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九月一日 3
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流しだされる映像と、音声にこれはアンチだなと確信した。
『遅いですね……』
校門前に立って待っている宇治は左腕に着けている腕時計を見やる。映像の端にある時計台が遠くで転校生が到着する予定だった時間を大幅に超越していた。
日本では五分前行動が最原則とされているが、宇治は十分前行動が当たり前だと前に言っていたのを思い出す。宇治にとってはここまでの遅刻は許せないものだろう、かなり苛ついている様子だ。
すると、門の外を映しているカメラに変化があった。
『おお!すごいなこれ!』
ぐしゃぐしゃの頭、大きな瓶底眼鏡の転校生である奈佐木だ。彼はなんと徒歩でやって来たのだ。
ここが町内だったらまだいいだろう。しかし、ここは腐男子共から王道学園と呼ばれている。王道学園と判定する基準の一つが立地。
周りから孤絶している。
大体の話では、山奥だったりするが、ここもそうだ。
理事会が保有する山の一つに建てられた堅牢な教育施設。そこは町から離れていて、周囲が山で囲まれている陸の孤島。
だが、それでも道が繋がっているので車で来るものだが…この転校生は徒歩で来たのだ。その時点で異常だ。
そして次の異常がこれから映像で流れる。
『これどうすればいいんだ?よし!登るか!!』
そうではない、普通はそこのインターホンを押すだろう。まさか見えてないわけじゃないよな?もしかしてその髪で前が塞がれて見えないのか?その思考回路が俺には理解できない。まさか現実でそれをやる者がいるとは思わなかった。
『よし!頂点だっ!!』
うるせぇ……音量を小さくする。こいつがここに入ってくるのか……荒れなければいいのだが。
門は十メートルほどある大きなものだ。これは上流階級の子息達を預かる上で防犯を意識した者だろうが……別の意味も含まれるだろうことはここに入ってきてしばらく過ごしている者なら自ずと理解できる。
ここには問題児だって集まってくるがこいつも例に漏れずそうなのだろう。昨日見た資料でもその暴れっぷりは並々と書かれていたがそれくらいの問題児はここでも普通にいる。更に手をつけられない者もいるくらいだ。
しかし、この者の厄介なところはそこだけではないだろう。王道展開でもあったが……今同じように映像を見ている黄桜も前に言っていたな。王道転校生は―――
―――イケメンホイホイなのだと。
前の学校でもそうだったらしい。取り巻きを作り、暴れ、結果退学になってここにやって来た。
俺にはそんな手の困る問題児など近づきたくもないし魅力も一欠片も感じないが。
門の前にただ立って待っている宇治は頭上にいる奈佐木に気づいていない。奈佐木も立っている場所から死角になっているのか下に立っている宇治に気づいていないようだ。
『よっ……っと、って、おいそこどけぇぇぇっ!!』
『えっ?』
驚いて顔を上げて避けようとするが間に合わず宇治と奈佐木はぶつかってしまった。これ、宇治は普通に戻ってきていたが、当たる場所が悪いと大怪我だぞ。まったく……宇治が無事でよかった。歩く様子と体重移動もおかしなところはなかったし、うまく衝撃を逸らせたのだろう。
『おい!なんで退かなかったんだよ!』
『痛たた……え、っと……』
退く暇もなかっただろうが阿保なのかこいつ。
『とりあえず、降りてくれませ―――』
宇治は十八番の微笑みを見せる。その笑顔を見た奈佐木は固まり
『嘘の笑顔は良くないぞ!』
『……は?』
宇治の笑みが固まる。彼は何を言われたのかわからなかったようだ。あり得ない状況で、あり得ないことを初対面の人から言われたら誰だってそうなる。
『無理して笑うなよ!ほら、本物の笑顔を見せてくれ!!』
『え、えっと、こう、ですか……?』
とは言ったものの歪な笑みだ、頬が引きつっている。
『ところで、そろそろ降りてくれませんか?』
『おお!そうだな!!ったく、なんであんなところにいたんだよ!!』
お前を待っていたからだよ、というか何様なんだ?
宇治も先程よりきれいに笑っている。……後ろに般若が見えそうな笑みだが。
彼は拳を握って耐え、大人の対応で奈佐木に話しかける。
『申し訳ございません』
『それで済むんだったら警察はいらないんだぞ!!』
『……』
肩がブルブルと震えている。朝にこんなやつの対応をした宇治には彼の好きな甘味でも奢ってやろう。昼が無事に終えることができたらだが……あの様子だとそれも無理そうだな。今度奢ってやろう。
『申し遅れました、私は生徒会執行部所属、副会長の宇治 雅人と申します』
『俺は奈佐木 リンだ!雅人よろしくな!』
『それで―――ッ!?』
『ン~!』
呼び捨てにされたことに一瞬眉を跳ね上げるも表情を戻して話を続けようとする。しかし、続く言葉が出てくることはなかった。
『ッ!』
『ぐあっ!?』
『クッ、信じられません!なんて無礼な人ですか!もう結構です!』
『……』
宇治はその握っていた拳を振りぬいて激昂した様子で言うだけ言って走って戻っていった。残されたのは思い切り殴られて昏倒した奈佐木のみ。彼はしばらくすると目が覚めたのか起き上がっていろいろと喚きたてながら適当に歩き出して画面の外へと消えた。
『遅いですね……』
校門前に立って待っている宇治は左腕に着けている腕時計を見やる。映像の端にある時計台が遠くで転校生が到着する予定だった時間を大幅に超越していた。
日本では五分前行動が最原則とされているが、宇治は十分前行動が当たり前だと前に言っていたのを思い出す。宇治にとってはここまでの遅刻は許せないものだろう、かなり苛ついている様子だ。
すると、門の外を映しているカメラに変化があった。
『おお!すごいなこれ!』
ぐしゃぐしゃの頭、大きな瓶底眼鏡の転校生である奈佐木だ。彼はなんと徒歩でやって来たのだ。
ここが町内だったらまだいいだろう。しかし、ここは腐男子共から王道学園と呼ばれている。王道学園と判定する基準の一つが立地。
周りから孤絶している。
大体の話では、山奥だったりするが、ここもそうだ。
理事会が保有する山の一つに建てられた堅牢な教育施設。そこは町から離れていて、周囲が山で囲まれている陸の孤島。
だが、それでも道が繋がっているので車で来るものだが…この転校生は徒歩で来たのだ。その時点で異常だ。
そして次の異常がこれから映像で流れる。
『これどうすればいいんだ?よし!登るか!!』
そうではない、普通はそこのインターホンを押すだろう。まさか見えてないわけじゃないよな?もしかしてその髪で前が塞がれて見えないのか?その思考回路が俺には理解できない。まさか現実でそれをやる者がいるとは思わなかった。
『よし!頂点だっ!!』
うるせぇ……音量を小さくする。こいつがここに入ってくるのか……荒れなければいいのだが。
門は十メートルほどある大きなものだ。これは上流階級の子息達を預かる上で防犯を意識した者だろうが……別の意味も含まれるだろうことはここに入ってきてしばらく過ごしている者なら自ずと理解できる。
ここには問題児だって集まってくるがこいつも例に漏れずそうなのだろう。昨日見た資料でもその暴れっぷりは並々と書かれていたがそれくらいの問題児はここでも普通にいる。更に手をつけられない者もいるくらいだ。
しかし、この者の厄介なところはそこだけではないだろう。王道展開でもあったが……今同じように映像を見ている黄桜も前に言っていたな。王道転校生は―――
―――イケメンホイホイなのだと。
前の学校でもそうだったらしい。取り巻きを作り、暴れ、結果退学になってここにやって来た。
俺にはそんな手の困る問題児など近づきたくもないし魅力も一欠片も感じないが。
門の前にただ立って待っている宇治は頭上にいる奈佐木に気づいていない。奈佐木も立っている場所から死角になっているのか下に立っている宇治に気づいていないようだ。
『よっ……っと、って、おいそこどけぇぇぇっ!!』
『えっ?』
驚いて顔を上げて避けようとするが間に合わず宇治と奈佐木はぶつかってしまった。これ、宇治は普通に戻ってきていたが、当たる場所が悪いと大怪我だぞ。まったく……宇治が無事でよかった。歩く様子と体重移動もおかしなところはなかったし、うまく衝撃を逸らせたのだろう。
『おい!なんで退かなかったんだよ!』
『痛たた……え、っと……』
退く暇もなかっただろうが阿保なのかこいつ。
『とりあえず、降りてくれませ―――』
宇治は十八番の微笑みを見せる。その笑顔を見た奈佐木は固まり
『嘘の笑顔は良くないぞ!』
『……は?』
宇治の笑みが固まる。彼は何を言われたのかわからなかったようだ。あり得ない状況で、あり得ないことを初対面の人から言われたら誰だってそうなる。
『無理して笑うなよ!ほら、本物の笑顔を見せてくれ!!』
『え、えっと、こう、ですか……?』
とは言ったものの歪な笑みだ、頬が引きつっている。
『ところで、そろそろ降りてくれませんか?』
『おお!そうだな!!ったく、なんであんなところにいたんだよ!!』
お前を待っていたからだよ、というか何様なんだ?
宇治も先程よりきれいに笑っている。……後ろに般若が見えそうな笑みだが。
彼は拳を握って耐え、大人の対応で奈佐木に話しかける。
『申し訳ございません』
『それで済むんだったら警察はいらないんだぞ!!』
『……』
肩がブルブルと震えている。朝にこんなやつの対応をした宇治には彼の好きな甘味でも奢ってやろう。昼が無事に終えることができたらだが……あの様子だとそれも無理そうだな。今度奢ってやろう。
『申し遅れました、私は生徒会執行部所属、副会長の宇治 雅人と申します』
『俺は奈佐木 リンだ!雅人よろしくな!』
『それで―――ッ!?』
『ン~!』
呼び捨てにされたことに一瞬眉を跳ね上げるも表情を戻して話を続けようとする。しかし、続く言葉が出てくることはなかった。
『ッ!』
『ぐあっ!?』
『クッ、信じられません!なんて無礼な人ですか!もう結構です!』
『……』
宇治はその握っていた拳を振りぬいて激昂した様子で言うだけ言って走って戻っていった。残されたのは思い切り殴られて昏倒した奈佐木のみ。彼はしばらくすると目が覚めたのか起き上がっていろいろと喚きたてながら適当に歩き出して画面の外へと消えた。
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