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第三幕 学生期
103.お茶会は目利き試験?
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次に口を開いたのはハンスだ。
ハンス
「こんな素晴らしい茶器は初めてです! 何という茶器で、どんな特徴があるのですか?」
ナイスだ! ハンス! 分からないのだから、ヒントを貰えばいいのだ!
ヤンとカールは、軽く拳を握ってハンスにグッジョブサインを送った。
アントニオ
「えっと、では、先ずは、こちらのアイスティーグラスから...」
3人は一斉に立ち上がって叫んだ。
「「「アイスティーグラス!?」」」
ホットで飲む物だとばかり思っていたが、真っ先に紹介されて戸惑う。
ただ、自分のコレクションを自慢したいという可能性もあるが、使わない茶器をアントニオ様が紹介することがあるのだろうか?
まさか、薬草ハーブティーはアイスにすることもあるのか!?
選択肢を絞ろうとして、逆に選択肢を広げる結果になってしまった!
アントニオ
「え? あ、はい。アイスティーグラスが何か?」
ヤン
「あ、いえ、冷やして飲むのもありなのかな? と」
アントニオ
「そうですね。暑い日や喉の渇いている時には、冷やすのもいいと思います。このグラスはカットグラスで模様が付いているので、紅茶のような色のある飲み物を注ぐと、模様が際立って綺麗なんですよ。」
ヤン
「そうなんですね。」
アントニオ
「それから、こちらの白いティーカップは、王都の有名店が作ったものらしいです。王宮でも同じ物が使われていました。真っ白でシンプルですので、飽きがこなくていいですね。」
ハンス
「王宮と一緒なのですね!」
王宮が使っている物と同じだったら、高級品な上、人気もあるものだろう、1番いいものとは限らないが、目利きの試験だとしたら、こちらは選んでも恥ずかしくないものだ!
アントニオ
「それから、こちらは魔王城が描かれたコーヒーカップです。絵付には純金や宝石を砕いた顔料が使われているんですよ。」
純金や宝石!? では、価値からいったら先程のティーカップより上?
ヤン
「コーヒーカップだったら、ハーブティーには使わないですか?」
ハンスとカールは目を見合わせた。
ヤンのやつ、恥を捨てて、聞きまくる作戦に出たな。確かに聞いてしまえば、無知であることを披露するが、知ったかぶって間違った茶器を選ぶより、傷は浅くて済むだろう。
アントニオ
「そんなことはないですよ。コーヒーカップは、飲み口が狭いので酸化やお茶の香りがとぶのを防いでくれます。紅茶のように茶葉を熱々に煮出した後、すぐに飲みたい場合は、温度の下がりやすい飲み口の広いティーカップで飲んだ方がいいですが、ゆっくりと、時間をかけて飲みたいときには、向いていますよ。」
ヤン
「どの茶器で薬草ハーブティーを飲んでも間違いじゃないということですか?」
アントニオ
「さっきから、難しい顔で悩んでいると思ったら、そういう心配をしていたのですね? どれで、飲んでも大丈夫です。」
つまり、お茶の種類によって茶器を選ぶマナーの試験ではない?
ハンス
「では、こちらの茶器は? 龍の絵が付いている落ち着いた色合いの...」
1番地味で安そうなカップ。
アントニオ
「これは、龍人の職人が作ったとされる作品で、竜胆の花と龍が描かれているマグカップです。
龍人は千年の時を生きると言われています。龍人の職人は、その人生の長い時間を、技術の腕を磨くことや、作品の製作に費やすことで、他種族の職人では到達する事が出来ない領域の傑作を生み出す事が出来るそうなのです。
竜胆の花は群生せず一本ずつ咲く上、高山の頂きにも咲く強い植物です。また、龍も、高山の頂きに棲まい、孤高に生きることで知られています。その2つが寄り添って楽しそうにしている、この奇想な構図は龍人達の胸を熱くするんだとか。」
え? 龍人の作品? どうやって、そんな物を手に入れたんだ? 王宮の宝物庫に入るレベルのものじゃないのか!?
カール
「因みに、お値段は?」
アントニオ
「これをここに持ち込んだ友人は、貰い物だと言っていましたので、分かりません。でも、オークションで売ったら小さな城が買える値段になるだろうと言ってた気がします。」
カール
「城が買える!?」
そんな茶器を触って壊しでもしたら大変だ! 実際にお茶を飲んでも大丈夫なのか!?
ヤン
「ご友人って...あの?」
アントニオ
「あ、そうです。乗馬の授業用の魔獣を用意してくれた、外国出身の友人です。」
アントニオはマグカップを気軽に持ち上げて、3人の前に差し出す。
アントニオ
「これは飲み物が沢山入るので、実用的でもあるのですよ。よかったら手に取って見て下さい。」
アントニオは、ぽんぽんと1人ずつにマグカップを渡した。3人はウッカリ受け取ってしまったが、持っているのが恐ろしくなり、茶器を持つ手が震える。
だが、さらりとした磁器の質感と滑らかな取っ手が手に馴染むことが分かる。絵柄は、奇想で大胆、それでいて非常に繊細である。風に揺れる淡い青の葉と紫色の美しい花ビラを持つ竜胆。その合間から、悪戯小僧のような表情を浮かべる緑の龍がこちらを見ている。
龍は、なかなか愛嬌のある顔だ。
そう思った瞬間、竜胆の花が風に揺れるように動き出し、龍が目を細めて笑った。
ヤン、カール、ハンス
「!?」
ビックリした3人は腕の力加減がわからなくなり、マグカップを取り落とそうになった。
ヤンとハンスは身を固くして、なんとか堪えたが、カールは思わずマグカップから手を離してしまった。
宙を舞うマグカップ!
3人の血の気が一気に引いていった。
床スレスレで、ハンスの風魔法が受け止め、マグカップは、再びカールの手の中へと収まった。
ハンス
「あっぶな......!」
カール
「も、申し訳ございません。」
アントニオ
「大丈夫ですよ。とっても硬い上に粘度があるので、落としても割れないそうです。」
大丈夫と言われても、3人は安心することが出来なかった。
その後3人が、何度も瞬きをして、マグカップをまじまじと眺めてみても、絵柄が再び動くことはなかった。
アントニオ
「それで、どれにします?」
カール
「わ、私はこれじゃないものを...」
ヤン
「俺も...」
アントニオは2人からマグカップを受け取ると、食器棚に戻した。
マグカップが自分の手から離れると、ヤンとハンスはホッとして息をついた。
ハンス
「私は...これにします!」
アントニオ様は、どの茶器を選んでもいいと仰った。ということは、これは目利きの試験だ! この茶器が、間違いなく1番高価な茶器、つまり、これが正解だ! それに、こんな茶器でお茶を楽しむ機会は、これを逃したら2度と来ないだろう。
ヤン、カール
「!?」
勇者なのか!?
傷をつければ、城に匹敵する金額を賠償しなくてはいけないんだぞ? 一生かかっても弁償出来ないぞ! そんなリスクを背負っては、淹れたお茶の味も分からなくなってしまう。
ま、まさか、そういう人物の器の大きさを見る試験だったのでは?
いや、でも、もう一度、マグカップを手にする勇気は、もはやない!
ヤンとカールは目で会話しながら、汗を拭(ぬぐ)った。
カール
「俺は無地の白いティーカップにします。」
薬草ハーブティーはティーなのだから、ティーカップでいいはずだ。どれで飲んでもいいが、1番美味しく飲める茶器という物は存在するはず。これはマナーの授業で、このカップが正解だ! それに、無地なら絵柄が動く心配はない。
アントニオ
「白いティーカップですね!」
アントニオはティーカップとソーサーを取り出し、カールに渡した。
カールは、落とさないようにそっと運ぶと、すぐにテーブルに置いた。
それを見て、ハンスもマグカップをテーブルに置く。
ヤン
「カール、ビビっているのか?」
カール
「なんだと! じゃあ、お前は絵柄付きのにするんだな?」
ヤン
「もちろん! 俺はお城の描かれたコーヒーカップにします!」
この食器棚にある食器はすべて、アントニオ様が普段から使っている食器だ。目利きの試験ではないはず。薬草ハーブティーは寒いジーンシャン発祥の飲み物だ。温度の下がりやすいティーカップではなく、飲み口の狭い茶器で飲むことが正解のはず。マグカップも保温性は悪くないが、何せ容量が大きい。高価なお茶を人よりも多く飲もうと、欲張っているように見えてしまう。これは、人間性や経験値をはかる試験だ! だから、正解はコーヒーカップ!
アントニオ
「お城のコーヒーカップですね。」
アントニオはバルドのコーヒーカップとソーサーを取り出し、ヤンに手渡した。
ヤン
「は、はい」
ヤンは、コーヒーカップを受け取ると流れるような手付きで、すぐにテーブルの上に置いた。
カール
「お前もビビってんじゃないか!」
ヤン
「違う! 俺は早く飲みたいだけだ!」
ハンス
「そういうことにしておいてやろう。」
ヤン
「そ、それで、アントニオ様はどの茶器で飲まれるのですか?」
3人は、息を飲んでアントニオに注目した。
いったい、誰が正解を選べたのだろう?
ハンス
「こんな素晴らしい茶器は初めてです! 何という茶器で、どんな特徴があるのですか?」
ナイスだ! ハンス! 分からないのだから、ヒントを貰えばいいのだ!
ヤンとカールは、軽く拳を握ってハンスにグッジョブサインを送った。
アントニオ
「えっと、では、先ずは、こちらのアイスティーグラスから...」
3人は一斉に立ち上がって叫んだ。
「「「アイスティーグラス!?」」」
ホットで飲む物だとばかり思っていたが、真っ先に紹介されて戸惑う。
ただ、自分のコレクションを自慢したいという可能性もあるが、使わない茶器をアントニオ様が紹介することがあるのだろうか?
まさか、薬草ハーブティーはアイスにすることもあるのか!?
選択肢を絞ろうとして、逆に選択肢を広げる結果になってしまった!
アントニオ
「え? あ、はい。アイスティーグラスが何か?」
ヤン
「あ、いえ、冷やして飲むのもありなのかな? と」
アントニオ
「そうですね。暑い日や喉の渇いている時には、冷やすのもいいと思います。このグラスはカットグラスで模様が付いているので、紅茶のような色のある飲み物を注ぐと、模様が際立って綺麗なんですよ。」
ヤン
「そうなんですね。」
アントニオ
「それから、こちらの白いティーカップは、王都の有名店が作ったものらしいです。王宮でも同じ物が使われていました。真っ白でシンプルですので、飽きがこなくていいですね。」
ハンス
「王宮と一緒なのですね!」
王宮が使っている物と同じだったら、高級品な上、人気もあるものだろう、1番いいものとは限らないが、目利きの試験だとしたら、こちらは選んでも恥ずかしくないものだ!
アントニオ
「それから、こちらは魔王城が描かれたコーヒーカップです。絵付には純金や宝石を砕いた顔料が使われているんですよ。」
純金や宝石!? では、価値からいったら先程のティーカップより上?
ヤン
「コーヒーカップだったら、ハーブティーには使わないですか?」
ハンスとカールは目を見合わせた。
ヤンのやつ、恥を捨てて、聞きまくる作戦に出たな。確かに聞いてしまえば、無知であることを披露するが、知ったかぶって間違った茶器を選ぶより、傷は浅くて済むだろう。
アントニオ
「そんなことはないですよ。コーヒーカップは、飲み口が狭いので酸化やお茶の香りがとぶのを防いでくれます。紅茶のように茶葉を熱々に煮出した後、すぐに飲みたい場合は、温度の下がりやすい飲み口の広いティーカップで飲んだ方がいいですが、ゆっくりと、時間をかけて飲みたいときには、向いていますよ。」
ヤン
「どの茶器で薬草ハーブティーを飲んでも間違いじゃないということですか?」
アントニオ
「さっきから、難しい顔で悩んでいると思ったら、そういう心配をしていたのですね? どれで、飲んでも大丈夫です。」
つまり、お茶の種類によって茶器を選ぶマナーの試験ではない?
ハンス
「では、こちらの茶器は? 龍の絵が付いている落ち着いた色合いの...」
1番地味で安そうなカップ。
アントニオ
「これは、龍人の職人が作ったとされる作品で、竜胆の花と龍が描かれているマグカップです。
龍人は千年の時を生きると言われています。龍人の職人は、その人生の長い時間を、技術の腕を磨くことや、作品の製作に費やすことで、他種族の職人では到達する事が出来ない領域の傑作を生み出す事が出来るそうなのです。
竜胆の花は群生せず一本ずつ咲く上、高山の頂きにも咲く強い植物です。また、龍も、高山の頂きに棲まい、孤高に生きることで知られています。その2つが寄り添って楽しそうにしている、この奇想な構図は龍人達の胸を熱くするんだとか。」
え? 龍人の作品? どうやって、そんな物を手に入れたんだ? 王宮の宝物庫に入るレベルのものじゃないのか!?
カール
「因みに、お値段は?」
アントニオ
「これをここに持ち込んだ友人は、貰い物だと言っていましたので、分かりません。でも、オークションで売ったら小さな城が買える値段になるだろうと言ってた気がします。」
カール
「城が買える!?」
そんな茶器を触って壊しでもしたら大変だ! 実際にお茶を飲んでも大丈夫なのか!?
ヤン
「ご友人って...あの?」
アントニオ
「あ、そうです。乗馬の授業用の魔獣を用意してくれた、外国出身の友人です。」
アントニオはマグカップを気軽に持ち上げて、3人の前に差し出す。
アントニオ
「これは飲み物が沢山入るので、実用的でもあるのですよ。よかったら手に取って見て下さい。」
アントニオは、ぽんぽんと1人ずつにマグカップを渡した。3人はウッカリ受け取ってしまったが、持っているのが恐ろしくなり、茶器を持つ手が震える。
だが、さらりとした磁器の質感と滑らかな取っ手が手に馴染むことが分かる。絵柄は、奇想で大胆、それでいて非常に繊細である。風に揺れる淡い青の葉と紫色の美しい花ビラを持つ竜胆。その合間から、悪戯小僧のような表情を浮かべる緑の龍がこちらを見ている。
龍は、なかなか愛嬌のある顔だ。
そう思った瞬間、竜胆の花が風に揺れるように動き出し、龍が目を細めて笑った。
ヤン、カール、ハンス
「!?」
ビックリした3人は腕の力加減がわからなくなり、マグカップを取り落とそうになった。
ヤンとハンスは身を固くして、なんとか堪えたが、カールは思わずマグカップから手を離してしまった。
宙を舞うマグカップ!
3人の血の気が一気に引いていった。
床スレスレで、ハンスの風魔法が受け止め、マグカップは、再びカールの手の中へと収まった。
ハンス
「あっぶな......!」
カール
「も、申し訳ございません。」
アントニオ
「大丈夫ですよ。とっても硬い上に粘度があるので、落としても割れないそうです。」
大丈夫と言われても、3人は安心することが出来なかった。
その後3人が、何度も瞬きをして、マグカップをまじまじと眺めてみても、絵柄が再び動くことはなかった。
アントニオ
「それで、どれにします?」
カール
「わ、私はこれじゃないものを...」
ヤン
「俺も...」
アントニオは2人からマグカップを受け取ると、食器棚に戻した。
マグカップが自分の手から離れると、ヤンとハンスはホッとして息をついた。
ハンス
「私は...これにします!」
アントニオ様は、どの茶器を選んでもいいと仰った。ということは、これは目利きの試験だ! この茶器が、間違いなく1番高価な茶器、つまり、これが正解だ! それに、こんな茶器でお茶を楽しむ機会は、これを逃したら2度と来ないだろう。
ヤン、カール
「!?」
勇者なのか!?
傷をつければ、城に匹敵する金額を賠償しなくてはいけないんだぞ? 一生かかっても弁償出来ないぞ! そんなリスクを背負っては、淹れたお茶の味も分からなくなってしまう。
ま、まさか、そういう人物の器の大きさを見る試験だったのでは?
いや、でも、もう一度、マグカップを手にする勇気は、もはやない!
ヤンとカールは目で会話しながら、汗を拭(ぬぐ)った。
カール
「俺は無地の白いティーカップにします。」
薬草ハーブティーはティーなのだから、ティーカップでいいはずだ。どれで飲んでもいいが、1番美味しく飲める茶器という物は存在するはず。これはマナーの授業で、このカップが正解だ! それに、無地なら絵柄が動く心配はない。
アントニオ
「白いティーカップですね!」
アントニオはティーカップとソーサーを取り出し、カールに渡した。
カールは、落とさないようにそっと運ぶと、すぐにテーブルに置いた。
それを見て、ハンスもマグカップをテーブルに置く。
ヤン
「カール、ビビっているのか?」
カール
「なんだと! じゃあ、お前は絵柄付きのにするんだな?」
ヤン
「もちろん! 俺はお城の描かれたコーヒーカップにします!」
この食器棚にある食器はすべて、アントニオ様が普段から使っている食器だ。目利きの試験ではないはず。薬草ハーブティーは寒いジーンシャン発祥の飲み物だ。温度の下がりやすいティーカップではなく、飲み口の狭い茶器で飲むことが正解のはず。マグカップも保温性は悪くないが、何せ容量が大きい。高価なお茶を人よりも多く飲もうと、欲張っているように見えてしまう。これは、人間性や経験値をはかる試験だ! だから、正解はコーヒーカップ!
アントニオ
「お城のコーヒーカップですね。」
アントニオはバルドのコーヒーカップとソーサーを取り出し、ヤンに手渡した。
ヤン
「は、はい」
ヤンは、コーヒーカップを受け取ると流れるような手付きで、すぐにテーブルの上に置いた。
カール
「お前もビビってんじゃないか!」
ヤン
「違う! 俺は早く飲みたいだけだ!」
ハンス
「そういうことにしておいてやろう。」
ヤン
「そ、それで、アントニオ様はどの茶器で飲まれるのですか?」
3人は、息を飲んでアントニオに注目した。
いったい、誰が正解を選べたのだろう?
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