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第二幕 幼少期
69.アントニオの家出
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アントニオは、その場から逃げ出して、関所に駆け込んだ。
憲兵
「トニー様!? どうされたのですか?」
真っ赤になって、泣きながら駆け込んできたアントニオに、憲兵達は皆、驚いている。
アントニオ
「すみません。大事なものを忘れて来てしまったので、取りに行って来ます。」
憲兵
「大丈夫ですか? 一緒に行きましょうか?」
アントニオ
「いえ、1人で大丈夫です。」
アントニオは、同じようなやり取りで2つの関所を通過して街に出た。当てもないが、大通りを城壁の正門に向かって歩く。
慌てて出てきたため、お金も楽器も持っていない。それどころか、帽子すら被ってきていなかったが、アントニオは興奮状態にあったために、その事に気が付いていなかった。
3時の鐘が鳴る。
街では、最も人の行き交いが多い時間帯だ。
街の人々は、仰天した。
身なりのいい、焦茶の子供が歩いてくる!
目にした人々は、すぐに、その人物がトニー様の愛称で親しまれている次期領主アントニオ・ジーンシャンであることに気が付いた。
それ程にジーンシャン領で、焦茶の子供は珍しい。
アントニオのただならぬ雰囲気に、声をかけることも出来ず、街の人々はモーゼが割った海のように、アントニオの進行方向の道を開けた。
アントニオは、そうした街の人の反応に、気が付いておらず、どうすれば良かったのか、これからどうすれば良いのかといったことで、頭がいっぱいだった。
アントニオ自身だって、本当は自分が皆から大切にされていることくらいは、すでに分かっていたのだ。
だけど、叩かれたり怒鳴られたりする事は怖かった。どんな理由があったとしても暴力は絶対に人にしてはいけない事だし、されてもいけない事だと思った。
まして、今回、自分に非はないはずだ。
冷静にそのことを伝えて、母メアリーに謝罪してもらえば良かったのに、自分も頭に血がのぼってしまって、心の奥にあった不安な気持ちが、思わず口から出てしまったのだ。
そして、魔王のこととか、絶対に言ってはいけない事を口にしてしまった。
自分が戻れば、問い詰められるに違いない。喋らなければ、また殴られるかもしれない。暴力を振るわれたら秘密を黙っていられる自信などアントニオにはなかった。
うっかり真実を話してしまったら、バルドは、もう静かには暮らせないかもしれない。もしかしたら、リンも。両親や魔導騎士達が、バルドとリンの2人と戦うことになったら.....。
大切な人同士が殺し合いをするだなんて、考えたくもない。
だが、自分がいなくなれば、全てが丸く収まるのではないだろうか?
バルドとリンは2人で何処か別の場所に封印の間の入り口を作って暮らせばいいし、リュシアンとジュゼッペは手のかかる主が消えて結婚出来るし、両親は新しく子供を作ればいい。髪の色が明るい子供を...。子供が出来なくても、アルベルト叔父さんの子供のレオナルドやエドアルド、カリーナがいる。
自分は愛されているから大丈夫だ! と思いたい気持ちと、自分なんかいない方がいい! という思考が、ぐるぐると回って、そこから先の思考にはたどり着けないでいた。
ふと、服飾商会という看板が目に飛び込んできた。確か、サンチェスさんという商人さんのお店だ。
『大スターになること間違いなし!』というサンチェスの言葉を思い出した。
そうだ! 王都に行って、歌劇場に紹介してもらい、今世でもオペラ歌手をしよう!
そうすれば、きっと皆が幸せに暮らせる!
アントニオは、服飾商会に飛び込んだ。
店内は、夕飯の買い出しついでに立ち寄る奥様方で賑わっていた。3人いる店員さんも、フル稼働で接客している。また、店の主人サンチェスと、商品の輸送を担当している馬車屋のダニエルが、品物の受け渡しで作業をしているところだった。
突然、お店に飛び込んで来た、焦茶の坊ちゃんに、店内は騒然となった。
アントニオ
「サンチェスさん! お久しぶりです。覚えていますか? アントンです。」
サンチェスはギョッとした。確かに、目の前にいる男の子の姿形は以前に出会った宮廷楽師のアントンだったが、髪の色も目の色も違うし、顔にはソバカスがある。
サンチェス
「あ、あぁ、覚えておりますが.....」
ジーンシャン領で焦茶の坊ちゃんといえばトニー様のことである。
サンチェスは魔導騎士や憲兵がペコペコ頭を下げていた光景を思い出す。強力な武人のオーラを放つ、2人の護衛の姿も。
以前は気が付かなかったが、よく見るとグリエルモ様に似た顔立ちだ。
アントン様はアントニオ・ジーンシャン様だったのだ!
アントニオ
「もし、お気持ちが変わっていなければ、私を王都に連れて行って、劇場に紹介して欲しいのです!」
サンチェス
「え!? .....し、しかし.....。」
アントニオ
「お願いします! 他に行く当てがないのです! この通りです! お願いします!」
膝を折って懇願するアントニオに、サンチェスはビックリした。
サンチェス
「お辞めください! 頭を上げて下さい!」
また、外から野次馬根性の街の人々が集まって来て、店内は大変な騒ぎになり始めた。
サンチェスは、店員達に向かって指示を出す。
サンチェス
「おい! 今日はもう店を閉めろ! お客様には帰って頂きなさい!」
店員達
「「「はい!」」」
アントニオ
「あ、申し訳ありません! ご迷惑をおかけするするつもりではなかったのです。お店が終わるまで、裏でお待ちします。」
サンチェス
「とんでもないです! 奥に応接室がありますので、どうかそちらへ!」
応接室のソファーにアントニオを座らせ、サンチェスの奥さんが、お茶を入れる。
ダニエル
「サンチェスさんは、坊ちゃんのお知り合いなんですか?」
サンチェス
「あ、あぁ、1度カフェでお会いした事がある。宮廷楽師のアントン様だ。」
そこにいる誰もが、アントンの正体がトニー様だと気付いていたが、トニー様が『アントン』と名乗っているため、話を合わせた。
ダニエル
「俺も1度だけ街道の店でお会いしました。この坊ちゃんは、以前、キャルが担当していたお客様だ。」
サンチェス
「アントン様、他に行く当てがないとは一体? あの時の2人の付き添いの方は、今日はいらっしゃらないのでしょうか?」
アントニオの目のまわりが赤くなって、涙を耐えていることがわかる。
アントニオ
「....宮廷楽師を解雇されましたので、城には戻れません。お金も持ち合わせがなく、非常に厳しい状態なのです。ご恩は必ずお返しします! 何卒お慈悲を!」
そう言って、またもや頭を下げてくるアントニオに、サンチェス達は困惑した。
トニー様は、自分がトニー様である事がバレていないと思っているのか?
領主の1人息子が解雇されるなどあり得ない事だ。いや、音楽家になりたいと言って勘当されたのだろうか?
しかし、トニー様といえば、数多くの武勇伝を持ち、魔導騎士達が心酔し、熱狂するほどのお方だ。領主夫妻の溺愛ぶりにも凄まじいものがあると聞いた事がある。
自分も類稀なる歌声を聴いて心を奪われたうちの1人だ。
そんな才能溢れる御子息を領主様が手放すだろうか?
もし、仮に、本当にアントン様がトニー様ではなく、ただの楽師であったとしても、この礼儀正しい子供が、領主の逆鱗に触れて解雇されたとは考え難い。何があったのか、さっぱりわからない! どうすれば良いのかも、さっぱりわからないぞ!
もしかしたら、城の人と喧嘩して家出したのかもしれない。下手に、アントン様の言う通りに従ったら、誘拐の疑いで捕まってしまう可能性もあるのではないか?
でも、本当に行く当てがないのだとしたら、放置するわけにはいかない。
ダニエル
「キャルを呼んでくる! アイツなら、なんとかしてくれるかも!」
サンチェス
「あぁ、そうしてくれ!」
ダニエルは、店から飛び出して駆け出すと、店の前に集まった野次馬達を掻き分けて、馬車屋へと向かった。
息を切らしながら、馬車屋に駆け込む。
ダニエル
「キャル! キャルはいるか!」
奥の部屋で、会計簿と睨めっこしていたキャロラインが、顔を出す。
キャロライン
「何か用? 慌ててどうしたのよ?」
ダニエル
「大変なんだ! アントン様が、サンチェスさんのお店に来てるんだ!」
キャロライン
「え!? 坊ちゃんが!?」
ダニエル
「そうなんだ! それで、王都に行きたいって仰って! どうすればいいんだ!?」
キャロライン
「どうすればって? お連れすれば?」
ダニエル
「だぁ~! そうなんだけど、そうじゃなくてぇ~! お一人なんだ! 解雇されたんだ!」
キャロライン
「リン様とルド様を!?」
ダニエル
「違う! アントン様が! 解雇されたの!」
キャロライン
「ちょっと、待って、意味がわからないわ。だって、あの方は.....」
勇者様の御子息のトニー様じゃない!?
ダニエル
「俺だって意味がわからないよ! とにかく、サンチェス様のところに来ているんだ! 一緒に来てくれ! 泣いてるんだよ!」
キャロライン
「え!? アントン様が泣いているの? ......アントン様はお一人なのね? 分かったわ! ちょっと待ってて!」
キャロラインは部屋に戻り、引き出しから金の腕輪を取り出した。
ダニエル
「何やってるんだよ! お洒落している場合じゃないんだぞ!?」
キャロライン
「違う! これが必要なの! すぐに行くわよ!」
キャロラインは、馬に跨ると、ダニエルにも、馬を使うように指示した。
キャロライン
「付いて来て!」
ダニエル
「キャル! サンチェスさんの店は逆だ!」
キャロライン
「リン様とルド様に会いに行くのよ!」
ダニエル
「なるほど!」
広場の関所まで辿り着く。
キャロライン
「アントン様のことでキャロラインが来たとルド様とリン様に伝えて!」
金の腕輪を差し出す。
キャロライン
「これを見せれば分かるはずよ!」
憲兵
「何!? アントン様になにかあったのか!?」
キャロライン
「今は言えないわ。お二人に取り次いで!」
憲兵達のうち2人が、腕輪を預かり、丘上のゲートハウスまで案内してくれた。
憲兵
「ここで待っていろ!」
憲兵
「トニー様!? どうされたのですか?」
真っ赤になって、泣きながら駆け込んできたアントニオに、憲兵達は皆、驚いている。
アントニオ
「すみません。大事なものを忘れて来てしまったので、取りに行って来ます。」
憲兵
「大丈夫ですか? 一緒に行きましょうか?」
アントニオ
「いえ、1人で大丈夫です。」
アントニオは、同じようなやり取りで2つの関所を通過して街に出た。当てもないが、大通りを城壁の正門に向かって歩く。
慌てて出てきたため、お金も楽器も持っていない。それどころか、帽子すら被ってきていなかったが、アントニオは興奮状態にあったために、その事に気が付いていなかった。
3時の鐘が鳴る。
街では、最も人の行き交いが多い時間帯だ。
街の人々は、仰天した。
身なりのいい、焦茶の子供が歩いてくる!
目にした人々は、すぐに、その人物がトニー様の愛称で親しまれている次期領主アントニオ・ジーンシャンであることに気が付いた。
それ程にジーンシャン領で、焦茶の子供は珍しい。
アントニオのただならぬ雰囲気に、声をかけることも出来ず、街の人々はモーゼが割った海のように、アントニオの進行方向の道を開けた。
アントニオは、そうした街の人の反応に、気が付いておらず、どうすれば良かったのか、これからどうすれば良いのかといったことで、頭がいっぱいだった。
アントニオ自身だって、本当は自分が皆から大切にされていることくらいは、すでに分かっていたのだ。
だけど、叩かれたり怒鳴られたりする事は怖かった。どんな理由があったとしても暴力は絶対に人にしてはいけない事だし、されてもいけない事だと思った。
まして、今回、自分に非はないはずだ。
冷静にそのことを伝えて、母メアリーに謝罪してもらえば良かったのに、自分も頭に血がのぼってしまって、心の奥にあった不安な気持ちが、思わず口から出てしまったのだ。
そして、魔王のこととか、絶対に言ってはいけない事を口にしてしまった。
自分が戻れば、問い詰められるに違いない。喋らなければ、また殴られるかもしれない。暴力を振るわれたら秘密を黙っていられる自信などアントニオにはなかった。
うっかり真実を話してしまったら、バルドは、もう静かには暮らせないかもしれない。もしかしたら、リンも。両親や魔導騎士達が、バルドとリンの2人と戦うことになったら.....。
大切な人同士が殺し合いをするだなんて、考えたくもない。
だが、自分がいなくなれば、全てが丸く収まるのではないだろうか?
バルドとリンは2人で何処か別の場所に封印の間の入り口を作って暮らせばいいし、リュシアンとジュゼッペは手のかかる主が消えて結婚出来るし、両親は新しく子供を作ればいい。髪の色が明るい子供を...。子供が出来なくても、アルベルト叔父さんの子供のレオナルドやエドアルド、カリーナがいる。
自分は愛されているから大丈夫だ! と思いたい気持ちと、自分なんかいない方がいい! という思考が、ぐるぐると回って、そこから先の思考にはたどり着けないでいた。
ふと、服飾商会という看板が目に飛び込んできた。確か、サンチェスさんという商人さんのお店だ。
『大スターになること間違いなし!』というサンチェスの言葉を思い出した。
そうだ! 王都に行って、歌劇場に紹介してもらい、今世でもオペラ歌手をしよう!
そうすれば、きっと皆が幸せに暮らせる!
アントニオは、服飾商会に飛び込んだ。
店内は、夕飯の買い出しついでに立ち寄る奥様方で賑わっていた。3人いる店員さんも、フル稼働で接客している。また、店の主人サンチェスと、商品の輸送を担当している馬車屋のダニエルが、品物の受け渡しで作業をしているところだった。
突然、お店に飛び込んで来た、焦茶の坊ちゃんに、店内は騒然となった。
アントニオ
「サンチェスさん! お久しぶりです。覚えていますか? アントンです。」
サンチェスはギョッとした。確かに、目の前にいる男の子の姿形は以前に出会った宮廷楽師のアントンだったが、髪の色も目の色も違うし、顔にはソバカスがある。
サンチェス
「あ、あぁ、覚えておりますが.....」
ジーンシャン領で焦茶の坊ちゃんといえばトニー様のことである。
サンチェスは魔導騎士や憲兵がペコペコ頭を下げていた光景を思い出す。強力な武人のオーラを放つ、2人の護衛の姿も。
以前は気が付かなかったが、よく見るとグリエルモ様に似た顔立ちだ。
アントン様はアントニオ・ジーンシャン様だったのだ!
アントニオ
「もし、お気持ちが変わっていなければ、私を王都に連れて行って、劇場に紹介して欲しいのです!」
サンチェス
「え!? .....し、しかし.....。」
アントニオ
「お願いします! 他に行く当てがないのです! この通りです! お願いします!」
膝を折って懇願するアントニオに、サンチェスはビックリした。
サンチェス
「お辞めください! 頭を上げて下さい!」
また、外から野次馬根性の街の人々が集まって来て、店内は大変な騒ぎになり始めた。
サンチェスは、店員達に向かって指示を出す。
サンチェス
「おい! 今日はもう店を閉めろ! お客様には帰って頂きなさい!」
店員達
「「「はい!」」」
アントニオ
「あ、申し訳ありません! ご迷惑をおかけするするつもりではなかったのです。お店が終わるまで、裏でお待ちします。」
サンチェス
「とんでもないです! 奥に応接室がありますので、どうかそちらへ!」
応接室のソファーにアントニオを座らせ、サンチェスの奥さんが、お茶を入れる。
ダニエル
「サンチェスさんは、坊ちゃんのお知り合いなんですか?」
サンチェス
「あ、あぁ、1度カフェでお会いした事がある。宮廷楽師のアントン様だ。」
そこにいる誰もが、アントンの正体がトニー様だと気付いていたが、トニー様が『アントン』と名乗っているため、話を合わせた。
ダニエル
「俺も1度だけ街道の店でお会いしました。この坊ちゃんは、以前、キャルが担当していたお客様だ。」
サンチェス
「アントン様、他に行く当てがないとは一体? あの時の2人の付き添いの方は、今日はいらっしゃらないのでしょうか?」
アントニオの目のまわりが赤くなって、涙を耐えていることがわかる。
アントニオ
「....宮廷楽師を解雇されましたので、城には戻れません。お金も持ち合わせがなく、非常に厳しい状態なのです。ご恩は必ずお返しします! 何卒お慈悲を!」
そう言って、またもや頭を下げてくるアントニオに、サンチェス達は困惑した。
トニー様は、自分がトニー様である事がバレていないと思っているのか?
領主の1人息子が解雇されるなどあり得ない事だ。いや、音楽家になりたいと言って勘当されたのだろうか?
しかし、トニー様といえば、数多くの武勇伝を持ち、魔導騎士達が心酔し、熱狂するほどのお方だ。領主夫妻の溺愛ぶりにも凄まじいものがあると聞いた事がある。
自分も類稀なる歌声を聴いて心を奪われたうちの1人だ。
そんな才能溢れる御子息を領主様が手放すだろうか?
もし、仮に、本当にアントン様がトニー様ではなく、ただの楽師であったとしても、この礼儀正しい子供が、領主の逆鱗に触れて解雇されたとは考え難い。何があったのか、さっぱりわからない! どうすれば良いのかも、さっぱりわからないぞ!
もしかしたら、城の人と喧嘩して家出したのかもしれない。下手に、アントン様の言う通りに従ったら、誘拐の疑いで捕まってしまう可能性もあるのではないか?
でも、本当に行く当てがないのだとしたら、放置するわけにはいかない。
ダニエル
「キャルを呼んでくる! アイツなら、なんとかしてくれるかも!」
サンチェス
「あぁ、そうしてくれ!」
ダニエルは、店から飛び出して駆け出すと、店の前に集まった野次馬達を掻き分けて、馬車屋へと向かった。
息を切らしながら、馬車屋に駆け込む。
ダニエル
「キャル! キャルはいるか!」
奥の部屋で、会計簿と睨めっこしていたキャロラインが、顔を出す。
キャロライン
「何か用? 慌ててどうしたのよ?」
ダニエル
「大変なんだ! アントン様が、サンチェスさんのお店に来てるんだ!」
キャロライン
「え!? 坊ちゃんが!?」
ダニエル
「そうなんだ! それで、王都に行きたいって仰って! どうすればいいんだ!?」
キャロライン
「どうすればって? お連れすれば?」
ダニエル
「だぁ~! そうなんだけど、そうじゃなくてぇ~! お一人なんだ! 解雇されたんだ!」
キャロライン
「リン様とルド様を!?」
ダニエル
「違う! アントン様が! 解雇されたの!」
キャロライン
「ちょっと、待って、意味がわからないわ。だって、あの方は.....」
勇者様の御子息のトニー様じゃない!?
ダニエル
「俺だって意味がわからないよ! とにかく、サンチェス様のところに来ているんだ! 一緒に来てくれ! 泣いてるんだよ!」
キャロライン
「え!? アントン様が泣いているの? ......アントン様はお一人なのね? 分かったわ! ちょっと待ってて!」
キャロラインは部屋に戻り、引き出しから金の腕輪を取り出した。
ダニエル
「何やってるんだよ! お洒落している場合じゃないんだぞ!?」
キャロライン
「違う! これが必要なの! すぐに行くわよ!」
キャロラインは、馬に跨ると、ダニエルにも、馬を使うように指示した。
キャロライン
「付いて来て!」
ダニエル
「キャル! サンチェスさんの店は逆だ!」
キャロライン
「リン様とルド様に会いに行くのよ!」
ダニエル
「なるほど!」
広場の関所まで辿り着く。
キャロライン
「アントン様のことでキャロラインが来たとルド様とリン様に伝えて!」
金の腕輪を差し出す。
キャロライン
「これを見せれば分かるはずよ!」
憲兵
「何!? アントン様になにかあったのか!?」
キャロライン
「今は言えないわ。お二人に取り次いで!」
憲兵達のうち2人が、腕輪を預かり、丘上のゲートハウスまで案内してくれた。
憲兵
「ここで待っていろ!」
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