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第一章

閑話5.「11111の日です。10年後はさらに1がもう一個増えますね。」

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 11月11日。それはあるお菓子が店頭から消える日。こちらの世界に来て日付を見て思い返してソワソワしていたマリは似た食材を探し作る事にした。馬鹿らしいと言われたらそれまでだが食べたい衝動を抑える事は無理だったのだ。

「そもそも前の世界で殆ど料理していなかったけど出来るかな。」

 時間が無いという理由で殆ど料理、お菓子作りなんてもっての外。やった事が無いので上手く作れるとは思わない。ましてやあの形を再現するなんて無理だと作る前から諦めつつあるものの、一度燃えてきた闘志を消す事等出来る訳もなくマリは異世界に来て初のお菓子作りに挑戦するのだった。

「まあ、見てくれと味が良ければ他は些末な事だ。」

 何てことをぼやくマリに返ってくる言葉はない。今日はツクリアもヒョウも、そしてカツヤさえもこの場には居なかった。居なかったというよりは「用があるから。」と一人離れて密かに始めた事だったのだ。もしかしたらカツヤにはばれているかもしれないが、マリが一人でふらっと出掛ける事は、時たまある為そこまで気にするメンバーはいなかったりする。今回はちゃんと声を掛けてから出て来てる事も有るので心配されていないと思っている。

 そして、人生、獣人生?とでもいうのだろうか。兎も角マリはお菓子作りを開始した。



「ああ、そういや今日あれの日だ。」

「カツヤ様? 今日は何かあるのですか? 前にタナバタなる物は聞いていたのですが今日もそのニホンという国で何か催しがあるのでしょうか?」

「うーん、お祭りではないけどあるお菓子をみんなで食べるっていうだけ、かな。」

「それは普段の食事とは違うのでしょうか。」

「いや、俺も詳しくは知らないんだよな。何せそんな世間事関われる程暇していた訳じゃ無かったし。」

 バツが悪そうに頭を掻くカツヤにツクリアはそれ以上その日について詳しくを聞こうとしなかったが一つ気になった事が有るのか問う。

「どういったお菓子なのですか?」

「それは、」

 カツヤは絵に書きながら形状や味についてこの世界の食材の名前を出しながら説明していくとツクリアは何かに引っ掛かる様で疑問符を浮かべていた。

「何故でしょうか。使う食材に関して思う所があるのですが、それを詳しく思い出せません。」

「この中の一部は使った事がある食材とかじゃないか。」

「いえ、どれも聞いたことが有ります。.........そう、マーリ様より売ってる場所を聞かれた気が。」

「........おいおい、マーリが今何してるか分かったぞ。用ってこのことかよ。」

「......ああ、私も分かってしまったかもしれません。場所は見当つきませんが。何処でやっているのでしょうか。」

「それに付いては俺が心当たりある。」

 そう言って立ち上がったカツヤに追随する様にして立ち上がったツクリアはスライムのまま眠っていたヒョウを抱きかかえながらマリがいるであろう場所へ向かって歩いて行く。




「うーん。やっぱり一回で上手くいく訳無いよな。」

 マリは唸って何度も試行錯誤を繰り返していた。見てくれと味さえ良ければいいと始めたのにも関わらず無意識に完璧を目指しているマリは周囲にある失敗作に目を向ける。

「仕方ない。少し裏技を使うか。」

 マリは何やらゴソゴソと秘策を用いて再現を目指していく。





「ビンゴ。やっぱりここだったな。」

「カツヤ様、何故ここだと分かったのでしょう。」

「前に此処に来た時、興味無い筈である調理場の中を歩きながらがん見していたのを見ていたから。何で見てるのか聞いたら何でもないって言われたけどこのためだったのかもな。」

「何やらいい匂いがする気がしますけど。」

 ツクリアが鼻を鳴らし匂いを嗅ぐとカツヤにとっては馴染みある匂いだった。

「チョコレートか? これ。カカオなんてないのに再現度高過ぎだろ。」

「マーリ様に声を掛けに行きましょう。」

「いや、ここからバレない様に見ていた方が良いと思う。多分マリは知られるの嫌だと思うだろうし。」

 ツクリアが中へ入っていこうとするのを止めたカツヤに最初は少しムッとしたものの続く言葉に理解を示し大人しく従った。





 そのころマリは持てるスキルを行使し再現していった。チート能力すら持ち合わせているマリにとって温めるも冷やすも自由自在。他の色々な工程も魔法の力で進めていくその姿は他の人からしたら目を剥くレベルだろう。幸い近くに人がいないのを確認しているので出し惜しみせず料理する姿は他の人から見ると力の無駄遣いとも言いかねないだろう。

 そんなスキルを出し惜しみせず使っているマリは真剣そのもの。料理でまさかそんな真剣な表情を見せると思っていなかったカツヤとツクリアは気が済んで戻って来るであろうマリを宿で大人しく待っている事にした。

 なのでマリがまさか切る工程に自分の大きな鎌を使っている事等知る由も無かった。その辺はやはり料理をしなかった代償というか常識が少しずれているマリらしいと言えばマリらしいそんな風景だった。実は町の人が見て何人か卒倒してちょっとした騒ぎになったのだが丁度記憶が抜け落ちて自分が何故倒れたのか分かっていない者ばかりだったので大きな騒ぎにならなかったのだが。

 後に、神様が溜息を吐いて説教していたらしい。




「完成した!! 我ながら完璧な出来だ。って完璧目指すつもりじゃなかったのに。いつの間にか。」

 マリが自分でも熱中してやっていた事に気付き急いで宿に戻るとツクリアとカツヤがご飯を食べていた所だった。マリも自分もと思い座って食べてから先程作ったお菓子を取り出す。

「じゃーん。再現度高いだろう?」

「お、これマーリが作ったのか?」

「そうだ。お菓子作り初挑戦の私にしては中々の出来だと思っているぞ。」

「頂いてもよろしいのでしょうか。」

「勿論皆に食べてもらう為に作ったのだから。」

 そう言って口にしたそれはツクリアにとって新食感だったらしく「美味しいです。」と言ってサクサク感覚を楽しんでいる。カツヤはカツヤであまりの高い再現率に言葉を失っていた。カツヤの表情から成功を確信したマリはドヤ顔を浮かべていたのであった。

「ところで、」

「なんだ、カツヤ?」

「『調理』スキル、獲得できたか?」

「.........確認する。」

    これだけ精巧な作り、且つ味も良いものが出来たのだから今まで『調理』スキルを持っていなかったマリだが途中で獲得して上手く作れた説をカツヤは言いたかったのだ。けれど返ってきた言葉はマリを落ち込ませる結果になってしまった。

「..........無い。」

    誰もそのマリに声を掛けることが叶わず静かにしくしくと泣き始めたマリを宥めてその日は終わったのだった。






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