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第一章

8.「これは、予想外だった。」

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 壮大なレベルアップの音に悩まされ、簡単に『水魔法』を習得できたことで拍子抜けしてしまったマリは、少し休憩しようと考えると少し遠くからガサッという物音がして顔を向ける。その物音は音を立て続けながらマリの方へ向かっている。

「......魔物か? 咄嗟に反応して習得したばかりの『水魔法』を使えるかは分からないが逃げる事を意識して.......。」

 と、マリが呟きながら身構えると遂にその姿を現す。

「っ! 何で此処にいる!?」

 マリがそう言ってしまうのも仕方が無い事かもしれない。姿を見せたのは顔見知りの二人、リンとジンだった。

「「ご、ごめんなさい。」」

 そう言うとリンとジンの二人は頭を下げる。マリは先程の水魔法を見られたのではないかという懸念が沸きあがり追及される前にその場を逃げる様にして走っていった。マリの後ろから二人が何やら言っていたがマリの耳に届く事は無かった。



「つい、逃げてしまった。」

 そうぼやくマリは今まだ森の中にいた。一応”Ⅰ”の範囲に入っている辺り計画的に逃げたのではないかと思ってしまう。実際は余裕が無く”Ⅱ”に入りそうになる直前で引き返したというのが事実だった。

「.........。」

 マリは、その場にしゃがみ込み頭を抱えて呻き声を上げ始める。事後処理をどうすべきか、その事で頭が一杯で周りが見えておらず策を巡らせることに精一杯になる。

 再びガサガサと物音を立てながらマリに近づいてくる何かに直前に気付く事になり、「まさか、あの二人が追いついたのではないか」と思い、策が纏まってきていた事もあり気楽に構える。普通に考えて魔物が出る広い森で再び知り合いに会える確率は低い筈で。

「! 魔物っ!!!」

 立ち上がってテキトーに走り出し、逃げる。そうしてマリは思わず声を荒げる。

「散々だーーーーーー!!!!」






 結局何の成果も無いまま(依頼となり得るものを得られなかったという意味で。)、昨日採集していた薬草を出して報酬金を受け取ったマリは宿に向かおうと歩き出した所でピタッと足を止めた。

「顔合わせる....。」

 逃げた先々で魔物に何度も見つかり、走り回っていたせいで森の中でリンとジンの二人に会った事をすっかり忘れていたマリは、再びどうすればいいか策を考えなければいけない状態に陥り街の中にも限らず思わずしゃがみ込んでしまう。そうしてブツブツと何かを呟きはじめるという周りから見たら奇行に街の人が肩を叩いて話し掛けようとする。その行為で体をビクッとさせ全力ダッシュでマリはその場を後にする。残された街の人達はポカーンとしてマリが走り去ったのを見ていた。

「まだ、街に何があるか詳しくないせいで此処に着いてしまった。」

 『狐の憩い場』とあるその場所はマリが会いたくない二人がいる場所。安くしてくれるという理由から今後この街ではこの宿を使おうとは思っていたが今日は都合が悪い。が、宿の前をうろうろとするのも怪しいので最終的には二人に会わない事を祈って入るという策でも何でもない考えで溜息を吐きながらマリは入っていく。






 そして、時は戻る。頭を下げている二人は次に顔を上げると恐怖でも畏怖でもなく、尊敬の眼差し、興味を惹かれたように目をキラキラと輝かせマリを見ていた。

「「お願いします。」」

「いや、何を。」

「強くなりたいんです。」

「それは、私でなくても良い筈だ。確かギルドには訓練を付けてくれるシステムも有った筈だ。」

 夕方、ギルドで薬草を納品し報酬金を受け取った後、朝よりも混んでいない依頼の掲示板を見た時に武器ごとの訓練をしてくれるというのが有ったのを見かけたマリは早速その情報を伝えるものの二人は困った様な表情を浮かべ顔を横に振る。マリはその意味が分からず疑問符を浮かべていると奥からリジンが出てきてリンとジンの二人の代わりに説明する。

「すまないね、急に変な事を頼んじまって。この子たちが決めた事だから私はこの子たちの考えを尊重して黙って見ていたんだけどね。マーリさんが言っていたギルドの訓練はお金が掛かるんだよ。一人、銀貨7枚。そんな大金出せない事をこの子たちは知っているからね。私が言っても遠慮して参加を諦めてくれてるんだ。他の冒険者に頼んでも初心者ってだけで蔑まれちまうのさ。そんな訳で初心者とか気にせず助けてくれたマーリさんには悪いし、何から何までお願いするようだけどリンもジンも懐いてる人は初めてなんだ。だから、という事ではないけどお願いできないかい? 私で出来る事ならマーリさんの便宜を宿では図るし、ギルドの訓練代程では無いけど出せるお金は出すし、何なら宿代をタダにしたっていい。どうかお願いだよ。」

「「お願いします。」」

 そうやってマリの前には頭を下げた三人の姿が映る。マリは溜息一つ吐きながら答える。

「あの光景を誰にも話していないな?」

「「は、はい。女将さんには話しましたが他の人には話してません。」」

「はっきり言うが私も手探りで色々と試行錯誤中だ。だからはっきりと何が正しくて何が悪いか教える事は出来ない。それに田舎者だったので、色々と常識に疎い所や勝手が分からない事も多い。二人の方が苦労するかもしれない。」

「「勿論、覚悟の上です!!」」

「まあ、世話になってるのはこっちだしリンとジンがそれで良いなら良い。そこまで言われて断るほど人でなしでは無いしな。文句は言うなよ?」

「「はい、よろしくお願いします!」」

「私からもよろしく頼むよ、マーリさん。」

 異世界生活、数日にして二人の弟子が出来てしまったことにマリは宿の借りている一室に戻るとひとりでにぼやくのだった。

「これは、予想外だったな。まあ、楽しく出来ればいいか。」

 そう言った後、眠気に襲われうとうとしていると「そういえば」と半分夢の世界に入っている状態でマリは一番の目標を思い出す。

「自由に出来るか.....な.......。」




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