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「はい、殿下...到着いたしました」
馬車が緩やかに王宮の前に到着し、小姓が馬車のドアを開ける。
「護衛騎士の皆様、殿下を宮中医の元へ! 手の骨や血管に異常がないか、確認をして下さい」
「はっ!」
「あの...私は、その...クリスチナ...」
「お約束は守って下さいませ!」
「あ、あぁ...」
護衛騎士に連行されるヴィルヘルムを見送ると、クリスチナは女王と王太子に謁見を申し入れた。
間もなくして、クリスチナの謁見は許された。議会のメンバーの中でも重臣だけが入室を許される会議室へと通される。
すでに女王と王太子、大臣達が着席していた。クリスチナも末席に座る。
「話は聞いた。ヴィルヘルムが婚約破棄を言い出したと。そして、そなたがそれを諌めようとしたこと。ヴィルヘルムが毒見なしの食事をしていたことが発覚したこと。まずは私から謝罪しよう。愚かな孫が迷惑をかけて申し訳ない」
「いえ、すべてはワタクシがヴィルヘルム殿下のお気持ちを繋ぎ止められていなかった所為でございます。申し訳ありません」
「そなたの問題ではないヴィルヘルムの問題である。だが、この事態を収拾するために力を借りたい」
「もちろんでございます」
「そなたが望むならば、婚約破棄を受け入れ、第二王子と婚約してもよい。議会はそなたが女王になる事を望んでいる」
「つまり、次期王太子を第二王子であるフリードリヒ殿下になさるということでしょうか?」
「そうだ。議会が選んだ妃であるそなたとの婚約を破棄するということは、王家と議会との絆に亀裂を生じさせる。そして、国民が選んだ妃を排するということは、国民からの信用を落とし、国を弱体化させることにも繋がる。よって、ヴィルヘルムは代償として王位継承権を剥奪されることになる」
「ワタクシは婚約破棄がなされても、ヴィルヘルム殿下の元を離れる気はございません。ヴィルヘルム殿下こそが、次期王太子、ゆくゆくは王になるべきだと考えております」
「ほう、何故、そのように考える?」
「ヴィルヘルム殿下は裏表がなく非常に分かりやすい性格をしており、殿下本人も自分には足りない所がある事を自覚しております。そのため、臣下の言葉に耳を傾ける事が出来ます。欲望には忠実なところがございますが善良です。間違いを犯しても、議会の皆様のお力で、ヴィルヘルム殿下を正しい道へと導く事が出来るとワタクシは考えます。
しかしながら、フリードリヒ殿下は賢くあらせられますが、その分、臣下の言葉に耳を傾けることが難しい。そして、裏表がございます。臣下の苦言を聞き入れたフリをして、受け流すこともしばしばございます。それは処世術に長けたフリードリヒ殿下の美徳でもありますが、一歩間違えば独裁の道を歩むことにもなりかねません。
ワタクシは、ヴィルヘルム殿下が王となり、フリードリヒ殿下と議会で王をコントロールし、国を統治する事が、最も望ましい形であると考えます」
「素晴らしい考えだ!」
「異議なし!」
「ふむ...だが、ヴィルヘルムと婚約破棄をしても良いのか?」
馬車が緩やかに王宮の前に到着し、小姓が馬車のドアを開ける。
「護衛騎士の皆様、殿下を宮中医の元へ! 手の骨や血管に異常がないか、確認をして下さい」
「はっ!」
「あの...私は、その...クリスチナ...」
「お約束は守って下さいませ!」
「あ、あぁ...」
護衛騎士に連行されるヴィルヘルムを見送ると、クリスチナは女王と王太子に謁見を申し入れた。
間もなくして、クリスチナの謁見は許された。議会のメンバーの中でも重臣だけが入室を許される会議室へと通される。
すでに女王と王太子、大臣達が着席していた。クリスチナも末席に座る。
「話は聞いた。ヴィルヘルムが婚約破棄を言い出したと。そして、そなたがそれを諌めようとしたこと。ヴィルヘルムが毒見なしの食事をしていたことが発覚したこと。まずは私から謝罪しよう。愚かな孫が迷惑をかけて申し訳ない」
「いえ、すべてはワタクシがヴィルヘルム殿下のお気持ちを繋ぎ止められていなかった所為でございます。申し訳ありません」
「そなたの問題ではないヴィルヘルムの問題である。だが、この事態を収拾するために力を借りたい」
「もちろんでございます」
「そなたが望むならば、婚約破棄を受け入れ、第二王子と婚約してもよい。議会はそなたが女王になる事を望んでいる」
「つまり、次期王太子を第二王子であるフリードリヒ殿下になさるということでしょうか?」
「そうだ。議会が選んだ妃であるそなたとの婚約を破棄するということは、王家と議会との絆に亀裂を生じさせる。そして、国民が選んだ妃を排するということは、国民からの信用を落とし、国を弱体化させることにも繋がる。よって、ヴィルヘルムは代償として王位継承権を剥奪されることになる」
「ワタクシは婚約破棄がなされても、ヴィルヘルム殿下の元を離れる気はございません。ヴィルヘルム殿下こそが、次期王太子、ゆくゆくは王になるべきだと考えております」
「ほう、何故、そのように考える?」
「ヴィルヘルム殿下は裏表がなく非常に分かりやすい性格をしており、殿下本人も自分には足りない所がある事を自覚しております。そのため、臣下の言葉に耳を傾ける事が出来ます。欲望には忠実なところがございますが善良です。間違いを犯しても、議会の皆様のお力で、ヴィルヘルム殿下を正しい道へと導く事が出来るとワタクシは考えます。
しかしながら、フリードリヒ殿下は賢くあらせられますが、その分、臣下の言葉に耳を傾けることが難しい。そして、裏表がございます。臣下の苦言を聞き入れたフリをして、受け流すこともしばしばございます。それは処世術に長けたフリードリヒ殿下の美徳でもありますが、一歩間違えば独裁の道を歩むことにもなりかねません。
ワタクシは、ヴィルヘルム殿下が王となり、フリードリヒ殿下と議会で王をコントロールし、国を統治する事が、最も望ましい形であると考えます」
「素晴らしい考えだ!」
「異議なし!」
「ふむ...だが、ヴィルヘルムと婚約破棄をしても良いのか?」
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