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第三幕 学生期

192.誤解の誘拐事件再び3

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 アントニオは、呼吸と血圧が落ち着くのを待ってから、少し眠りたいからと言って、皆に部屋を出てもらった。

アントニオ
「ルド! リン!」

 呼ぶが、いつものようには現れない。

 ルドとリンが封印の間にいるときでないと、魔力を込めて名前を呼んでも、声が届かないみたいだ。

 大丈夫だよな?

 ルドとリンが2人で行ったんだ。誘拐犯が強くても、ずる賢くても、何十人といるような犯罪集団であっても、ディックを無事に助けてくれるはず。

 でも、ディックが何処にいるのかわからなくて、今も探していたりするのかな?

 誘拐犯は何のために、ディックを誘拐した?

 身代金ではないはずだ。ディック自身は奴隷でお金がないって知っているはずだし、オッケル男爵だってお金がないと言ったはずだ。

 焦茶ほどじゃないが、赤毛の子は魔力が低い子供が多く、劣等色として嫌われている。だから、イタズラ目的とかじゃないよな? レオみたいなイケメンじゃないし...でも、ディックは普通の赤毛よりも赤味が強くて、俺から見たらカッコイイ色だし、もしかして、もしかすると...うっ、気持ち悪っ! 駄目だ! この方面は考えちゃ駄目だ! 泣いてるディックに無理矢理酷い事をする奴がいるとか、鎖で繋いで牢屋で暴力的な行為が...うぉ~、考えちゃ駄目だってば!

 心臓が痛くなってきた...落ち着くんだ俺!

 いや、きっと、違う! そう、違うに決まってる!

 ルドとリンが、竜騎士だと名乗って迎えに行ったんだよ! きっと、そうだ! それで、上手くいったんで、美味しいものでも食べて祝杯をあげているんだ!

 でも、だったら、なんで俺に教えてくれないんだ!? リンが鳥さんに伝言を頼んだけど、お家に入れなかったとか?

 アントニオは、ふらつきながらもベッドから起き上がり、部屋の窓を開けた。

 よし、これで鳥さんが来れるはず!

 窓の外を見るが、そこから見える庭には、鳥の姿はなかった。

 クラっとして慌ててベッドに戻る。

 うぅ~ん。やっぱり俺って虚弱なのか?

 でも、病気は滅多にしないし、力持ちだし、足も速いし、体は頑丈な方だと思うんだけど? 勇者の父上と聖女の母上の強靭な肉体が遺伝しているはずだし...あ、精神が弱いのか...虚弱体質な魂...いや、繊細なだけだよ、うん。芸術家だからね。

 ...もう、余計なことは考えないで寝よう。寝て待とう!

 もし、目が覚めても、ルドとリンが帰ってなくて、ディックも...永遠に帰って来なかったら?

 永遠に帰って来ない?

 思い出してはいけない、恐ろしい事を思い出しそうになって、頭がズキッと痛んだ。

 駄目だ! 考えちゃ駄目だ! 寝よう。

_________


 ディーデリック達は、ホテルでランチのあとのお茶を楽しんでいた。

アイリス
「お金がないって言ってたろ? 生活していくのにはお金が必要だから、銀行口座を作って持っときな! そこに、必要な分だけ振り込んであげるよ。一月いくら必要なんだい?」

ディーデリック
「王立学校にいれば、食事も家賃もタダですからそんなには...」

 ディーデリックは、口では遠慮がちに言ったが、内心はお金が欲しかった。しかし、お金が欲しいとねだって我儘な子供だと思われたくない。

アイリス
「人族の子供が1カ月暮らすのにいくらいる?」

 アイリスはリンに尋ねた。

リン
「さぁ? 300万イェ二位あればいいんじゃないか?」

バルド
「待て! ちゃんと計算しろ。きちんとした金銭感覚がないと大人になってから、人族の社会に適応できないぞ?」

アイリス
「いいんだよ。この子は、私やリンドウよりも長く生きたりしないから。自立出来なくても問題ないんだ」

バルド
「だが、人族同士の人間関係で常識を知らないのはまずい。勇者や聖女のように騙される人間になってしまう。 きちんと計算しろ。

さっきのランチでディックは8,000イェ二位は食べていた。 1食1万イェ二として、3食で1日3万イェ二だ。30日で90万イェ二か。エンゲル係数(家計の総消費支出に占める食費の割合)が平均的な30%(魔族領での平均的な数値)だと考えると、一月の生活の支出は300万イェ二位だな。」

 ちなみに、バルドは超高級ホテルの食事の値段で計算している。

リン
「やっぱり300万イェ二で良かったじゃないか!」

ディーデリック
「生活費ってそんなにするんですか!?」

 王国の庶民の平均月収は約12万イェ二である。だが、人族の常識など龍人と元魔王の魔人が知るはずもなかった。お金を持たされない奴隷のディーデリックも、もちろん知らない。

バルド
「そうみたいだな。だが、家賃はいらないし300万イェ二はあげすぎだ! 庶民は手取りに対して、通常、家賃は30%の物件を借りる。300万イェ二の収入があるとしたら90万イェ二が家賃だ。それを300万イェ二から引く。しかも、普段は寮の食堂で食事するから食費は無料だ。しかし、学校の授業がない日や放課後は外食する可能性がある。休日分と放課後分の食費は残す。平日は月平均20日程度あるから、確実に学食を食べる平日の朝昼の40食分は食費がいらない。ということで40万イェ二を振込み金額から引く。つまり、ディックに渡す金は月々170万イェ二でいいはずだ!」

リン
「なるほど!」

アイリス
「でも、ギリギリじゃ、急な出費があったときに困らないかい?」

バルド
「300万イェ二を余分に入れて、最初の月は470万イェ二ではじめるんだ。絶対に300万イェ二を切らないように月々の支払いを済ませればいい。万が一、預金が300万イェ二を下回ったら、アイリスに報告して調整すればいい。」

 その見解でメンバーは納得し、皆で銀行に移動してディーデリックの口座を作った。

リン
「本当に月々170万イェ二で大丈夫か? 服や靴、宝石なんかも、そこから買うんだぞ?」

バルド
「酒代も必要としないし何とかなるだろ?」

リン
「足りなかったら、俺達はエストと暮らしているから、エストに言え」

ディーデリック
「有難うございます。」

アイリス
「手続きも終わったし、口座も作ったし、やるべきことは全部やったね! あとは遊べるんだろ?」

ディーデリック
「あ、あの、15:00からアルベルト邸で家庭教師の先生がいらっしゃるので...」

リン
「15:00から? もう、過ぎてないか?」

 銀行の時計をリンが指差した。時計の針は15:05をさしている。

ディーデリック
「大変だ! お約束していたのに!」

アイリス
「今日位は勉強をサボってもいいんじゃないかい?」

バルド
「今日サボると、明日はエストが習う場所とズレが生じないか? 明日以降も一緒に勉強するなら、遅刻だとしても、今日も受けた方がいい」

アイリス
「仕方ないね。でも、今日はせっかくリンドウがホテル代出してくれたから、お勉強が終わったら、ホテルに一緒に泊まりな。」

ディーデリック
「はい」

 急いで人目のない場所に移動して空間移動した。
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