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12. 燃やされた手紙の真実
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ニコラス
「有難うございます。大変な光栄ですが、ドリちゃんの意思はどうなるのでしょうか?」
デボラ
「問題ないわ。ドリスもニコ様とパートナーになりたがっているもの。素直になれないだけだわ」
アリアンナ
「問題ならありますわ!」
アリアンナの叫び声がダイニングルームにこだました。
シルバー公爵
「何が問題なのかな?」
アリアンナ
「ドリスは嘘吐きです! シルバー公爵家の人間なら、誰もが知っておりますわ!」
ニコラス
「どういう事ですか?」
アリアンナ
「ドリスはキャベツが嫌いです!」
ニコラス
「知っています。最近、嫌いになったとドリちゃんは言っていました」
アリアンナ
「いいえ、昔から嫌いなのです! 嫌いな物を好きだと偽って、ニコ様に押し付けたのですわ!」
ニコラスは表情を変えず、笑顔のまま沈黙した。
アリアンナ
「ワタクシの言葉が嘘だと思うのでしたら、ブラウン卿に確認して頂ければ分かりますわ! 嫌いで残そうとしたキャベツを食べるように注意されていましたから! それだけではありません! ドリスは爬虫類も嫌いなのです!」
バックス次期公爵
「アリアンナ、レディはお客様の前で身内をおとしめる発言はしてはいけない。それが例え真実であっても」
アリアンナ
「いいえ、ニコ様には本当の事をお伝えするべきですわ! だってワタクシはニコ様の事を...」
ニコラス
「アリアンナ様、申し訳ありません。本当の事を申し上げます」
アリアンナ
「本当の事?」
ニコラス
「知っているのです。ドリちゃんが嘘吐きな事も。だってドリちゃんは嘘を着く時に目が泳ぐから。だから私は先程、『ドリちゃんは嘘が吐けない』と言ったのです」
アリアンナ
「え!?」
ニコラス
「ですが私は嘘が得意です。キャベツのエピソードで皆様の同情や罪悪感を煽り、結婚を承諾させようとするくらいには。
笑顔の仮面の下には何重にも重ねられた建前が存在し、自分の思い通りの結果を導き出すための策略が渦巻いているのです。
ドリちゃんの13歳の誕生日。あの日に渡した手紙には、キャバリエ(エスコート役)を申し込む手紙も入っていました。しかし、その事を承諾する用紙にサインをすれば、結婚証明書にサインしてしまう仕組みになっていました。あの悪魔の手紙は、私の創作物の中で、最も優れた芸術品でした。
しかし、芸術は燃やされ、悪魔の契約書とともに、悪魔の心は天へとかえって逝きました。
あれ程に美しい瞬間を私は知りません。
先程も申し上げた通り、結婚するパートナーが、一方的に利益を吸い上げるような関係ではいけないと、私は考えております。
ドリちゃん以外の女性では私から一方的に利益を吸い上げられてしまうでしょう?」
ニコラスは天使のような顔で、天使のような微笑みを浮かべる。
アリアンナはゾッとして身震いした。
だが、シルバー公爵は手を叩いて笑った。
シルバー公爵
「やはり君は大変に愉快だ! 私の若い頃にそっくりじゃないか! だが、今、そんな事をここで言ってしまっていいのかな? この中の誰かから、ドリスにも君の本性がバレてしまうかもしれないぞ?」
ニコラス
「公爵様、そして皆様、どうか私に力をお貸し下さい。そのために私は今ここで本性を明かしました。ドリちゃんは、私にとって、唯一無二の天敵です。ドリちゃんに理屈は通用しません。野生の本能で行動するからです。神の啓示とも思える第六感が常に働いており、ドリちゃんはいつも正しい選択を選びます。決して、天使の顔をした悪魔には騙されません。
しかし、そんなふうに神が守るドリちゃんと、私以外の誰が結婚出来ると思いますか?
私がドリちゃんと結婚出来なければ、ドリちゃんは一生独身ではないでしょうか?
仮に結婚出来たとして、私ですら振り回されているドリちゃんと結婚生活を続けられる男がいるでしょうか?
嘘ばっかりの私ですが、キャベツに救われたのは本当です。あの日、大人に内緒で飲んだお酒で胃が荒れていて、キャベツが本当に美味しかった...」
シルバー公爵
「その通りだ。ニコラス以外の者にドリスの相手は務まらないだろう。皆はどう思うかね?」
デボラ
「そうね、結婚出来ないと孫の顔も見られないし、ドリスはニコ様の事を嫌いじゃないからいいと思うわ」
バックス次期公爵
「なるほど、ニコラス君は普通の女性では手にあまりそうだ。ドリスに任せた方がいいだろう」
ピーター
「そうですね。これだけ面白...素晴らしい縁談を逃すのは惜しいですし、ドリスには神の仔羊になってもらいましょう」
※この場合の神の仔羊とは、生贄となった救世主の事を指す。
シルバー公爵
「よし、結婚を許可しよう。面白いし」
その瞬間、バーン!!! とダイニングルームの扉が勢いよく開いた。
そこには、怒りの日に審判を下す神のように、恐ろしい形相のドリスが立っていた。
※怒りの日とは世界の終末という意味もあるが、この場合は、死後に天国行きか地獄行きか裁きが下される時のこと。
「有難うございます。大変な光栄ですが、ドリちゃんの意思はどうなるのでしょうか?」
デボラ
「問題ないわ。ドリスもニコ様とパートナーになりたがっているもの。素直になれないだけだわ」
アリアンナ
「問題ならありますわ!」
アリアンナの叫び声がダイニングルームにこだました。
シルバー公爵
「何が問題なのかな?」
アリアンナ
「ドリスは嘘吐きです! シルバー公爵家の人間なら、誰もが知っておりますわ!」
ニコラス
「どういう事ですか?」
アリアンナ
「ドリスはキャベツが嫌いです!」
ニコラス
「知っています。最近、嫌いになったとドリちゃんは言っていました」
アリアンナ
「いいえ、昔から嫌いなのです! 嫌いな物を好きだと偽って、ニコ様に押し付けたのですわ!」
ニコラスは表情を変えず、笑顔のまま沈黙した。
アリアンナ
「ワタクシの言葉が嘘だと思うのでしたら、ブラウン卿に確認して頂ければ分かりますわ! 嫌いで残そうとしたキャベツを食べるように注意されていましたから! それだけではありません! ドリスは爬虫類も嫌いなのです!」
バックス次期公爵
「アリアンナ、レディはお客様の前で身内をおとしめる発言はしてはいけない。それが例え真実であっても」
アリアンナ
「いいえ、ニコ様には本当の事をお伝えするべきですわ! だってワタクシはニコ様の事を...」
ニコラス
「アリアンナ様、申し訳ありません。本当の事を申し上げます」
アリアンナ
「本当の事?」
ニコラス
「知っているのです。ドリちゃんが嘘吐きな事も。だってドリちゃんは嘘を着く時に目が泳ぐから。だから私は先程、『ドリちゃんは嘘が吐けない』と言ったのです」
アリアンナ
「え!?」
ニコラス
「ですが私は嘘が得意です。キャベツのエピソードで皆様の同情や罪悪感を煽り、結婚を承諾させようとするくらいには。
笑顔の仮面の下には何重にも重ねられた建前が存在し、自分の思い通りの結果を導き出すための策略が渦巻いているのです。
ドリちゃんの13歳の誕生日。あの日に渡した手紙には、キャバリエ(エスコート役)を申し込む手紙も入っていました。しかし、その事を承諾する用紙にサインをすれば、結婚証明書にサインしてしまう仕組みになっていました。あの悪魔の手紙は、私の創作物の中で、最も優れた芸術品でした。
しかし、芸術は燃やされ、悪魔の契約書とともに、悪魔の心は天へとかえって逝きました。
あれ程に美しい瞬間を私は知りません。
先程も申し上げた通り、結婚するパートナーが、一方的に利益を吸い上げるような関係ではいけないと、私は考えております。
ドリちゃん以外の女性では私から一方的に利益を吸い上げられてしまうでしょう?」
ニコラスは天使のような顔で、天使のような微笑みを浮かべる。
アリアンナはゾッとして身震いした。
だが、シルバー公爵は手を叩いて笑った。
シルバー公爵
「やはり君は大変に愉快だ! 私の若い頃にそっくりじゃないか! だが、今、そんな事をここで言ってしまっていいのかな? この中の誰かから、ドリスにも君の本性がバレてしまうかもしれないぞ?」
ニコラス
「公爵様、そして皆様、どうか私に力をお貸し下さい。そのために私は今ここで本性を明かしました。ドリちゃんは、私にとって、唯一無二の天敵です。ドリちゃんに理屈は通用しません。野生の本能で行動するからです。神の啓示とも思える第六感が常に働いており、ドリちゃんはいつも正しい選択を選びます。決して、天使の顔をした悪魔には騙されません。
しかし、そんなふうに神が守るドリちゃんと、私以外の誰が結婚出来ると思いますか?
私がドリちゃんと結婚出来なければ、ドリちゃんは一生独身ではないでしょうか?
仮に結婚出来たとして、私ですら振り回されているドリちゃんと結婚生活を続けられる男がいるでしょうか?
嘘ばっかりの私ですが、キャベツに救われたのは本当です。あの日、大人に内緒で飲んだお酒で胃が荒れていて、キャベツが本当に美味しかった...」
シルバー公爵
「その通りだ。ニコラス以外の者にドリスの相手は務まらないだろう。皆はどう思うかね?」
デボラ
「そうね、結婚出来ないと孫の顔も見られないし、ドリスはニコ様の事を嫌いじゃないからいいと思うわ」
バックス次期公爵
「なるほど、ニコラス君は普通の女性では手にあまりそうだ。ドリスに任せた方がいいだろう」
ピーター
「そうですね。これだけ面白...素晴らしい縁談を逃すのは惜しいですし、ドリスには神の仔羊になってもらいましょう」
※この場合の神の仔羊とは、生贄となった救世主の事を指す。
シルバー公爵
「よし、結婚を許可しよう。面白いし」
その瞬間、バーン!!! とダイニングルームの扉が勢いよく開いた。
そこには、怒りの日に審判を下す神のように、恐ろしい形相のドリスが立っていた。
※怒りの日とは世界の終末という意味もあるが、この場合は、死後に天国行きか地獄行きか裁きが下される時のこと。
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