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第二章
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しおりを挟むフリードリヒは再び令嬢達との会話に戻った。
だが、やはり相手にされない。
これが街中であったら、知らない人に話しかけられれば、身の危険があったり、群がる貧民を相手にしきれないから、拒絶してやり過ごすということは必要だ。
だが、このパーティーは有象無象が集まるパーティーではない。有力貴族しか招待されていない特別なパーティーである。
例え自分が知らない相手でも、参加者はすべて国の重要人物であるのだ。無下に扱えば家門の敵を増やすことになる。
家名を背負っているはずの令嬢達が、そんなことも理解出来ず、挨拶一つまともに出来ないとは嘆かわしい!
クリスチナ様なら10歳の時には完璧にその事を理解されていたのに!
フリードリヒは溜息を吐いた。
仕方がない、やり方を変えるか。
フリードリヒはわざと目立つように颯爽と大股で歩き、偽第二王子の元へ向かった。
「王子殿下にご挨拶させて頂きます! フリッツでございます」
「あぁ、フリッツか...」
「王子にフリッツと呼んで頂けるのは久しぶりですね!」
「あ、あぁ」
すると、取り巻きの令嬢達も会話に加わる。
「まぁ、王子殿下のお知り合いでいらっしゃるの!?」
「私と王子は幼馴染なのです」
「そうなのですか! お見かけした事のない気が致しますが、今までどちらに?」
「今日は無礼講のパーティーですので、お教えすることは出来ませんが、とある伯爵領を治めております」
これは嘘ではない。フリードリヒは、公爵と伯爵と男爵の爵位を持っており、公爵領と伯爵領を保有している。実際に実務を行っているのはフリードリヒの臣下だが、フリードリヒが治めているのだ。
「若くていらっしゃるのに伯爵様ですの!?」
「お父様が早くに亡くなられたのですか?」
「いえ、父は健在です」
「では、存命中に爵位を譲られたのですね? 素晴らしいですわ! 優秀でいらっしゃって!」
令嬢達がこれ見よがしにゴマを擦ってくることに気を良くしたフリードリヒだったが、次の瞬間、偽第二王子ことヴィルヘルムによって爆弾が投下された。
「公爵領も保有しているのに、何で伯爵領を自慢気に話しているんだ?」
会場は騒ついた。
この国では、公爵の称号は王族の血の流れをくむ者か、属国になった他国の王族にしか与えられない。その数はたったの6名であり、王太子と第一王子、第二王子、ガルボ公爵、他2名である。
しかも、若い公爵は王子の2人だけ。
馬鹿兄貴め! エミリーも、兄上にきちんと今日の趣旨を説明しなかったのか!? ドッキリパーティーじゃないんですよ!?
「ま、まぁ、それは素晴らしい...」
「た、大変なご無礼を!」
国の重臣である父兄達は、光速で跪き、頭を下げ、臣下の礼をとった。フリッツを変装したヴィルヘルムだと思ったのだ。
令嬢達もそれに習って跪く。
フリードリヒは溜息を吐き、それから、カツラとマスクを外した。
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