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その背中を預けて 前編
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自分の恋愛対象が男だと気が付いたのは大学2年生の夏の事だった。
青年は自身がバイトする音楽バーで、一人の男に目を奪われた。
その時の青年の好きだという感情が恋愛だったのかそれとも尊敬だったのか、それは今でも分からない。
ただ、その瞬間に名前の通り心を奪われたのは確かだった。
「伊吹くん、ちょっと・・・」
伊吹と呼ばれた青年は、どこにでもいる大学2年生の男の子。音楽バーでバイトし始めてもう1年になる。
いつもの様に仕事をしていると、店長が伊吹を呼び止めた。
「なんすか、店長」
「今日のライブ予約なんだけどね、伊吹くんの所の軽音サークルみたいなんだよ。知ってる人、いるかい?」
伊吹は趣味でドラムをやっていたが軽音サークルとは面識はなく、多分いないっす、と曖昧に答えた。
だから、まさか自分が男のギターを弾く姿に一目惚れするなんて、全くの予想外だったのだ。
ギターを弾き、マイクに向かってそのまま死んでしまうのではないかと思うような声で歌う。
まさに全身全霊で。
その姿は伊吹を震わせた。
行動力にだけは自信がある。伊吹は次の日には軽音サークルの部室へ押しかけ、入部を申し込んだ。
あのギターを弾く男に会いたい。そして一緒に演奏してあわよくば付き合いたい。
あの人が自分に心を許したらどんな顔をするのか見てみたくなったのだ。
我ながらぶっとんだ思考回路をしているものだと伊吹は感じた。
「君、昨日の音楽バーで働いてた人だよね。ここの大学生だったんだ」
部室に迎え入れてくれたのは部長だった。
先輩とは違う人物。中性的な顔立ちをしており男女から親しまれそうな顔。
「覚えててくれたんすね。そうなんです、今2年っす。サークルに入りたいんすけどどうしたらいいですか」
「入ってくれるの?大歓迎だよ~!書類さえ書いてくれれば入部できるからね。あとやりたい楽器とかある?」
「ドラムやってたんで、ドラムで。あ、連絡先教えてもらっていいっすか」
拍子抜けするほど簡単な手続きだ。これで先輩と同じサークルに入れた。その事実だけで伊吹は胸がいっぱいだった。
その日の夜、部長から昨日のライブの打ち上げがあるから君も、と誘われた飲み会で伊吹は正式にサークルのメンバーへの紹介が行われた。
「今日からうちのサークルに入った伊吹くんです、ドラムパートに入るのでよろしくね」
「お願いします」
サークルのメンバーはびっくりするほど優しく、その日の飲み会で打ち解けるほどにはみんな明るかった。
「伊吹、飲みっぷりいいね。お酒好きなんだ」
同じ2年生たちのドラムパートと話していると、不意に声をかけられる。
伊吹が振り向くと、そこには昨日一目ぼれしたあの先輩が立っていたのだ。
「あ、先輩・・・」
「川上。よろしくね」
「川上先輩、すか」
初めて先輩の名前を知り、伊吹は胸が高鳴るのを感じる。
川上は伊吹の隣に座ると、どんなバンドが好きなのか、いつからドラムをやっているのか、あれやこれやと質問してはニコニコ笑いながら話を聞いた。
「昨日のライブの時さ、伊吹が働いてるあの音楽バーね。あの時、めちゃくちゃ俺の事見てたでしょ」
突然予想していなかった質問を投げかけられ、伊吹は思わずドキッとする。
「そんなこと・・・」
そんなことない、そう否定しようとすると川上は言った。
「そんなに俺のギターすごかった?」
バレていない。安心した伊吹はほっと胸をなでおろし、川上のギターを弾く姿に惹かれて入部を決断したことを話した。
「まじ?恥ずかしいけど、嬉しいなぁ」
「ほんと、かっこよかったっす」
照れ笑いで川上は目の前にあったビールを飲む。
先輩それ僕の!と前に座る部員が怒っていた。
「じゃあさぁ、俺とバンド組もうよ」
思ってもいない提案に伊吹は目を見開く。
昨日惚れた相手にバンドを組まないかと誘われる。こんな美味しい展開、あってよいのだろうか。
「え・・・いいんすか?」
伊吹は辛うじて絞りだした声で聞くと、川上はもちろんと笑って答えた。
「もうすぐうちの組んでたバンドのドラムが抜けちゃうんだよ。4年生なんだけど、就活で忙しくなるからサークル辞めるんだって」
ほら、と川上の指さす先にはスーツを着こなす男の人が座っている。
「今日も面接行ってたらしいよ。来年就活だけど、俺やってけるかな~・・・。ま、そんな話はどうでもよくて・・・ドラム経験者だし、ぜひ組もうよ」
願ってもいないチャンスに伊吹は即答する。
「もちろん、喜んで」
青年は自身がバイトする音楽バーで、一人の男に目を奪われた。
その時の青年の好きだという感情が恋愛だったのかそれとも尊敬だったのか、それは今でも分からない。
ただ、その瞬間に名前の通り心を奪われたのは確かだった。
「伊吹くん、ちょっと・・・」
伊吹と呼ばれた青年は、どこにでもいる大学2年生の男の子。音楽バーでバイトし始めてもう1年になる。
いつもの様に仕事をしていると、店長が伊吹を呼び止めた。
「なんすか、店長」
「今日のライブ予約なんだけどね、伊吹くんの所の軽音サークルみたいなんだよ。知ってる人、いるかい?」
伊吹は趣味でドラムをやっていたが軽音サークルとは面識はなく、多分いないっす、と曖昧に答えた。
だから、まさか自分が男のギターを弾く姿に一目惚れするなんて、全くの予想外だったのだ。
ギターを弾き、マイクに向かってそのまま死んでしまうのではないかと思うような声で歌う。
まさに全身全霊で。
その姿は伊吹を震わせた。
行動力にだけは自信がある。伊吹は次の日には軽音サークルの部室へ押しかけ、入部を申し込んだ。
あのギターを弾く男に会いたい。そして一緒に演奏してあわよくば付き合いたい。
あの人が自分に心を許したらどんな顔をするのか見てみたくなったのだ。
我ながらぶっとんだ思考回路をしているものだと伊吹は感じた。
「君、昨日の音楽バーで働いてた人だよね。ここの大学生だったんだ」
部室に迎え入れてくれたのは部長だった。
先輩とは違う人物。中性的な顔立ちをしており男女から親しまれそうな顔。
「覚えててくれたんすね。そうなんです、今2年っす。サークルに入りたいんすけどどうしたらいいですか」
「入ってくれるの?大歓迎だよ~!書類さえ書いてくれれば入部できるからね。あとやりたい楽器とかある?」
「ドラムやってたんで、ドラムで。あ、連絡先教えてもらっていいっすか」
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その日の夜、部長から昨日のライブの打ち上げがあるから君も、と誘われた飲み会で伊吹は正式にサークルのメンバーへの紹介が行われた。
「今日からうちのサークルに入った伊吹くんです、ドラムパートに入るのでよろしくね」
「お願いします」
サークルのメンバーはびっくりするほど優しく、その日の飲み会で打ち解けるほどにはみんな明るかった。
「伊吹、飲みっぷりいいね。お酒好きなんだ」
同じ2年生たちのドラムパートと話していると、不意に声をかけられる。
伊吹が振り向くと、そこには昨日一目ぼれしたあの先輩が立っていたのだ。
「あ、先輩・・・」
「川上。よろしくね」
「川上先輩、すか」
初めて先輩の名前を知り、伊吹は胸が高鳴るのを感じる。
川上は伊吹の隣に座ると、どんなバンドが好きなのか、いつからドラムをやっているのか、あれやこれやと質問してはニコニコ笑いながら話を聞いた。
「昨日のライブの時さ、伊吹が働いてるあの音楽バーね。あの時、めちゃくちゃ俺の事見てたでしょ」
突然予想していなかった質問を投げかけられ、伊吹は思わずドキッとする。
「そんなこと・・・」
そんなことない、そう否定しようとすると川上は言った。
「そんなに俺のギターすごかった?」
バレていない。安心した伊吹はほっと胸をなでおろし、川上のギターを弾く姿に惹かれて入部を決断したことを話した。
「まじ?恥ずかしいけど、嬉しいなぁ」
「ほんと、かっこよかったっす」
照れ笑いで川上は目の前にあったビールを飲む。
先輩それ僕の!と前に座る部員が怒っていた。
「じゃあさぁ、俺とバンド組もうよ」
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昨日惚れた相手にバンドを組まないかと誘われる。こんな美味しい展開、あってよいのだろうか。
「え・・・いいんすか?」
伊吹は辛うじて絞りだした声で聞くと、川上はもちろんと笑って答えた。
「もうすぐうちの組んでたバンドのドラムが抜けちゃうんだよ。4年生なんだけど、就活で忙しくなるからサークル辞めるんだって」
ほら、と川上の指さす先にはスーツを着こなす男の人が座っている。
「今日も面接行ってたらしいよ。来年就活だけど、俺やってけるかな~・・・。ま、そんな話はどうでもよくて・・・ドラム経験者だし、ぜひ組もうよ」
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