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01.もしかして:異世界転生

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ん・・・
とさん・・・・


聞きなれない声が頭の中に響く。
誰かが自分の名前を呼んでいるのが分かり、おそるおそる目を開くとそこは病室の様な部屋だった。

まさに数秒前にトラックに思いっきりぶつかられて死んだと思っていたが、どうやらまだ生きていたらしい。

「起きましたか、奏人かなとさん。大丈夫ですか?」
横から声を掛けられ、奏人はびっくりして横を見た。
すると、そこには今時風のイケメンな男がニコニコと優しい眼差しでこちらを見ている。
白衣に聴診器をかけている姿を見るに、この人はどうやら医者らしい。

「あ、はい、大丈夫・・・・いってぇぇ・・・」
「足が折れてるみたいだったからね、しばらく安静にしててくださいね」

足が折れた?
あんなクソほどデカいトラックにぶつかられて死ぬどころか僕は足の骨折だけで済んだのか?
びっくりして奏人は医者らしき男を見る。


「それにしても、君はどうしてあんな路地裏に?倒れ込んでいたからどうしたのかとびっくりしてしまったよ」
「・・・へ?」
「見つけたのが私でよかったですね。もし変な男だったら、君はその辺でレイプでもされていたかもしれない」

路地裏に倒れ込む?
おかしい。僕が事故に遭ったのは大きな交差点だ。
しかも人が何人かいたからこの医者が僕を見つけて運んでいるのはどう考えてもおかしい。


「どうしたんですか、そんなしかめっ面で私のことを見て」

そういえば、と医者はふいに僕の持っていたリュックを手に取り、財布を取り出した。
「君の名前や年齢を知りたかったからカバンを見させてもらったんだけど。これ・・・なんですか?」

そう言って医者が取り出したのは、免許証だった。

「・・・何って、車の免許証ですけど・・・」
「免許証?冒険者のかい?」
「・・・・・はい?」
奏人の頭にはてなマークが浮かぶ。

「あ、冒険者の免許証じゃないのか。たしかに少し見た目も違うもんなぁ。まぁいいや。ところで、お金はあります?君は結構私の好みの顔だし、それなりの条件次第でタダにしてもいいんだけど・・・なんてね」
「お金ですか・・・あるかなぁ。その財布見てもらっていいですか?それで足りるなら全部持ってってもらっていいんですけど」

お金は3万円ほどなら入っていたはずだ。
足りないならその辺のATMで下ろしてこよう。
奏人はそんなことを考えていると、医者がおかしなことを言い始めた。


「君、お金持ってないじゃないか」
「あれ、入ってません?入ってなかったかな」

ほら、と医者に財布を差し出され中を確認すると、きっちり3万どころか5万も入っている。
「ありますよ、5万。もしかして足りないとかですか?」
おかしいことばかり言うし、やばい病院だったのかもしれない。高額な治療費を請求されるのか?
奏人は内心焦りながらお金を差し出すと、医者は何とも言えない表情で答える。


「いや・・・・・・なんですか、その紙は・・・メモ用紙かなにか?」
「メモっ・・・・どう見ても金でしょオジサン」
「オジサンはへこむなぁ。私、こう見えてまだ28なんですよ。で、お金ないけどどうします?」

「だからお金はこれですって!足りないならATM行ってくるし、なんならカード渡すからオジサンがおろして来てよ」
「何を訳のわからないことを・・・頭も一緒に打ったのですか?」
完全にブチ切れそうになる奏人を無視して、医者はごそごそと自分のポケットを漁って紙切れを奏人に差し出した。


「ほら、これですよ。お金。見たことあるでしょう?」
本当に大丈夫ですか、と真面目に心配する医者が差し出したのは、謎の絵が描かれた紙切れだった。
右端には1000の文字。たしかに、お金・・・なのか?



判断がつかず困った顔をしているのに気が付いたのか、医者は続ける。

「時々記憶喪失の冒険者もいらっしゃるのでこういうのは慣れっこなんです。一応説明すると、これは1000ウィルですね。ウィルはここの通貨単位を現しています。大丈夫そうですか?」

大丈夫かと聞きたいのはこっちだ。
金の単位は円じゃないのか?
ますます混乱する奏人が辛うじて導き出した答え。
それは・・・



「異世界転生・・・・・・・?」


すると、病室の向こうで声が聞こえる。
「あーー!もうちょっとであのモンスター狩って1億ウィル稼げるとこだったのにー!」
「シュビルの援護が弱すぎたんだって、まだその辺にいるでしょ、ケガ治したらもう一回行こ?」



「まじ・・・?」


悪い夢を見ているのか。
奏人は乾いた声で嘘だろと呟き、ニコニコ薄っぺらい笑顔を浮かべる医者の顔を見た。
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