異世界転生してひっそり薬草売りをしていたのに、チート能力のせいでみんなから溺愛されてます

ひと息

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薬草と金髪の青年

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その日の廉は、いつも薬草を採取する近所の森を離れ、少し遠い森へと足を運んでいた。
森の近くには大きな街があり、そこの騎士団が定期的に見回りをしているおかげで、モンスターはほとんどおらず、安全な場所だと評判だった。

「いくら安全とはいえ、知らない森で丸腰って…危機感が足りなかったかな」
しかし廉の心配とは裏腹に、たしかにその森は静かで、モンスターの気配も感じなかった。

「静かでいい場所だ。薬草も多い」
深呼吸をすると、持参した薬草図鑑と採取用の袋を手に、早速採取に取り掛かった。
「少し歩くけど、なかなかこの森はいいな。がっぽり稼げそうな予感…」
フフフ、と一人で笑っていると、ふと見たことのない薬草が目に留まった。
細長い葉に鮮やかな赤い茎。ある程度の薬草は頭に入っている廉も見たことがなく、廉は手袋をはめてそっと葉に触れた。
「この色、毒がありそう…むやみに持って帰らない方がいいのか…?」
そう呟くと、突然、後ろから声を掛けられた。

「それは赤星草ですね」

「…っ!」

廉は驚いて後ろを振り向くと、そこには銀色の鎧を身にまとった若い男性が立っていた。
年齢は廉と同じか、少し上くらいだろうか。
サラサラとした金髪に、鋭い目元。しかしその口元は柔らかく微笑んでいた。

「すみません。驚かせてしまいましたね」
「あ、いえ…」
「申し遅れました。私、すぐそばの街の騎士団に所属しているアッシュと申します」
にこりと微笑むと、アッシュは廉と同じようにその場にしゃがみこんだ。
「赤星草は、満月の夜の次の昼間に時々生える薬草なんです。必ず生えるわけではないから、実際にこの薬草を見られたのはとても幸運ですよ」
ちなみに毒はありません、と笑うアッシュは、男の廉から見てもイケメンだ。



”気まずい…”
赤星草を教えてくれたアッシュは、その後なぜか廉に付いて回った。
廉は気まずさを感じるものの何も言えず、そのまま薬草を採取した。

「この森へはよく来るのですか?」
「いえ…今日が初めてですね…」
「そんなに薬草を集めて…調合などをされているので?」
「えぇ、まぁ…。ここから少し歩いた町で、薬を売ったりしてまして…」
ふむふむ、とアッシュは相づちを打った。

「あの…なんでついてくるんですか…」
廉は耐え切れずにそう尋ねると、アッシュはにこにこと笑いながら言った。


「だってあなた、異世界から来たでしょう」


「え…」
廉は驚いてアッシュの顔を見た。
「やっとこちらを見てくれましたね」
アッシュはそう言うと、実は、と話し始めた。

「私の住む街には、よく当たると人気の占い師がいまして…その占い師が言うんですよ。満月が出た次の日の森に、この世界の者ではない何者かが現れる、と」
アッシュの真意が読み取れず、廉はなんだか居心地が悪くなった。
「…それで…?」
「ただその何者かが敵か味方かが分からない。それで、見回りとして私がこちらに派遣された訳です」
そう言うとアッシュは腰に携えた剣を引き抜き、廉の方へとその刃を向ける。
廉はそれに驚き一歩下がると、アッシュの背後に何かの紋章が浮かび上がった。
その紋章は白く輝きを増し、まるで廉を狙い定めるかのように、攻撃の気配を帯びていた。

「不審な行動を取れば、すぐさま殺すつもりでしたが…」
廉はその言葉にビクッと肩を震わせる。
しかしそんな姿を見たアッシュは、再び先ほどまでのような柔らかな笑顔へと戻り、言った。
「どうやら、本当にただの薬売りのようですね。失礼しました」



「先ほどは失礼しました」
アッシュは再び詫び、そして深々と頭を下げる。
「まさか、光の紋章すら見たことのない方とは思いませんでした。敵か味方かも分からないなんて…つくづく私は人を見る目がない」
「いえ…実際、異世界から飛んできたなんて不審者すぎますもんね…」
「…まぁ、そうですね…」
するとアッシュは真剣なまなざしで言った。
「ですが、本当に薬草の知識しかないままにこちらの森に来たのであれば、少々不用心すぎます。いくら騎士団がモンスターを排除しているとはいえ、常に何もいない状態ではないですからね」
廉は、おっしゃる通りです、と苦笑いする。

「しかし、不思議です。私には、あなたが他とは違ったオーラを纏っているように見えたのですが…」
「オーラ、ですか?」
「強大な力と言いますか…なんでしょう、神のご加護…?」
うーん、とアッシュは首をひねる。廉にはもちろんそのオーラというものは分からず、気のせいじゃないですか、と笑った。
「異世界から来たってだけで異質な存在ですし、他の人とは違って当然なんじゃないですかね」
廉がそう言うと、アッシュも少し納得したようにうなずいた。
「そう、なのかもしれませんね…」



「それでは、もし機会があれば薬草の調合をお願いしますね」
「もちろんです。いつでも待ってます」
「そうだ!あなたのお名前…」
「廉と言います」
「廉さんですね。またお会いできる日を楽しみにしています」

アッシュは仕事があるからと、少し話した後で自分の街へと帰って行った。
この世界に来てからこんなにも人と会話したのは初めてで、廉はなんだかワクワクとした気分のまま自分の住む町へと帰った。
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