上 下
18 / 57

17.青年はダンジョンへ向かう

しおりを挟む
「おはよう」

目を覚ますとそこにはシュビルがダンジョンへ行く準備をしているところだった。
「おはよう・・・あれ、ルリールは・・・」
「もうダンジョン。奏人がくれたフェロモンで例のモンスターを倒すって意気込んでたぜ。俺もそろそろ行くけど、奏人はどうする?」

奏人はどうしようかと悩んだ。
お金はまだある。だが好き勝手楽しみすぎているから無くなるのは時間の問題。
いつまでこの二人といられるかも分からない今、奏人はダンジョンで二人に付き添ってモンスターを狩るのもアリなのではないかと思った。


「僕も、ダンジョンに連れてってもらえないかな?」
「えっ、行くの!?大丈夫?」
「わかんないけど、僕がいれば治療はその場で出来るし悪くないんじゃない?ただ、僕を守るクエストが発生しちゃうけど」
あはは、と苦笑いすると、シュビルは笑って答えた。
「大丈夫!俺、意外と強いからね」
「心強いね」
任せとけ、とシュビルは胸を叩くと、笑いながらまた準備に取り掛かった。




「うぉ~・・・すげぇ・・・」

奏人が立っているのは、ダンジョンの入口。
見渡す限り、冒険者の姿。


「前はこの手前までしか来なかったもんね」
以前、ガトロたちの手当で付近まで来た事はあったが、実際にダンジョンの入口まで来たのは今回が初めてだった。

「みんな強そうだね・・・こえぇ~・・・」
「まぁ、それなりにはね」
シュビルは、腰に付けた小さなカバンから銃のようなものを取り出し、奏人に渡した。

「これ、一応持っておいて」
「なにこれ」
「銃。武器だよ」

カチャカチャとシュビルは指で銃をクルクルと回す。
「え~・・・こんなの使ったことないし僕もその剣でモンスター倒してみたいんだけど」
奏人は、シュビルが背中に背負う中くらいの剣を指さして言った。

「だめだめ。初心者にモンスターとの接近戦は危険すぎる」
シュビルに言われ、奏人は釈然としない顔で銃とカバンともらう。

「じゃ、行くか」



ガシャンッと剣が何かとぶつかる音がする。

音の方向を見ると、冒険者がモンスターとまさに戦っているところだった。
「迫力やば」
「な、あんな至近距離でモンスターと戦うとか無理っぽそうだろ」
「たしかに・・・銃で頑張る」
おう、とシュビルは答えてザクザクと森を進んでいく。
どこまで進むのかと奏人はついて行くと、ふと何か悲鳴のような声が聞こえた気がした。

「・・・?」
奏人はその方向を見るが、だだっ広い森が広がっているだけでそれ以外に変わった様子は見えない。

シュビルは立ち止まった奏人に気づき、声をかける。
「奏人?先いっちゃうぞー」
「ん、あぁ、ごめん。なんか叫ぶ声が聞こえた気がしてさ」
「んなの聞こえなかったぞ?気のせいだろ」
シュビルはそう言ってまた進みだす。



――けて・・・
―――――たすけ―――・・・



「助けて!」




「シュビル!!」
助けを呼ぶ声がたしかに奏人の頭に響き、思わず奏人はシュビルを呼び止めた。

「なんだよー」
「やっぱり聞こえるって!叫び声!」
「いやいや聞こえな・・・あ」
シュビルは足元に誰かの冒険者の武器であろう小さな剣とリュックが落ちているのを見つけた。
そしてその付近の地面にはかすかに血がにじんでいるのが確認できた。

「ほら、血!これやっぱ叫び声の人だよ!いかなきゃ!」
奏人は考えるよりも先に走り出す。
どこに向かえばいいのかなんて分からなかったが、なぜか身体が勝手にこっちだと言うかのように動くのだった。




「っ・・・!!」
森を抜け、少し開けた場所に辿り着く。
まさに今、小さな少年がまさに今、ヘビのモンスターに殺されようとしているところだった。

「助けて!お兄さん!!」
少年は叫ぶ。

奏人は、少年を掴む巨大なヘビのような形をしたモンスターを見る。
大きな口が開いている。
少年が、飲み込まれる。


「やめろぉぉぉぉおぉお!!!」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜

ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。 王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています! ※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。 ※現在連載中止中で、途中までしかないです。

【完結】「奥さまは旦那さまに恋をしました」〜紫瞠柳(♂)。学生と奥さまやってます

天白
BL
誰もが想像できるような典型的な日本庭園。 広大なそれを見渡せるどこか古めかしいお座敷内で、僕は誰もが想像できないような命令を、ある日突然下された。 「は?」 「嫁に行って来い」 そうして嫁いだ先は高級マンションの最上階だった。 現役高校生の僕と旦那さまとの、ちょっぴり不思議で、ちょっぴり甘く、時々はちゃめちゃな新婚生活が今始まる! ……って、言ったら大袈裟かな? ※他サイト(フジョッシーさん、ムーンライトノベルズさん他)にて公開中。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~

乃ぞみ
BL
※ムーンライトの方で500ブクマしたお礼で書いた物をこちらでも追加いたします。(全6話)BL要素少なめですが、よければよろしくお願いします。 【腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者】 エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。 転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。 エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。 死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。 「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」 「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」 全体的に結構シリアスですが、明確な死亡表現や主要キャラの退場は予定しておりません。 闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったります。 本編ド健全です。すみません。 ※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。 ※ 攻めがまともに出てくるのは五話からです。 ※ タイトル変更しております。旧【転生先がバトル漫画の死亡フラグが立っているライバルキャラだった件 ~本筋大幅改変なしでフラグを折りたいけど、何であんたがそこにいる~】 ※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

処理中です...