【完結】婚約破棄と言われても個人の意思では出来ません

狸田 真 (たぬきだ まこと)

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 そんな重たい空気を破るように、エミリアの甲高い声が響いた。

「ちょっと、待って下さい! 私はどうなるんですかぁ!?」

 マイヤー宰相はため息を吐き、呆れた声で言った。

「エミリア嬢、発言を許した覚えはないが、君はマナーも知らないのかね? 王子殿下、付き合う友達は選んだ方がよいですぞ」

「な、何よ! 失礼なのはあなたの方でしょ!? 急に呼び出して尋問した上に、放置!? それとも、約束通り、女王試験を受けさせてくれるんですか!?」

 他の議会のメンバーも呆れている。

「殿下は友人だと仰っていませんでしたか?」

「プロポーズどころか手も繋がれていないと仰られていましたよ」

「誰だ? こんな馬鹿を学園に入学させたのは? 女王どころか、王宮に入城していい品格すら持ち合わせていないではないか! 今すぐに摘みだせ!」

「やだ怖ぁ~い! ヴィル! 助けて! 怖いおじさん達が酷いこと言ってくる!」

 エミリアの問いに、ヴィルヘルムではなく、宰相の隣に座る大臣が説明する。

「この方は国の宰相でヘルムート・マイヤー侯爵であらせられます。新聞もお読みにならないのですか?」

「え!? やっば、この人が宰相!? だって、新聞なんて庶民には高いし...」

「学園の図書室でも閲覧は可能です」

「でも、特待生だから新聞なんて読んでる暇なんてないのよ!? 教科書覚えるの大変なんだから!」

 王太子が侍従に耳打ちすると、侍従は2人の騎士を呼び、エミリアの両サイドに立ち、エミリアの肩と腕を押さえた。

「何するの!?」

「勘違いで時間をとらせてしまったようだ。だがヴィルヘルムと結婚の約束をしているかのように振る舞っていた件に関しては、食事の件と併せて、後日、裁判所に出廷してもらうから、そのつもりでいるように。衛兵、別室に案内してやれ」

 王太子の言う別室とは牢獄のことである。平民が王族を騙した罪は重い。

「嫌よ! どうしてそうなるの!? ヴィル! 助けて!」

「結婚の約束をしているかのように振る舞っていた? エミリアが? 何故?」

「結婚の約束をしてもらったなんて言ってないです! ただ、ヴィル王子はクリスチナ様に不満があって私といたわけだし~、私と結婚する可能性もあるなぁ~って、話しただけです! それを勝手に周りが勘違いしただけでしょ!? 実際、ヴィルは私のこと好きなんだなぁ~って思ってたんだけど違うの?」

「友達だから、当然好きだが...」

「...」

 口が塞がらないとはこの事かと思うほど、その場にいた皆の口が開いていた。

 沈黙の後、王太子が再び退室を促す。

「さぁ、もう、いいだろう、その件は後日、話し合おう」

 エミリアは騎士達に引きずられて会議室から退場した。

 宰相は咳払いをして、女王の方へと向き直った。

「何やら、多くの誤解があったようですな。では、後日、改めてクリスチナ公女やフリードリヒ王子にも話を聞くと言う事で、宜しいでしょうか?」

「はい。娘と話をしてみます」

「私もフリードリヒに事情を聞きましょう」

 こうして混乱状態のまま議会は解散となった。


____________

 その晩。女王と王太子はフリードリヒを呼び出した。

「ヴィルヘルムの婚約破棄が成立した後、お前とクリスチナが婚約すると聞いたが本当か?」

 王太子の質問にフリードリヒが答える。

「もう、陛下や父上に話して下さった方がいらっしゃるのですか?」

「では、本当なんだな?」

「はい」

「しかし昨晩、クリスチナ公女は、婚約破棄をしないと言っていた」

「そうですね。しかし、今朝は、婚約破棄が成立してしまったら私と婚約してもよいと仰ったのです。誰だって、自分を愛さない相手より、自分を愛してくれる相手と結婚したいと考えるものではないでしょうか? 今は婚約破棄を宣言さればかりで傷付いておられます。気が動転して、意見が二転三転することもあるでしょう。

ですが、私は兄上のように我儘を言ってクリスチナ様を困らせたり、心変わりして婚約破棄や離婚を言い出したりはしません。一途にクリスチナ様を愛し、支えます。どうか、陛下からクリスチナ様に、私と結婚するように言って頂けないでしょうか? 国のためには、その方が良いと」

 女王は目を細め、フリードリヒを注意深く観察した。

「お前の魂胆は分かっている。クリスチナ公女と結婚し、王位を手に入れるつもりであろう」

「誤解です陛下! もちろん、私が兄上よりも王位に相応しいと判断して下さったら、そのようにして頂きたいと考えておりますが、私がクリスチナ様に求婚したのは、あの方を愛しているからです。兄上はクリスチナ様を愛していないのですから、婚約破棄を認めてあげて下さい!」
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