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第三幕 学生期

167.両親の到着

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アントニオ・ジーンシャン(エスト)12歳
バルド(ルド) 年齢不明(魔人)
リン 300歳(龍人)
グリエルモ・ジーンシャン37歳(父)
メアリー・ジーンシャン 40歳(母)
アルベルト・ジーンシャン 34歳(伯父)
ヒロヤ・カンナギ 54歳(国王)
ジュン・カンナギ 35歳(王太子)


 アントニオが眠った後、市松クラスにリンとバルドはやって来ていた。

 エストが学校に戻るのならば、あの落書きは消さなくてはいけない。2度とエストの目に触れさせてはいけないと、2人は考えたからだ。

 時間はすっかり夜だ。

 バルドが光属性の遮音魔法と照明魔法を教室に施し、リンが洗剤を片手に水属性の魔法で落書きを消していく。

リン
「綺麗になったな!」

バルド
「あぁ、帰るか。」

リン
「いや、まだだ!」

バルド
「どうしてだ?」

リン
「いいかルド、エストがこの教室に入ったら、きっと文字は消えていても、嫌な記憶を思い出すに違いない。だから、この教室に入るのが楽しくなるようにしないといけないんだ。」

バルド
「どうするんだ?」

リン
「俺達でエストの喜ぶものを書いてやるんだ!」

________


 ロベルトがジーンシャン領に戻り、勇者グリエルモと聖女メアリーのもとに、魔王の復活とアントニオ誘拐の情報がもたらされた。

 すぐに装備を整えて飛竜に騎乗するグリエルモだったが、メアリーは昔の装備がサイズオーバーで着られなかった。メアリーは、仕方なく1番動きやすい服を着て剣を装備すると、その上から飛竜用の防寒具を身に付け、飛竜に騎乗した。

 2人は飛竜を飛ばして王都へ向かったが、その道中で、メアリーは自分の肥満を嘆き、後悔した。

 こんな状態で魔王と戦えるのかしら?

 2人を乗せた飛竜がアルベルト邸へ降り立つ。

グリエルモ
「父上から話しは聞いた。今は、どういう状況だ?」

アルベルト
「兄上! カラスが手紙を持ってきました。」

 アルベルトがグリエルモに差し出した手紙を、メアリーが横から奪いとり広げた。

メアリー
「何て書いてあるの!?」

 メアリーは、ほとんど叫ぶような声で問いかけた。手紙を持つ手はワナワナと震えている。

アルベルト
「分かりませんが、ネハ様なら読むことが出来るかもしれません。ネハ様は王宮で今後について話し合われていると思います。」

グリエルモ
「今回の件で、事件対処の指揮をとっているのは国王陛下か?」

アルベルト
「はい。そのようです。魔王とトニーの行方は国王陛下が、落書きの謎の件は王太子殿下が対処していると伺っています。」

グリエルモ
「わかった。すぐに王宮へ行こう。」

アルベルト
「兄上、実は今回は、不可解な事件が同時に起こっているようで、レオナルドに対しても、薬入りのお菓子が贈られてきています。私は、子供達についていようと思います。」

メアリー
「何て事なの!? 子供達を狙うなんて! 酷いわ!」

グリエルモ
「レオナルドも狙われたのか!? つまり、それだけ、魔王は本気で復讐を考えているということなんだな...14年間も閉じ込めていたんだ。当然かもしれない。メアリー、気をしっかりと持って、私達が冷静でなければ、トニーは助からない。そうだろう?」

メアリー
「えぇ。」

 メアリーは溢れる涙を拭った。

________

 夜もすっかり更けているが、王宮には明々と明かりがつけられ、兵糧や武器の在庫チェック、城壁の点検などが行われている。

 グリエルモとメアリーは王宮に到着すると、ヒロヤ国王とジュン王太子のいる部屋にすぐに通された。

ヒロヤ国王
「よく来てくれた。この様な事態になって申し訳ない。」

グリエルモ
「いえ、私達も甘く見ていました。やはりトニーから離れて暮らすべきではなかった。」

メアリー
「謝罪や反省会をしている場合じゃないわ! それより、どういう事なの!? 突然魔王が復活するなんて!トニーの魔力が枯渇するような授業を受けさせたの!?」

 アントニオが生まれるまで、人類最高の魔力を誇っていた、人族最強魔法使いが、闇の帝王となってジュン王太子に迫った。

ジュン王太子
「い、いいえ、この日の授業は音楽の授業だけしか受けておらず、授業では一切魔法を使っておりません。 」

メアリー
「では、何で問題が起きたというの!?」

ジュン王太子
「わ、分かりません。護衛騎士の話しでは、早めに授業を終えて、食堂に移動した際、クラスメイト達が、トニー様への不満を口にしているのを聞かれたとか...」

メアリー
「何ですって!?」

 メアリーの闇が、地獄の炎のように揺らめいている。瞳が紫色に光り、まるでメアリーが、魔王のようである。

ジュン王太子
「それに対してトニー様は、皆は精神魔法が使える自分を怖がっているだけだから、不敬罪を問うなと仰ったそうです。ですが、大変傷付かれたご様子で、1人で走って食堂を飛び出されたと護衛騎士は申しております。一度、完全にトニー様を見失い、市松クラスで発見した際には、すでに倒れておられ、傍らには魔王が立っていたというのです。

 護衛騎士の2人は魔王と戦いましたが、全ての魔法が跳ね返され、電撃魔法を受け、倒されてしまったようです。戦っているところを、トニー様のクラスメイトであるディーデリック・バースも目撃しているのですが、護衛騎士の2人が倒された後、魔王はトニー様を空間移動魔法で連れ去ったと申しておりました。」

メアリー
「まぁ!何て事なの!?」

 メアリーは突然オイオイと泣き始めて、グリエルモがメアリーを支える形になった。

ジュン王太子
「しかし、今回の事件には色々と不可解な事が起きています。教室には無数の...トニー様の悪口が書かれており、魔王は、その悪口を書いた人物の事を知りたがっていたというのです。

また、護衛騎士は2人とも一時的に昏睡状態でしたが、幸いなことに命に別状はなく、奇跡的に怪我をすることもなく生還しております。

ディーデリックに関しては、一切危害を加える様子はなかったと伺っております。」

メアリー
「危害を加える様子はなかった?」

グリエルモ
「魔王が魔導騎士相手に手加減をしてくれたと?」

 メアリーは、以前、リュシアンとジュゼッペの結婚騒動の時にトニーが話していた事を思い出した。

メアリー
「そういえば...以前、トニーが、封印した魔人は善良な魔人で、世界を滅ぼそうとしている魔王ではなかったと言っていた事があるの。」

ヒロヤ国王
「封印した魔人は、魔王ではなかった? どういうことだ?」

グリエルモ
「...そもそも、封印した魔人の家に押し入り、突然攻撃したのは私達で、その魔人が本当に魔王であったのかどうかは確認出来ていないのです。」

ヒロヤ国王
「何と!?」

グリエルモ
「ですが、私達がその魔人を魔王だと思ったのにはわけがあります。魔王軍を率いていた魔人の将軍が、死に際に、死者の谷に住む魔人こそが魔王であると、口にしたからです。

実際に、死者の谷にいた魔人は、恐ろしく強く、私達では倒す事が出来なかった。だから、メアリーが命がけで封印をしたのです。」

ヒロヤ国王
「だが、その魔人は魔王ではなかった可能性があると?」

メアリー
「えぇ、トニーはそう言っていたわ。」

ジュン王太子
「なるほど...それなら、手紙の内容も頷ける。」

メアリー
「手紙? そういえば、私達のところにも手紙が届いていたの。」

 メアリーが手紙を取り出し、広げて見せた。

メアリー
「この手紙が、アルベルト様のところに届いたのよ。」

ジュン王太子
「これも、龍人語か...」

メアリー
「読めますか?」

ジュン王太子
「いや、実は、これと似たものが王宮の私の所にも届いたのだ。それを持ってネハ様は、カーン伯爵領に出るという龍人のアイリスを探しに行かれた。」

メアリー
「そちらの手紙には何と書かれていたの?」

ジュン王太子
「ネハ様も全部は読めなかったんだが、どうやら、身代金を要求する手紙のようだった。」

メアリー
「身代金を!? では、魔人はお金を払えば、トニーを返してくれるのですか!?」

ジュン王太子
「それは分からない。金を受け取ってから、復讐を開始するつもりかもしれない。」

ヒロヤ国王
「今、歴史学者の中で龍人語の解読を研究している者を探させている。その手紙は、こちらで預かろう。お前達は、事が進展するまで休息を取るといい。」

 グリエルモとメアリーは、アルベルト邸に戻って休むことになったが、眠れる気がしなかった。

メアリー
「トニーが怖い思いをしているかもしれないのに、じっとなんかしていられないわ! 乱暴に扱われているかもしれないと思うと、とてもじゃないけど、休む気になんてなれない!」

グリエルモ
「トニーには、ルド様やリン様もついている。きっと大丈夫だよ。」

メアリー
「そう、そうよね! ルド様とリン様が護って下さっているわよね?」

 メアリーは、白き人信仰の神殿のある方向に跪き、神に祈りを捧げた。

 トニーが無事に戻りますように!

 グリエルモは、そんなメアリーを抱きしめ、ともに祈りを捧げるのであった。
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