異世界転生してひっそり薬草売りをしていたのに、チート能力のせいでみんなから溺愛されてます

ひと息

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冒険と料理と

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「さて、調合の続きを…」
「もう作るのかよ!?なぁ、今日は寝て明日にしねぇか?」
「ダメです。ブーストのスキルをもう一度試したいんです。明日になったらあの感覚を忘れているかもしれませんし」
「んじゃ、俺も手伝う」
「いやいや。キルヴァンさんはもう寝て大丈夫ですよ」
「俺も手伝う」
「キルヴァンさん、スキル使えないじゃないですか。手伝うって言っても何を…」
「さっきみたいに薬の分量を量ったり梱包するくらいならできるし」
「……じゃあお願いしようかな。でも、疲れたらちゃんと言ってくださいね」
「それはお前もだ」

アッシュの家に戻って早々、二人は薬を作り始める。

廉がこの世界に初めて来た時、調合のスキルを自分のものにするためには意外と時間がかかった。
きっとそう簡単にスキルは使いこなせるものではないのだろう。
ブーストのスキルを自分のものとするためには、それ相応の努力をしなくてはならない、と感じていた。


「廉」
黙々と作業を続けると、ふと、キルヴァンが口を開いた。
「なんですか?」
「お前がもしもともとこの世界にいた人間だったとして、もし生まれ育った土地を離れて薬屋を開きたいと思ったとしたら、どうする?」
お互い、薬からは目を離さない。
しかし真剣な声色のキルヴァンの表情は、なんとなく廉にも伝わった。
「…僕は、変化が怖いです。だからきっと、夢は諦めて地元に残って平凡な人生を送ると思います。弟だっていますしね」
「変化が怖い、か」
キルヴァンはそう言うと、小さく笑って呟く。
「俺も、変化が怖いだけなのかもなぁ…」


「何か悩みがあるんですか?」
「あー、いや…つまんない話だしよ…」
「悩みがあるなら聞きますよ」
「…ありがとう」


「俺、もともとは冒険者だったんだ」
廉は驚いた。
「…そうだったんですか。てっきり、ずっと料理人をしていたのかと」
「もちろん、料理するのも好きだった。だから冒険者グループの中では料理人の立ち位置になることが多かったな」
キルヴァンは「懐かしいな」と笑いながら話す。

「でも、数年前に両親が体調を崩して、妹の面倒を見る人がいなくなって。俺もずっとダンジョンに潜ってる訳にもいかなくなって、こっちで料理屋を開いて生計を立てることにしたんだ」
「そうだったんですね。ご両親の体調は?」
「それはもう大丈夫だ」
キルヴァンの言葉に、廉はほっとする。
「冒険者には戻らなかったんですか?」
「戻っても良かったんだが…店もあるし、また親と妹をほったらかして自分だけ冒険に行くってのは、少し心が痛むっていうかさ…」
「なるほど…。で、キルヴァンさんは、また冒険者になりたい、と?」
廉が尋ねると、キルヴァンは少し考えた。
「…冒険者になりたいっていうか、料理人もしたいし、ダンジョンにも潜りたい。ダンジョンにある食材で料理を作ってみたい。でも、この村からダンジョンまではかなり遠いから、気軽にできることでもなくてよ」


「知り合って数日の僕に説得力なんてないかもしれないのですが」
「…?」
「一度きりの人生、好きに生きたっていいんじゃないでしょうか。また冒険すればいいじゃないですか」
廉は、キルヴァンを見て言う。
しかしキルヴァンは少し困ったように笑って答えた。
「さっきも言ったが、この村からダンジョンは遠いし、家族を置いて行く訳には…」
「ご両親がそう言ったんですか?冒険者になられちゃ困る、置いて行かないで、って。ご両親の口から聞いたんですか?」
「いや、聞いた訳じゃ…」
「後悔する生き方なんてしない方がいいんですから。やりたいことをやるべきです」
「…そうだよな…。ちゃんと話してみるよ。ありがとう、廉」
「すみません、偉そうに」
廉はそう言って頭をペコリと下げると、キルヴァンは「やめてくれよ」と笑った。


「だいぶ調合もできましたし、僕もスキルの扱いが少し分かってきた気がします。そろそろ寝ましょうか」
「んあー…疲れた…」
「遅くまで付き合ってくれて、ありがとうございます」

「ところで、キルヴァンさんは家に帰らないんですか?」
「おう。めんどくせぇから泊まってく」
「ベッド、一つしかないんですが…」
「俺、寝相いいから大丈夫だ。よし、寝るぞ」
「狭い~…」

アッシュのベッドを借り、二人は縮こまりながら眠りにつくのだった。
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