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とある男女の事情
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電話が鳴る。
出ると電話口からは、聞き覚えのある、心地よい声が聞こえる。
「もしもし」
男は答えた。が、返事はない。
「なに?」
強く言うと、電話口の女が話し出した。
「さっき、ナンパされてホテルに連れ込まれそうになった」
「そっか、それは怖かったね。大丈夫だったの」
「大丈夫じゃないから電話したの」
女は答えながら大きく深呼吸をする。
だいぶん気持ちも落ち着いたのか、女は続けて話す。
「ねぇ、これから飲まない?」
「ダメだよ、もう夜も遅いんだから、帰りな」
「どうして?わたしの気晴らしに付き合ってよ」
「ダメ。明日仕事だろう?早く帰らないといつもみたく遅刻するぞ」
女は少し悲しくなる。
そして言う。
「飲みに行かないなら、あなたの家に行ってもいい?」
男は答える。
「ダメ」
「どうして?適当におつまみ作るし、ビールはどうせ家にあるでしょう」
「ダメだよ、来ちゃ」
「どうして・・・?」
女は酔っているらしい。
呂律が若干回っていない。男はいつもと違う小さな変化に気が付いた。
「ダメだよ。ねぇ、忘れたの?」
「何を」
「俺たち、もう別れたんだよ」
「知ってるよ、そんなの。それと家に行くことは違う問題でしょう」
「違わないよ。付き合っていない男女が二人きりでいるものじゃない」
女はぽつりと呟いた。
「変わってないね。変にガード固いところは」
「そっちこそ、そうやって酔った勢いまかせにしちゃうところ、変わってない」
「そんなにも、私から電話がかかってきたのが嫌だった?」
「すごく。明日は早いから、もう切るよ。誰か友達と話して夜道歩きな。気を付けてね」
女は何か言おうとしたが、電話はそこで切られる。
薄情なやつめ、と思いながら通話の切れたスマホの画面を眺め、諦めたように歩き出した。
「浮気したのは君の方じゃないか」
男は通話を切ったばかりの画面を見つめ呟く。
大きく息を吸い、元恋人のアドレスを削除して小さく泣いた。
出ると電話口からは、聞き覚えのある、心地よい声が聞こえる。
「もしもし」
男は答えた。が、返事はない。
「なに?」
強く言うと、電話口の女が話し出した。
「さっき、ナンパされてホテルに連れ込まれそうになった」
「そっか、それは怖かったね。大丈夫だったの」
「大丈夫じゃないから電話したの」
女は答えながら大きく深呼吸をする。
だいぶん気持ちも落ち着いたのか、女は続けて話す。
「ねぇ、これから飲まない?」
「ダメだよ、もう夜も遅いんだから、帰りな」
「どうして?わたしの気晴らしに付き合ってよ」
「ダメ。明日仕事だろう?早く帰らないといつもみたく遅刻するぞ」
女は少し悲しくなる。
そして言う。
「飲みに行かないなら、あなたの家に行ってもいい?」
男は答える。
「ダメ」
「どうして?適当におつまみ作るし、ビールはどうせ家にあるでしょう」
「ダメだよ、来ちゃ」
「どうして・・・?」
女は酔っているらしい。
呂律が若干回っていない。男はいつもと違う小さな変化に気が付いた。
「ダメだよ。ねぇ、忘れたの?」
「何を」
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「知ってるよ、そんなの。それと家に行くことは違う問題でしょう」
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「浮気したのは君の方じゃないか」
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