6 / 28
九月一日 5
しおりを挟む
「さて、こんな扉の前に居続けるのも迷惑ですね、中に入りましょう」
「よーし!それでさ、転校生は何処だぁ~い?」
確かに宇治の言う通りだ。俺達は促されるまま中へ入る。相変わらず多数の視線が集まってくるがもう気になりはしない。
金星が辺りを見回して転校生を探す。よっぽど気になるようだ、俺としてはさっさと飯を食って戻りたいのだが。
宇治は名前を口にするのも嫌なのか溜息をバレないように…とは言っても隣にいた俺には体の動きでわかったが、吐いた後無言で彼方を指す。そこには黒いもじゃもじゃとした髪をした生徒が二人の生徒を伴って飯を食べていた。
「おっ!はっけ~ん!いっくぞ~!」
「「えいえいおー!」」
「はぁ…勝手にしてください」
そうして三人は突撃する。食事中だというのに大きな声で行儀悪く喋る彼に向けて。
「ん…」
シャツの袖が引かれた感触がしたから見てみると椎倉が少しだけ摘まんで引いていた。
「あ?どうした」
「ご、べ」
どうやら椎倉は金星達とは違って転校生に興味はないらしい。その矛先は真っ先に食事に向かっていた。
「ああ、そうだな。宇治、あの馬鹿共は放っておいて俺達は俺達で飯を食うぞ」
「そうですね、一刻も早く思考から消し去ってやりましょう」
食堂の中をそのまま進み奥にある階段を上る。二階には生徒会、風紀委員専用スペースとして貸切られている。普通に食べるには影響が大きい。視線も煩わしい、だからこうして静かに食べられるように配慮されているのだ。
生徒会入りする前までは一階の一般スペースを使用していたが落ち着いて食べられるものではなかった。だから仕事と言う多大な責務が圧し掛かってきたがこういうものを利用できる点においては生徒会に入って良かったと思っている。しかしデメリットも予想外に大きかったが。
さて、それはともかく何を食うか。
この学園の食堂は何でも取り揃えられている。安価な牛丼から三つ星の高級料理まで。
とは言っても俺はそこまで多用しないが。
「ふむ……今日はオニオンスープでいいか」
「……それだけですか?」
「ん?何か問題でも?」
メニューから顔を上げると呆れたような目で見られた。
「前から思っていましたが、食べる量が少なくありませんか?」
「別にいいだろう?」
「はぁ……まあ今は気にしないでおきましょう。こうしているうちにも駿が早く食べたいと忙しないですからね」
今は……ね、そこだけが気になるが。確かに椎倉を見てみると体を左右に揺り動かして忙しない。その目は俺たち二人を見ていて早く頼まないのかと圧をかけてくる。
「そうだな、頼めるか?」
「ええ」
黒塗りのタブレットを手に持って次々と料理を頼んでいく。この学園では給仕を呼んで頼むという面倒な手間を使わない。各テーブルに一つ配備されている専用のタブレットを使って注文をするのだ。
「お待たせいたしました」
俺はオニオンスープ。
宇治は鮑を使った懐石料理。
椎倉はカレーライスの大盛り、担々麺、石焼ビビンバ。
給仕は料理を置いていった途端、目に入らないように下がる。小説では礼を言っていたが俺達は決してしない。格も下がる、そして気配を消して下がっていく彼らにそれを台無しにする行為はどうかと思うからだ。
別に礼をするなと言っているわけではない。礼をするのも大切なことだ。
しかし、俺は、俺達はそれをわかった上で礼を言わない。
他のやつらはどんな理由かは知らんがな。
「それにしても……」
「なんだ?」
「…………」
スプーンで掬って味のしないスープを静かに飲んでいると宇治から呆れた声が聞こえた。
「二人は対照的ですね……」
「……ああ、そういうことか」
確かにこれを見ているとそう思うものだ。
俺はオニオンスープのみ、それに反して椎倉はカレーライス大盛り、担々麺、石焼ビビンバと三品頼んでいる。
……俺にはそんなに食べられるものではない。
が、一般的にも多量と言えるものだろう。
「しかし、宇治のにしてもそうだろう」
幾ら懐石料理で小皿に分かれたものだったとして、その数は計り知れない。
「まぁ、確かにそうですね」
そう言って見下ろす。テーブルの三分の一は宇治のもので占めているのだ、場所を取る小皿が多いとはいえ。
宇治は気づいてはいないが彼もまあまあ食べる。比較対象が思わず身近に来た椎倉に寄ってしまうから普通と勘違いしやすいが決してそんなことはない。
「そんなことはどうでもいい、冷める前に食うぞ」
「そうですね」
「…………」
……椎倉は気にせずずっと食べていたな。既に大盛りのカレーを食べ終え担々麺を啜っている。よくもまあそこまで食えるものだ。ここまで成長したのもよく食うからだろう。
それにしてもあいつらが遅い。あのまま意気投合して食事を共にしているのだろうか。
窓を覗くと一階の様子がよく見えたのだが……どうにも険悪そうな様子だ。金星の目がとても冷たい。渡辺兄弟は困った様子だ。
三人で静かに食べていたが、よく耳を凝らすと下の喧騒が聞こえてきた。
「~~っ、―――!」
「――ん――――!」
空になった更に手に持っていたスプーンを置く。
「……はぁ、行ってくる」
「咲弥も気をつけてくださいね。何をやらかすかわかったものではありません」
「宇治から聞いていた印象からは気をつけるな、と言われる方が無理だ」
案の定要らぬところに手を出して騒ぎを起こしてくれたな。嫌だが、このために今日この食堂にやって来た。やらない、ということはない。
扉を開くと鮮明に声が飛び込んでくる。
「だーかーらぁ、そんなの要らないお節介なの~!僕は可愛い子と遊べてハッピー、可愛い子は望みを叶えれてハッピー、win‐winの関係でしょ?」
「駄目なんだぞ!ふじゅん、なんだぞ!!」
「はいはい、不純ねぇ~そんなの―――」
頭が痛い。やはりそこで突っかかっていたか。不純も何も、ここでは一部を除いて誰だってやっている。だからこうして金星に突っかかって更生させたとしても他にもやるやつはやるだろう。それにここでその討論をするなんて転校生は周りの生徒共に喧嘩を売っているのか?
「何をやっているんだ」
仕方なく声をかける。ゆっくりと階段を降り存在を魅せつけるように。
「あっ、あまちゃん!」
「「助かった……」」
「よーし!それでさ、転校生は何処だぁ~い?」
確かに宇治の言う通りだ。俺達は促されるまま中へ入る。相変わらず多数の視線が集まってくるがもう気になりはしない。
金星が辺りを見回して転校生を探す。よっぽど気になるようだ、俺としてはさっさと飯を食って戻りたいのだが。
宇治は名前を口にするのも嫌なのか溜息をバレないように…とは言っても隣にいた俺には体の動きでわかったが、吐いた後無言で彼方を指す。そこには黒いもじゃもじゃとした髪をした生徒が二人の生徒を伴って飯を食べていた。
「おっ!はっけ~ん!いっくぞ~!」
「「えいえいおー!」」
「はぁ…勝手にしてください」
そうして三人は突撃する。食事中だというのに大きな声で行儀悪く喋る彼に向けて。
「ん…」
シャツの袖が引かれた感触がしたから見てみると椎倉が少しだけ摘まんで引いていた。
「あ?どうした」
「ご、べ」
どうやら椎倉は金星達とは違って転校生に興味はないらしい。その矛先は真っ先に食事に向かっていた。
「ああ、そうだな。宇治、あの馬鹿共は放っておいて俺達は俺達で飯を食うぞ」
「そうですね、一刻も早く思考から消し去ってやりましょう」
食堂の中をそのまま進み奥にある階段を上る。二階には生徒会、風紀委員専用スペースとして貸切られている。普通に食べるには影響が大きい。視線も煩わしい、だからこうして静かに食べられるように配慮されているのだ。
生徒会入りする前までは一階の一般スペースを使用していたが落ち着いて食べられるものではなかった。だから仕事と言う多大な責務が圧し掛かってきたがこういうものを利用できる点においては生徒会に入って良かったと思っている。しかしデメリットも予想外に大きかったが。
さて、それはともかく何を食うか。
この学園の食堂は何でも取り揃えられている。安価な牛丼から三つ星の高級料理まで。
とは言っても俺はそこまで多用しないが。
「ふむ……今日はオニオンスープでいいか」
「……それだけですか?」
「ん?何か問題でも?」
メニューから顔を上げると呆れたような目で見られた。
「前から思っていましたが、食べる量が少なくありませんか?」
「別にいいだろう?」
「はぁ……まあ今は気にしないでおきましょう。こうしているうちにも駿が早く食べたいと忙しないですからね」
今は……ね、そこだけが気になるが。確かに椎倉を見てみると体を左右に揺り動かして忙しない。その目は俺たち二人を見ていて早く頼まないのかと圧をかけてくる。
「そうだな、頼めるか?」
「ええ」
黒塗りのタブレットを手に持って次々と料理を頼んでいく。この学園では給仕を呼んで頼むという面倒な手間を使わない。各テーブルに一つ配備されている専用のタブレットを使って注文をするのだ。
「お待たせいたしました」
俺はオニオンスープ。
宇治は鮑を使った懐石料理。
椎倉はカレーライスの大盛り、担々麺、石焼ビビンバ。
給仕は料理を置いていった途端、目に入らないように下がる。小説では礼を言っていたが俺達は決してしない。格も下がる、そして気配を消して下がっていく彼らにそれを台無しにする行為はどうかと思うからだ。
別に礼をするなと言っているわけではない。礼をするのも大切なことだ。
しかし、俺は、俺達はそれをわかった上で礼を言わない。
他のやつらはどんな理由かは知らんがな。
「それにしても……」
「なんだ?」
「…………」
スプーンで掬って味のしないスープを静かに飲んでいると宇治から呆れた声が聞こえた。
「二人は対照的ですね……」
「……ああ、そういうことか」
確かにこれを見ているとそう思うものだ。
俺はオニオンスープのみ、それに反して椎倉はカレーライス大盛り、担々麺、石焼ビビンバと三品頼んでいる。
……俺にはそんなに食べられるものではない。
が、一般的にも多量と言えるものだろう。
「しかし、宇治のにしてもそうだろう」
幾ら懐石料理で小皿に分かれたものだったとして、その数は計り知れない。
「まぁ、確かにそうですね」
そう言って見下ろす。テーブルの三分の一は宇治のもので占めているのだ、場所を取る小皿が多いとはいえ。
宇治は気づいてはいないが彼もまあまあ食べる。比較対象が思わず身近に来た椎倉に寄ってしまうから普通と勘違いしやすいが決してそんなことはない。
「そんなことはどうでもいい、冷める前に食うぞ」
「そうですね」
「…………」
……椎倉は気にせずずっと食べていたな。既に大盛りのカレーを食べ終え担々麺を啜っている。よくもまあそこまで食えるものだ。ここまで成長したのもよく食うからだろう。
それにしてもあいつらが遅い。あのまま意気投合して食事を共にしているのだろうか。
窓を覗くと一階の様子がよく見えたのだが……どうにも険悪そうな様子だ。金星の目がとても冷たい。渡辺兄弟は困った様子だ。
三人で静かに食べていたが、よく耳を凝らすと下の喧騒が聞こえてきた。
「~~っ、―――!」
「――ん――――!」
空になった更に手に持っていたスプーンを置く。
「……はぁ、行ってくる」
「咲弥も気をつけてくださいね。何をやらかすかわかったものではありません」
「宇治から聞いていた印象からは気をつけるな、と言われる方が無理だ」
案の定要らぬところに手を出して騒ぎを起こしてくれたな。嫌だが、このために今日この食堂にやって来た。やらない、ということはない。
扉を開くと鮮明に声が飛び込んでくる。
「だーかーらぁ、そんなの要らないお節介なの~!僕は可愛い子と遊べてハッピー、可愛い子は望みを叶えれてハッピー、win‐winの関係でしょ?」
「駄目なんだぞ!ふじゅん、なんだぞ!!」
「はいはい、不純ねぇ~そんなの―――」
頭が痛い。やはりそこで突っかかっていたか。不純も何も、ここでは一部を除いて誰だってやっている。だからこうして金星に突っかかって更生させたとしても他にもやるやつはやるだろう。それにここでその討論をするなんて転校生は周りの生徒共に喧嘩を売っているのか?
「何をやっているんだ」
仕方なく声をかける。ゆっくりと階段を降り存在を魅せつけるように。
「あっ、あまちゃん!」
「「助かった……」」
0
お気に入りに追加
72
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
あなたの隣で初めての恋を知る
ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。
美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)
【BL】こんな恋、したくなかった
のらねことすていぬ
BL
【貴族×貴族。明るい人気者×暗め引っ込み思案。】
人付き合いの苦手なルース(受け)は、貴族学校に居た頃からずっと人気者のギルバート(攻め)に恋をしていた。だけど彼はきらきらと輝く人気者で、この恋心はそっと己の中で葬り去るつもりだった。
ある日、彼が成り上がりの令嬢に恋をしていると聞く。苦しい気持ちを抑えつつ、二人の恋を応援しようとするルースだが……。
※ご都合主義、ハッピーエンド
どうせ全部、知ってるくせに。
楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】
親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。
飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。
※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる