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プロローグ 乙女の記憶
退屈で、灰色に染まった日々だった。
帝都の片隅で、このまま色のない日々を送って、自分は一生を終えるのだろう。
自身の人生に、志乃は夢も希望も抱いていなかった。そんなことに思考を巡らせる隙すらないほど、暗澹たる生活を送っていたのだった。
しかし――
「君と結婚したいのだが」
志乃に突如求婚してきたのは、名家のひとり息子で、絶世の美男子である橘桜虎。
なぜ、両親もいないうえに大して美しくもない自分が、こんな夜空に輝く一番星のように眩い男性に、結婚を申し込まれているのだろうか。
困惑する志乃だったが、桜虎は端正な顔で小さく微笑んだ。
「俺と結婚してくれ。俺は君でなくてはダメなのだ」
そう囁くと、桜虎は志乃の肩に手を置いた。
手から感じられた彼の体温が、やけに温かい。
生まれて初めて感じた、優しく甘美な感触だった。
その温もりは、生涯忘れない記憶として志乃の中に刻み込まれたのだった。
これは、愛を知らない乙女が、この世のものとは思えぬほどの深い愛に満たされる話。
第一章 乙女は突然求婚される
午後を少し回った時だった。
この時間帯になると、洗濯・掃除・炊事と朝からせわしなく働いていた志乃の体にも疲労が溜まってくるのが常だ。
昼休憩で一息つけば少しは回復するはずだが、「これが終わったら昼餉を取っていいから」とニヤついた女中に申しつけられた廊下の雑巾がけは、まだまだまったく終わりが見えない。
だけど適当に切り上げてしまったことが明るみに出れば、後からもっとひどい目に遭う。
さあ丁寧に、しかし手早く終わらせよう。
……と、小さく気合を入れた志乃が、馬穴に入れた水で雑巾を固く絞っていると。
「ちょっと志乃!」
甲高い耳障りな女の声が、廊下の端から響いてきた。ドタドタという、伯爵令嬢にしては品のない足音とともに。
志乃は密かに嘆息する。どうやら、昼休憩は想定よりも大幅に遅れることになりそうだ。
「なんですか?」
つかつかと志乃の元へとやってきた貴子に、志乃は微笑んで尋ねる。
貴子に対しては、できるだけ怯懦な顔は見せないようにしている。ささやかな抵抗であった。
「私の部屋に髪の毛が落ちてるじゃないのっ。あんたって子は、ろくに掃除もできないの!?」
貴子はただでさえ吊っている目をさらに吊り上げ、志乃を責め立てるように怒鳴りつける。
艶やかな紅色の着物を身にまとい、髪型は流行の耳隠し。
吊り目で品のある面立ちの美人だが、普段から虐げられている志乃にとっては意地の悪い顔にしか感じられない。
一方、志乃は童顔で平凡な顔立ちをしていた。高くも低くもない鼻に、子供のように小さな唇。瞳こそ「クリッとしていて愛らしいね」と、遠い昔誰かに言われた覚えがあるが、自分で鏡で見ても特に魅力的とは思えない。
一応、貴子と志乃は同じ九条姓であり、再従姉妹という間柄にある。だが、幼い頃に志乃は火事で両親を失い、親戚内で押し問答があった末、貴子の両親に引き取られることになった。
それから十年来、貴子からは隙あらば虐げられている。
貴子の両親は表立って志乃をいじめることはなかった。しかし引き取った志乃を女中同然に扱い、娘の行動を黙認している。その顔からは「身寄りのないお前を引き取ってやったんだ、有り難く思え」という傲慢な感情が透けて見えるようだった。
「はあ。さようでございましたか。それは申し訳ございませんでした」
――掃除したのは朝だし、昼にもなれば髪の毛の一本くらい落ちているのは仕方ないと思うけど。
……なんて、胸の内では反論しながらも笑顔で頭を下げる。
正論を吐いたところで、怒鳴られる時間が長くなるだけ。
素直に謝るのが、もっとも早く貴子の言いがかりを終わらせる方法だと身に染みて知っていた。
しかし今日の貴子はすこぶる機嫌が悪そうだ。昨日、「貴子さん、先日の夜会でもあまり殿方に声をかけられなかったそうよ」と女中たちが噂していたのが関係あるのかもしれない。
「ふんっ! あんたのことだからどうせ廊下の雑巾がけだって、ちゃんとできてないのでしょう!」
とんだ言いがかりをつけながら、貴子は志乃の足元に置かれていた馬穴を足でひっくり返した。
濁った雑巾の絞り水が廊下にみるみるうちに広がっていく。
「これをきれいにふき取れば、少しは廊下もきれいになるでしょうよ! さっさとやりなさいよっ」
そう言いつけると、貴子はまた足音を立てながら廊下を歩いて行った。
――あーあ、お昼ご飯食べるの、今日は遅くなってしまいそうね……
肩をすくめながら、ため息をつく志乃。貴子の理不尽な仕打ちにはもう慣れ切っていて、別段腹を立てることもない。
深く考えずに、とにかく言いつけられたことをこなすしか道はない。
「……あら。志乃さん、またやられてるわ」
「かわいそうにねえ、本当は良家の娘だっていうのに」
少し離れた場所から、年嵩の女中たちがそんな会話をしているのが耳に入ってきた。
しかし彼女らは皆薄ら笑いを浮かべていて、決して志乃に同情しているわけではない。
志乃がこの屋敷に身を置くようになってからというもの、気の強い貴子の矛先は全て志乃に向けられるようになった。
よって、女中たちのほとんどは志乃の存在をとても快く思っている。自分たちの盾として。そして、安心して仕事を押しつけられる相手として。
そんな女中たちの冷笑と嘲りも、毎日のこと。
だがしかし、図太い方だとはいえ志乃も人間だ。
屋敷の者たちからの毎日の仕打ちに、まったく心に傷がついていないと言ったら嘘になる。
――だけど大丈夫。私には、大切な友達がいるもの。
言いつけられた雑巾がけをてきぱきと終えた志乃は、今度こそ昼休憩に出た。他の女中たちはとっくに昼餉を終えている。割れ目が入ってしまって廃棄予定だった二段の重箱に残り飯を隙間なく詰めると、屋敷の外へ出た。
向かう先は、九条邸の敷地の隅にポツンと建っている、古びた蔵。
漆塗りの瓦屋根は今にも落ちてきそうだが、屋敷の者はこの蔵の存在すら忘れているのか、修繕の話などは出ていない。
立てつけの悪い引き戸を力を込めて引き、中へ入ると、志乃は先ほど貴子に見せたものとは違う、満面の笑みを浮かべてこう言った。
「柳、麗羅。ごめんなさいね、遅くなって」
志乃の声に呼ばれるように、倉の奥からごそごそと物音がする。
まず先に出てきたのは、白猫だった。
しかしただの猫ではなく、二本の足で立って歩き、ふさふさの尻尾は二又に割れている。猫又という名のあやかしの、柳だ。
そして次に姿を見せたのは、妖艶な妙齢の女性だった。
蔵の奥に敷いた畳の上でうたた寝でもしていたのか、垂らした緑の黒髪には少し癖がついている。
身にまとった紺の浴衣も胸元がはだけていて、底知れない色気を醸し出しているが、白い胸からは骨が透けて見えていた。
彼女――麗羅は、骨女というあやかしであるため、肌を透かして骨が視認できる状態が通常なのだった。
「ほんと、遅かったにゃあ志乃」
のんびりとした口調で柳が言う。かわいらしい鼻をひくひくと動かしていた。きっと志乃の持ってくる昼餉を心待ちにしていたのだろう。
「またあの貴子っていう、性悪女にいじめられたのかい?」
外見に相応しく、気だるげで艶のある声で麗羅が尋ねてきた。
眉間に皺を寄せて不愛想な表情をしているのも、ますます物憂げな色香を濃くしていた。
「あはは、そうね。まあでも慣れっこだから」
苦笑を浮かべて志乃は答える。
柳と麗羅と話をしていると、屋敷での仕打ちで負った傷が少しずつ癒されていくのだ。
――ふたりは、人ならざる者であるあやかし。
近代化の進んだ大正のこの世では、彼らはお伽話の中だけの存在だと信じられている。
しかし、実際にはあやかしは、人間社会のあらゆる場所に存在していた。
栄えている宿には座敷童、清掃の行き届いていない浴場にはあかなめ、黄昏時の空には一反木綿……
物心ついた頃から、志乃はそんな多種多様なあやかしたちを当たり前のように見かけていた。
しかし、ほぼ大多数の人間は、あやかしを見ることができないのだった。
あやかしたちの話によると、江戸以前はほとんどの人間があやかしを視認できていた。しかし、人間の技術が発展し、非科学的なものが否定されるようになってきた明治以降、どんどんあやかしが見える人間が減っていったのだという。
日照りや洪水といった自然災害は、あやかしの怒りや恨みによって発生するものだと信じられていた時代には、我々は恐れ敬われる存在だったというのに……と、人ならざる者に対して畏怖の念を失った人間たちを嘆くあやかしも多いらしい。
人間たちに忘れられかけている大正のあやかしの大半は、時には人間に化け、人間社会にひっそりと溶け込み、穏やかに暮らしていた。
それがもっとも一般的な昨今のあやかしたちの生き方だった。
幼い頃に亡くなった両親もあやかしが見える人たちだった覚えがあるが、その他に自分と同じ能力を持つ者を見たことはなかった。今もあやかしと共に生きる志乃は、前時代的な人間ともいえる。
――私みたいなのは、本当に少数派なんだろうな。まあ、こんな能力、説明しても信じてもらえないだろうから、隠している人が多いのだろうけど。
かくいう志乃も、この能力については誰にも打ち明けていない。
貴子なんかに話せば最後、「志乃が頓珍漢なことを言っている! 座敷牢に入れてちょうだい!」などと騒ぎを起こされることは目に見えている。
「まったくあの小娘ときたら! 志乃はあたしたちのことが見える、選ばれし存在だってのにさー」
長い髪を指で弄びながら、不機嫌そうに麗羅は言う。
彼女の言う通り、あやかしが見える人間は、「ちょっとすごい奴」とあやかしに一目置かれる場合が多い。
通りすがりのあやかしに「おっ。お嬢ちゃんおいらが見えるのかい? 粋だねえ」などと気さくに声をかけられたことは、今までに何度もあった。
人から虐げられるばかりで、認められることなどなかった志乃にとっては、自分を認めてくれるあやかしたちに、くすぐったいような不思議な気持ちを覚えていた。
あやかしたちは、志乃がどんな立場で、どんな目に遭っているかを知らない。例え知っていたとしても、人間同士のいざこざなど彼らは興味がない。どんな時も気安くちょっかいを出してくるあやかしたちから、志乃は間違いなく安らぎを享受していたのだった。
ちなみに柳も麗羅も、もともとこの倉に住み着いていたあやかしではない。
柳は怪我をして九条邸に迷い込んでいた時に志乃が手当てをしたら懐かれて、この蔵に住み着くようになった。
麗羅も同じような流れで、彼女が人間に化けて飲み処で大酒を呷った後泥酔し、この屋敷の前で行き倒れていたところを志乃が介抱し……という経緯でここに居ついている。
志乃は、困っているあやかしを見かけると放っておけない性分なのだ。自分だって、あやかしに助けられているのだから。
志乃が持ってきた重箱を床に広げると、早速柳が大きな瞳を輝かせて、箸を取った。
肉球しかない手のひらだというのに、器用に箸を持つなあといつも志乃は感心してしまう。
「たけのこご飯おいしいにゃあ。おっ、牛蒡のオランダ煮もあるにゃ~」
「ちょっと柳! あんた食べ過ぎだよっ。ちゃんと志乃とあたしの分も残しといてよね⁉」
「はいはい、分かってるよーだ」
ふたりのいつものやり取りに微笑ましさを覚え、志乃は頬を緩める。
種族にもよるが、大抵のあやかしは人間とは体の構造がまったく違って、食物を摂らなくても生きていくうえで支障はない。
だが、他の女中と昼時くらいは顔を合わせたくない志乃がこの蔵で昼食を取っていたら、麗羅と柳も一緒に人の食事を味わうようになったのだ。
ふたりとも「自分たちは食いしん坊だから」などと言っていたが、きっと自分に付き合ってくれているのだと志乃は思っている。
志乃も柳と麗羅の間に入り、箸を持ってたけのこご飯をつまんだ。冷めきった残り物でも、ふたりと一緒に食べれば美味に感じられる。
「午後の仕事のためにもしっかり食べなきゃね」
「うん、頑張ってにゃ~志乃」
「あんまりひどい目に遭わされたらあたしに言うんだよ? ……懲らしめてやるんだから」
以前、志乃が真冬に冷水を浴びせられた時には麗羅が激怒して、夜中に貴子の部屋に脅かしに行ったことがあった。妖術を使えば、一時的にあやかしが見えない人間にも姿が見えるようになるのだ。
正直、「今、そこに化物がっ!」と怯える貴子には小気味良い感情を覚えてしまったが、あまり騒ぎを起こすのは得策ではない。
――ふたりが九条邸の蔵に住んでることがバレたら、追い出されちゃうかもしれないしね。
自分を思っての麗羅の行動はもちろん有り難く思ったが、それ以来は遠慮してもらっている。
「麗羅、いつもありがとう。でも私は大丈夫だからね」
「そうかい? あまり無理するんじゃないよ」
不安げに自分を見つめてくる麗羅。彼女が心から自分を案じてくれているのが感じられる。
志乃にとってはそれだけで十分だった。
自分を慮ってくれる存在がいると思えば、貴子からの理不尽な扱いも受け流すことができる。
昔話のあやかしは、総じて恐ろしいものとして描写されていることが多い。しかし志乃にとっては心優しく、温かい存在だ。
人間だから、あやかしだからとかで、相手のことを勝手に色眼鏡で見るのは愚かなことなのだろうと志乃は思う。貴子の方が、志乃にとってはよっぽどおどろおどろしい存在なのだから。
それからしばらく、麗羅と柳と和やかに昼食を楽しみ、志乃は屋敷へと戻った。
その日の夜。
貴子の両親は得意先との会食で不在だった。ひとり夕食を取る貴子の傍らについて給仕を行っていた時のこと。
「なんですってっ? 橘家から!?」
女中のひとりから「橘家より夜会にご招待されました」と告げられると、貴子は食事をする手を止めて立ち上がった。
――貴子さん、また夜会に行くつもりなのね。ついこの前も行っていた気がするけれど。
殿方にはあまり声をかけられず空振りだったらしいが、懲りもせずによく行くな、と志乃は内心思う。
志乃の二つ上の貴子も二十歳になり結婚適齢期だ。一刻も早く嫁ぎたいという希望が、常日頃からひしひしと伝わってくる。
見目麗しいし、家柄も申し分ない貴子だが、何度か行われたらしい見合いも失敗続きだ。
きっと彼女の気性の荒さを見合いの席で男性が感じ取ったのだろう……と志乃は密かに思っている。
「最高級のドレスを仕立てて行かなくてはねっ。だって橘家ですもの!」
瞳をキラキラさせて貴子は声を張り上げる。
侯爵家である橘家の当主は、「帝国の勝利王」というふたつ名を持つ、常勝無敗の陸軍大佐だと聞いたことがある。その息子は絶世の美男子で、成人しているがいまだに独身だということも。
そこまで華族事情に明るくない志乃ですら知っているのだから、大層な名家なのだろう。
しかし、その橘家からの招待状が来たというのに、使用人は浮かない顔をしてこう言った。
「ですがお嬢さま。橘家には不可解な噂も多くございまして……。ご存知でいらっしゃいますか?」
「ええ。屋敷の使用人が頻繁に行方知れずになるとか、ご子息の婚約者候補になった方が立て続けに体調を崩して破談になっただとか? 有名な噂だもの、もちろん聞いたことはあるわよ」
あっさりと貴子は言うが、とても物騒な話ではないか、と志乃は眉をひそめてしまった。
「左様でございますか。立場をわきまえず、さしでがましいことを申し上げますが、少々危険なのではないかと……。旦那さまと奥さまは、夜会のご出席については貴子さまのご判断にお任せするとおっしゃっていましたが」
貴子の両親も橘家の噂については承知しているのだろう。
安全とは言い難い相手の誘いをはっきりと断らないのは、名家である橘家と繋がりを持ちたいという本音があるからだ。しかしやはりひとり娘の身は心配だし……という葛藤から、当の貴子に判断を委ねたに違いない。
「まあ、噂はいろいろあるけれど、しょせん噂よ。そんなの愛があれば乗り越えられるはずよ!」
少女小説のヒロインのようなことをのたまう貴子。
――貴子さんは美男子が好物だものね。あやしい噂なんてものともしないのだろうな。
志乃は密かに呆れた目で貴子を見る。
しかし、うるさい貴子が出かけてくれるのは好都合だ。それに、夜会で貴子が結婚相手を見つけてくれればなおのこと有り難い。そうすればこの屋敷を出て行ってくれるはずだから、志乃の日常ももう少し穏やかになるだろう。
――橘のご子息が貴子さんの見た目に騙されてくれますように。
と、志乃が心の底からそんなことを祈っていると。
「でも最近の夜会では私の魅力に気づいてくれる殿方が少ないのよね……。あまり声をかけられなくて。一体私の何が悪いのかしら」
大層真剣そうに考え始める貴子。
――いえ、きっとあなたの本性……もとい「魅力」に男性たちが聡く気づいたから、ふるわなかっただけよ。
もちろん、そんな真理に気づいていることは志乃はおくびにも出さず、冷めた茶を煎れ直す。
退屈で、灰色に染まった日々だった。
帝都の片隅で、このまま色のない日々を送って、自分は一生を終えるのだろう。
自身の人生に、志乃は夢も希望も抱いていなかった。そんなことに思考を巡らせる隙すらないほど、暗澹たる生活を送っていたのだった。
しかし――
「君と結婚したいのだが」
志乃に突如求婚してきたのは、名家のひとり息子で、絶世の美男子である橘桜虎。
なぜ、両親もいないうえに大して美しくもない自分が、こんな夜空に輝く一番星のように眩い男性に、結婚を申し込まれているのだろうか。
困惑する志乃だったが、桜虎は端正な顔で小さく微笑んだ。
「俺と結婚してくれ。俺は君でなくてはダメなのだ」
そう囁くと、桜虎は志乃の肩に手を置いた。
手から感じられた彼の体温が、やけに温かい。
生まれて初めて感じた、優しく甘美な感触だった。
その温もりは、生涯忘れない記憶として志乃の中に刻み込まれたのだった。
これは、愛を知らない乙女が、この世のものとは思えぬほどの深い愛に満たされる話。
第一章 乙女は突然求婚される
午後を少し回った時だった。
この時間帯になると、洗濯・掃除・炊事と朝からせわしなく働いていた志乃の体にも疲労が溜まってくるのが常だ。
昼休憩で一息つけば少しは回復するはずだが、「これが終わったら昼餉を取っていいから」とニヤついた女中に申しつけられた廊下の雑巾がけは、まだまだまったく終わりが見えない。
だけど適当に切り上げてしまったことが明るみに出れば、後からもっとひどい目に遭う。
さあ丁寧に、しかし手早く終わらせよう。
……と、小さく気合を入れた志乃が、馬穴に入れた水で雑巾を固く絞っていると。
「ちょっと志乃!」
甲高い耳障りな女の声が、廊下の端から響いてきた。ドタドタという、伯爵令嬢にしては品のない足音とともに。
志乃は密かに嘆息する。どうやら、昼休憩は想定よりも大幅に遅れることになりそうだ。
「なんですか?」
つかつかと志乃の元へとやってきた貴子に、志乃は微笑んで尋ねる。
貴子に対しては、できるだけ怯懦な顔は見せないようにしている。ささやかな抵抗であった。
「私の部屋に髪の毛が落ちてるじゃないのっ。あんたって子は、ろくに掃除もできないの!?」
貴子はただでさえ吊っている目をさらに吊り上げ、志乃を責め立てるように怒鳴りつける。
艶やかな紅色の着物を身にまとい、髪型は流行の耳隠し。
吊り目で品のある面立ちの美人だが、普段から虐げられている志乃にとっては意地の悪い顔にしか感じられない。
一方、志乃は童顔で平凡な顔立ちをしていた。高くも低くもない鼻に、子供のように小さな唇。瞳こそ「クリッとしていて愛らしいね」と、遠い昔誰かに言われた覚えがあるが、自分で鏡で見ても特に魅力的とは思えない。
一応、貴子と志乃は同じ九条姓であり、再従姉妹という間柄にある。だが、幼い頃に志乃は火事で両親を失い、親戚内で押し問答があった末、貴子の両親に引き取られることになった。
それから十年来、貴子からは隙あらば虐げられている。
貴子の両親は表立って志乃をいじめることはなかった。しかし引き取った志乃を女中同然に扱い、娘の行動を黙認している。その顔からは「身寄りのないお前を引き取ってやったんだ、有り難く思え」という傲慢な感情が透けて見えるようだった。
「はあ。さようでございましたか。それは申し訳ございませんでした」
――掃除したのは朝だし、昼にもなれば髪の毛の一本くらい落ちているのは仕方ないと思うけど。
……なんて、胸の内では反論しながらも笑顔で頭を下げる。
正論を吐いたところで、怒鳴られる時間が長くなるだけ。
素直に謝るのが、もっとも早く貴子の言いがかりを終わらせる方法だと身に染みて知っていた。
しかし今日の貴子はすこぶる機嫌が悪そうだ。昨日、「貴子さん、先日の夜会でもあまり殿方に声をかけられなかったそうよ」と女中たちが噂していたのが関係あるのかもしれない。
「ふんっ! あんたのことだからどうせ廊下の雑巾がけだって、ちゃんとできてないのでしょう!」
とんだ言いがかりをつけながら、貴子は志乃の足元に置かれていた馬穴を足でひっくり返した。
濁った雑巾の絞り水が廊下にみるみるうちに広がっていく。
「これをきれいにふき取れば、少しは廊下もきれいになるでしょうよ! さっさとやりなさいよっ」
そう言いつけると、貴子はまた足音を立てながら廊下を歩いて行った。
――あーあ、お昼ご飯食べるの、今日は遅くなってしまいそうね……
肩をすくめながら、ため息をつく志乃。貴子の理不尽な仕打ちにはもう慣れ切っていて、別段腹を立てることもない。
深く考えずに、とにかく言いつけられたことをこなすしか道はない。
「……あら。志乃さん、またやられてるわ」
「かわいそうにねえ、本当は良家の娘だっていうのに」
少し離れた場所から、年嵩の女中たちがそんな会話をしているのが耳に入ってきた。
しかし彼女らは皆薄ら笑いを浮かべていて、決して志乃に同情しているわけではない。
志乃がこの屋敷に身を置くようになってからというもの、気の強い貴子の矛先は全て志乃に向けられるようになった。
よって、女中たちのほとんどは志乃の存在をとても快く思っている。自分たちの盾として。そして、安心して仕事を押しつけられる相手として。
そんな女中たちの冷笑と嘲りも、毎日のこと。
だがしかし、図太い方だとはいえ志乃も人間だ。
屋敷の者たちからの毎日の仕打ちに、まったく心に傷がついていないと言ったら嘘になる。
――だけど大丈夫。私には、大切な友達がいるもの。
言いつけられた雑巾がけをてきぱきと終えた志乃は、今度こそ昼休憩に出た。他の女中たちはとっくに昼餉を終えている。割れ目が入ってしまって廃棄予定だった二段の重箱に残り飯を隙間なく詰めると、屋敷の外へ出た。
向かう先は、九条邸の敷地の隅にポツンと建っている、古びた蔵。
漆塗りの瓦屋根は今にも落ちてきそうだが、屋敷の者はこの蔵の存在すら忘れているのか、修繕の話などは出ていない。
立てつけの悪い引き戸を力を込めて引き、中へ入ると、志乃は先ほど貴子に見せたものとは違う、満面の笑みを浮かべてこう言った。
「柳、麗羅。ごめんなさいね、遅くなって」
志乃の声に呼ばれるように、倉の奥からごそごそと物音がする。
まず先に出てきたのは、白猫だった。
しかしただの猫ではなく、二本の足で立って歩き、ふさふさの尻尾は二又に割れている。猫又という名のあやかしの、柳だ。
そして次に姿を見せたのは、妖艶な妙齢の女性だった。
蔵の奥に敷いた畳の上でうたた寝でもしていたのか、垂らした緑の黒髪には少し癖がついている。
身にまとった紺の浴衣も胸元がはだけていて、底知れない色気を醸し出しているが、白い胸からは骨が透けて見えていた。
彼女――麗羅は、骨女というあやかしであるため、肌を透かして骨が視認できる状態が通常なのだった。
「ほんと、遅かったにゃあ志乃」
のんびりとした口調で柳が言う。かわいらしい鼻をひくひくと動かしていた。きっと志乃の持ってくる昼餉を心待ちにしていたのだろう。
「またあの貴子っていう、性悪女にいじめられたのかい?」
外見に相応しく、気だるげで艶のある声で麗羅が尋ねてきた。
眉間に皺を寄せて不愛想な表情をしているのも、ますます物憂げな色香を濃くしていた。
「あはは、そうね。まあでも慣れっこだから」
苦笑を浮かべて志乃は答える。
柳と麗羅と話をしていると、屋敷での仕打ちで負った傷が少しずつ癒されていくのだ。
――ふたりは、人ならざる者であるあやかし。
近代化の進んだ大正のこの世では、彼らはお伽話の中だけの存在だと信じられている。
しかし、実際にはあやかしは、人間社会のあらゆる場所に存在していた。
栄えている宿には座敷童、清掃の行き届いていない浴場にはあかなめ、黄昏時の空には一反木綿……
物心ついた頃から、志乃はそんな多種多様なあやかしたちを当たり前のように見かけていた。
しかし、ほぼ大多数の人間は、あやかしを見ることができないのだった。
あやかしたちの話によると、江戸以前はほとんどの人間があやかしを視認できていた。しかし、人間の技術が発展し、非科学的なものが否定されるようになってきた明治以降、どんどんあやかしが見える人間が減っていったのだという。
日照りや洪水といった自然災害は、あやかしの怒りや恨みによって発生するものだと信じられていた時代には、我々は恐れ敬われる存在だったというのに……と、人ならざる者に対して畏怖の念を失った人間たちを嘆くあやかしも多いらしい。
人間たちに忘れられかけている大正のあやかしの大半は、時には人間に化け、人間社会にひっそりと溶け込み、穏やかに暮らしていた。
それがもっとも一般的な昨今のあやかしたちの生き方だった。
幼い頃に亡くなった両親もあやかしが見える人たちだった覚えがあるが、その他に自分と同じ能力を持つ者を見たことはなかった。今もあやかしと共に生きる志乃は、前時代的な人間ともいえる。
――私みたいなのは、本当に少数派なんだろうな。まあ、こんな能力、説明しても信じてもらえないだろうから、隠している人が多いのだろうけど。
かくいう志乃も、この能力については誰にも打ち明けていない。
貴子なんかに話せば最後、「志乃が頓珍漢なことを言っている! 座敷牢に入れてちょうだい!」などと騒ぎを起こされることは目に見えている。
「まったくあの小娘ときたら! 志乃はあたしたちのことが見える、選ばれし存在だってのにさー」
長い髪を指で弄びながら、不機嫌そうに麗羅は言う。
彼女の言う通り、あやかしが見える人間は、「ちょっとすごい奴」とあやかしに一目置かれる場合が多い。
通りすがりのあやかしに「おっ。お嬢ちゃんおいらが見えるのかい? 粋だねえ」などと気さくに声をかけられたことは、今までに何度もあった。
人から虐げられるばかりで、認められることなどなかった志乃にとっては、自分を認めてくれるあやかしたちに、くすぐったいような不思議な気持ちを覚えていた。
あやかしたちは、志乃がどんな立場で、どんな目に遭っているかを知らない。例え知っていたとしても、人間同士のいざこざなど彼らは興味がない。どんな時も気安くちょっかいを出してくるあやかしたちから、志乃は間違いなく安らぎを享受していたのだった。
ちなみに柳も麗羅も、もともとこの倉に住み着いていたあやかしではない。
柳は怪我をして九条邸に迷い込んでいた時に志乃が手当てをしたら懐かれて、この蔵に住み着くようになった。
麗羅も同じような流れで、彼女が人間に化けて飲み処で大酒を呷った後泥酔し、この屋敷の前で行き倒れていたところを志乃が介抱し……という経緯でここに居ついている。
志乃は、困っているあやかしを見かけると放っておけない性分なのだ。自分だって、あやかしに助けられているのだから。
志乃が持ってきた重箱を床に広げると、早速柳が大きな瞳を輝かせて、箸を取った。
肉球しかない手のひらだというのに、器用に箸を持つなあといつも志乃は感心してしまう。
「たけのこご飯おいしいにゃあ。おっ、牛蒡のオランダ煮もあるにゃ~」
「ちょっと柳! あんた食べ過ぎだよっ。ちゃんと志乃とあたしの分も残しといてよね⁉」
「はいはい、分かってるよーだ」
ふたりのいつものやり取りに微笑ましさを覚え、志乃は頬を緩める。
種族にもよるが、大抵のあやかしは人間とは体の構造がまったく違って、食物を摂らなくても生きていくうえで支障はない。
だが、他の女中と昼時くらいは顔を合わせたくない志乃がこの蔵で昼食を取っていたら、麗羅と柳も一緒に人の食事を味わうようになったのだ。
ふたりとも「自分たちは食いしん坊だから」などと言っていたが、きっと自分に付き合ってくれているのだと志乃は思っている。
志乃も柳と麗羅の間に入り、箸を持ってたけのこご飯をつまんだ。冷めきった残り物でも、ふたりと一緒に食べれば美味に感じられる。
「午後の仕事のためにもしっかり食べなきゃね」
「うん、頑張ってにゃ~志乃」
「あんまりひどい目に遭わされたらあたしに言うんだよ? ……懲らしめてやるんだから」
以前、志乃が真冬に冷水を浴びせられた時には麗羅が激怒して、夜中に貴子の部屋に脅かしに行ったことがあった。妖術を使えば、一時的にあやかしが見えない人間にも姿が見えるようになるのだ。
正直、「今、そこに化物がっ!」と怯える貴子には小気味良い感情を覚えてしまったが、あまり騒ぎを起こすのは得策ではない。
――ふたりが九条邸の蔵に住んでることがバレたら、追い出されちゃうかもしれないしね。
自分を思っての麗羅の行動はもちろん有り難く思ったが、それ以来は遠慮してもらっている。
「麗羅、いつもありがとう。でも私は大丈夫だからね」
「そうかい? あまり無理するんじゃないよ」
不安げに自分を見つめてくる麗羅。彼女が心から自分を案じてくれているのが感じられる。
志乃にとってはそれだけで十分だった。
自分を慮ってくれる存在がいると思えば、貴子からの理不尽な扱いも受け流すことができる。
昔話のあやかしは、総じて恐ろしいものとして描写されていることが多い。しかし志乃にとっては心優しく、温かい存在だ。
人間だから、あやかしだからとかで、相手のことを勝手に色眼鏡で見るのは愚かなことなのだろうと志乃は思う。貴子の方が、志乃にとってはよっぽどおどろおどろしい存在なのだから。
それからしばらく、麗羅と柳と和やかに昼食を楽しみ、志乃は屋敷へと戻った。
その日の夜。
貴子の両親は得意先との会食で不在だった。ひとり夕食を取る貴子の傍らについて給仕を行っていた時のこと。
「なんですってっ? 橘家から!?」
女中のひとりから「橘家より夜会にご招待されました」と告げられると、貴子は食事をする手を止めて立ち上がった。
――貴子さん、また夜会に行くつもりなのね。ついこの前も行っていた気がするけれど。
殿方にはあまり声をかけられず空振りだったらしいが、懲りもせずによく行くな、と志乃は内心思う。
志乃の二つ上の貴子も二十歳になり結婚適齢期だ。一刻も早く嫁ぎたいという希望が、常日頃からひしひしと伝わってくる。
見目麗しいし、家柄も申し分ない貴子だが、何度か行われたらしい見合いも失敗続きだ。
きっと彼女の気性の荒さを見合いの席で男性が感じ取ったのだろう……と志乃は密かに思っている。
「最高級のドレスを仕立てて行かなくてはねっ。だって橘家ですもの!」
瞳をキラキラさせて貴子は声を張り上げる。
侯爵家である橘家の当主は、「帝国の勝利王」というふたつ名を持つ、常勝無敗の陸軍大佐だと聞いたことがある。その息子は絶世の美男子で、成人しているがいまだに独身だということも。
そこまで華族事情に明るくない志乃ですら知っているのだから、大層な名家なのだろう。
しかし、その橘家からの招待状が来たというのに、使用人は浮かない顔をしてこう言った。
「ですがお嬢さま。橘家には不可解な噂も多くございまして……。ご存知でいらっしゃいますか?」
「ええ。屋敷の使用人が頻繁に行方知れずになるとか、ご子息の婚約者候補になった方が立て続けに体調を崩して破談になっただとか? 有名な噂だもの、もちろん聞いたことはあるわよ」
あっさりと貴子は言うが、とても物騒な話ではないか、と志乃は眉をひそめてしまった。
「左様でございますか。立場をわきまえず、さしでがましいことを申し上げますが、少々危険なのではないかと……。旦那さまと奥さまは、夜会のご出席については貴子さまのご判断にお任せするとおっしゃっていましたが」
貴子の両親も橘家の噂については承知しているのだろう。
安全とは言い難い相手の誘いをはっきりと断らないのは、名家である橘家と繋がりを持ちたいという本音があるからだ。しかしやはりひとり娘の身は心配だし……という葛藤から、当の貴子に判断を委ねたに違いない。
「まあ、噂はいろいろあるけれど、しょせん噂よ。そんなの愛があれば乗り越えられるはずよ!」
少女小説のヒロインのようなことをのたまう貴子。
――貴子さんは美男子が好物だものね。あやしい噂なんてものともしないのだろうな。
志乃は密かに呆れた目で貴子を見る。
しかし、うるさい貴子が出かけてくれるのは好都合だ。それに、夜会で貴子が結婚相手を見つけてくれればなおのこと有り難い。そうすればこの屋敷を出て行ってくれるはずだから、志乃の日常ももう少し穏やかになるだろう。
――橘のご子息が貴子さんの見た目に騙されてくれますように。
と、志乃が心の底からそんなことを祈っていると。
「でも最近の夜会では私の魅力に気づいてくれる殿方が少ないのよね……。あまり声をかけられなくて。一体私の何が悪いのかしら」
大層真剣そうに考え始める貴子。
――いえ、きっとあなたの本性……もとい「魅力」に男性たちが聡く気づいたから、ふるわなかっただけよ。
もちろん、そんな真理に気づいていることは志乃はおくびにも出さず、冷めた茶を煎れ直す。
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