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第三幕 学生期

229.龍人は不幸な結婚を望まない ❤︎

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アントニオ
「誰にでもってわけじゃないよ。カレン様は俺のことを焦茶の不細工で嫌だって思ってるかもしれないけど、国のために結婚する覚悟を決めたんだろ? 立派な人じゃないか。俺は、そんなカレン様のことを尊敬するよ。心から愛してもらえないのは悲しいけど...とっても、とっても寂しいけど、カレン様は俺を嫌っていても、俺に対して嫌悪感を見せないように配慮して下さっている。ダンスパートナーも引き受けて、俺を助けてくれたんだ。そんなカレン様のことを俺も大事にしたいって思うよ」

 バルドはアントニオの頭を撫でた。

 自分を嫌う人間を敬愛する? こいつの脳内お花畑は深淵の森にあるオルソの丘の花畑より広大なのか!誰かが懸命に花を摘んだところで、エストの花を全て摘みとることなど出来ないんだな。ハハ!

 バルドがあんまり頭を撫でくり回すものだから、アントニオの髪はぐちゃぐちゃになってしまった。

アントニオ
「ちょ、ちょっと!? 何するんだ! せっかくの俺のサラ毛が台無しになるだろ!」

バルド
「さっき、俺の高級な衣服に鼻水をつけていたのは誰だ?」

アントニオ
「あれは俺がつけたのではありません。ルドが俺の鼻にぶつかってきたのです」

バルド
「ふぅ~ん? じゃあ、エストの頭も俺の手に勝手にぶつかってきているから、おあいこだな!」

アントニオ
「何だと!」

 リンは、戯れているアントニオとバルドをにこやかに眺めながら考えていた。

 龍人は滅多に結婚しないが、人族の結婚がどういうものかは知っている。もしかしたら人族以上に知っているかもしれない。

 結婚して、一緒に生活し、子供を産んで、育てて、一生添い遂げるということは、並大抵のことでは出来ない。好きな者同士で結婚したとしても、相手を嫌いになってしまう事が往々にしてあるくらい、結婚生活とは難しいものなのだ。我慢して結婚した相手となど平穏な結婚生活がおくれるはずもない。たとえ自分が我慢出来たとしても、相手が我慢出来なくなったり、不仲な両親の間で子供が不幸になってしまう。

 龍人はそれが分かっているから、結婚しないんだ。

 エストは国のため、領民のため結婚するなどと考えているようだが、王や領主が不幸な結婚をした為に、人民が苦しむことになった歴史は数多く存在する。

 エストには幸せな結婚をしてもらわないと困る! そうじゃないと、一緒に暮らす俺達も不幸になるというものだ。

 俺の300年の経験から言えることは、エストは結婚がしたいだけで、王女を愛しているわけではない。愛そうとしているだけだ。俺は、エストにエストだけの特別な番(つがい)を見つけてやりたい。

 王女はその特別にはなり得ないだろう。だが、俺が王女との結婚を反対だと言っても、女好きの癖に100年以上非モテ童貞だった結婚したがりのエストは納得しないはず。あまりしたくはなかったが、エストの人間不信を煽(あお)って、今回は結婚を諦めさせるか。

リン
「婚約の話だが...エストが王宮に住むことになっても良ければカレン王女と婚約してもいいんじゃないか?」

バルド
「良くはないだろう。王宮暮らしはジーンシャン城以上に自由がないし、うるさい。」

アントニオ
「俺はジーンシャンの次期領主だから無理だよ...婿養子にならないと結婚は出来ないの?」

リン
「エストを王宮に閉じ込めたい王家の連中より、ジーンシャンの奴らの頭がまわれば回避できると思うが...どちらの方がより陰謀を得意とするかな?」

アントニオ
「ロベルトお祖父様やクラウディオ(ジュゼッペ父)、それにアウロラはとっても頭がいいよ!」

リン
「アウロラは陰謀なんて面倒なことは苦手だろ? バーサーカーの爺さんは得意そうだが...ジュゼッペの父親はどうだろうな? どちらも遠いジーンシャン領にいるし、知恵を借りるのが難しい場合もある。勇者やその弟は話にならないだろうし、聖女はハメられてからキレるタイプだな。一方、王家の連中は陰謀の専門家みたいなものだから手強いぞ?」

アントニオ
「リンやルドは手を貸してくれないの?」

リン
「俺達はいつも一緒にいられるわけじゃない。エストがうっかり失言して言質(げんち)をとられたら終わりだ。王宮に軟禁されたくなかったら、エスト自身がしっかりしてないと駄目だろうな。ちゃんと自分で回避出来るか?」

アントニオ
「頑張れば...」

バルド
「出来るわけないだろ! 相手は四六時中、どうやったら人が思い通りに動くのかを考えて暮らしている専門家だぞ! お前では相手にならん。お前はいつもそんな事を考えていないだろ?」

アントニオ
「俺だっていつも考えてるよ! どうやったら人が笑顔になるかとか、元気のない人をどうやって元気付けようかとか、相手が不愉快な気持ちにならないように気を付けたりして、人のことをいっぱい考えて暮らしているんだから! それに、人の気持ちを動かすのは得意中の得意だ! 2人だって知ってるだろ?」

 バルドとリンは互いに目を合わせてから、天を仰いで溜息をついた。
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