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第二章

交錯する世界1.「異世界がどうとか関係ありますか?」

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「ケモ耳いっぱいですー!」

    無邪気な少女の言葉がマリの耳に届く。獣人となってからなのかスキルのせいなのかは未だに定かでは無いのだが、遠くの物音や話し声まで聞こえるようになっていた。普段であれば気にならない人々の会話なのだが、違和感があったのでその言葉を拾ってしまった。

    今マリがいるのはビースト。獣人が多く住む街ではあるのだが差別意識が少ないこの世界では各地で獣人を見ることもあるだろう。マリたちは最初とは違った形で街を観光していた。

「何度も見てるだろう。街で。いや、今は俺のでは無いけど。」

    と呆れるような声音で少女に話す男性の言葉。〝俺の〟とはどういう意味なのか疑問に思い、考えを巡らせているとマリは隣にいる人物より声を掛けられる。

「マーリ?    どうした?」

「ああ、いや特には。」

    カツヤが心配そうな顔でマリを見ている。マリは興味本位で耳を傾けて他の事が疎かになっていた為にボケっとしていたのだが、そうは見えなかったようだ。

「お腹が空きましたー。オススメのお店聞いたので行きましょう。」

「あー、そうだな。」

    二人の会話が途切れるが、どうも男の方の返事の歯切れの悪さがあった。その意図に気付いたのか少女は溜息を吐いて諭すような口調で話し出す。

「私にも分かってますけど異世界なんですから好奇の目の一つや二つくらいはありますし抑えてくださいね。」

「分かってるさ。別に誰が相手でも負ける気しねえし。」

「戦闘狂。」

「うるせえな、法に外れなきゃ問題ねえだろうが。」

    そんな話がマリに聞こえてきたと思ったら声の主達は少し混雑していた屋台が立ち並ぶ街道をマリ達とは逆の方向から歩いて来ていた。

「マーリ、彼らの会話盗み聞きでもしてた?」

「してたけど何も能力は使ってない筈だ。どうしてバレたんだ?」

「それは、聞くだけでなく注視して居たからね。」

「それホント?」

「本当。」

    マリは頭を抱える。自分ではそんなつもりでは無かったのだが。カツヤに言われてから気付くとはまだまだだなと再認識しつつ歩いて来る人物を改めて凝視する。

    少女は短い黒髪で青を基調にしたワンピースをまとっている。その少女は隣にいる男性と腕を組んでいる。160センチもいかないような身長と童顔。
    そして、腕を組まれている男性は少女同様黒髪で腰まで長い髪を下ろしている。右目だけ赤く、オッドアイの瞳には恐ろしさを覚える。そして右腕が無い。

    段々と近付いてきてすれ違うかと思いきやマリとカツヤの前に止まる。

「すみません。私たちに何か御用がおありでしょうか?」

「あ、いえ。私は獣人故に耳が人よりも少し良いのですが獣耳が、と言っていたのが気になりまして。」

「おい、ユリナのせいじゃねえか。」

「えー、ノトさんだって物珍しそうに辺りをキョロキョロ見渡していたじゃないですか、田舎者だと思われてましたよ、きっと!」

「あ?  俺だって望んでこんなことしたく無かったから少し気が紛れるように誘ってやったのに。」

「それそっちの都合じゃないですかっ!」

    ぎゃーぎゃーと子供のように痴話喧嘩?を始める彼らに絶句する。マリのその様子にカツヤは助け舟を出すべく咳払いを一つすると彼らは状況に気付いたのか気恥しそうに言い合いをやめた。

「良かったら食事しながらお話しませんか?」

「んー、どうしますか?」

「任せる。」

「それではお邪魔で無ければご一緒させてください。何分この街について詳しく知らないので。」

    そう言って彼らが目指していたこの街の1番のオススメのお店に入り昼食をとることになった。運ばれてくるまでの間に自己紹介を済まし、少女はユリナ、男性はノトとそれぞれ名乗った。凸凹で歳も離れてそうな彼らは夫婦と言う。

「意外って良く言われます。私はこの顔ですから幼く見えてしまうんですよ。それにノトさんの様相は他から見ると随分恐ろしく見えるようですし。」

「..........。」

「あ、素っ気ない感じは何時もですしあまり気になさらないで下さい。」

    ニコニコと笑顔を浮かべマリ達に不安がらせないように配慮するユリナ。幼い様相にしてはしっかりしている。そうマリとカツヤは感嘆する。見た目は高校生位に見えるが。

「なあ、今度は俺からあんたらに聞きたいんだが。」

    そう言ったのは不機嫌からか肘をついて態度を悪そうにしていたノト。ただ視線は此方を探るような思慮を巡らせている様に感じる。オッドアイの瞳が余計にそう感じさせているのかもしれない。

「私たちで答えられる事でしたら。」

「あんたら転生者だろ?」

「「!?」」

    いきなり核心をついた彼の言葉にマリもカツヤも動揺を露わにする。その様子を見て納得したような表情を浮かべるノト。

「やっぱりか。」

「ノトさん力使いましたね?」

    ノトが息をついたのを見てジト目でユリナは彼を見ている。

「力?  何の事ですか?」

「もしかしてですけど異世界がどうとか関係ありますか?」

「異世界!?」

    カツヤはマリの言葉に吃驚し唖然としている。マリはじっと彼らの返答を待つとノトが溜息を吐き、頷く。

「俺はあんたらと同じ転生者。ユリナは転移者。ルーセンユラという世界にいた。元は地球の日本という国だ。」

「元住んでた場所は同じですね。」

「それじゃあ俺たちが転生者と知った力って?」

    カツヤがノトをじっと見て聞くと悩んだ様子でいた彼だったがただ一言。

「黙秘する。」

「あ、そこはあまり聞かないで貰えると有難いです。」

    ノトの素っ気ない言葉にマリ達が怒ると思ったのかユリナがすぐ様取り繕う。

    暫く話していると注文した昼食が届き食べ始める。片腕しか無いノトがどのようにして食べるのかと思いきやスプーンやフォーク等が左手で握られている物以外で必要な道具がふよふよと漂い、スムーズに食事が進むようひとりでに動いている。その様子はいつもの事だったのかユリナは無反応。マリとカツヤはぽかんとする。

「この世界にも科学では説明できない様な力があるだろう?  どのようなものかは詳しくは知らないが魔法や魔術などと称されているだろう。それを日常生活に使用しているに過ぎない。使えるものは使わなくては宝の持ち腐れというものだろう?」

「確かにそうですね。」

「マーリさん。騙されないで下さい。この人面倒くさがってるだけです。本来であれば左腕1本でなんでもこなせますし。」

    真顔で食べ物の方を見ながら喋るユリナにマリはキョトンとする。

「何か今日はやけに突っかかるじゃないか。」

「気の所為ですよ。」

    これはこれで上手くやっているのだろう。喧嘩するほど仲が良いという言葉があるくらいだ。マリとカツヤの関係とは違った微笑ましさがある。

「それでこれからはどのように過ごすおつもりでしたか?」

    マリが聞くとノトは表情を変えず、ユリナは悩んだ様子を見せる。

「何も考えてなかったんですよねー。取り敢えず来れたから来てみたという行き当たりばったりでしたから。」

「それでは案内しましょうか?    ビーストでしたら私は詳しいと思いますし。カツヤはそれでいいか?」

「俺は構わないよ、マーリが決めた事なら。」

「折角お二人でお出かけしていたのに邪魔したみたいで申し訳無いですがお言葉に甘えさせて頂きます。あ、後私たちの方がマーリさんとカツヤさんよりも歳下でしょうから敬語は無しでお願いします。私は癖みたいなものなので難しいので要求されても困ってしまいますが。」

「ああ、俺も堅苦しいの面倒だしテキトーで良い。」

    ユリナが確認の意味でノトを見るとノトもユリナの意見に肯定する。ふふっと笑い合いマリもカツヤも砕く。

「それじゃあ、よろしく頼むよ、ユリナ、ノト。」


    彼女たちは滞在期間も特に決めていなかったようで満足したら帰るという本当に無計画でやってきていたようだった。何せユリナは小さいバッグを持っていたもののノトに関しては手ぶらだった。私と同じ収納系の力を持っているから故なのかもしれない。私と共に旅をしている仲間も紹介し仲が良くなって色んな複雑な事情を腹を割って話すことも度々あった。










    そうして2週間があっという間に過ぎ去った。

「急ですが帰ることにしました。」

    ユリナは突然にそんな事を言った。

「まだ回ってない場所はあるが。」

「ええ、行きたいのは山々なんですがかなりの仕事が溜まってきたみたいで。事前にある程度急務の仕事は片付けて来たんですけど何せ世界の情勢が仕事に直接絡んできてますからあまり放っておくと不味いのです。」

「そうか。あまり引き留めるのも悪いな。」

「ごめんなさい、マーリさん。」

「気にするな。カツヤ含めて私たちは気にしないさ。それにこれきりということもないだろう?」

    ニヤリとした表情を浮かべるマリに沈んだ表情から笑顔になるユリナ。

「勿論です。楽しかったですし、まだまだ回り足りないですから。まだ行ってない他の街も訪れたいですし。その時はまたお願いします。」

    マリとユリナが話しているのを黙って聞いていたカツヤとノト。ふと何かを思い出したのかノトは言葉を発する。

「あんたらが持ってる、首に提げてる指輪は何で付けないんだ?」

「見せたことあったっけか!?」

「無いが。」

「ノトは本当になんでもありだね。付けないんじゃなくてサイズの問題で付けられないんだ。元々魔力が少し上がる力が付いているせいか他の魔法の重ねがけも出来ないから効力だけ得ながらお揃いを持っているという訳だ。」

    カツヤが簡潔に説明するとノトはそれを見せてくれと言った。不思議そうな表情をマリもカツヤも浮かべながらも指輪が見えるようにノトに見せる。ノトは暫く凝視したあと左腕を掲げ指輪を見つめたまま何かをしていた。

「.......付けてみるといい。」

「「?」」

「やればわかる。」

    言われるがまま指輪を首から下ろし指に嵌めるとすんなりと入っていった。

「な、何で!?」

「自動調節機能を付与した。それでどの指にもピッタリと嵌る筈だ。付ける付けないは任せるけどな。」

「ノトさんツンデレ。」

「うるせえな。」

    ユリナがマリに耳打ちしてお世話になった彼なりのお礼だと言う。

「ユリナ、そろそろ行くぞ。」

「はーい。ではまた会いましょう。さん、さん。」

    彼女は怪しい笑みを浮かべて言い終わるとノトと共に目の前から瞬時に消える。その瞬間2人は同時に腰が抜ける。

「マーリ。」

「何だ、カツヤ?」

「この2週間彼らと過ごしてノトが彼女以上に性格悪いと思ったが違ったみたいだ。」

「カツヤ、私もだ。寒気すら感じた。あの娘はノト以上の悪魔だったかもしれないな。」

    乾いた笑みを浮かべ合う2人を仲間が介抱する姿が暫くそこにあったそう。






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