【完結】婚約破棄と言われても個人の意思では出来ません

狸田 真 (たぬきだ まこと)

文字の大きさ
58 / 73
第二章

58

しおりを挟む
「貧乏人に生まれるってことはね! お金がないから生き残るのも大変なことなの! ましてや、勉強するなんて至難の業なのよ! 明日、食べるものがあるか分からない中で、本を買える人間がどれくらいいるかしら!? 当然、仕事をしなくちゃいけないから勉強する時間だってないの!

弟が病気して死にそうになっても薬だって買えないのよ!? だけど、そこで弟が死んだら美談で終わるけど、しぶとい弟は生き残って、私は弟の食いぶちまで稼がなきゃいけなかった! 手間暇かけて面倒見てやったのにアンタらみたいないじめっ子が弟をいじめるから、グレて、非行に走って、遊ぶ金をせびるようになってさ!

私が、私の財布から弟が盗んだ金を取り戻すのに、どれだけ苦労したか、アンタらには分からないでしょうね! 弟から金を巻き上げるいじめっ子を蹴散らして、慰謝料ぶんどってやらなきゃ、教科書なんて高価な物は庶民には買えないんだよ!

お菓子も買えないのに労働するからスレンダーで引き締まったボディになっちゃっただけなのに、悪女とか言ってやっかんでさ! それがマナーのお上手なお貴族様のすることなの!?

男と遊んでるから胸が大きいんじゃなくて、牛乳配達の早朝バイトして、牛乳を分けてもらってたから胸が育ったんだよ!

悩みがなくて馬鹿そう? 庶民は悩んでる暇すらないんだよ! 直感で動いて、ハズレだったら死ぬ人生なんだ!」

 やっぱり、頭は空っぽなんだ?

 と、心のなかで突っ込みを入れるフリードリヒ。

「毎日、遊んでるアンタらと違って、勉強と仕事で忙しくて友達もいなかった私が、学園で出来た初めての友達を好きになる事がそんなに悪なわけ!?

そんな生活で、私は学園で首席の特待生だったのよ! それで? 親の金でサボりながら授業受けてるアンタらは、マナーの何を学んだのさ! 女王陛下は、様式よりもマナーは相手を思いやる精神が大事だって言ってたわ! 教科書に書いてあったから間違いないのよ! アンタらは、そんな素晴らしい教科書だって読んでないんでしょ! それで? 平気で人が傷付くような事を言って、中身のない言葉遣いが大事だとか言ってて恥ずかしくないの!?

私よりも素晴らしい女が、ここにいるなら名乗り出なさいよ!」

 この国は、平民のなんの後ろ盾もない女性が、貴族の子弟相手に喧嘩を売ったら、侮辱罪で殺されてもおかしくない国である。

 エミリアの言葉の重さは、命の重さだった。

 この命がけの発言に、軽薄に生きてきた学生達はただただ圧倒されるしかなかった。


 そして、エミリアには実は後ろ盾があった。

 それは友情だった。

 エミリアの演説を聞いたクリスチナが拍手を贈った。

 少し遅れて、ヴィルヘルムも拍手を贈る。

 すると、卒業パーティーに参加していた僅かな平民の学生も拍手をし始めた。つられて、何も考えていなかった貴族の学生や空気を読む学生も拍手を始める。

 フリードリヒは目を輝かせているクリスチナに嫌な予感がした。

 クリスチナがエミリアの横に立ち、言葉を発する。

「この国は国民の95%が平民です。貴族の務めとは、民を守り、民の暮らしを支えることであり、決して民を侮辱することではありません。エミリア様の言葉遣いが悪いことは直さなくてはいけませんが、エミリア様はワタクシや殿下に対する接し方と変わらず、皆様にも接しており、彼女なりの礼節を示していらっしゃいます。議会は、この賢い方が、妃として相応しい礼節を身に付けられるように、妃教育の厳しいレッスンプログラムと試験を用意しております。勤勉なエミリア様ならば、必ず、試験に合格して下さる事でしょう。祝福して下さい! 平民から妃が誕生する、新しい時代の幕開けを!」

 フリードリヒの嫌な予感は的中した。

 ヴィルヘルムの説明が不十分で、クリスチナは議会のメンバーと同じ認識でいたのである。

「クリスチナ妃バンザイ!」

「エミリア様バンザイ!」

「未来のお妃様バンザイ!」

 第一王子派(クリスチナ妃派)の有力貴族の学生が歓声を上げる。

 エミリアを笑い者にしていた貴族の子弟は、縮こまった。

 クリスチナは、そんな彼らの元へと歩み寄った。

「未来の妃に礼節をお示し下さい」

 渋々、頭を下げる男爵子息。

「誤解をしていたようで申し訳ありません」

「分かってくれたらいいのよ!」

 エミリアは踏ん反り返って笑った。
しおりを挟む
感想 160

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

私が行方不明の皇女です~生死を彷徨って帰国したら信じていた初恋の従者は婚約していました~

marumi
恋愛
「あら アルヴェイン公爵がドゥーカス令嬢をエスコートされていますわ」 「ご婚約されたと噂を聞きましたが、まさか本当だとは!」 私は五年前までこの国の皇女エリシアだった。 暗殺事件に巻き込まれ、幼なじみで初恋の相手だった従者――アルヴェイン公子と共に命からがら隣国、エルダールへ亡命した。 彼の「必ず迎えに来る」その言葉を信じて、隣国の地で彼を待ち続けた……。 それなのに……。 やっとの思いで帰国した帝国の華やかなパーティー会場で、一際目立っているのは、彼と、社交界の華と言われる令嬢だった――。 ※校正にAIを使用していますが、自身で考案したオリジナル小説です。 ※イメージが伝わればと思い、表紙画像をAI生成してみました。

王女殿下のモラトリアム

あとさん♪
恋愛
「君は彼の気持ちを弄んで、どういうつもりなんだ?!この悪女が!」 突然、怒鳴られたの。 見知らぬ男子生徒から。 それが余りにも突然で反応できなかったの。 この方、まさかと思うけど、わたくしに言ってるの? わたくし、アンネローゼ・フォン・ローリンゲン。花も恥じらう16歳。この国の王女よ。 先日、学園内で突然無礼者に絡まれたの。 お義姉様が仰るに、学園には色んな人が来るから、何が起こるか分からないんですって! 婚約者も居ない、この先どうなるのか未定の王女などつまらないと思っていたけれど、それ以来、俄然楽しみが増したわ♪ お義姉様が仰るにはピンクブロンドのライバルが現れるそうなのだけど。 え? 違うの? ライバルって縦ロールなの? 世間というものは、なかなか複雑で一筋縄ではいかない物なのですね。 わたくしの婚約者も学園で捕まえる事が出来るかしら? この話は、自分は平凡な人間だと思っている王女が、自分のしたい事や好きな人を見つける迄のお話。 ※設定はゆるんゆるん ※ざまぁは無いけど、水戸○門的なモノはある。 ※明るいラブコメが書きたくて。 ※シャティエル王国シリーズ3作目! ※過去拙作『相互理解は難しい(略)』の12年後、 『王宮勤めにも色々ありまして』の10年後の話になります。 上記未読でも話は分かるとは思いますが、お読みいただくともっと面白いかも。 ※ちょいちょい修正が入ると思います。誤字撲滅! ※小説家になろうにも投稿しました。

10回目の婚約破棄。もう飽きたので、今回は断罪される前に自分で自分を追放します。二度と探さないでください(フリではありません)

放浪人
恋愛
「もう、疲れました。貴方の顔も見たくありません」 公爵令嬢リーゼロッテは、婚約者である王太子アレクセイに処刑される人生を9回繰り返してきた。 迎えた10回目の人生。もう努力も愛想笑いも無駄だと悟った彼女は、断罪イベントの一ヶ月前に自ら姿を消すことを決意する。 王城の宝物庫から慰謝料(国宝)を頂き、書き置きを残して国外逃亡! 目指せ、安眠と自由のスローライフ! ――のはずだったのだが。 「『顔も見たくない』だと? つまり、直視できないほど私が好きだという照れ隠しか!」 「『探さないで』? 地の果てまで追いかけて抱きしめてほしいというフリだな!」 実は1周目からリーゼロッテを溺愛していた(が、コミュ障すぎて伝わっていなかった)アレクセイ王子は、彼女の拒絶を「愛の試練(かくれんぼ)」と超ポジティブに誤解! 国家権力と軍隊、そしてS級ダンジョンすら踏破するチート能力を総動員して、全力で追いかけてきた!? 物理で逃げる最強令嬢VS愛が重すぎる勘違い王子。 聖女もドラゴンも帝国も巻き込んだ、史上最大規模の「国境なき痴話喧嘩」が今、始まる! ※表紙はNano Bananaで作成しています

処理中です...