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11. 結婚相手選びで重要なこと
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神官長に状況の説明をし、助言を求めると、修行を中断して帰宅する事を勧められた。ニコラスは倒れたドリスと一緒に、シルバー公爵邸に帰宅する馬車へと乗り込んだ。
帰宅すると、シルバー公爵のはからいで、ホワイト領にニコラスの無事を伝える早馬が手配された。夜遅い時間であったため、ニコラスは公爵邸に泊めて貰える事となった。
倒れたドリスは部屋のベッドに寝かされたが、ニコラスは元気だったためシルバー家の夕食に招かれた。
ディナーの席に座るのは、ドリスの祖父であるシルバー公爵、その息子で次期公爵であるバックス(ドリスの伯父)、その夫人、その子供達。そして、ドリスの母デボラ、父ピーター。
ニコラス
「公爵様、せっかく人間になる方法を教えて下さったのに、成し遂げられず、申し訳ありません。どうやら、ドリちゃんの言っていた人間になるという事は、そういう意味ではなかったようです」
シルバー公爵
「かまわない。非常に面白かっ...いや、誠意は伝わった。むしろ、ドリスのために嬉しく思うよ」
ニコラス
「有難うございます。そう言って頂けると気が楽になります。ですが...あの...今度はドリちゃんから『何もする必要がない』と言われたのですが、これは、どういう意味でしょうか?」
シルバー公爵
「ふむ。どういう状況で言われたのかな?」
ニコラス
「実は...ドリちゃんが、キャバリエ(舞踏会のエスコート役)のお願いしてくれたのですが、私は修行がそれまでに終わったらと答えてしまったのです」
デボラ
「ドリスのデビュタントのエスコートには興味がなかったの?」
ニコラス
「いえ、一度申し込んだのですけど、その時は手紙を読んでもらう前に、燃やされてしまったので、諦めていたのです。だから今年はデビューせずに、人間になるための修行をする予定でした。『人間になる』と公爵様や神官長様とお約束したのに、魅力的な提案をされたからといって、すぐに乗り換えるようでは人の道から外れると思いました...それに、はやく人間になって、結婚にOKして欲しかったから...」
デボラ
「そうなのね...」
シルバー公爵
「つまり、曖昧な返事をした後に、何もする必要がないと言われたのだね?」
ニコラス
「はい」
バックス次期公爵の娘アリアンナは笑顔になった。
アリアンナ
「ドリスはニコ様のエスコートを必要としないと言ったのですね!」
ニコラス
「やはり、そういう意味なのですね...」
ニコラスはガッカリして俯(うつむ)いた。
アリアンナ
「ワタクシは必要としておりますわ!」
ニコラス
「そうですか」
バックス次期公爵
「アリアンナは、ニコラス君にエスコートして欲しいと言っているのだが、お願い出来ないだろうか?」
ニコラスは顔を上げてアリアンナに視線を向けた。
ニコラス
「ドリちゃんに聞いてみないとお応え出来ませんが、ドリちゃんが良ければ、お引き受け致します」
アリアンナ
「ドリスには断られたのに? どうしてそこまでドリスに義理立てなさるのですか? ワタクシでは駄目なのですか? ドリスの一体何がそんなに良いのです?」
ニコラス
「ドリちゃんは世界で一番美しいのです」
バックス次期公爵
「確かにドリスは美人だが、アリアンナだって負けていないだろう?」
デボラ
「お兄様、それは親の贔屓目というものですわ。毎日届くラブレターの数は圧倒的にドリスの方が多いではありませんか」
バックス次期公爵
「それはアリアンナが公爵令嬢で高値の花だからだ。ドリスは男爵令嬢で気軽に手紙が出せる。現に、アリアンナには平民からの手紙は届かないが、ドリスには平民からの手紙が届くじゃないか。デボラの夫であるピーター君は、元平民だしな」
デボラ
「貴族からの手紙だけでも、アリアンナの倍は軽く届いておりますわ」
シルバー公爵
「客人の前で醜い争いはやめなさい。どちらにせよ、大半は容姿に惚れたラブレターなどではなく、この私の孫娘という肩書きに目が眩んだ者達からの手紙だ。2人はデビュー前だし、会った事がない者からの手紙ばかりじゃないか。そんな物は、美しさの基準にはならない。なぁ? ニコラス?」
ニコラス
「はい。そもそも、ドリちゃんの美しさは容姿の美しさではなく、心の美しさです」
シルバー公爵
「ほう、具体的には?」
ニコラス
「ドリちゃんは純粋無垢で、考えている事がほとんど口や態度から出ています。ですから、嘘が吐けません。
こんな事を言ってはなんなのですが、私の企画や創作物を誰もが絶賛します。褒め称え、決して悪口を言いません。両親も私を叱った事がなく、本当の事を教えてはくれません。ですが、ドリちゃんは、良いものは良い、悪いものは悪いと教えてくれます。
嫌われる事を恐れて、偽りの言葉ばかり並べては愛想笑いをする、私とは大違いです。
パートナーを選ぶ上で最も重要な事は信頼関係が築けるかどうかだと私は考えています。どんなに優秀な女性でも、自分を裏切ったり、一方的に利益を吸い上げようとする方とは、パートナーとして一緒に暮らす事は出来ません。
ですがドリちゃんは、本心をほとんど見せない私に対しても、『ニコが何を考えているのかサッパリ分からない』と言いつつも、一緒にいてくれます。
それでいて、私の財産、次期伯爵や次期ギルドの統括といった肩書きには全く興味がないようです。
それどころか、ドリちゃんは見返りを求めず、大事な物を分け与えてくれます。幼い頃、まだ私が自分の物は自分だけの物だと考えていた時から、ドリちゃんは大好物のキャベツを分けてくれたのです。それは自己中心的になっていた私の心を救いました。あの時のキャベツの味を、私は今でも覚えています。
私のような人間は、ドリちゃんを失ったら、二度と真実の愛と出会う事はないでしょう」
デボラ
「ニコ様...」
ピーター
「ニコラス様、ドリスの事をそんなふうに想って下さって有難うございます」
シルバー公爵
「ニコラス、君は今年でいくつになるのかね?」
ニコラス
「14歳になります」
シルバー公爵
「その若さで、よく考えているものだ。君が我が孫娘と結婚して公爵家に入ってくれたら、どんなに嬉しいことだろうか」
ニコラス
「公爵様、勿体ないお言葉、有難うございます」
シルバー公爵
「ならば、ドリスのキャバリエはニコラスに任せよう」
帰宅すると、シルバー公爵のはからいで、ホワイト領にニコラスの無事を伝える早馬が手配された。夜遅い時間であったため、ニコラスは公爵邸に泊めて貰える事となった。
倒れたドリスは部屋のベッドに寝かされたが、ニコラスは元気だったためシルバー家の夕食に招かれた。
ディナーの席に座るのは、ドリスの祖父であるシルバー公爵、その息子で次期公爵であるバックス(ドリスの伯父)、その夫人、その子供達。そして、ドリスの母デボラ、父ピーター。
ニコラス
「公爵様、せっかく人間になる方法を教えて下さったのに、成し遂げられず、申し訳ありません。どうやら、ドリちゃんの言っていた人間になるという事は、そういう意味ではなかったようです」
シルバー公爵
「かまわない。非常に面白かっ...いや、誠意は伝わった。むしろ、ドリスのために嬉しく思うよ」
ニコラス
「有難うございます。そう言って頂けると気が楽になります。ですが...あの...今度はドリちゃんから『何もする必要がない』と言われたのですが、これは、どういう意味でしょうか?」
シルバー公爵
「ふむ。どういう状況で言われたのかな?」
ニコラス
「実は...ドリちゃんが、キャバリエ(舞踏会のエスコート役)のお願いしてくれたのですが、私は修行がそれまでに終わったらと答えてしまったのです」
デボラ
「ドリスのデビュタントのエスコートには興味がなかったの?」
ニコラス
「いえ、一度申し込んだのですけど、その時は手紙を読んでもらう前に、燃やされてしまったので、諦めていたのです。だから今年はデビューせずに、人間になるための修行をする予定でした。『人間になる』と公爵様や神官長様とお約束したのに、魅力的な提案をされたからといって、すぐに乗り換えるようでは人の道から外れると思いました...それに、はやく人間になって、結婚にOKして欲しかったから...」
デボラ
「そうなのね...」
シルバー公爵
「つまり、曖昧な返事をした後に、何もする必要がないと言われたのだね?」
ニコラス
「はい」
バックス次期公爵の娘アリアンナは笑顔になった。
アリアンナ
「ドリスはニコ様のエスコートを必要としないと言ったのですね!」
ニコラス
「やはり、そういう意味なのですね...」
ニコラスはガッカリして俯(うつむ)いた。
アリアンナ
「ワタクシは必要としておりますわ!」
ニコラス
「そうですか」
バックス次期公爵
「アリアンナは、ニコラス君にエスコートして欲しいと言っているのだが、お願い出来ないだろうか?」
ニコラスは顔を上げてアリアンナに視線を向けた。
ニコラス
「ドリちゃんに聞いてみないとお応え出来ませんが、ドリちゃんが良ければ、お引き受け致します」
アリアンナ
「ドリスには断られたのに? どうしてそこまでドリスに義理立てなさるのですか? ワタクシでは駄目なのですか? ドリスの一体何がそんなに良いのです?」
ニコラス
「ドリちゃんは世界で一番美しいのです」
バックス次期公爵
「確かにドリスは美人だが、アリアンナだって負けていないだろう?」
デボラ
「お兄様、それは親の贔屓目というものですわ。毎日届くラブレターの数は圧倒的にドリスの方が多いではありませんか」
バックス次期公爵
「それはアリアンナが公爵令嬢で高値の花だからだ。ドリスは男爵令嬢で気軽に手紙が出せる。現に、アリアンナには平民からの手紙は届かないが、ドリスには平民からの手紙が届くじゃないか。デボラの夫であるピーター君は、元平民だしな」
デボラ
「貴族からの手紙だけでも、アリアンナの倍は軽く届いておりますわ」
シルバー公爵
「客人の前で醜い争いはやめなさい。どちらにせよ、大半は容姿に惚れたラブレターなどではなく、この私の孫娘という肩書きに目が眩んだ者達からの手紙だ。2人はデビュー前だし、会った事がない者からの手紙ばかりじゃないか。そんな物は、美しさの基準にはならない。なぁ? ニコラス?」
ニコラス
「はい。そもそも、ドリちゃんの美しさは容姿の美しさではなく、心の美しさです」
シルバー公爵
「ほう、具体的には?」
ニコラス
「ドリちゃんは純粋無垢で、考えている事がほとんど口や態度から出ています。ですから、嘘が吐けません。
こんな事を言ってはなんなのですが、私の企画や創作物を誰もが絶賛します。褒め称え、決して悪口を言いません。両親も私を叱った事がなく、本当の事を教えてはくれません。ですが、ドリちゃんは、良いものは良い、悪いものは悪いと教えてくれます。
嫌われる事を恐れて、偽りの言葉ばかり並べては愛想笑いをする、私とは大違いです。
パートナーを選ぶ上で最も重要な事は信頼関係が築けるかどうかだと私は考えています。どんなに優秀な女性でも、自分を裏切ったり、一方的に利益を吸い上げようとする方とは、パートナーとして一緒に暮らす事は出来ません。
ですがドリちゃんは、本心をほとんど見せない私に対しても、『ニコが何を考えているのかサッパリ分からない』と言いつつも、一緒にいてくれます。
それでいて、私の財産、次期伯爵や次期ギルドの統括といった肩書きには全く興味がないようです。
それどころか、ドリちゃんは見返りを求めず、大事な物を分け与えてくれます。幼い頃、まだ私が自分の物は自分だけの物だと考えていた時から、ドリちゃんは大好物のキャベツを分けてくれたのです。それは自己中心的になっていた私の心を救いました。あの時のキャベツの味を、私は今でも覚えています。
私のような人間は、ドリちゃんを失ったら、二度と真実の愛と出会う事はないでしょう」
デボラ
「ニコ様...」
ピーター
「ニコラス様、ドリスの事をそんなふうに想って下さって有難うございます」
シルバー公爵
「ニコラス、君は今年でいくつになるのかね?」
ニコラス
「14歳になります」
シルバー公爵
「その若さで、よく考えているものだ。君が我が孫娘と結婚して公爵家に入ってくれたら、どんなに嬉しいことだろうか」
ニコラス
「公爵様、勿体ないお言葉、有難うございます」
シルバー公爵
「ならば、ドリスのキャバリエはニコラスに任せよう」
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