん」
「そういえば咲弥はそうだったね、テレビ面白いのにー」
俺からすれば何がいいのかわからないがな。何を見たって何も感じることはない。ただ流れているだけ、ニュースもあるが学園では関係ないし天気予報なんてスマホで確認すれば事足りる。
「そうだ!ホラー映画見ようホラー映画!」
「今やってるのか?」
「うん!テレビ初公開だって!去年投影して流行ったやつだよこれ!」
そうだったのか?俺はそういう娯楽と関わることはなかったからよくわからない。確かに街に隠れて行った時このタイトルを聞いたような気がする。が興味もなかったからよく覚えていない。
「怖い怖い怖い怖いッ!」
「…………」
黄桜は俺に抱き着いてガタガタと震えていた。そんなに怖がるのなら見るのを止めればいいというのに。
「ぎゃー!!?わあっ、いあっ!??」
「………………」
うるせぇ……
抱き着かれているから耳の近くに口がくることになる。だから叫ばれると耳が痛くなる。
「ひゃーーーーーっ!!」
「うるせぇ」
「いでっ!?」
声が裏返ってきた辺りから鼓膜に留まらず頭まで痛くなってきたので頭を叩いて止める。正直甲高い声は好きではないのだ、あれと重なってしまうから。
「ひ、ひどくないっ!?」
「耳元で騒ぐのが悪い。った、く……っ」
「咲弥?大丈夫っ?」
一瞬眩暈がして目元を抑える。爆音で甲高い悲鳴を聞かされ続けたら誰だってこうなると思うが。俺の場合それだけではなさそうだがな。
「はぁ……そんなに怖いんだったら見るのを止めればいいだろう」
「えー、でもなー……ヒイッ!!?」
悲鳴を上げて痛いくらいに腕を掴んでくる。こいつ握力強いからこのぶんだと痣になってんじゃねぇかな。ああ、でも温かい。
とはいえ、
「痛ぇから離せ」
「ひゃぁぁ……って、あ、ごめん!」
だからといってこのまま痛みを感じるのは良しとしていないので腕を振り解く。
一応俺に配慮して声量は下げたみたいだが、もう見るのを止めた方が良いんじゃねぇのかと思う。だが何度提案しても言葉を濁して見続ける。……こいつはマゾなのだろうか、以前からそのケはあったような気がするが……
「あー怖かったぁ……」
「…………」
あの後も忘れた頃に大音量で耳元で叫ばれたり折れそうなほど強く抱き着かれたりした。
「……もう寝ていいか?」
「えっ、えっ、何で!?」
「暇すぎて眠いんだよ……」
何にも感じないやつを三時間もただ眺めているだけだぞ、それに今日の精神状況があれのせいで悪いんだ。正直に言うが今すぐにでも寝れる。
「や、やだよ!?この後いちゃいちゃしてラブラブちゅっちゅするんだ……!」
「あー、そういえばその為にここに来たんだったな」
頭が働かない。しかし、もうそういう気分になれないんだが……
本格的に船を漕ぎ始めた俺に黄桜は頬を膨らませて怒る。
「もー!わかったよ!だったらここじゃなくてベッドで寝るよ!ちゃんと布団を被んないと風邪ひいちゃうし!」
「ああ……」
黄桜に手を引かれ勝手知ったる様子で寝室に行き俺をベッドに押し込んだ。これは世間一般で言う母親みたいな……
「よし、それじゃあ僕は帰るから」
「……」
「わっ、ちょっ!?」
そのまま離れようとする黄桜の腕を掴んで中に引き摺り込み、腕の中に抱き込む。
「咲弥ー?離してくれないかなー?帰れないんだけどー?」
「黙れ大人しくしてろ抱き枕」
「抱き枕っ!?」
うるさい……抱き枕なら静かにしてろ……
「もう、しょうがないなぁ……」
「ん…………」
「本格的に寝てるようだし諦めるか。おやすみ、咲弥」
0
お気に入りに追加
72
あなたにおすすめの小説
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
あなたの隣で初めての恋を知る
ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる