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九月一日
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今日も今日とてパソコンと向かい合い、仕事を捌いていた。
時刻午前七時三十分
宇治は書類の束の横を机にトントンと当てて綺麗に整えると席を立った。
一度は恋に落ちると評判の柔らかい微笑みをこちらに向ける。
「それでは転校生を迎えに行ってきますので失礼します」
「ああ、行ってこい」
「では」
彼はこの後転校生と出会い、恋に落ちるのだろうか。まだ俺にはわからない。物語であるような悩みを彼が抱えているのか、まだ二ヶ月だ、よく知らない。
俺はパソコンのメールアプリを起動して、昨夜送られてきたそれにカーソルを合わせてクリックした。
ーーー
件名:王道たる生徒会長様へ
to:天川
from:貴方の愛しの灰色腐男子君☆
やぁやぁ(*ˊᗜˋ*)/みんな大好き暁君だよ!
さてさて、そんな当たり前のことは横に置いておいて٩( 'o' )۶ホイホイ
明日やってくる転校生だけど、調べてみたら王道転校生だったよー!(☝︎ ՞ټ՞ )☝︎ふぅー!!嬉しいね!
だが、悲報が入りました……アンチだったんだ……アンチなんだよ……アンチなんだよっ˚‧º·(´ฅωฅ`)‧º·˚
ってことで、僕は遠くから君を眺めてるから、当事者頑張ってね✩°。⋆⸜(*˙꒳˙* )⸝
追記
僕は巻き込まないでちょ☆君達だけで頑張って!期待してる!後程、君達の萌えのお話を聴ける日が来るのを楽しみにしてるから!(((o(*゚▽゚*)o)))タノシミ♡
ーーー
「死ね」
「あ、あまちゃ~ん?急にどうしたのぉ?」
「いや、こっちの話だ」
「そ、そぉ?なら、いいけどぉ ……」
やけに顔文字が多い文章をもう一度読みながら金星の問いかけを誤魔化す。
王道たる生徒会長様ってなんだ、俺は俺様じゃねぇぞ。後、誰が俺の愛しのだ、マジでキモイから一人寂しくやってくれねぇか?お前はオープンだからみんなに好かれてはいねぇから。逆に不審に見られてんの分かってるだろうし、心臓に剛毛でも生えてるだろ。
で、何処から転校生が来るって知ったんだ?まだ学園の上層部でしか知らされていない情報なんだが。
ああ、だがこいつならどこかの筋から情報を仕入れることなど朝飯前か。
……でもアンチか。とりあえずどっかしらでこいつを巻き込んでやろう。光栄に思うがいい、王道たる生徒会長様が直々に役割を付けてやるよ。
メールを閉じ、再び書類を読んでいると荒々しく扉を開けて憤怒の形相で宇治が入ってきた。……笑っていないな、そんなに怒ったのか?一体何があったんだ。
「もう!何ですかあの人はっ!」
「どうしたのぉ?そんなに怒ってぇ」
「どうしたも何もないですよ!」
いつもの美しい所作は何処へ行ったのかと言うほど荒く椅子に座り、パソコンを立ち上げる。
金星がおずおずと聞いたが帰ってきた言葉は宇治には珍しい大きな声だった。
「先程やって来た彼ですが、大幅な遅刻をしたのに謝罪の一つもない!門の上から落ちてくる!人の話を遮る!しかも『嘘の笑顔は良くないぞ!』ですよ!そんなもの知りませんよ押し付けないで下さい!誰だって嘘の笑顔をするものでしょう?処世術ですよ!挙句の果てにはそんなくだらないことを言って私に!私に接吻をしてきたのですよ!?ありえない!」
どうやら王道通りに事が進んだらしい。相手が王道とは違ったようだが、まあ確かにそういう反応になるだろう。常識的に考えて遅刻、謝罪無し、人の話を遮る、初対面にも関わらず馴れ馴れしい、接吻、どれも失礼だ。いや、失礼の枠を飛び越えているな。だがまあ、初対面に接吻ぐらいはここの住人ならやりそうなやつはいるが。
しかし、門の上から落ちてくるというものは中々にいないだろう。
「そ、れは凄い子だね~!」
「あんな人、殴り飛ばして置いてきてしまいましたよ!案内人失格だと思いますが、案内するのも悍ましいです!」
「「すごい嫌いっぷりだね!」」
「当たり前です!」
俺も嫌だな、そんな非常識を相手するのは。ここで王道のフラグを叩き折って、こいつらが転校生に興味を持たなければいいのだが……
「ん……」
「あ、ありがとうございます」
「…、の……とお………」
お礼ににこりと笑って言うがほとんどが掠れて聞き取れない。もういっそのこと筆談でいいのではないかと思うが、それじゃ駄目なのだろう。
195cm越えという生徒会一の長身を持つ彼はあまり声を出すことが容易ではない。辛うじて聞き取れるのはあるが、単語にもならないものが多く聞き取るには脳内で補完しなければならない。
だが、それも短時間でできるものではなく、二か月経った今でも少々難しい。
読唇術を習得すればその限りではないが、それも嗜む人はいくら上層階級の家の出が集まるこの学園でも多くはないだろう。
俺も習得はしていなかったが、彼と同期になったことにより習得した。今では普通に何を言っているのか声を聴かなくてもわかる。
聞いたところによると宇治や金星、渡辺兄弟も椎倉の為に頑張っているようだ。それを聞いた彼の頬は照れたのか赤く染まっていた。
「「ねぇねぇ、その子、すっごい気になっちゃった!」」
「確かにねぇ~そこまで失礼な子も珍しいよね~」
「「お昼休みにさ!その子見に行かない?多分食堂を利用してると思うし!」」
あ、こいつら言いやがった。俺は行かなくていいよな……いや、こいつらが何やらかすかわかんねぇし見張らないといけないな…………ものすごく嫌なんだが。
「嫌ですよ!貴方たちだけで見に行ってください!」
「「ええ~副会長も行こうよ~!副会長なら一回会ったし、きっと誰だかわかるでしょ!」」
「嫌です!こればっかりは無理ですからね!」
いくらなんでもあの髪型と瓶底眼鏡という今時奇抜な容姿じゃすぐにわかると思うが。
必死に首を横に振っていたが、駄々をこねる渡辺達により最後は折れた。
「教えるだけですからね?絶対に近くに行きませんから!」
「「やったーぁ!」」
「ハァ…………」
時刻午前七時三十分
宇治は書類の束の横を机にトントンと当てて綺麗に整えると席を立った。
一度は恋に落ちると評判の柔らかい微笑みをこちらに向ける。
「それでは転校生を迎えに行ってきますので失礼します」
「ああ、行ってこい」
「では」
彼はこの後転校生と出会い、恋に落ちるのだろうか。まだ俺にはわからない。物語であるような悩みを彼が抱えているのか、まだ二ヶ月だ、よく知らない。
俺はパソコンのメールアプリを起動して、昨夜送られてきたそれにカーソルを合わせてクリックした。
ーーー
件名:王道たる生徒会長様へ
to:天川
from:貴方の愛しの灰色腐男子君☆
やぁやぁ(*ˊᗜˋ*)/みんな大好き暁君だよ!
さてさて、そんな当たり前のことは横に置いておいて٩( 'o' )۶ホイホイ
明日やってくる転校生だけど、調べてみたら王道転校生だったよー!(☝︎ ՞ټ՞ )☝︎ふぅー!!嬉しいね!
だが、悲報が入りました……アンチだったんだ……アンチなんだよ……アンチなんだよっ˚‧º·(´ฅωฅ`)‧º·˚
ってことで、僕は遠くから君を眺めてるから、当事者頑張ってね✩°。⋆⸜(*˙꒳˙* )⸝
追記
僕は巻き込まないでちょ☆君達だけで頑張って!期待してる!後程、君達の萌えのお話を聴ける日が来るのを楽しみにしてるから!(((o(*゚▽゚*)o)))タノシミ♡
ーーー
「死ね」
「あ、あまちゃ~ん?急にどうしたのぉ?」
「いや、こっちの話だ」
「そ、そぉ?なら、いいけどぉ ……」
やけに顔文字が多い文章をもう一度読みながら金星の問いかけを誤魔化す。
王道たる生徒会長様ってなんだ、俺は俺様じゃねぇぞ。後、誰が俺の愛しのだ、マジでキモイから一人寂しくやってくれねぇか?お前はオープンだからみんなに好かれてはいねぇから。逆に不審に見られてんの分かってるだろうし、心臓に剛毛でも生えてるだろ。
で、何処から転校生が来るって知ったんだ?まだ学園の上層部でしか知らされていない情報なんだが。
ああ、だがこいつならどこかの筋から情報を仕入れることなど朝飯前か。
……でもアンチか。とりあえずどっかしらでこいつを巻き込んでやろう。光栄に思うがいい、王道たる生徒会長様が直々に役割を付けてやるよ。
メールを閉じ、再び書類を読んでいると荒々しく扉を開けて憤怒の形相で宇治が入ってきた。……笑っていないな、そんなに怒ったのか?一体何があったんだ。
「もう!何ですかあの人はっ!」
「どうしたのぉ?そんなに怒ってぇ」
「どうしたも何もないですよ!」
いつもの美しい所作は何処へ行ったのかと言うほど荒く椅子に座り、パソコンを立ち上げる。
金星がおずおずと聞いたが帰ってきた言葉は宇治には珍しい大きな声だった。
「先程やって来た彼ですが、大幅な遅刻をしたのに謝罪の一つもない!門の上から落ちてくる!人の話を遮る!しかも『嘘の笑顔は良くないぞ!』ですよ!そんなもの知りませんよ押し付けないで下さい!誰だって嘘の笑顔をするものでしょう?処世術ですよ!挙句の果てにはそんなくだらないことを言って私に!私に接吻をしてきたのですよ!?ありえない!」
どうやら王道通りに事が進んだらしい。相手が王道とは違ったようだが、まあ確かにそういう反応になるだろう。常識的に考えて遅刻、謝罪無し、人の話を遮る、初対面にも関わらず馴れ馴れしい、接吻、どれも失礼だ。いや、失礼の枠を飛び越えているな。だがまあ、初対面に接吻ぐらいはここの住人ならやりそうなやつはいるが。
しかし、門の上から落ちてくるというものは中々にいないだろう。
「そ、れは凄い子だね~!」
「あんな人、殴り飛ばして置いてきてしまいましたよ!案内人失格だと思いますが、案内するのも悍ましいです!」
「「すごい嫌いっぷりだね!」」
「当たり前です!」
俺も嫌だな、そんな非常識を相手するのは。ここで王道のフラグを叩き折って、こいつらが転校生に興味を持たなければいいのだが……
「ん……」
「あ、ありがとうございます」
「…、の……とお………」
お礼ににこりと笑って言うがほとんどが掠れて聞き取れない。もういっそのこと筆談でいいのではないかと思うが、それじゃ駄目なのだろう。
195cm越えという生徒会一の長身を持つ彼はあまり声を出すことが容易ではない。辛うじて聞き取れるのはあるが、単語にもならないものが多く聞き取るには脳内で補完しなければならない。
だが、それも短時間でできるものではなく、二か月経った今でも少々難しい。
読唇術を習得すればその限りではないが、それも嗜む人はいくら上層階級の家の出が集まるこの学園でも多くはないだろう。
俺も習得はしていなかったが、彼と同期になったことにより習得した。今では普通に何を言っているのか声を聴かなくてもわかる。
聞いたところによると宇治や金星、渡辺兄弟も椎倉の為に頑張っているようだ。それを聞いた彼の頬は照れたのか赤く染まっていた。
「「ねぇねぇ、その子、すっごい気になっちゃった!」」
「確かにねぇ~そこまで失礼な子も珍しいよね~」
「「お昼休みにさ!その子見に行かない?多分食堂を利用してると思うし!」」
あ、こいつら言いやがった。俺は行かなくていいよな……いや、こいつらが何やらかすかわかんねぇし見張らないといけないな…………ものすごく嫌なんだが。
「嫌ですよ!貴方たちだけで見に行ってください!」
「「ええ~副会長も行こうよ~!副会長なら一回会ったし、きっと誰だかわかるでしょ!」」
「嫌です!こればっかりは無理ですからね!」
いくらなんでもあの髪型と瓶底眼鏡という今時奇抜な容姿じゃすぐにわかると思うが。
必死に首を横に振っていたが、駄々をこねる渡辺達により最後は折れた。
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