【完結】婚約破棄と言われても個人の意思では出来ません

狸田 真 (たぬきだ まこと)

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第二章

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 エミリアが妃試験に受かってから、フリードリヒはもんもんと苦悩する日々を送っていた。

 婚活計画から始まった偽の婚約が、何故か実態を持ってしまい、認められるはずがないと傍観していたら、とうとう周囲が認めてしまった。

 正直なところ、気持ちが追いつかない。

 自分は本当にエミリーと結婚してもいいのだろうか?

 エミリーは自分の理想から遠くかけ離れている。

 華奢なぶりっ子で好みのタイプじゃないし、平民で後ろ盾がない、それどころか、実家とは疎遠で親とは仲が良くないらしい。下品で自己中心的で守銭奴の卑しい女である。

 だったら何故、婚約破棄をしない?

 政略結婚ではないのだから、気に入らなければ婚約破棄をすればいい。

 婚約破棄をしてもエミリーは困らない。

 妃試験に受かった今、エミリーは、何処に出しても恥ずかしくない女性となった。

 王太子妃の見習い侍女として勤務し、更なる教育も受けている。王宮での職務経験があれば、再就職には困らないし、そのまま王宮で侍女として勤務を継続できるかもしれない。

 いや、これはある意味で政略結婚なのだ!

 平民から妃を迎える事で、王室と国民の結び付きを強めることが出来る。

 だが、国内の有力な貴族や外国の姫を妃にもらった方がいいのでは?

 しかし、誰との結婚なら自分は満足が出来る?

 エミリーといるのは正直言って楽しい。

 だが、あんな怪物みたいな女と結婚したいかと言われれば、首を傾げることしか出来ない。エミリーとの間にラブロマンスなんてちゃんちゃらおかしくて、想像も出来ない。

 だが、他のビスクドールみたいな、つまらない女性達から、誰を選べるというのだろうか?

 フリードリヒはいくら考えても答えが出なかった。

 ぐるぐる、ぐるぐる考えて、フリードリヒはクリスチナの元を訪れた。

「悩んでいる事があるのです」

「どんな事でしょうか?」

「とある人物と、重要な契約を結ぼうとしているのですが、その相手がその契約に相応しい人物であるのか、もっと他に適任者がいるのではないかと、迷ってしまっているのです」

「それなら、その契約について詳しい専門家の知恵を借りてはいかがでしょうか?」

「専門家の知恵...?」

「はい。悩まれているのは、フリードリヒ殿下がその契約について知識や経験が足りていないからだと思われます。その知識や経験を専門家に補って頂くとよいでしょう」

「そうですね! 有難うございます!」


________


 エミリアの弟、15歳のマルクスはエミリアに似ている。金髪の巻毛とバッチリ二重の碧眼。

 偉そうな貴族は、マルクスのような若者が対応すると『店主を出せ!』と怒り出す。

 姉のエミリアがいれば『私が店主のエミリアですぅ~! ヴィル王子の親友で、クリスチナ妃の良き相談相手ですぅ~!』とか言って、虎の威を借りて相手を大人しくさせることが出来るが、弟のマルクスには、それが出来ない。

 そこで、エミリアが不在の時には、マルクスは女装してエミリアと偽って店に出ていた。

 胸はないが女装をして化粧をすると、非常に色っぽくなり、18歳のエミリアよりも、少し大人っぽくなるくらいだ。


 そんな風に女装して店に出ていると、店の扉が開かれ、若い貴族の男が来店した。
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