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第一章
22.「いつの間に。」
しおりを挟む初日だけでなく街までの向かう数日間、商隊のリーダーが言う様に何事も無く進んでいた。安全な旅、商人にとっては喜ばしい事、が、血の気が多い冒険者たちにとっては飽きてきたようで一部の冒険者グループは戦闘訓練という名目でバカ騒ぎの戦闘をしていた。勿論のことだが、真剣を交えているし、魔法もばかすか飛び交っている。
「まあ、気持ちは分からなくも無いけど。」
「.........。」
「やらないから。」
マリは独り言の様に呟きながら戦闘の様子をぼけっと眺めているとツクリアからの視線が刺さり惜しみそうに参加を否定する。が、周囲が大型新人の呟きに反応しない訳がない。否、普段の様相であるならば冒険者の彼らも安直な行動に出なかっただろう。
何故なら彼らは安全な旅と分かり始めてから酒を体に入れていく量を増やしていったのだから。
「よー! マーリさんも座ってないで参加しろよ。」
「んだよ! 気になってるんだろ?」
「監視要員がいるからダメだな。それに加減しなきゃ皆様たちを殺してしまうかもしれないしな。」
「おー、ルーキーが大きな口叩くなあ?」
マリは事実を述べたのだが酒に酔っている彼らはそれを煽っていると解釈し強制的に参加させようと動き始める。
「マーリ様。」
「成り行きだろ。」
ツクリアが文句を言いたげな表情をしていたのでマリはすかさず自分は悪くないと主張する。ツクリアはじっと無表情で見ていたがマリが反省してそうでしてないちょっとにやついている笑顔を浮かべていたので諦めて言葉を発する。その際溜息をしっかりと忘れずに。
「はぁ。まあ、マーリ様の鬱憤やら気持ちやらが分からなくも無いですし私がいう事でも無かったですね。」
「ツクリア、最初の純粋さは何処行ったんだ。私は悲しいよ。」
「リジン様より色々と教えて頂きました。あの方からもマーリ様は目の離せない危なかっしい子供の様だとおっしゃってました。」
「えー、嘘だろ。」
「残念ながら本当です。」
絡んできた冒険者をテキトウにあしらい薙ぎ払いながらツクリアとの会話を続けるマリ。誰一人歯牙に掛けずツクリアとの会話を一段落した頃には戦闘していた冒険者は全て伸びていた。
「いつの間に。」
「マーリ様がやられたんですよ。」
「そっかー。ところでツクリアずっとその恰好だけど気に入ったのか?」
「そうですね。」
何とも釈然としない答えにマリは疑問符を浮かべる。が、次には運動が足りなかったのかストレッチで体を動かし始めたマリをシンプルなデザインのメイド服を着ていたツクリアはじっと見ていた。
「マーリ様が似合っているとおっしゃって下さったから暫くは此のままです。」
「んー? 何か言ったかー?」
「いいえ、何も言ってません。」
「そうか。ちょっと偵察行ってくるわー。」
「はい、お気をつけて。」
「おー。」
安全な道のりとは言え一応数時間に一度は周囲の状況を偵察に出る事になっている。今夜はマリと幾人かの冒険者が担当だったので時間帯をずらして偵察に行っていた。案の定と言えばそうなのだが魔物の気配は一切なく安全だという報告が聞こえる。
「安全、ね。」
マリは他よりも背丈が高い木に登りその木から周りを見やる。
確かに安全だ。目だけ使えば。が、マリは少し目では見えない何かを刺激する様にして魔法を弱めに打つ。すると、彼らは自分たちの隠蔽に余程の自信があったのか気付かれた事に動揺してか揺らぎが生じる。感嘆するレベルで巧妙に魔物が潜んでいる事にマリは気付く。
「ちょいと、厄介か。偵察もう少し早く出れてれば........今更行っても無駄だな。」
木から地面まで一気に降り立ち今日の野宿場所へ向かって歩く。
察知できなかった冒険者たちに言っても今夜の様子じゃ笑ってあしらわれる未来が読めたマリは幾度か顔を出して様々な冒険者や受付から聞いた話を思い出す。
冒険者の危機管理能力の高さ。どんな場面でも生き残るために最善の策を尽くす。それが高ランクであればあるほど状況判断が早く被害を最小限に抑えた行動が出来る。と。
「あくまで、最小限であってゼロでは無いんだよなあ。どうしたもんか。」
「どうされました、マーリ様。」
「ツクリア、ちょいちょい。」
考えが口に出ていたマリは取り敢えずツクリアには状況を説明しようと近くに呼び、耳打ちする。
「明日辺り大量の魔物と接敵する。その前に数を減らしたいから戦闘準備してくれ。勿論だが他の奴に気取られない様に。」
その言葉にツクリアは黙って真剣な表情で頷き返した。
「ああ? あんたら何処行くんだ?」
「快適に寝る為に少し散歩に。この辺りは安全でしょうからご心配なく。」
「そうだな! 一応気を付けるんだぞー。」
手を上げる事で答えるマリ。ツクリアとアイコンタクトを取り気配が多く有った場所へ向かってゆっくりと歩いて行く。戦闘に向けてマリは大きな鎌を、ツクリアは杖を準備をしながら。
「マーリ様、準備整いました。」
”......ナニ.....スル......?”
「楽しい楽しい、」
マリは自分の肩に移動していたいつもよりサイズが小さいヒョウに笑い掛けながら質問に答える。
「パーティーだよ。」
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