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第一章
03-7.仲間を作りましょう7 ★
しおりを挟む2021/11/18に加筆修正しました。
「さっき言った通り、この記録の公爵令嬢のように、俺もこの世界とは別の記憶があるんだ。認めたくないけど、アンジェリカ……アカリは前世の俺の義妹。義妹って言っても、血はまったく繋がってないけど」
俺は順を追ってショウの時の事を説明した。
俺の本当の親を殺した、血の繋がらない義両親のこと。
その二人から産まれ、甘やかされて我が儘に育ち、今みたいに重度のストーカーのような行動をしていた義妹・アカリのこと。
協力して生きて行く内に、想いが通ったもう一人の義妹・ミツキのこと。
そのミツキと二人で家を出て生活し始めたものの、追いかけてきたアカリにミツキが殺され、助けようとした俺も呆気なく死んだこと。
そんな最期を迎えた前世で遊んだゲームに出てくる世界に転生したこと……時折質問を受けながら、全てを打ち明けた。
「なんか……生々しいね」
「ごめんね、昼ドラみたいな話しで」
「昼ドラ?」
「ううん、前世の話」
話している内に『これ十才組に話す内容じゃないよな?』と思い至ったものの、話さないと何の説明も出来ないので仕方が無いと開き直るも、やっぱり厳しかったようだ。
生々しいよね。本当に申し訳ない。
「わたくしたちが生きるこの世界がその、ゲーム? というものと同じというのが理解に苦しみますわ。前例を聞いたばかりですが……」
リリーシアの言い分はわかる。俺がみんなの立場だったら『何いってんだコイツ?』となっていた。前例があろうが無かろうが、信じられるかは別問題だ。
だがそれでも聞いてほしい。この先ヒロインが登場した時、ゲームのような悲惨な状態にならないためにも、この夢物語のような事実を理解してもらわないといけない。
「俺も前世の記憶を得るまで疑いもしなかった。俺たちは物語でもゲームの中でもなく、実際に存在して生きて生活してる。本当に酷似しているだけなんだと思うけど、似ているだけでは済ませられない問題が起き始めている。アカリなんかも登場しちゃたし……」
「一つ聞きたいんだが、俺たちはそのゲームの中でどんな感じなんだ?」
ヒュッ と、思わず息が詰まった。
一番話しにくい部分であるが故に、どうしても口が重くなってしまう。
「……アル?」
「大丈夫か?」
「うん……ただ、これ聞いて怒らないでほしいんだ」
もう卑怯だと云われても別にいい。
何が起きても怒られないように言質を取っておきたい。
「あくまでゲーム? の中の話しだからな」
「まぁ、怒ってもしょうがないしねぇ」
リオンとディルクの同意に内心ガッツポーズをする。
ヨッシャ、言質取ったぞ!
「……ゲームの中の俺たちはね、学園で出会った聖女に惚れて、自分の婚約者と婚約破棄しちゃうんだ」
「「……はい?」」
二人の声が綺麗に重なった。
そりゃそうなるよね。そもそも想像がつかないだろうけど。
「見損なったぞ、アル」
「そんな一方的な婚約破棄……王位剥奪どころか廃嫡されてもおかしくないよ」
「俺だけじゃないからな!? ディルクとリオンも当事者だからな!?」
まさか俺に集中砲火してくるとは思わなかった。
『自分たちはそんな事しない』という自信の表れだろうか? それだったら俺だって浮気も婚約破棄もする気はゼロなのに……心外だ。
「まさかリオンが浮気なんて……」
「そのゲームとやらを作った奴はそうとう土に還りたいようだな」
「「浮気も婚約破棄もないから!!」」
一人悶々としていたが、婚約者たちからの冷たい視線に二人が焦るのを見てスッキリした。ふふん、いい気味だ。
「俺もね、そんな破滅しかない未来は避けたいんだ。でも前世には“強制力”って言葉があって、どんなに回避しようとしても似たような状況に陥ってしまうかもしれないから……だから、半信半疑でもいい、未来へのちょっとした投資ぐらいの感覚で一緒に対策してくれたら嬉しい。目前にアンジェリカ嬢の事もあるし」
乙女ゲームのヒロインの前に、先ずはアカリというボスが立ちはだかっている。RPGのボスの方がまだ良いと思えてしまうほど重度のストーカーを早々に対処しないと、俺だけじゃなく皆も危ない。主に、身体の……。
「まぁ、六年後の問題はまだ時間があるし、今は既に被害者が出てるアンジェリカ嬢の件優先で動くのが良いんじゃない?」
「うちの問題なのに、すまないね」
「気にしないで下さい。困った時はお互い様です」
イアンが提案したように、アカリの件はみんな協力的で安心した。きっと『明日は我が身』と思ったのだろう。実際被害者がいるのが効いているんだと思う。それでもこうして積極的に動いてくれるのは有り難い。
能ある彼らが付いて来てくれるような王太子になれるように頑張ろうと、俺は人知れず誓った。
「確認なのですが、アンジェリカ嬢……本当の彼女に申し訳ないので、今後はアカリさんとお呼び致しましょう。アカリさんとわたくしたちの価値観は一体どの程度違っているのでしょうか?」
「敵の情報は必要だよねぇ」
「本当は実際会ってみた方が良いのですが、今はジュード家で軟禁状態ですし。なにより下手に会って被害を拡大させてしまう恐れがあるので」
「うーん、そうだねぇ」
リリーシアとイアンの問いに、俺は悩んだ。
アカリの異常さを話せばいいのはわかる。けれど面倒な子と遭遇した事の無い貴族子息子女に説明したところで、被害を想像が出来るかどうかが問題だ。
(日常に近い話しを例にした方がいいだろうし……前世の話しを例に出すか)
俺は前世の記憶を回想しながら口を開いた。
「……あなたは友だちや家族と出かけます。待ち合わせ場所で待っていれば、相手から遅刻すると連絡がきました」
「う、うーん?」
「質問形式なの?」
「まぁ先ずは聞いてみよ?」
唐突な問題にみんな困惑している。無理もないか。 脈絡のなさそうな話しをされれば、誰だって首を傾げたくなる。
それでも聞こうとしてくれる事に感謝して、俺はその先を続けた。
「到着するまでに一~二時間かかるというので、『時間を潰してるから着いたら連絡してくれ』と伝えて、近くの店に入ります。そして二時間経って連絡が来たので待ち合わせ場所に向かいました……さて、もし皆なが遅れて来た側なら、待たせた側になんて言う?」
「それは『待たせてゴメン』でしょ。二時間も待たせてるんだから」
「そもそも二時間も待たせる事自体あり得ないんだけど」
「そんなに待たせるならその日はキャンセルして、謝罪も込めて後日埋め合わせをするべきだな」
当たり前でしょ? という顔をする面々を見回す。
良かった、みんな同じ価値観で。
暇潰しをさせるほど待たせたのだから、何よりもまずは謝るのが常識だ。そこに貴族平民云々は関係ない。人としての問題だ。だがそこが違うのがアカリだった。
「アカリはね、そこで『遅い!!』って怒るんだよ」
「「「……はい?」」」
皆の声が合わさった。唯一ジュード兄妹だけが遠い目をしている。身に覚えがあるのだろう。今度、被害者同士語り合えたら良いなと思う。
「うーん、なんでそうなった?」
「アカリ的には『時間潰しててわたしを待たせたんだからそっちが悪い。だから謝って!』らしいよ」
「なんだそれ」
「遅れて来なければ時間を潰すこともなかったのにな」
「むしろ二時間も待っててあげた事を心底感謝してほしいよねぇ」
「無茶苦茶だな」
「それがアカリという少女だよ」
アカリと同じ価値観の者がいなくて良かった。
因みに、アカリはその後『許してあげるから、何か奢って』となる。
何でだよ。遅れて来たのはそっちだろ。
だから一緒に出かけるなんて嫌なのに、行かなければミツキに当たり散らすのだからどうしようもない。
「もし入れ替わってるのなら、本当のアンジェリカ嬢の居場所も見つけなきゃいけないし。そういうのも含めて協力して欲しいんだ」
そう言って、俺は皆に頭を下げた。続いてジュード兄弟も同じように頭を下げる。
経験がある分、ジュード兄弟の必死さがよくわかった。
「……それで?」
ディルクの言葉に頭を上げる。
そこには得意げな表情を浮かべる友人の姿があった。
「星古学の研究室にまで入れてもらっちゃったしなぁ~。これで協力しない方が無理あるって」
「俺たちも無関係とはいかないようだしな」
「言っただろう。『困った時にはお互い様』だと」
「婚約者の未来での浮気の件もございますし、協力させていただきますわ」
リリーシアの言葉に、リオンが再び慌てた。
そんな光景を前に、前世の俺の心が満たされていくのを感じた。
ショウの時には、守るべき者はいたが共に戦ってくれる仲間はいなかった。
それが今世では、こんなに頼もしい人たちがいる。この絆を大切にしていこうと、改めて誓った。
「ありがとう、みんな」
俺はこの日、初めて仲間が出来た。
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