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ヴィルヘルムの握る花に、ふと、蝶が止まった。
「お前は...クリスチナの家臣!?」
蝶が飛び立つので、何となく後を追う。
「待ってくれ!」
建物の角を曲がったところで、蝶の行方は分からなくなってしまった。
そのかわりに、そこには馬車が停まっていた。恐らく、フリードリヒが使った馬車だろう。御者が馬車の窓や外壁を拭いている。
「この馬車、すぐに出せるか?」
「今、帰って来たばかりですので、馬の体力を考えると、遠くへは行けませんが、短い距離でしたら可能性です」
「ガルボ公爵家へ行ってくれ」
「それなら大丈夫です。どうぞ、お乗り下さい」
ヴィルヘルムは馬車に乗り込み、ガルボ公爵家へと向かった。窓を開けていたら、道中、御者が話しかけてくる。
「今日はフリードリヒ王子もガルボ公爵邸に行かれたのですよ。こ~んな大きな薔薇の花束を抱えて! 今日は、ガルボ公女様のご卒業祝いパーティーでもあるのですか?」
「フリードリヒが薔薇を?」
「はい。クリスチナ様もおめかしされていらして、大変綺麗でしたよ」
「クリスチナがおめかし?」
「そうなんですよ! フリードリヒ様が帰宅される際にお見送りに玄関までいらっしゃって、にこやかに談笑されておりました。いやぁ~、あの方も、笑われると年頃のお嬢様なのですね! ほら、ヴィルヘルム殿下と一緒のときは、いつも周囲に睨みを効かせていらっしゃるので...あ、悪口ではないんですよ? いつも立派であらせられるから、若いご婦人だということを忘れてしまうというか...」
御者の独り言のようなトークを聞きながら、ヴィルヘルムはぐるぐると思考を巡らせた。
クリスチナがフリードリヒと会うために着飾っていただと!? 昨日の卒業パーティーですら、地味なドレスを着ていたんだぞ!?
不安な気持ちが押し寄せる。
クリスチナは僅か8歳で出会ったときから完璧な貴婦人(レディ)だった。公爵である厳格な父親と隣国の姫である母親の間に生まれた三女で、生まれた時から、国に生涯を捧げる事が決まっていた。
ヴィルヘルムは、それまで、自分は優秀なつもりでいた。国1番の家庭教師達がついていたお陰で、平均的な子供よりもずっと、色んな事が出来たからだ。
しかし、クリスチナの優秀さは次元が違った。
試験で100点満点を取るようなタイプではなかったが、一度でもクリスチナと話した事がある人間は、誰しもクリスチナを「天才」「国の至宝」「神様から人類に与えられた贈り物」と褒め称えた。
それは、クリスチナに私心がなかったからだ。欲がなく、常に人のために考え、人のために行動し、人のために尽くす。泣かず、怒らず、そして嫉妬もしない。
華美なドレスも宝石も買わず、代わりに貧しい人々が勉強するための奨学金制度を作った。また、国を視察し、国の優れた人物を見つけると、勲章と報奨金をだした。治安の悪い地域や評判の悪い会社や団体に、公爵家の騎士を潜入捜査官として派遣し、犯罪や不正の摘発にも力を入れている。
何の見返りを求めず愛してくれる人間を、愛さずにいられる者がいるだろうか?
私がクリスチナを愛するようになるのに、時間はかからなかった。
「お前は...クリスチナの家臣!?」
蝶が飛び立つので、何となく後を追う。
「待ってくれ!」
建物の角を曲がったところで、蝶の行方は分からなくなってしまった。
そのかわりに、そこには馬車が停まっていた。恐らく、フリードリヒが使った馬車だろう。御者が馬車の窓や外壁を拭いている。
「この馬車、すぐに出せるか?」
「今、帰って来たばかりですので、馬の体力を考えると、遠くへは行けませんが、短い距離でしたら可能性です」
「ガルボ公爵家へ行ってくれ」
「それなら大丈夫です。どうぞ、お乗り下さい」
ヴィルヘルムは馬車に乗り込み、ガルボ公爵家へと向かった。窓を開けていたら、道中、御者が話しかけてくる。
「今日はフリードリヒ王子もガルボ公爵邸に行かれたのですよ。こ~んな大きな薔薇の花束を抱えて! 今日は、ガルボ公女様のご卒業祝いパーティーでもあるのですか?」
「フリードリヒが薔薇を?」
「はい。クリスチナ様もおめかしされていらして、大変綺麗でしたよ」
「クリスチナがおめかし?」
「そうなんですよ! フリードリヒ様が帰宅される際にお見送りに玄関までいらっしゃって、にこやかに談笑されておりました。いやぁ~、あの方も、笑われると年頃のお嬢様なのですね! ほら、ヴィルヘルム殿下と一緒のときは、いつも周囲に睨みを効かせていらっしゃるので...あ、悪口ではないんですよ? いつも立派であらせられるから、若いご婦人だということを忘れてしまうというか...」
御者の独り言のようなトークを聞きながら、ヴィルヘルムはぐるぐると思考を巡らせた。
クリスチナがフリードリヒと会うために着飾っていただと!? 昨日の卒業パーティーですら、地味なドレスを着ていたんだぞ!?
不安な気持ちが押し寄せる。
クリスチナは僅か8歳で出会ったときから完璧な貴婦人(レディ)だった。公爵である厳格な父親と隣国の姫である母親の間に生まれた三女で、生まれた時から、国に生涯を捧げる事が決まっていた。
ヴィルヘルムは、それまで、自分は優秀なつもりでいた。国1番の家庭教師達がついていたお陰で、平均的な子供よりもずっと、色んな事が出来たからだ。
しかし、クリスチナの優秀さは次元が違った。
試験で100点満点を取るようなタイプではなかったが、一度でもクリスチナと話した事がある人間は、誰しもクリスチナを「天才」「国の至宝」「神様から人類に与えられた贈り物」と褒め称えた。
それは、クリスチナに私心がなかったからだ。欲がなく、常に人のために考え、人のために行動し、人のために尽くす。泣かず、怒らず、そして嫉妬もしない。
華美なドレスも宝石も買わず、代わりに貧しい人々が勉強するための奨学金制度を作った。また、国を視察し、国の優れた人物を見つけると、勲章と報奨金をだした。治安の悪い地域や評判の悪い会社や団体に、公爵家の騎士を潜入捜査官として派遣し、犯罪や不正の摘発にも力を入れている。
何の見返りを求めず愛してくれる人間を、愛さずにいられる者がいるだろうか?
私がクリスチナを愛するようになるのに、時間はかからなかった。
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