上 下
202 / 249
第三幕 学生期

200.白銀のトニー様2 ❤︎

しおりを挟む
 今日は必修であるダンスの授業がある日である。本来なら1週間の間に相手をみつけるのだが、学校が休校だったこともあり、多くの学生がパートナーを見つけられないでいた。

 ダンスパートナーの決まっていない学生達は焦っていた。今年は男同士で組んだ学生が多かったこともあり、特に女子学生が余っている。女子なのにあぶれるなんて不名誉なことになれば、その後の結婚話にどんな影響を及ぼすか分かったものではない。相手が決まっていない女子学生の焦りは大変なものであった。

 アントニオのクラスメイトであるリアナ・ジャニエスもパートナーがきまっていない女子学生のうちの1人だ。

 リアナは、王立学校に入ったが、男爵家を継ぐ気もなければ、騎士になる気もない。将来は花嫁希望である。王立学校の在学中に、少しでも条件のいい相手を見つけて結婚する。それこそが、リアナの目標であった。

 ダンスの授業がはじまる前に、なんとしてもパートナーを見つけないと! 望まない相手と強制的に組まされてしまうわ。不細工な男とペアを組むのも、女同士でペアを組むのも、真平ごめん! そんなことになったら、親戚達や家臣達からどんな目で見られるか!

 リアナが、本校舎に入ると、玄関に最も近いロビーに人が集まっているのが見えた。

 しまった! パートナーが見つかっていない人は、ロビーに集まって相手を探すのが恒例だったんだわ! 出遅れた! まだ、好物件の男子生徒が残っているといいけど...

 急いでリアナも、人だかりに近付く。

 あ、良かった! まだ、結構男子が残ってる!

 男子学生達が女子学生達を囲んでいるのだが、何故か女子学生達は男子学生達に目もくれず、ロビーのソファーのある辺りを見ているようだ。何があるのかは人が多過ぎて、背の低いリアナでは見えない。

 一体、どうしたのかしら? 何かあるのかしら?

 リアナは男子学生の輪の中に商家のマーク・ホワイトリーがいるのを見つけた。

 マークなら何か知っているかも。

リアナ
「おはようございまぁ~す」

 リアナが声をかけると、マークは嬉しそうにした。

マーク
「おはようございます」

リアナ
「どうしたの? あっちに何かあるの?」

マーク
「まだ私はペアが決まっていなくて、フリーの女子にダンスのパートナーをお願いしようと思ったのですけど、見たこともないほどのイケメンの王子様がいるとかで、女子は誰も相手にして下さらないのです」

リアナ
「うそ!? イケメンの王子様!? タイラ王子じゃなくて?」

マーク
「違うらしいです。でも、タイラ王子より明るい白銀の髪なんだとか」

リアナ
「本当!? ちょっと見てくる!」

 リアナは、人を押しのけて先に進んだ。

マーク
「あ! ちょっと、待って!」

 マークはリアナにダンスパートナーを頼めるかもしれないと思い、慌てて後を追う。

 最前列の学生を押しのけて前に出たリアナは、ロビーのソファーに座る男子学生と護衛騎士2人を発見した。

 王子様だわ!

 白銀のサラサラした髪。猫のようなアーモンドアイには宝石のようなスカイブルーの瞳がはまっている。スッと通った鼻筋、すらっとのびた手足、白い肌。まるで、御伽噺(おとぎばなし)の王子様が絵本から抜け出してきたような美しさである。

 白銀の王子様は、飛び出したリアナとマークに視線を向けると、笑顔になって手を振った。

 いや、王子様なんかじゃないわ! 天使! 神の御使(みつかい)様だわ!

 リアナは、夢見心地で手を振り返した。

マーク
「え!? リアナ様のお知り合いですか?」

リアナ
「知らない。」

マーク
「えぇ!?」

 だが、白銀の王子様は立ち上がると2人のもとへと歩み寄った。

白銀の王子
「マーク様、おはよう御座います。」

 一斉にマークに視線が集まる。

 マークは困惑し、キョロキョロとまわりを見渡した。

マーク
「はい!? 私!? あ、お、おはよう御座います?」

 声を裏返しながらマークがこたえると、護衛騎士のうちの1人が笑い出した。

 笑う護衛騎士を見ると、見知った顔がそこにあった。

 あ! この人はアントニオ様の護衛騎士の...

リッカルド
「やっぱり、色が違うだけで皆、分からないんですね!」

ヴィクトー
「あんまり笑うなよ。お前だって、人の事を言えないだろ?」

白銀の王子
「マーク様、すみません。部下の礼儀がなっていなくて...リッカルド!」

リッカルド
「申し訳ありません。トニー様。」

マーク、リアナ
「「ト、トニー様!?」」

マーク
「トニー様...ということは...アントニオ・ジーンシャン様なのですか?」

アントニオ
「はい。そうです」

 遠巻きに眺めていた女子達にも動揺が走る。

マーク
「ど、ど、どうしたのですか!? その...髪とか...」

アントニオ
「今日はダンスの日ですので、カレン王女に迷惑をかけないように、お洒落をして来ました」

マーク
「お、お洒落!?」

 目を凝らしてもカツラには見えない。髪の色を変えるなんて、お洒落の粋を超えている気がする。

アントニオ
「焦茶ですと、見すぼらしくて、カレン様にご迷惑をかけてしまうかもしれないと思ったのです。少しは見られるようになってますか?」

マーク
「見られるなんてレベルではないです! とてもカッコイイです! 何処の王子様だろうって話していたんです。ねぇ? リアナ様!」

 リアナは真っ赤になってコクコクと頷いた。

アントニオ
「ははは、マーク様は口が上手いな。流石、ホワイトリー商会の御子息ですね」

マーク
「いえ...お世辞ではないです...」

 アントニオの笑顔を見て、周囲の女子がよろめいている。

 マークは、そんな周囲の状況を冷静に把握しながら、一体、どういう事なのかを必死に考えた。

 考えてみれば、アントニオ様は聖女様の御子息である。髪が白銀でもおかしくはない。そして勇者様の御子息でもあるアントニオ様がスカイブルーの瞳でも、なんら不思議ではないはずだ。

 むしろ、焦茶で生まれる方が不思議である。

 そういえば、パパが言っていた。『ジーンシャン領に現れるローレライの正体は、次期領主のトニー様であると噂されている』と、ジーンシャン領を担当する部下の商人が話していたとか。

 歌が上手いからだと思っていたが、見た目も美しかったのだ!

 美し過ぎて、人心(じんしん)を惑わし、きっと色々な問題が起きたに違いない。

 そこで、あえて焦茶のカツラを被って、王立学校に入学し、ソバカスをいっぱい描いて、不細工を装っていたのだろう。

 あの焦茶がカツラだとは気が付かなかった!

 しかし、王女様とダンスを踊るのに、変装したままでは失礼にあたるから、変装を解いたという事だ!

 ウンウンと頷くマークの横で、リアナは気持ちがぐるぐると回っていた。

 ダンスパートナーを募集していた、あの時、何故、自分がペアを組むと言わなかったのだろう!?

 冷静に考えてみればアントニオ様は、身分も、お金も、身体能力も、マナーも、全てが最高級の王子様なのに、髪の色に惑わされて、本質を見抜けていなかった!

 プロポーションや顔の形も整っているし、タイプが違うけど、レオ様と同じか、それ以上にカッコイイかも!?

 あの時、誰も名乗り出なかった、あの時に、自分が名乗り出ていれば!

 せっかく、同じクラスになったのに、まだ、お知り合いにもなってもらっていない。それどころか、不遜な態度ばかり晒してしまった!

 どうして、あんな態度をとってしまったの!?

 今からでも遅くない? 私の可愛さをアピールしなくては!

 リアナが懸命にぎこちない笑顔を作りアントニオに笑いかけると、アントニオはリアナの変化に気が付いて嬉しそうに笑った。

 その顔面の破壊力が、あまりにも凄過ぎて、リアナは思わず顔を背けてしまった。

 しまった! 今のは感じが悪いわ! でも、無理! 火が出そうなくらい顔が熱くて、歪な形に歪んでいる気がする! 可愛い顔に戻して、もう一度、振り向きたいけど、体が言うことをきいてくれないわ!

 アントニオはリアナが不思議な動きをしながら、汗をかいているので具合が悪いのだと思った。

アントニオ
「大丈夫ですか? 具合が悪そうですよ?」

リアナ
「だ、だ、だ、大丈夫です。」

 どう見ても大丈夫そうではない。

アントニオ
「保健室に連れていってあげたいのですが、私はカレン様を待っていなくてはいけないのです。リッカルドかヴィクトー、どちらでも、いいから彼女を保健室へ...」

リッカルド
「申し訳ありませんが、あんな事件の後ですから、私達はトニー様の側を離れるわけにはいきません。」

ヴィクトー
「マーク君、彼女のことをお願い出来るか?」

マーク
「は、はい!」

 リアナは内心、『違ーう!』と叫んだが、『では、どうして、そんな態度を?』と説明を求められたら困るし、もはや心臓が限界だったので、はやく、その場を離れようと、具合が悪くなったフリをすることにした。

リアナ
「申し訳ありません。失礼いたします」

 リアナはマークに支えられて、その場を後にした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

断罪されているのは私の妻なんですが?

すずまる
恋愛
 仕事の都合もあり王家のパーティーに遅れて会場入りすると何やら第一王子殿下が群衆の中の1人を指差し叫んでいた。 「貴様の様に地味なくせに身分とプライドだけは高い女は王太子である俺の婚約者に相応しくない!俺にはこのジャスミンの様に可憐で美しい女性こそが似合うのだ!しかも貴様はジャスミンの美貌に嫉妬して彼女を虐めていたと聞いている!貴様との婚約などこの場で破棄してくれるわ!」  ん?第一王子殿下に婚約者なんていたか?  そう思い指さされていた女性を見ると⋯⋯? *-=-*-=-*-=-*-=-* 本編は1話完結です‪(꒪ㅂ꒪)‬ …が、設定ゆるゆる過ぎたと反省したのでちょっと色付けを鋭意執筆中(; ̄∀ ̄)スミマセン

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星河由乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2023年01月15日、連載完結しました。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました! * 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

処理中です...