上 下
108 / 141
三章 降臨

月下香見参

しおりを挟む
「———それにしてもなんてあり様だ。森が消滅していないかあれ?」

俺は転移でデリカートの魔力を目当てに来てみたのだが、来た瞬間にあの凄まじいほどの濃密された魔力が目の前に差し掛かってきたので咄嗟に魔力を解放させてしまった

まあ、解放しなければこの国もそして‥‥後ろにいる者達も絶命していただろう。それだけは避けなければならない事だ‥‥‥

———俺は周辺を見渡しながら後ろに振り返った。そこには膝を地につき肩を下ろしながら何が起こったのか分かからず動揺する王達。その側には死を覚悟したにも関わらず生きていることが不思議に思っている護衛の軍人達となんとも面白い光景が広がっている。魂が抜き取られた様な表情をし、この現実に思考が追いついていない様だ

神の如し光が消え数秒程経過した頃、ようやく意識が現実に戻ったのか王や護衛達はハッとした様に目の前に佇む俺一点に視線が集まり出していく

その視線達の中から徐に口を開いたのは数年振りにこうして会う獣王ストレニアの声だった‥‥‥

「———わっ妾は光に呑まれ死ぬはずだった‥‥‥訳が分からぬ。それにその黒き仮面と黒き衣の貴様は忘れもしない‥‥‥ネロ。貴様っ何をした‥‥!?」

「何をした?見ればわかるだろう。それよりもお前達の命を救ったことに感謝して欲しいな」

「なっ———!?」


この獣王めっ!感謝が足りない様だな。頭を抱えて一人でぶつぶつと喋っているかと思えば俺を見るなり獣の怖い顔を向けてきやがって。まあ、今は多めに見てやろう

‥‥‥おっと。後ろにいるのはリコリス王女じゃないか?久しぶりに会ったがより美人になったな。俺と戦ったあの時の体験は生きているようだ。女王と同じく強い目をこちらに向けている。それよりも獣王が“ネロ”という言葉を言った途端周りの空気がやけに重くなったな

どうやら俺の噂は他の者達の耳にしっかりと届いているようだ


「「———魔王様‥‥ご無事ですか!?」」

「ああ、問題ない魔将達よ。それよりも我の国は無事か‥‥‥?」

そう言いながら魔王ルシフェルは魔王城の屋上から自国を見下ろした。城壁は魔獣達によって半壊している
しかし、それ以外の国内は無傷であり国民達も次々に意識を取り戻していった。この予想外の出来事に戸惑いはしたものの無傷の国民と国を目に焼き付けると魔王は安堵する

そして再び正面に視線を戻しネロという人物を捉えるのだった

「———奴がネロという人物か‥‥味方なのか、それとも敵なのか?しかし国を、我らを救った事には変わらぬか‥‥‥それに奴から溢れ出る魔力は‥‥‥底が見えんっ」


‥‥‥なるほど。この露出狂じみている女性が魔王か。黒い翼と尻尾を生やし、スタイルと胸の大きさはエルディートとはれる程だな。こちらの魔王は黒髪か‥‥清楚の様な髪型をしているがその衣装で疑いの余地しか無くなっているぞっ

そして対になる純白の翼を生やしているのがどうやら天族。初めて見るが神々しさを感じる。今この場には3人純白の翼を生やしている者がいるが‥‥なるほどな王はあいつか‥‥‥


「———ミカエル様。我々は一体どうなってっ」

「‥‥‥私たちは助けられたのです。天に召される所をっ不本意ですが感謝しなくてはなりません。あの者がネロということはここ数年の事件は確定しましたっ」

「———王ミカエル様の言う通りですわね。パエーゼからの報告と一致していますわ。なんて禍々しく、全身が高揚する魔力なのでしょう‥‥‥!」

「ビっビアンカ様私の後ろにっ!このパエーゼ・プレチーゾがお守り致します。エミリア、ラツィオ、パーニア!陣形を立てなおす!」

「「「———はっ!」」」


‥‥‥どうやら俺は故郷の人族からは危険視されているようだな。まあ、無理もない一番最初に被害を出したのは紛れもない俺であり、人族国の領土だからな。
しかしこうも身構えられると同じ種族として俺の心が悲しくなってしまう‥‥

もう俺、追放認定されてそうだな‥‥‥


まあ、一方のエルフ族は随分と平静を保っているな。あまり驚かない種族なのだろう?いや、デリカートの性格がおかしいのかもしれない。本来のエルフ族は冷静沈着なのだろうな


「———そうか、奴が獣王の言っていたネロか。先程の光を掻き消したのも奴の魔法か‥‥?おいファルコ‥‥お前はこんな奴と対峙したのか?」

「あ、ああそうだ。ディアナ嬢っ間違いねえあいつだっ!あの時よりも異質差がましているがな!とんだ化け物が現れてくれたぜっ!」


‥‥‥例外も存在したな。このファルコとは以前に戦った事がある。狂うほどの戦闘狂の中の戦闘狂であり、デリカートを暗殺しようとした人物でもある。そしてファルコの口から出た名前‥‥ディアナと呼ばれた女性。彼女がどうやら選ばれし者セレツィオナートの内1人だと踏んだ。

またディアナやファルコ、もう二人のエルフのすぐ側に浮遊しているのは‥‥‥

精霊か? 

どこまで上位精霊かは計り知れないが国のトップが従える精霊ならば予想はできる。そしてこの場で一番輝かしい白髪を靡かせるこの人物が———


「———お初に御目に掛かりますネロ。私はエルフ族が王レ・アルベロ・デル・モンド・ララノアと申します。そして貴方に一つお伺いしたい‥‥‥」

「王から話しかけてくるとは、話せる範囲ならばお答えしよう」

「ありがとう。では、単刀直入に聞きます‥‥‥精霊女帝ヴァルネラ様を召喚なされたのは貴方ですか?」


‥‥‥なるほど。エルフ王ララノアなかなかに感が良い。その紫色の瞳で俺の心を覗こうとしてくる。エルフ軍であるディアナ、ファルコも共に睨みを効かせてくる

そして王ララノアの問いに場の空気が一層静まり返った。どうやらの俺の答えを待っているのだろう。全員の視線が俺に注がれるがこうも居心地が悪いとはな‥‥しかし、その答えは少し待ってもらおうか

「———なぜお前達が俺だと疑うのかは大体予想できる。その前に‥‥‥‥もう出てきていいぞ」

俺が意味不明に呼ぶと王や護衛達の後方からこちらに向かって歩き出す人物がいた。全員がその人物に視線を投げると動揺し、その顔に驚愕の色を浮かび上がらせる


————コツッ コツッ


と優雅に歩く白いローブを羽織り仮面をつけているその女性はまごうことなき調停者《アルビト》の一人である。しかし。彼女は歩きながら頭に深く被ったローブを脱ぎ去った

「———なっ!!その尖った耳、そしてその蒼髪はまさかっ!?」

ファルコが驚きの声をあげる。無論ファルコ以外のエルフ達も目を見開き驚いている。なぜなら彼女は忌み嫌われ、エルフ族の汚点である蒼髪を靡かせ、暗殺対象であった人物

その彼女がまさかこの場に居るなど誰が予想できたかろうか。その驚きようは実に面白く最高だ‥‥‥!

そして俺の前にまで歩いてきた蒼髪のエルフは美しく跪くと耳に透き通る声を響かせる

「———ネロ様。このデリカート心よりお待ちしておりました」

「ああ、良くやったデリカート」


———フハハハハハ!!なんて良い光景だろうか。俺の目の前では跪くデリカートとその後方には驚愕する王や軍人達。そしてデリカートが潜入し同胞である調停者《アルビト》達の顔。

『まさか我らの同胞を?!』とか『静観を貫いていたが、まさかこうもあっさり潜入されていたとは許せぬっ』

とか言っているが心配には及ばない。デリカートが変装していた本物の調停者《アルビト》は今頃お手洗いでぐっすりと思う‥‥‥多分
それよりも隣のファシーノに聞かなければいけないことがあった。ずっと沈黙していたしなファシーノさん?

「それとファシーノ他のみんなはそろそろ来るか?」

「———ええ、もう来るわよ」

とファシーノが指を差した先には見知った人物達が佇んでいた。エルフ達はその光景を見るや否や度肝を抜かれ圧倒的支配者の存在に腰が引けていた

無論エルフが使役している精霊までもが全身を震わせ怯えている。圧倒的存在感はどうやら気づかれてしまった様だな‥‥‥


「———う、嘘‥‥この魔力この存在感っ‥‥間違いない。我ら王族が何千年と敬愛し崇めてきた伝説の存在!世界樹を創造した精霊達の真の王‥‥まさか本当に召喚されたなんてっ!?」

「———くっ体が動かない!あの銀髪は書物と同じっ!?ウンディーネ‥‥あのお方が、『ええ、ディアナ。あのお方こそ至高の存在であり私たちの女王‥‥』」

「———なんてことでしょう‥‥まさか本当だったなんてサラちゃん、『ああア、ふっかつなされタ。我らガ王』」

「———ノームっ俺たちはどうすれば良い!?『何も出来ない。これは運命』」

「———シルフの嬢ちゃん‥‥悪いな体がいうこと聞いてくれねえ、『わ、わっ私達は終わりよっ?!もうだめだわっこちらの世界にいるなんて‥‥何でよっ?!こっちに干渉しないって言ったじゃん!?精霊女帝ヴァルネラ様っ!!』」


‥‥‥彼らの名前を聞くなりどうやらかの有名な四大精霊王達なのだろう
しかし、この酷く怯えている精霊王達を見るとこちらが悪者と勘違いしてしまう。いや実際悪者か‥‥‥さて、当の本人はどうするのか‥‥どうやら彼方もエルフ達のことに気づいた様子だが‥‥‥


「———ほう‥‥エルフ共、妾のことを知っているか?貴様等の言う通り妾は精霊女帝ヴァルネラである。それにそこの四大精霊久しいな?今の世界では四大精霊“王”などと言われているではないか?王が四人とは笑えるではないか、なあ?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

ちょっっっっっと早かった!〜婚約破棄されたらリアクションは慎重に!〜

オリハルコン陸
ファンタジー
王子から婚約破棄を告げられた令嬢。 ちょっっっっっと反応をミスってしまい……

錆びた剣(鈴木さん)と少年

へたまろ
ファンタジー
鈴木は気が付いたら剣だった。 誰にも気づかれず何十年……いや、何百年土の中に。 そこに、偶然通りかかった不運な少年ニコに拾われて、異世界で諸国漫遊の旅に。 剣になった鈴木が、気弱なニコに憑依してあれこれする話です。 そして、鈴木はなんと! 斬った相手の血からスキルを習得する魔剣だった。 チートキタコレ! いや、錆びた鉄のような剣ですが ちょっとアレな性格で、愉快な鈴木。 不幸な生い立ちで、対人恐怖症発症中のニコ。 凸凹コンビの珍道中。 お楽しみください。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

私の代わりが見つかったから契約破棄ですか……その代わりの人……私の勘が正しければ……結界詐欺師ですよ

Ryo-k
ファンタジー
「リリーナ! 貴様との契約を破棄する!」 結界魔術師リリーナにそう仰るのは、ライオネル・ウォルツ侯爵。 「彼女は結界魔術師1級を所持している。だから貴様はもう不要だ」 とシュナ・ファールと名乗る別の女性を部屋に呼んで宣言する。 リリーナは結界魔術師2級を所持している。 ライオネルの言葉が本当なら確かにすごいことだ。 ……本当なら……ね。 ※完結まで執筆済み

処理中です...