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第二幕 幼少期

28.伝説の狂戦士でも孫には弱い?

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 キラキラの黄金の髪と銀色の髪の人達がずらっと並んで、威厳のあるオーラを放っている。

グリエルモ
「お久しぶりです。父上」

ロベルト
「うむ。よく参られた。この子がアントニオか?」

グリエルモ
「そうです。トニー、挨拶しなさい」

 グリエルモと同じ黄金色の髪にスカイブルーの瞳、垂れ目のつり眉で、鼻筋の通った獅子のような凛々しい初老の男性がアントニオを見下ろしている。

 祖父ロベルト・ジーンシャン(52歳)、元辺境伯である。自分にも他人にも大変厳しい人物であるときいている。その息子であるグリエルモやアルベルトも、スパルタと言っていいほど厳しく育てられた。

 ある日の戦闘訓練では、深淵の森の奥に1人置き去りにされ、命からがら自力で戻って来なくてはいけなかったという。

 また、ロベルトは、魔物の襲撃や、魔王軍の進行による壊滅寸前のジーンシャン領を立て直した人物としても有名だ。ジーンシャン魔導騎士団では、弱い者を除隊させ、王国中の屈強な戦士を集めて軍力を強化したのだ。

 その屈強な戦士を集める際に、ロベルトが行った方法は斬新であった。自身が強い人物に決闘を申し込み、勝者の配下に敗者が下ることを約束させ、当然のように勝利し、強制的に連れ帰ったのだ。そのことから黄金の狂戦士(バーサーカー)と呼ばれている。

 ロベルトは王国中から、名だたる魔法戦士や魔法使いのほとんどをジーンシャン領へ連れ帰った。つまりは一度たりとも決闘に負けなかったということなのだ。ロベルトは不敗の魔法戦士としても知られている。

 とにかく、恐ろしい人らしい。

 アントニオは、暴力を連想させるような、そういう荒々しい人は苦手である。

アントニオ
「アントニオと申します。6歳になりました。この度は、大変お世話になります。3日間どうか宜しくお願い致します」

 なんとか平静を装うと、定型文の挨拶を何とか口にして、一礼した。恐る恐る顔を上げると、その人物は、優しい笑顔になって近寄ってきた。

 あれ? 黄金の狂戦士と呼ばれる祖父はこの人じゃないのか? でも、父上に似ていて、それらしい年齢の男性はこの人だけなんだけど?

 父グリエルモを振り返ると、何故かグリエルモは驚いた顔をしている。

ロベルト
「なんて素晴らしい子なんだ!見たか!アルベルト!こんな歳から、こんなに堂々と立派な挨拶が出来る!しかも、なんと気持ちのいい声で挨拶するのか!流石は、儂の孫!」

 アントニオは、50代だとは思えないほど逞しい腕に抱き上げられて、もう片方の手で頭を撫でられた。

ロベルト
「私がロベルトだ。ロブお祖父ちゃんと呼んでいいんだよ。儂もトニーと呼んでいいかな?」と、優しい声で、付け加えた。

 周囲の空気がピキッっとなって、何故か皆、目が見開かれて固まっている。

 アルベルトと呼ばれた男性(28歳)は、グリエルモの弟で、同じく黄金の髪とスカイブルーの瞳をもつ。ロベルトに似た垂れ目で、垂れ眉。のんびりした雰囲気のある人物だ。祖父母と共に王都の屋敷で暮らしている。その傍には、夫人のオデット(28歳)と3人の子供達が並ぶ。3人の子供達は黄金の髪にスカイブルーの瞳。夫人は少し色の違うくすんだ色の金髪で水色の瞳である。

 固まる一同を見渡したアントニオは不思議に思った。

 あれ? なにか変なのかな? よく分かんないけど。

アントニオ
「ロブお祖父ちゃん!光栄です。是非、トニーと呼んで下さい」

ジュリア
「まぁ、なんて可愛いらしいの! 私はジュリアお祖母ちゃんよ! ようこそ、王都のジーンシャン邸へ!」

 そう言って自己紹介したジュリア(50歳)はロベルトの妻であり、グリエルモの母だ。長い金髪を編み込んでアップにしている。バッチリ二重の大きな水色の瞳。グリエルモのネコ科のような目の形は、ジュリアお祖母様から受け継いだものらしい。

アントニオ
「ジュリアお祖母ちゃん! 有難うございます。お祖母ちゃんも可愛いですね!」

ジュリア
「まぁ! 有難う! 嬉しいわ」

 ジュリアが喜んでアントニオの手を取ると、アントニオはジュリアの手に軽く口付けをした。ジュリアは目を丸くしてから、にっこりと微笑んだ。

ジュリア
「今から、この様子では、将来この子は、大変なプレイボーイになりそうね。」

 アントニオが視線を移して、銀髪で水色の瞳を持つ老夫婦に目を向ける。目線が合うと、2人は切れ長の目をさらに細めて、挨拶した。

ヘンリー
「ヘンリー・サントだ。私もトニーくんのお祖父ちゃまだよ。そして、この人が、エミ・サント。私の妻で、彼女も君のお祖母ちゃまだ」

エミ
「エミ・サントですわ」

 白とグレーを基調としたエレガントなファッションで、夫妻は揃えている。ヘンリー(65歳)は髪をオールバックにしており、エミ(55歳)は前髪のない髪を低い位置でお団子にまとめている。清潔感のある身なりである。流石は神官長の弟と、元王女にして国王陛下の姉君!

アントニオ
「アントニオです! ヘンリーお祖父ちゃま、エミお祖母ちゃま」

 アントニオはロベルトに抱っこされたまま、ヘンリーに向かって手を出すと、エミがヘンリー押しのけてアントニオの手をとった。なんだか力関係が垣間見えた気がする。そして、エミが期待に満ちた母親似の切れ長の目で見つめてくるので、アントニオはまたも貴婦人の手に口付けをした。

エミ
「まぁ! 嬉しいわ! しばらく手を洗いたくないほどに!どうしましょう!」

 エミは、より目を細めて喜んでいる。

ロベルト
「ヘンリー殿、お祖父『ちゃま』とは、些かずるくないかね? 儂が遠慮して、お祖父『ちゃん』に留めたのに! 自分達だけトニーからの敬称を『ちゃま(様)』にするとは!」

ヘンリー
「いやいや、ロベルト殿も、いきなり抱っこして、未だにそのままではないですか? そろそろ、抱っこを代わってくれませんかね?」

 視線をバチバチさせて、何かを争っている。何だろうね? しかし、このままではいけない! 喧嘩が始まってしまいそうだ。

アントニオ
「ロブお祖父ちゃま、降ろして頂けますか?」

ロベルト
「あぁ、もちろんだよ!」

ロベルトがゆっくりと宝物を置くようにアントニオを降ろす。

アントニオ
「有難うございます。ロブお祖父ちゃま!」

 降ろされたアントニオはロベルトに笑顔を向けてお辞儀してから、体を反転させ、ヘンリーに抱きついた。

 ヘンリーは喜んでアントニオを抱き上げた。

 アントニオが2人の要求に答えるべく、懸命に振る舞った。その愛らしい姿に、一同はホウッっと溜息をつく。

 ファンに平等にサービスするのは大変だが、人が幸せそうに笑うのを見ることは、何にも代え難い喜びだ。アントニオは、そう思った。

 アントニオは人間が大好きなのである。
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