【完結】そんなプロポーズでは結婚出来ません![乙女ゲーム転性の続編]

狸田 真 (たぬきだ まこと)

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10. 体温の乱高下に要注意

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ドリス
「帰りましょう」

ニコラス
「今はまだダメだよ。まだ修行が終わってないんだ」

ドリス
「そ、そう...でも、心配している伯爵家には、ちゃんと連絡をしなさいね」

ニコラス
「分かった」

ドリス
「いつまでかかるの?」

ニコラス
「神官長様からお墨付きを頂けたら?」

ドリス
「それは、どのくらい時間がかかるの?」

ニコラス
「さあ?」

ドリス
「さあ!? 舞踏会のデビューはどうするの!?」

ニコラス
「どうもしないけど?」

ドリス
「どうもしない!? それでは...その...デビュタントのエスコートは...?」

ニコラス
「さぁ? それはドリちゃんが決める事じゃないの?」

ドリス
「そ、そうだけど! 何でワタクシにデビュタントのエスコートを申し込まないの? 他の人からはいっぱい申し込みが届いているのよ!?」

ニコラス
「申し込みの手紙なら書いて渡したけど?」

ドリス
「え!? いつ!?」

ニコラス
「去年の誕生日にだよ? 燃やしたのはドリちゃんでしょ?」

ドリス
「あの手紙の中に!?」

ニコラス
「そうだよ?」

 ドリスの胸は熱くなる。

 ニコはワタクシにエスコートの申し込みをしてくれていた!

 ニコラスが365枚も書いたラブレター。読まずに火を付けたのはドリス自身だ。

 ドリスは顔まで熱くなった。

ドリス
「ご、御免なさい...ワタクシのために書いてくれたのに」

ニコラス
「いいんだ。確かにオレは、ドリちゃんが読むの大変だとか、何にも考えずに、オレの伝えたい気持ちだけを優先して書いていたから。もっと言葉を厳選して、少ない文字で分かりやすく書くべきだったんだ。愛が足りなかったんだよ。御免ね、ドリちゃん」

 ドリスは目の奥が熱くなる。

ドリス
「も、もし...まだ、ニコの気持ちが変わっていなかったら...」

 ドリスは熱くなってカラカラになった喉で言葉を絞り出す。

ドリス
「一緒に舞踏会に行ってくれる?」

 ニコラスは坊主頭を掻いた。

ニコラス
「修行が終わっていたらね」

ドリス
「ちょっと待って!? 今年の王宮での舞踏会デビューはニコもするでしょ!?」

ニコラス
「そんなものは、いつでも良いのです。今は人の道を歩む事が最も重要なのであります!」

ドリス
「...それは、ワタクシが人間になれと言ったから?」

ニコラス
「そうだよ?」

ドリス
「あれは、そういう意味ではないのよ」

ニコラス
「え!? そうなの!? じゃ、じゃあ、どういう意味!?」

ドリス
「ニコが芋虫とか、蝶になろうとするから、人間のするプロポーズでいいって言ったのよ。常識を持ってプロポーズして欲しいって意味だったの! 優れた人格者になるのは素晴らしいことだけど、神官の家系でもないのに、プロポーズするために坊主になろうとするのはかえって非常識だわ。それに、そんな不純な動機で坊主になるなんて、どう考えても煩悩だらけじゃない?」

ニコラス
「そ、そっか...また無駄な事しちゃったんだね」

 ニコラスの瞳が不安で揺れるのを、今度こそドリスは見逃さなかった。

ドリス
「いいえ...無駄なんかじゃなかったわ...」

ニコラス
「本当に?」

 ニコラスの瞳が、今度は期待で揺れる。

ドリス
「えぇ、もう、何もする必要などないわ」

 ドリスが微笑むと、ニコラスは眉をしかめた。

ニコラス
「え? ...死ねって...こと?」

ドリス
「ど、どうしてそうなるのよ!?」

ニコラス
「息をするのもやめろって事かと...」

ドリス
「そんな訳ないでしょ!? ニコはワタクシの事を何だと思ってるの!? そんなに凶暴に見えるわけ!?」

 ニコラスが隣にいる護衛騎士に視線を送ると、護衛騎士2人は視線を逸らし、あさっての方角をみた。

 汗を掻いた額に、少し冷たい夜風が吹きつける。

ドリス
「ニコ...どうしてワタクシと結婚したいのよ?」

ニコラス
「結婚しないと、ずっと一緒にいられないからだよ?」

 肌寒さは何処へやら、ドリスは耳まで熱くなった。

ドリス
「どうしてワタクシとずっと一緒にいたいのよ?」

 ニコラスは首を傾げた。

ニコラス
「一緒にいると幸せだからだよ?」

 ドリスは頭のてっぺんから湯気が出そうなほど、自分が熱を発している事を感じた。

ドリス
「そ、そう!? まぁ、ワタクシは美人でお金持ちで、性格も良いから当然よね!」

ニコラス
「うん。ドリちゃんだけなんだ。僕にキャベツを分けてくれたの」

ドリス
「キャ、キャベツ!?」

ニコラス
「うん。キャベツ。他の子は、オレがお金持ちだから、皆、オレから貰う事ばっかり考えてるんだ。贈り物をくれる子も、結婚する事でオレの財産を得ようと狙ってるんだよ? でも、ドリちゃんは、なんの見返りもなく、大好物のキャベツを分けてくれたから...」

 ドリスは一気に凍り付いた。

 キャベツの秘密は、一生墓場まで守り通さなくてはいけない。

ニコラス
「それに、ドリちゃんは、他の子みたいに嘘をつけないんだ。他の子は権力者の息子であるオレのご機嫌を伺って、嘘ばっかりつく。でも、ドリちゃんはいつも、オレのために本当の事を教えてくれるから...あ、愛されてるんだなって思って...えへへ」

 キャベツの秘密は死んでも、神様にだって知られる訳にはいかない!

ニコラス
「それじゃあ、あの...ドリちゃん...何もしなくていいっていうのは...」

 ドリスは、ニコラスが言葉を言い終わる前にニコラスの腕の中に倒れ込んだ。

 ショックな事が続き、あちこち歩き回って疲れた上に、突き飛ばされて喧嘩になったり、熱くなったり、凍えたり、限界がきていたのだ。

 ニコラスがドリスの名前を呼ぶ声を聞きながら、ドリスは意識をそっと手放した。



_________
狸田真より

 皆もキャベツの事は内緒ですよ?
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