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九月一日 6
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ぱっと顔を上げた金星と目が合う。その暗い瞳の奥には苛立ちが揺蕩っていた。先程の様子を見るにずっとこの押し問答を続けていたのだろう。
渡辺達も俺を見た瞬間安堵の息を吐く。ずっとこの不味い雰囲気の中でいたのだから当然だ。
「おっ、お前は誰だっ!!」
「……は?」
言うことにかいてそれか?しかもお前なんて、無礼にもほどがある。
だがそこで転校生と交流をしたのだろう二人のお供が噛みついてきた。
「おい!リンが聞いているんだから早く言えよ!」
「すみません、ですが貴方とあろう者が自己紹介ができないなんてありませんよね?」
一匹狼と……爽やかスポーツマン。物語ではそう書いてあったが、ここではただの無謀なる馬鹿と愚か者か。ただでさえ転校生が敵を作っているというのに自らも喧嘩を売ってどうする。しかも人気故の生徒会長に就いた俺にだぞ?
「はぁ……相手にするだけ無駄か。おい金星、渡辺、もう目的は達成しただろう。帰るぞ」
「おい待てよ!誰だって聞いてるんだ!!」
「お前……一度にならず二度も!」
「本当に馬鹿ですね、名前すら言えないなんて」
……こいつら生徒会権限で退学にしてやろうか。
「うぜぇな、仕方ねぇから名乗ってやるよ。光栄に思え、平服しろ。
二十七代目生徒会執行部、生徒会長の天川 咲弥だ。
……さて、行くぞお前ら」
「咲弥か!」
「うるせぇ、名前で呼ぶんじゃねぇ」
「いいだろ!友達だからさ!!」
「…………あ?」
友達?何故?
剥がれかけたものを貼り直して問いかける。
「何故友達だと?そのような妄言を言うな。反吐がでる」
「いいじゃねぇか!なんでそんな酷いことを言うんだ!!友達なのに!!」
「テメェ、リンの言うことが聞けねぇのか!」
「貴方……リンが友達と言ったら友達なんですよ。正直言って不快に思いますが」
抑えられねぇ……俺が、友達だと?ふざけるな……
「ふざけるな!!」
目の前のテーブルを叩く。大きな音が鳴り一瞬にして食堂内が静まった。
駄目だ、俺らしくない。俺は生徒会長の天川 咲弥だ。先程名乗ったばかりではないか。
このままでは制御が出来なくなる。ああ、そういえば小説にもこのような友達だと騙る場面があったな。不快すぎて記憶から抹消していたぐらいだ。
だから、ここで傷を深く抉ってくるのに対処もできなかった。
「…………もういい、二度と俺の前に出てくるな」
「……は、っ…あ……お、おれ」
これ以上ここにいたくない。何かを言いだそうとしたそいつと混乱している金星達を置いて食堂から出ていく。扉を開けた時あいつとすれ違ったが、今の俺には気にする余裕も何もない。
「…………今」
「どうしたのです?」
「…………いや、なんでもない」
今は昼休憩とあって道歩く生徒も少なくない。食堂では醜態を晒してしまったが外にまで持ちだす意味はない。表を取り繕い速足で戻る。
一般生徒が来れない場所まで来て安心したのか一気に体が重くなる。しかし、生徒会室の扉もあと少しだ。あの中なら落ち着くことができる。
壁に手を当ててゆっくりと歩き扉の横に設置されているカードスキャナーにスキャンして扉を開ける。
「―――っ!?」
だが、一歩入った瞬間に足から完全に力が抜け、前に倒れてしまう。
「あまちゃん!」
後ろから足音が響き、誰かが俺を支えた。眩暈が酷い、声で誰なのか判定する余裕もない。部屋の端で何か小さい影が見える。更に眩暈が酷くなった、何も見たくない、だから目を閉じる。俺はこんなにも、弱い。
浮遊感を感じ、持ち上げられたことに気づく。何かの上に降ろされ目を開けると運んでくれた人物が映った。
「…………金、星か?」
「あまちゃん大丈夫?ごめんね……」
よくわからない
「何故お前が謝る……」
「だって、僕が言い争いしてたし、だから鎮めるために出てきたんでしょ?本来なら会長が関わることもなかった。あのまま適当にあしらっておけばよかったんだ……」
金星が屈んで俺と目線を合わせる。申し訳なさそうで今にも泣きそうな顔をしていた。
だが、こいつにはそんな顔をされても利点がない。だから……
「自惚れるな」
「……え?」
「俺はただ何をやっているのか興味が湧いただけだ。そこに金星の都合など一片たりとも入っていない。全ては俺の意思、それ以外に何がある」
こいつは自己肯定感が低い。普段おちゃらけてはいるが仕事はきっちりと熟す。しかし、何か盛大なミスをすると、とことんネガティブになる。取り繕ってはいるが、流石に笑顔が固い。いつも胡散臭い笑みを貼り付けている宇治よりも笑えていない。というより、笑みにすらなっていない。
それにな
「俺はただただ不快だっただけだ。お前が言い争っていたのは大方セフレとかそういうものだろう。結構有名だしな、あの二人の愚か者からあいつにチクられて……ってとこか?」
「うん……」
「しかしだ、この学園でセフレの関係なんか持っていない方が少数派だぞ?それに俺も食堂に来る前に約束を取り付けたばかりだしな」
「あっ、はは……そーいえば、あまちゃんもそっちでも僕と同じように有名だったね~」
「そういうことだ」
だから不安に思うなと頭を掻き撫ぜてやる。外に外の常識があるが、ここにはここだけのものがある。それに二ヶ月近く金星を見ていたが、どうにもこいつの求めるものは一時の快楽だけではない気がする。まあ、同類故にだろう、夜のことも
それ以外にも
渡辺達も俺を見た瞬間安堵の息を吐く。ずっとこの不味い雰囲気の中でいたのだから当然だ。
「おっ、お前は誰だっ!!」
「……は?」
言うことにかいてそれか?しかもお前なんて、無礼にもほどがある。
だがそこで転校生と交流をしたのだろう二人のお供が噛みついてきた。
「おい!リンが聞いているんだから早く言えよ!」
「すみません、ですが貴方とあろう者が自己紹介ができないなんてありませんよね?」
一匹狼と……爽やかスポーツマン。物語ではそう書いてあったが、ここではただの無謀なる馬鹿と愚か者か。ただでさえ転校生が敵を作っているというのに自らも喧嘩を売ってどうする。しかも人気故の生徒会長に就いた俺にだぞ?
「はぁ……相手にするだけ無駄か。おい金星、渡辺、もう目的は達成しただろう。帰るぞ」
「おい待てよ!誰だって聞いてるんだ!!」
「お前……一度にならず二度も!」
「本当に馬鹿ですね、名前すら言えないなんて」
……こいつら生徒会権限で退学にしてやろうか。
「うぜぇな、仕方ねぇから名乗ってやるよ。光栄に思え、平服しろ。
二十七代目生徒会執行部、生徒会長の天川 咲弥だ。
……さて、行くぞお前ら」
「咲弥か!」
「うるせぇ、名前で呼ぶんじゃねぇ」
「いいだろ!友達だからさ!!」
「…………あ?」
友達?何故?
剥がれかけたものを貼り直して問いかける。
「何故友達だと?そのような妄言を言うな。反吐がでる」
「いいじゃねぇか!なんでそんな酷いことを言うんだ!!友達なのに!!」
「テメェ、リンの言うことが聞けねぇのか!」
「貴方……リンが友達と言ったら友達なんですよ。正直言って不快に思いますが」
抑えられねぇ……俺が、友達だと?ふざけるな……
「ふざけるな!!」
目の前のテーブルを叩く。大きな音が鳴り一瞬にして食堂内が静まった。
駄目だ、俺らしくない。俺は生徒会長の天川 咲弥だ。先程名乗ったばかりではないか。
このままでは制御が出来なくなる。ああ、そういえば小説にもこのような友達だと騙る場面があったな。不快すぎて記憶から抹消していたぐらいだ。
だから、ここで傷を深く抉ってくるのに対処もできなかった。
「…………もういい、二度と俺の前に出てくるな」
「……は、っ…あ……お、おれ」
これ以上ここにいたくない。何かを言いだそうとしたそいつと混乱している金星達を置いて食堂から出ていく。扉を開けた時あいつとすれ違ったが、今の俺には気にする余裕も何もない。
「…………今」
「どうしたのです?」
「…………いや、なんでもない」
今は昼休憩とあって道歩く生徒も少なくない。食堂では醜態を晒してしまったが外にまで持ちだす意味はない。表を取り繕い速足で戻る。
一般生徒が来れない場所まで来て安心したのか一気に体が重くなる。しかし、生徒会室の扉もあと少しだ。あの中なら落ち着くことができる。
壁に手を当ててゆっくりと歩き扉の横に設置されているカードスキャナーにスキャンして扉を開ける。
「―――っ!?」
だが、一歩入った瞬間に足から完全に力が抜け、前に倒れてしまう。
「あまちゃん!」
後ろから足音が響き、誰かが俺を支えた。眩暈が酷い、声で誰なのか判定する余裕もない。部屋の端で何か小さい影が見える。更に眩暈が酷くなった、何も見たくない、だから目を閉じる。俺はこんなにも、弱い。
浮遊感を感じ、持ち上げられたことに気づく。何かの上に降ろされ目を開けると運んでくれた人物が映った。
「…………金、星か?」
「あまちゃん大丈夫?ごめんね……」
よくわからない
「何故お前が謝る……」
「だって、僕が言い争いしてたし、だから鎮めるために出てきたんでしょ?本来なら会長が関わることもなかった。あのまま適当にあしらっておけばよかったんだ……」
金星が屈んで俺と目線を合わせる。申し訳なさそうで今にも泣きそうな顔をしていた。
だが、こいつにはそんな顔をされても利点がない。だから……
「自惚れるな」
「……え?」
「俺はただ何をやっているのか興味が湧いただけだ。そこに金星の都合など一片たりとも入っていない。全ては俺の意思、それ以外に何がある」
こいつは自己肯定感が低い。普段おちゃらけてはいるが仕事はきっちりと熟す。しかし、何か盛大なミスをすると、とことんネガティブになる。取り繕ってはいるが、流石に笑顔が固い。いつも胡散臭い笑みを貼り付けている宇治よりも笑えていない。というより、笑みにすらなっていない。
それにな
「俺はただただ不快だっただけだ。お前が言い争っていたのは大方セフレとかそういうものだろう。結構有名だしな、あの二人の愚か者からあいつにチクられて……ってとこか?」
「うん……」
「しかしだ、この学園でセフレの関係なんか持っていない方が少数派だぞ?それに俺も食堂に来る前に約束を取り付けたばかりだしな」
「あっ、はは……そーいえば、あまちゃんもそっちでも僕と同じように有名だったね~」
「そういうことだ」
だから不安に思うなと頭を掻き撫ぜてやる。外に外の常識があるが、ここにはここだけのものがある。それに二ヶ月近く金星を見ていたが、どうにもこいつの求めるものは一時の快楽だけではない気がする。まあ、同類故にだろう、夜のことも
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